「中日までご無事で。」
「あ、そんな・・・」
結構面倒な昇山者だった。
まるで自分が王であるに違いないと驕った態度をとったような奴だ。
彼を見ても何も感じなかったので長々と口上をたれる彼にその口上の途中でお前は王ではないといってさっさと彼のもとを去った。
今回来た昇山者たちの中にはそんな面倒な人が数人いた。
さっきの、なんて言ったか、なんとか郡の小司馬とか言ったか?
まあ、そういう人とすでに4人ほど会ったが何か有益な話を聞こうにも面倒な奴だったからさっさとその場を去ったのだ。
宗嗣は樟崋を含む数人の女仙を伴って昇山者たちのいる広場を歩いていた。
周囲にいる人々は拱手の礼を石畳を歩く宗嗣たち一行に向けてくる。
昇山者たちの中にはどういう人物がいるのだろうかと周囲を見渡す。
昇山者たちの中にはさっきのような人物ばかりでなくはこの世界のことや巧国の内情ばかりではなく自身の仕事について語ってくれる者もいるのだ。
どこかの州城や翠篁宮に仕えている人たちの仕事について聞くことは後々役に立つだろうし、一般の仙ではない庶民に関してもどういう商売をしているだとか、どういう政をしているとか地方の政治についてもしることができるのがなかなか面白いのだ。
「塙麒、そんなに昇山者たちと話をしなくとも・・・」
樟崋がそういうのも分からなくはない。
普通は麒麟は基本的に進香する昇山者たちを見て王か否かを確かめるのだろう。
しかし、はっきりと言って昇山者たちが進香するのをただ見ているだけというのは非常につまらないのだ。
まだ、昇山者たちと雑談をする方が外のことを知れて面白いのだ。
「樟崋。
黙って進香する昇山者たちを見て王か否かを確かめるだけよりも昇山者たちの話を聞くことも大切なのではないか?
時間に関しては問題ない。
一週間も昇山者たちを見て回れば王がいるかどうかが分かるだろう。」
とまあ、表向きにはこう言うと樟崋も一応は納得したのかこれ以上は言わなかった。
「ん?」
宗嗣は自分が向かう先に見たことがあるような天幕を見つけた。
もしかして・・・
あることに気付いた宗嗣は真っすぐにその見覚えのある天幕へと速足で向かっていった。
「塙麒?どうしたのです?」
樟崋たち女仙が宗嗣が突然急ぐように天幕に向かう宗嗣を心配して問う。
それに対して宗嗣は答えず天幕に向かう。
その天幕の近くの他の天幕から人が出てきた。
「蓬山公!」
出てきた橙色の髪を持った二十代中盤くらいの青年が宗嗣の存在に驚いて膝をついて拱手の礼をとる。
「ここに剛氏はいるか?」
宗嗣は特に気にした様子も見せずに自身が知りたいことを尋ねた。
「はい。いますが・・・」
「何だ。宗嗣か。」
青年が言い終わるか否かという時に宗嗣の見覚えのある天幕の中から知っている人物、鄭楽が出てきた。
「久しぶりだな、鄭楽。」
「ああ、そうだな。」
「貴様、蓬山公に向かってため口など!」
宗嗣と鄭楽は久しぶりに会って言葉を交わすがどうやら鄭楽の言葉使いが気に入らなかったらしい。
樟崋がその鄭楽の言葉使いを問いただす。
「樟崋、構わない。
鄭楽は俺の命の恩人だ。」
「そこまでのほどじゃなと思うがな。
倒れていたお前を拾っただけなんだし。」
命の恩人というのが効いたのだろう。未だに納得していないようだったが樟崋は引き下がった。
しかし、
「今までは特に問題なかったんだけどな。
鄭楽。最近、獣を狩っただろう?」
不快な獣の血の匂いを嗅いで気分が悪くなる。
どうやら自分でも分からなかったが血の匂いにも敏感になってしまったらしい。
恐らくは転変したからだろうと思う。
あの後、宗嗣は劉麟の言っていたように劉麟の麒麟の気配というやつを見ることが出来たのだ。
蓬蘆宮に戻ってからというもの宗嗣は蓬莱で失いつつあった麒麟の性というものを取り戻しつつあるというのを実感している。
「そうだな、今日の朝に近くの森で食糧を得るために獣を狩った。
悪いな。」
「いや、気にするな。
全く不便だな、麒麟の身体というのは。
木刀だからいいもののもう真剣すらまともに持てない気がするな。」
「ハハッ!それが麒麟なのだろう。
お前はそれでいいんだよ。」
しばらく宗嗣は鄭楽と話し続けていたが区切りのいいところで宗嗣は鄭楽に目の前で膝をついている青年のことを尋ねた。
「鄭楽、彼は?」
「俺たちを雇ってくれた昇山者たちの一人だ。
衒笙という。半獣だ。」
「そうか。半獣か、それは珍しい。
・・・顔を上げてくれ。」
彼の顔を確と見る。
しかし、
「中日までご無事で。」
「ッ!あ、ありがとう存じます。」
随分と悔しそうな顔をしている。
相当に王になりたかったのだろう。
この者はどうしてそこまでして王になりたかったのだろうか。
宗嗣はいつものように話しかけた。
「衒笙。お前のことについて教えてくれないか?」
「はっ。ありがたく。」
◇◆◇◆◇◆◇◆
姓名は朱廉。字を衒笙。
彼は巧州国寧州の東部にある郷都瑚斗の郷長を父親に持つ半獣である。
「私は半獣だ海客だと差別される今の巧国が嫌いだからこそ自らの手で変えたいがためにここへ来ました。」
衒笙のその眼は強い輝きを持っていた。
「しかし、私は王になること叶わなかった。
・・・蓬山公、翠篁宮に王と共に上がられた時はどうか巧国を差別のない国に変えていただきたい。」
地面に額をこするようにして頭を下げる衒笙を宗嗣は見る。
「どうしてそこまでするのだ。」
「もし知り合いの半獣が翠篁宮に上がること叶うならば巧国を変えるだけの力があるからです。」
大きく覇気のこもった声で宗嗣の言葉を叩きつけるかのように答える。
「・・・そこまでか、衒笙の友は。」
「はい。」
「分かった。
もし、俺が衒笙に会うこと叶ったならばその友とやらに会ってみたいな。」
「ありがとうございます。」
衒笙は再び深く頭を下げる。
こうして叩頭されると一気に自分が偉くなったようで居心地が悪い。
まあ、事実一気に偉くなったようなものなのだが・・・慣れないとだめなのだろうな。
日本ではこんなことはさせたりしなかったし見たこともなかった。
だから、宗嗣は衒笙に立つように言う。
いろいろと遠慮していたが宗嗣は無理矢理立たせた。
やはり会話は面と向かってやる方が絶対に言い。
「ところで、今回の昇山でもそうなのだが俺は半獣というのは初めてなんだ。
どういうものなんだ?
やっぱり鼻が利くとかいうのがあるのか?
お前からは獣の要素が見当たらないが。」
さっきから話していて特に疑問に思ったことを聞いてみた。
半獣の存在は黄朱の里で鄭楽からも蓬蘆宮で女仙たちからも聞いていたがいまいちよく分からなかったのだ。
ちょうどここにいるのだ。
聞いてみて損はないだろう。
「ええと、私は狐の半獣ですが確かに普通の者より鼻は利くと思います・・・」
衒笙は困惑しながらも答える。
「どうして半獣などというのだ?
特に外見的にはそう人と変わらないではないか。」
「それは、半獣は人の姿の他にも獣の姿を持つからでございます。」
ん?
それって・・・
「つまりは、俺達麒麟と似たようなものではないか。」
宗嗣は特に考えずに思ったことを言った。
しかし、周囲の空気がガラリと変わったことからしてちょっとまずかったみたいだ。
「な、何だ?何かまずかったか?」
「塙麒。麒麟はこの世界で十二しかいない唯一王を選ぶことが出来る所謂神獣でございます。」
最初に言葉を発したのは樟崋だった。
「そ、そうか・・・
しかし、神獣は言い過ぎではないか?」
「蓬山公。麒麟は天意によって王を選定する生き物。
神獣といってもおかしくはないと存じます。」
今度は衒笙が言った。
「公は御身を軽く見られておられる。
御身は我らが巧州国においてはかけがえのない大切な存在。
自らを卑下するのはよろしくないと思います。
どうか御身を大切に。」
衒笙はそう言って締めくくった。
少し雰囲気が悪くなってしまったがこの後も衒笙と話した。
衒笙は非常に博識で、現在の仮王の政策はこういうものでその結果このようになっていると宗嗣は衒笙のおかげで現在の巧国の内情を知ることが出来た。