塙麒放浪記(仮)   作:カラミナト

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日本

春空の下、少年は木刀と竹刀の入った竹刀袋と防具を担いで人の少ない通りを友人の絢仁と一緒になって帰る。

一条宗嗣はつい最近高校に入学したばかりの高校一年生だ。

こんなに重いものを担いで歩いて家まで帰るのは大変だが明日の大会は家から真っすぐに集合場所である試合会場まで向かう予定なので仕方がない。

 

「流石絢仁だな。明日の大会もメンバーに選ばれたし個人戦では全国間違いなしだろうな。」

 

明日の大会のための今日の練習で絢仁は非常に調子が良かった。

宗嗣も対戦をお願いいしたもののコテンパンにやられてしまった。

 

まあ、それも当然だ。

絢仁はただ単に気の弱いこの心身を鍛えるためだけに剣道を始めた俺とは違い中学では全国大会で個人戦ベスト8という成績をたたき出し、更に未だ入学したての高校一年生の身でこの高校の団体戦のレギュラーメンバーに選ばれるだけはある。

 

「そういう宗嗣も剣道をやり始めたあの頃と違って随分と上達したじゃないか。

まさか、あの宗嗣が他の先輩方を押しのけて準レギュラーに選ばれるとは思わなかったな。」

 

絢仁の言う通りだ。

 

まさか先生が俺を次鋒とは言え準レギュラーつまり、この高校の二軍に入れてくれるとは思いもしなかった。

 

元々宗嗣は心身ともに弱かった。

とにかく争い事が嫌いだった。

殴るのは嫌だ。人が殴られ傷ついているのを見ることさえ嫌だ。

あの赤い血を見るのはもっと嫌だ。

俺は自分の血でも見てしまうだけで全身の血の気が引くような感覚に襲われて軽く貧血を起こしてしまうのだ。

 

また、肉が嫌いだ。

普通は小学生くらいの子供だったら好きだろうハンバーグが肉料理が嫌いなのだ。

 

血を見るのが、誰かが傷つくのが、喧嘩をするのがとにかく嫌いだった宗嗣は周囲の空気を読むこともせずに自分の身を顧みずに制止しようと試み続けた。

その頃の宗嗣は他の人たちにしてみれば善人ぶった小うるさい偽善者といったように見られていたのだろう。

 

そのせいだろうか。

小学校に入ったころから宗嗣は周りとは違うように見続けられた。

自身も小学校に入って幾何もしないうちに自分自身が他とは違うのだと意識し始めた。

 

でも、まだ小さかった頃の宗嗣は自分が他の人たちとは違うのだと頭でうっすらと感じはしてもそのことを認めきれなかった。

 

そういう時期に出会ったのが友人の絢仁だった。

 

絢仁は宗嗣のことを不気味な奴だとかそういう悪いようには見ていなかった。

絢仁に出会ったときに周囲の嫌な視線を感じて孤立感を味わっていた中、絢仁に真っすぐに聞いた。

 

「お前は俺のことをどう思っているのか。」と。

 

それに対する彼の答えは”優しい奴だ”と答えてくれた。

あの時から宗嗣はこの孤立な世界から抜け出すことが出来たのだ。

あの時は何となく絢仁に付き合っていたが今ならば言い切れる。

 

俺は絢仁のおかげで今まで腐らずに楽しい学校生活を送れているのだと。

 

そして、宗嗣の楽しい学校生活を彩る剣道は最初に絢仁に誘われて中学校から部活に入ったことから始まった。

絢仁は二人が出会った小学校の頃から剣道を習っていた。

 

中学校の部活に剣道部はどうかと同じ中学校に入った絢仁に勧められたのだが、最初宗嗣はものすごく迷った。

 

絢仁が誘ってくれたのだ。感情的には何も考えずすぐにでも絢仁と同じ部活に入りたかった。

しかし、宗嗣の争い事を血を嫌う性分が邪魔をした。

 

剣道は木刀や竹刀を使って相手と対峙して刀を模した棒を叩きあうものである。

つまり、争い事だ。

人を叩くなんてことはしたくなかった。

 

それでも宗嗣は剣道部に入った。

自身の争い事を異様なまでに嫌う臆病な性分を叩き直したかったからだ。

 

宗嗣は剣道部に入ってからとにかく臆病な自分を鍛え直した。

そのおかげか宗嗣は流石に絢仁には追い付かないもののこうして高校に入ってすぐに大きな大会に出場できるようになるまでは上達した。

 

「じゃあな、宗嗣。

また明日試合会場で。」

 

人の通りの少ない道の突き当りT字路でいつものようにして絢仁と別れた。

宗嗣と絢仁は反対の方向へと進む。

 

俺は剣道を始めることで剣道が上達した。

でも俺の臆病な性分は前までと全く変わることはなかった。

肉だって昔と同様に嫌いなままだ。

 

ーー何故俺はこうまで人と違うのだろうか。

 

と、この疑問は一体何度目だろうな。

 

「・・・・・ウキ・・」

 

何だろうか。

立ち止まって周囲を見渡す。

ふと誰かを呼ぶかのような声が聞こえたような気がする。

 

「・・・コウキ」

 

「?・・・何だ?」

 

左の方幅の狭い川の方から何か聞こえた気がするが振り向いても何もない。

誰かを呼んでいるかのような、そう、宗嗣を呼んでいるかのようだった。

何の根拠もないがそう思う。

 

「コウキ」

 

「!?」

 

左手川のある方向の何もないはずのところから急に何かが現れた。

何かというか人の腕だ!

 

「なっ、何なんだ!?」

 

「行かないで!コウキ!」

 

川のある方とは反対の方に後ずさるとズズと腕を伸ばしてくる。

それ以上逃げることが出来ない。

いや、出来ないのではない。逃げないのだ。

 

その女の腕特有の白く細い腕に宗嗣は何故か安心感を覚えた。

 

そして、そのままその女の手に掴まれた。

 

しかし、掴まれてようやっと気付いた。

 

「う・・・」

 

引きずり込まれる。

あの歪んだ空間に。

 

「あ・・・」

 

よく分からない色合いをした空間へと、

白く細い女の何故か鱗の点在してる手に引っ張られながら。

 

「うわあああっ!!?」

 

何も分からずに女の異形の手を振りほどく。

 

「コウキっ!!?」

 

意識が朦朧としてきた。

 

・・・最後に何故か聞き慣れた別れたはずの彼の声が聞こえた。

 

そして、宗嗣と共に流れ行く金色に輝くものが一つ・・・

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