「今、巧国は大きな労働力ともなりうる半獣に関する問題を最初にどうにかしなければならない状態に有ります。
なので、現在のところ仮王の朝廷は特になにもしておりません。」
「そうか・・・」
「今のところは一年ほど前に現れた海客が一人おりますがそれっきりでございます。
ちなみにその海客は現在椁夭の元におります。」
「・・・なるほどな。」
現在巧国は目の前にいる仮王杜耀の一つの政策として半獣に対する差別の緩和を推し進めている。
仮王の政策として現在、半獣は皆今まで与えられていなかった戸籍を与え、土地も与えて荒れた土地を回復させようとしているのだと衒笙や他の昇山者たちから聞いた。
「半獣に今まで与えられていなかった戸籍と土地を与えたと聞いている。」
「はい。正確には農耕と巧国の主要産物である鉄鉱石の採掘だけにとどまりますが。」
「・・・官吏にはなれないというのか?」
「今の状態ではそうなります。
しかし、国力増強のための策でしたが問題も起こりました。
巧国は半獣差別の緩和によって北部と南部で二分させてしまったのです。」
鷹恂は悔しそうな表情で少し俯き気味に答えた。
宗嗣はその鷹恂の言葉を聞いて驚いた。
「どういうことだ?巧国では今どうなっているのだ?」
博識な衒笙からもこのような話は聞かなかった。
つまりは、庶民というよりも地仙などの上位の者たちでの問題なのだろうか。
鷹恂はこの巧国二分の詳細を答える。
巧州国は他の国の例に漏れず首都州喜州を含めて九州存在する。
それらの州は喜州を囲むようにして位置しており、北部に慶東国に接するようにして位置するのが椁夭が州候の任についている淳州。
その西、縦長の喜州の西方を北から寧州、禄州、弥州が位置している。
残る喜州の東部は淳州に北部を接している州の喜州とも接する左の方を毫州、虚海と接する右の方を珞州。
その二州の南部の左の方が楠州、右の方に沚州が位置している。
例の北部と南部というのはそれぞれ淳州と寧州、弥州と楠州と沚州のことを言う。
なぜこのようになってしまったのか。
それは地理的なものが要因である。
巧国の南部、特に先の三州は高品質の鉄鉱石が産出されており、その鉱山の近くには鉱山都市として鍛冶場が多く連ねる街が多く存在する。
それに対して北部は農業が盛んであり巧国の北部と南部とでは地理的に大きく異なるのだ。
これが原因で半獣差別の緩和に北部は賛成で南部は反対になったのだ。
そもそも錯王の時代は過度の半獣や海客の差別が行われていたように思われるが実はそうではなかった。
錯王の時代以前から政策として半獣を雇う場合は一般の国民よりも税を取るなどして差別を行い、結果半獣はまともな仕事に就けないというように半獣にとっては迷惑この上ないものだったが、錯王は南部においてのみを例外とした。
巧国の主要産物である鉄鉱石を用いた刀剣類の鍛造は巧国の特産物として他国にまで知れ渡るほどのもので、巧国の刀剣類などは他国とは一段上の評価を得ていたのである。
そこで錯王は南部の鉱山都市の鍛冶場を限定して半獣に対する税金に対する縛りを撤廃したのだ。
つまり、鍛冶場の者たちは低賃金で半獣を雇うことが出来て半獣も低賃金だが下働きとして働ける場所を得たのだ。
数が少なくとも仕事が出来れば新しい仕事を任され、賃金を増やされる者もいた。
土地も得られず仕事にも就けない半獣たちにとってはこれはありがたいもので南部に巧国の半獣が流れ込んだ。
錯王は半獣という労働力を得ることで刀剣類の生産効率を上げることが出来たのだ。
しかし、今回の巧国中に発布された半獣差別の緩和によって南部以外は活気を得ることが出来たが、鉱山都市周辺に関しては違った。
鷹恂は他とは違う特別な地域である鉱山都市周辺のために生産効率を上げるために鉄鉱石採掘に対して一般人と同じか危険を伴うためにそれ以上の賃金を用意した。
結果鉄鉱石の採掘量は増加したが刀剣類の生産力の低下という笑えない話になっている。
流石に差別の撤廃を訴えている中央がこれ以上鉱山都市の半獣のみを特別扱いすることが出来ずにいる。
北部の州候は農業によって生産力が増加しているため半獣差別の緩和に賛成だが南部の州候はいままでの状態に戻すよう半獣差別の緩和には反対している。
「事情は分かった。
しかし、差別の緩和を完全な撤廃にすることは出来なかったのか?
そもそも半獣だからと差別をする理由が分からない。
地球でもそうだったが差別というのは争いに繋がる。
皆平等であるとすることがどうしてできなかったのだ?」
前から思っていたことをその政策を発布した本人に聞いた。
「それは、民の感情がそれを許さなかったからです。
人は己よりも下のもがいればこそ有意義な生活を送ることが出来る。
表には出さない者でも心の奥底では人間というのは皆そう言うものなのです。」
これが塙麒の塙麒たる所以だろう。
高校までを蓬莱で過ごしてきた宗嗣は政治的なことについて無知であるわけではない。
しかし、麒麟である宗嗣はそれを感情が許さない。
争いを嫌い、地球の歴史を表面的にでも知る宗嗣だからこそ差別は完全になくすべきではないかと強く意見した。
「しかし、慶国では禁軍左将軍が半獣なのだという。
半獣差別が巧国ほどでない慶国だとしても半獣にしては異例の抜擢だと昇山者たちが話していた。
それでもだめなのか?」
「それでもです。
その例は慶王自らがおっしゃったためにそうなったのです。
仮王である私とは違いが多ございます。
半獣・海客などの差別をなくしたいとおっしゃるのならばどうか巧国に王を。」
「・・・そうか。
鷹恂。あなたとの話は実に有意義であった。
また、巧国について聞くことがあるかもしれない。
・・・しばらくの間巧国を頼んだ。」
「はっ。承りましてございます。」
鷹恂は仰々しく宗嗣に拱手の礼をとって去っていった。
宗嗣は今回鷹恂を含め昇山者たちがの話を聞くことで巧国の生々しい現状を知ることが出来た。
それと同時に何とかしたいという思いが積もりつつあった。
王を選ぶ覚悟はどうだか知らないが早く巧国の民のために王を見つけなければいけないな。
・・・この使命感こそが麒麟の性というやつだろうか。
宗嗣は巧国の民のためなら自分の身を賭してもいいと考え始めている自分に苦笑する。
◇◆◇◆◇◆◇◆
この数日後には甫渡宮の扉は閉じられた。
塙麒が昇山者たちのいる広場をいくら行き来しても王となる存在が見つからなかったのだ。
甫渡宮の扉を閉じることによって今回の昇山者の中には王となるものは存在しないのだということを視覚的に示したのである。
これによって宗嗣の最初の昇山者たちとの対面は王が見つかることなく終わった。