今、絢仁がいるのは郡の府城と言われている建物の中、いわゆる応接室とやらの部屋だ。
あの後、靜尚に詳しく話すと言われて絢仁は彼について明らかにこの街の政治の中枢つまり、日本においては昔の城主の住まう城と言ったような場所に入っていった。
絢仁は驚いたが、取り敢えずこの今の状況を何も知らない自分は話が出来るこの人物についていってここの話を聞くべきだと思ったがために困惑しながらもこの街の中でも一際大きく芸術品の垣間見える豪華な建物の中に入ることにした。
しばらく広い建物の中を歩いてようやくたどり着いた部屋もひどく豪華な造りをしていた。
「まあ、取り敢えず座りなさい。」
どう考えても自分にとって場違いな場所にいると思った絢仁は呆然としていたが、靜尚の声を聞いてようやく正気に戻った。
絢仁は靜尚に示された椅子に座る。
正面には靜尚ともう一人壮年のもう老人と言ってもおかしくはないほどの年の男性が座っていた。
「まずはお互いに自己紹介と行こう。
改めて、私は巧州淳州の少司寇である姓名を蘇晃、字を靜尚という。
靜尚で構わない。」
さっきから巧州国だの淳州だの少司寇だのこの靜尚という男は訳の分からないことを言うがそれを含めてこれから話をしてくれるというのだろう。
「・・・俺は林堂絢仁。日本人だ。」
「日本人か、まあいいだろう。
そして、私の隣に座るこの男性はここの領主の霹侑殿だ。」
その霹侑と言った男性は軽く頭を下げるだけだった。
「まあ、霹侑殿は私とは違い仙ではないから話をしても通じない。
この屋敷は霹侑殿の屋敷であるため対面を守ってこの場に来ていただいたというわけだ。」
まあ、理解できなくはない。
他のみんなと同じように彼とは話をしようにも言葉が通じはしないがここは彼の屋敷だからこの場にいるのだとそういうことか。
しかし、
「仙とは一体何なんだ?
まさか、本当の仙人のように不老長寿の人外の者だとか言わないよな。」
その絢仁の問いに対して靜尚はただ微笑を浮かべるだけであった。
「まあ、その話もするがまずはこちらの用事の事からいこう。
淳州州候であられる椁夭様が君と会いたがっている。
ぜひ来てもらいたい。」
「何故、俺なんかが?」
淳州、州候。
全くもって意味は分からないが恐らくはこのあたり一帯の中でももっと偉い人物だというのは間違いないだろう。
そして、そんな偉い人物が俺に会いたがっているのは何故か。
「君がこの十二国の世界とは異なる蓬莱からやってきた海客だからだ。」
「十二国?海客?
ちょっと待ってくれ。訳が分からない。
もっと詳しく教えてくれ。」
そこから靜尚は絢仁にこの世界のことをこの世界の地図も交えて詳しく教えた。
まず、この世界には十二の国と中央に特別な黄海という島がある。
現在絢仁がいるのは巧州国という国であるという。
そして、海客とはこの十二国の外側の虚海という海の先にあると言われている蓬莱という東の方の国からやってきた者たちのことを言うらしい。
これは蝕という時空間の乱れによって生じ、海客は蓬莱、つまりは日本から時空を超えて別の世界からやってきた人のことを言うらしい。
この蝕はこちらに海客のような人間や物を向こうには卵果という人が生まれ出でる果実などが流されるのだという。
靜尚は何とはなしにここの人間はまるで桃太郎のごとく果実から生まれるのだと聞かされて驚いたがもう驚きすぎて随分と耐性が出来てしまったようだ。
「ところで、俺はこの十二国の世界から日本、つまりは蓬莱へ帰ることは出来るのか?」
「可能か不可能化で言うと可能だろう。
しかし、君を蓬莱へ帰すために蝕を人為的に起こすことが出来るのは高位の仙と麒麟だけだ。
君がそんな彼らに会うことが出来るかどうかでいえばよほど運がよくないと無理だろうね。」
「・・・麒麟とはなんだ?」
「この世界の中心である黄海にある蓬山にある捨身木にのみ生る卵果から世界に十二だけしか存在しない各国の王を天啓によって選定する神獣といったところだね。」
話を聞いていればまさに麒麟こそがこの世界の根幹をなす存在のようだ。
民意の具現たる麒麟がその国の王を世襲ではなく天の意をもって決める。
王が道を見失えば麒麟が失道の病にかかってしまって麒麟は死に、その後王も死んでしまうのだという。
なんて完璧なシステムだろうか。
絢仁はこの世界のあり方を面白いと思った。
君主が人々にでも世襲でもなく天帝という神が決める。
これこそが国を治めるに効率的な君主の選定の方法だと思った。
神も麒麟も妖魔などの化け物もいるからこそなせる代物だ。
しかし、現在この巧国には王もましてや蓬山の蓬蘆宮に住まうはずの麒麟すらもいないのだという。
靜尚がいうには恐らくは蓬莱か崑崙に蝕によって流されたのだろうとのことだった。
そんな馬鹿なことがあるのかと問えば、現在の芳の麒麟も戴の麒麟も蝕に流されたが蓬山に帰還して王を選んだのだという。泰麒に至っていは日本に産まれたのだそうだ。
「それで、仙について聞いてなかったがどういうものなのだ?」
「仙には国に仕える者を地仙といい、国官と州官が存在する。
そして、国に仕えていないものを飛仙と呼び、天界に属するものを天仙と呼ぶ。
私は州官であるためそのうちの地仙というわけです。」
「それで、仙は俺のような海客とも言語が違えども話せるというわけか。」
なんとも信じられない話だが信じる他ないだろう。
すでにこの世界は地球とは繋がることはあっても別の世界であることは納得したくないが理解している。
「そうですね。
他にも不老であり病気にもかからず冬器という特別な武器でないと傷付かないなどがあります。」
「何でもありなんだな。」
「仙は王と同じく国政を司る者たちですから国を傾けないためにもその様なことは必要だということなのだと思います。」
なるほどな。
王と一緒にぎょくざが持つ限りはずっと同じ官僚で国を治めることが出来るということか。
本当に合理的な世界だ。
「そうか。
あなたのおかげで今まで分からなかったことが一気に分かった。
それで、最後に疑問なのだがどうしてこの淳州の州候様は俺のような海客と会いたがっているんだ?」
「それは・・・椁夭様は好奇心の強いお方ですからね。
この世界の者たちが知らない知識を知ることこそが椁夭様の趣味なのです。」
趣味とは・・・
話を聞く限り俺が最初の集落で印象が悪かったのは蝕は海客が起こすものであるから巧国では海客がいれば役人に引き渡すべきだなんて極度の差別を行っていたらしいからその海客の知識を好んで手に入れようとするその州候は随分と変わり者のようだな。
まあ、そんな州候がこの十二国の君主であったがために絢仁はこの命が助かったのだ。
「分かった。
州候様のもとへ行こう。
俺は恐らくは一緒にこの世界へとやって来た友人を探さなければならないのだ。
それにはその州候様のところへ行く方が得するかもしれないからな。」
そうだ。
俺は宗嗣を探さなければならない。
そして、一緒に日本に帰るのだ。
「分かりました。
では、明日の朝にはここを発つので今日はこの城でゆっくり休んでください。
霹侑殿には既に許可をとってます。」
そう言って靜尚の隣に座る霹侑が頷いた。
絢仁はその好意に甘えて久しぶりに寝台でグッスリと眠りについた。