塙麒放浪記(仮)   作:カラミナト

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垓洶

絢仁が見つけたそれは石とそれを固めるための泥のようなもので造られたのだろう4メートルはあるだろう土壁が聳え立っている。

 

門が一つ絢仁の真正面に見えた。

その塀の構造を見て、絢仁はどこかの遺跡か何かなのかと思ったが、いくら年期のあるものでもちゃんと機能する門があるのならここは人が暮らす集落なのだろう。

 

絢仁は大雨でも降ったのだろうか、沼地のようにぬかるんだ道とも言えないような道を歩いてその門に向かって歩き続けた。

 

しばらく歩き続けて絢仁がその門の目の前までやって来たときだった。

閉じられていた門扉が開いたのだ。

 

絢仁は突然開いた門に驚いたが、その門の奥に人がいるのを確認して安堵した。

 

 

ようやく人を見つけた。

そのものの姿が革製の鎧姿で帯剣したコスプレめいた格好だろうが関係ない。

一晩中歩き続けていたのだ。

 

絢仁は報われた気がした。

 

しかし、

 

「ーー!(誰だっ!)」

 

その人物が何かを言ってきた。

絢仁はその言葉の意味は分からなかったが推測することはできた。

絢仁は槍を突きつけてくるその人物に自分の身の証明をした。

 

「お、俺は林堂絢仁だ。

ここは何処なんだ?!」

 

相手が自分の知らない言語を話していることにも気付かずに絢仁は答えた。

 

しかし、相手に日本語が伝わるわけでもなく。

 

「ーー。(何を喋っている。もしかして海客か?)」

 

そこでようやく気付いた。

相手が自分の知らない言語で話していることに。

 

絢仁はその英語でも中国語でも韓国語でもましてや日本語でもないその音の連なりを聞いて落胆した。

 

ここが日本なのではないことがよく分かった。

それに、自分の知るいくつかの言語でもないことからそして、絢仁は今まで見てきたものを思い返してからグルグルと思考に耽っていたがようやく結論が出た。

 

ーここは、俺の知る世界じゃない。

 

それに思い至ってから絢仁は目の前が真っ暗になった。

 

今までの疲労とサバイバル的な極限の状況を強いられ、更に徹夜までしたのだ。

 

絢仁は武装した彼の目の前で強烈な疲れと眠気によってその場に倒れ込んだ。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

垓洶。

巧州国淳州の符楊郡。

その慶東国との国境である高岫山のすぐ近くにある一つの里である。

 

この垓洶は昨日規模は小さいものだが蝕という嵐にあって里で生産していた作物が全てとは言わないが面積辺り三割近くの範囲がその蝕によって被害を被ってしまった。

 

この里の人々の食料であり、そして義務である税の代わりである作物の多くがダメになったのである。

 

里の皆は多くが落胆した。

 

ただでさえ今は、この巧国は王がその玉座に20年もいないのだ。

妖魔は溢れ、天変地異が起こり、干魃などの天災も起こりとまともに作物を育てていくことなど叶わず、どうにか自分達が食べ物を得ることさえも厳しい状況なのだ。

 

この垓洶という里がこんな状況の中、朝日が出てたから門を開けるとそこには奇怪な格好をした男が泥にまみれていたのである。

 

海客だ。

 

その男は疲れていたのだろう。

しかし、しばらくしてその場に倒れ込んでしまった。

 

今、その少年、絢仁はこの垓洶の里の里府の長で里祠の祭主つまりはこの里の長、里宰を中心とする数人のこの里の主要な人物たちの集まる側で縄で縛られ、横に寝転がされていた。

 

「それで里宰殿はこの海客をどうするつもりか。」

 

最初にこの中では年若い壮年の男性がこの集まりの中心である里宰に問うた。

 

「州候様からは海客を州都へと引き渡すようにと仰せである。

この海客は州都へと連れていくのが道理というものじゃ。」

 

この巧州国という国は特に錯王の治世において海客に対する扱いは酷いものであった。

時空間の乱れによって十二国の世界と蓬莱・崑崙が一瞬繋がってしまうことによって起こる天災である。

故に、この蝕によって十二国の世界からは卵果が流されてしまったり、蓬莱・崑崙からは人や物が流されてしまったりするのである。

しかし、この巧国において海客とは作物を駄目にしてしまったり、ある時は人が死んでしまうこともあるこの蝕というものは海客が起こしたものなんだという巧国中枢によって海客は浮民以下の扱いを受けるのである。

 

そして、蝕によって多大なる被害がもたらされた場合に海客が現れるとその海客は悪い海客として州都やあるいは首都州に突き出されて死刑も免れないほどの刑罰を受けることもあるのだ。

 

これが巧国であり、特にこの十二国の世界において半獣などを含む人に非ざる存在に対しての差別が酷いのがこの国であった。

 

現在は異なり、仮王の政策によって半獣は戸籍を得られて土地も得られるというように差別が緩和された。

 

それは特にこの淳州においては喜州共々半獣に対する差別の緩和が順調に進んでおり、海客に対して仮王は特に何も申し渡されてはいないものの淳州は州候自体が海客の存在やその海客の知識に非常に興味を示しており、淳州一帯には海客を見つけたらすぐに州都に知らせて連れてくるようにという褒賞も与えられるような変わった法令が発布されているのである。

 

 

しかし、

 

「しかし!今回の海客は俺達の畑をグチャグチャにした悪い海客だ!

この里で私刑にしてもいいでしょう!」

 

このように、錯王の治世において蒔かれてしまった海客に対する嫌悪は特にこの場所のような虚海に近い里であれば消え去ってはいないのである。

州候自らが出した法令と言えども州候が海客のすべてを把握していないのは明白である。

知らせずに私刑にするという里があってもおかしくはない。

 

それでも、この里の里宰は違った。

 

「駄目じゃ。

誰ぞ州都に知らせてくれ海客を拾ったのだとな。

近くの郡城に知らせれば太守様が州候様に知らせてくれよう。

今はこの里を州候様から頂いた褒賞で復興するのが先決。

この海客が他の里に行っておらなかったは運がよかった。」

 

里宰の言葉を聞いたものの一人が人を使って近くの郡都へと知らせに行った。

 

この後、すぐに絢仁は数人を伴って準備を終えてすぐに近くの郡城嶺藍へと連れられることとなった。

 

言葉が通じなくて逃げられては困ると絢仁は縄で縛られ、眠ってる間にこの垓洶の里を馬車の荷台に乗せられて出ていく。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

その人物は東部のとある太守より届いた書簡を眺めていた。

 

「・・・どうやら虚海沿岸の北部の方で海客が現れたらしい。」

 

「然様ですか。」

 

「ああ、そういうわけでこちらから一人郡城に仙をやる。

海客の通訳としてな。

それに、その者には責任をもってこの州城に連れてきてもらう。」

 

「分かりました。

それでは私の部下を送りましょう。」

 

「そうだな。その方がいい。」

 

すぐにここを発つように伝えろ。

 

その人物の前で拱手の礼をとっていた老年の男性はそのまま去っていった。

 

 

 

「そう言うわけで、靜尚。行ってくれるな。」

 

「分かりました。

椁夭様の命というのであれば。」

 

その日のうちに、淳州州候椁夭の命を受けて、この海客を州城まで連れてくるという仕事を請け負った淳州秋官長の次官、少司寇靜尚は淳州城を吉量に乗って嶺藍目掛けて発った。

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