塙麒放浪記(仮)   作:カラミナト

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転変

劉麟と宗嗣の着替えなどの洗濯をしているところにに女仙たちが集まっていた。

 

「塙麒は変わっていらっしゃる。」

 

今、女仙たちの仕事の合間に話されていることの多くは最近蓬山に帰ってきたばかりの塙麒についてのことばかりであった。

 

「最初に会った時から塙麒は麒麟であるというのに鎧姿に帯刀までしていらっしゃって。」

 

「そうそう。

ただの娯楽だといって毎朝木刀を振るっておられることには私も驚きました。」

 

「・・・塙麒は麒麟の性をお忘れになられてしまったのかしら。」

 

辺りを沈黙が包み込む。

泰麒の時もなかなか転変できないでいたのだ。ましてや16年も蓬莱にいた塙麒はもしかしたら転変できないのかもしれないという考えが胸中に渦巻く。

 

「しかし、塙麒は泰麒とは違って早くもサン猊を折伏して使令としていますし・・・」

 

「折伏が出来るから転変が出来るとは限らないでしょう。

転変できない塙麒は麒麟の性を失っているのではないでしょうか。

泰麒よりも6年も遅れて見つかったのです失っていないとは限らないでしょう。」

 

「それでも泰麒の時とは違って劉麟もいることだしいつの間にか転変なさっていたりはしないでしょうか。」

 

「そうだといいのですが・・・」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

すでに令艮門が開いてから三週間ほどたった。

既に甫渡宮に辿り着いているグループもあり、蓬蘆宮と甫渡宮を繋ぐ門の上からその様子を眺めることが出来る。

宗嗣自身が昇山者たちのもとまで行ってもいいのだが全員集まってからその昇山者全員をその眼におさめることこそが一番いいだろうと宗嗣自身もよく分からない意地を張っていた。

 

実は宗嗣は昇山者と対面するのを楽しみにしているのではなく恐らく剛氏として来ているだろう鄭楽に久々に会えるのが楽しみなのである。

 

そんな宗嗣の最初の昇山者との対面まであと一週間ほどとなった今日。

宗嗣はいつも通りに目を覚ました。

 

いや、本当は決していつも通りなどではないのだが。

 

「おはようございます、塙麒。」

 

「おはよう、徠河。」

 

何だか身体が変な感じがするがとりあえずは置いておこう。

さて、起きようかとした時に次は別の方から声がかかった。

 

「塙麒、転変なされたのですね。

お喜び申し上げます。」

 

樟崋の声だ。

しかし、お喜び申し上げるとはどういうことなのか。

 

宗嗣は寝起きが頭が動かない。

 

「それって、どういう・・・」

 

「塙麒。

塙麒は麒麟のお姿に転変なされたのです。」

 

麒麟、転変。

その樟崋の言葉でようやく理解した。

 

俺はすぐに身体を確かめた。

折りたたまれた朱色の前足を顔の正面に出してみると蹄が付いていた。

この前足は間違いなく俺の身体の一部だ。

 

そこで立ち上がってみると寝台に四つ足がついているのが分かる。

 

不思議に感覚だ。

今のこの状態は決して両手両足でたっているような感覚ではなく完全に両前足両後ろ足で立っているという感覚なのだ。

まるでこの獣の姿こそが俺の身体なのだという感覚になる。

 

「樟崋、胎果の麒麟はこうも突然に転変するものなのか?」

 

宗嗣は寝台から降りて樟崋と対面して話しかける。

 

「分かりませんが、泰麒は蓬山を下山する泰王を追いかけるために転変したのだと聞いています。」

 

宗嗣はどうして寝ている間に転変したのかが分からなかった。

 

それに、宗嗣は麒麟であるわけだからいつかはこういうことが起こるだろうというのは分かっていたが流石に唐突すぎて情報を整理しきれない。

 

「赤麒麟とはこんなにも綺麗なのですね。

なんと優美な。」

 

宗嗣の麒麟の姿は全身は朱色の毛並みをしており、背中は金粉でも振りまいたかのようにキラキラとして見える。

鬣は人の姿の時と同じで夕陽のように赤と金が混じりあって神秘的な光沢をはなっており、瞳の深い紺色によく合っている。

額に生えた雄々しい角は複数に枝分かれしてその色は透き通るような琥珀色をしていた。

 

「しかし、塙麒。

やはりまだまだ鬣は伸ばさなければならないようですね。」

 

樟崋の見た感じどうやら鬣は短いようだ。

 

「宗嗣~?」

 

そんな風に樟崋と話し合っているところに劉麟の声が聞こえてきた。

宗嗣と劉麟の二人はいつも三食を一緒に摂っており、それは朝食ももちろん例外ではない。

 

偶に劉麟の方が早く起きた場合は食事の席に着いてからしばらくして宗嗣の寝室へとわざわざ起こしに来るのだ。

そういう時は宗嗣は劉麟に大人しく起こされて食事を一緒に摂っているのである。

 

それで、今日がまさにそんな日だったようだ。

 

とはいっても今日は宗嗣は起きてからしばらく混乱したり樟崋と話したりして遅くなってしまったわけだが。

 

部屋の前までやってきた劉麟が衝立から顔を覗かせる。

 

「あーー!

宗嗣!宗嗣だよね!?」

 

麒麟姿の宗嗣に気付いた劉麟が勢いよく宗嗣のもとに駆け寄ってくる。

そしてそのまま無遠慮に抱きしめた。

 

「まあな。」

 

「赤麒麟って綺麗だね。

戴の黒麒麟とどっちが綺麗なんだろうね?」

 

「どうだろね。」

 

「いつの間に転変したの?」

 

「寝ている間に。」

 

抱き着いたり背中に乗ってきたりと宗嗣に遠慮なしにいろいろとしてくるのを宗嗣はいつもと同じようなものだからとされるがままになっていた。

まあ、唯一角だけは触らなかったが劉麟自身の角を触られるのが嫌だということを知っているからだろう。

 

「宗嗣、朝食食べに行くよ。」

 

ひとしきり堪能したのか劉麟はなんともなかったかのように宗嗣を朝食に誘うが一つだけ問題があった。

 

「ん?宗嗣、人の姿に戻らないの?」

 

「いや、戻り方が分からない。」

 

「え?」

 

「どうすればいいんだ?」

 

「え?

そんなこと言われても転変も転化も息をするようなものだし。

やり方なんて考えたことないよ。」

 

「・・・」

 

このまま宗嗣は人の姿に戻る方法が分からなくて一日を獣の姿のままで過ごした。

 

そのまま二日ほど獣の姿で過ごしていたが本を読むときに読みづらくて人の身恋しくなってそれのおかげでかどうにか人の身体に戻ることが出来た。

 

昇山者との対面予定の日まであと三日ほどである。

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