塙麒放浪記(仮)   作:カラミナト

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柯柊

絢仁はベッドではないがそれに近い寝台で寝てからその次の日は靜尚と共にこの嶺藍の街を出ることとなった。

 

起きて用意された昼食を済ませて、出された変わった衣服に着替える。

今まで来ていた制服は泥に濡れ、ボロボロになっていたためにその衣服を大人しく着ることにする。

下は日本の袴のようなものだが乗馬とかがしやすいのだろうズボン状の袴だった。

上は剣道でも来ていたような道着のようなもので、更にその上に上着のようなものを着て簡易な帯布で腰回りを巻く。

 

これを着ていれば完全な黒い髪と黒い眼以外はこの世界の人々とそう変わらない。

どうしてだかこの黒髪黒目はこの多彩な髪色の人々がいる世界においては少し目立つようだった。

この街に連行されているときに見たこの街の人々は黒というよりも茶色だったり濃い青色だったりとなかなか黒髪というものを見なかった。

 

まあ、それでわざわざ髪を染めようなどとは思うわけもなく絢仁は昨夜寝る前に靜尚に言われていた通りにこの城の外に出る。

 

するとそこには、靜尚一人と白い縞に赤い鬣、金色の眼と普通じゃない容姿をした馬がいた。

 

この靜尚という人物は仙という相当に偉い人のはずなのだが誰一人として護衛がいないようである。

 

しかし、その前に

 

「靜尚。その馬はなんだ?」

 

「騁のことか?

この馬は俺の馬で吉量という妖獣だ。」

 

妖獣。

昨日靜尚に聞いた。

この世界には妖がいるのだと。

人が一部飼いならすことが出来る妖を妖獣と言い、それが無理なのが妖魔なんだという。

 

絢仁が最初の集落を見つけることが出来た原因である一つ目の狼は靜尚が言うにはそのうちの妖魔の類であり、蟲という小物の妖魔であり、今のこの巧国においては群れでいることが多いのだと言っていた。

 

つまり、靜尚が連れているこの馬は只の馬などではなく、妖獣なのだということだ。

 

「靜尚はその騁に乗ってその州候様がいる州城まで行くのか?

それならば俺はどうするんだ?」

 

「ん?

一緒に乗って行くんだよ。」

 

「は?」

 

「どうした?」

 

「・・・わざわざ一緒に乗る必要があるのか?

俺が馬に乗って一緒に行くっていうのは・・・」

 

「お前、馬に乗れるのか?

州候様が言っていたが最近の海客は馬に乗っていないのだと聞いた。

それに、こいつだと州城まで普通は歩いて十日以上はかかるものが一日で着く。

さあ、早く行くぞ。

出発が遅くなってしまえば州城に着くのが日が暮れてしまってからになってしまう。」

 

靜尚はそう言って何の荷物も持っていない絢仁を急かすようにしてこの異様な吉量という馬に乗せられた。

馬だとは言ってもやはり妖なのだビビらないはずがない。

絢仁は吉量に乗せられるときに素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

「大丈夫だ。

この騁は私の馬だからな。

人を乗せるのにも慣れている。」

 

靜尚はそう言ってヒラリとこの吉量の絢仁の前の方に跳び乗った。

 

「さあ、行くぞ。

しっかりとまっていてくれ。」

 

靜尚がそう言った瞬間、絢仁を浮遊感が襲った。

それに驚いた絢仁は周囲を見渡す。

 

騁は空を駆けていたいたのだ。

 

「はあぁぁぁ!?

何で空を駆けているんだ!?」

 

「あれ、昨日言ってなかったかな?

妖魔の中には羽を持たずとも空を駆けることができるのさ。」

 

「いや、命綱は!?」

 

「大丈夫。

騁は振り落としたりしないから。」

 

絢仁の問いに対してぬらりくらりとかわす靜尚だが絢仁にとっては今のこの状況はただ事ではない。

 

絢仁と靜尚は西の淳州州城のある方へと向かっていった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

淳州州都、柯柊。

淳州の西部、安陽県の鹿北を北に慶国との国境に向かって進んだときに、その鹿北と国境との中ほどにその州都は位置している。

 

淳州は特に何か特産物が取れるわけでもなく、他州や他国に輸出されるだけの特産品も特にない。

しかし、現在の王も麒麟すらもいない妖魔や天災に脅かされているこの巧国においては十分に栄えているといってもいいほどに人は多くこの年に集まっている。

 

しかし、やはりというべきか王が登極して20年以上も経ち安定し始めている隣の慶国の州都と比べればその差は歴然である。

 

それでも、空を駆ける吉量に乗りながら陽が沈み始めているこの夜に備えて火が灯り始めている州都柯柊の街並みを見ていると非常に感動したのは事実である。

 

この廃れた巧国の州都でもこのように綺麗に見えるのだ。

長い間王が倒れていない雁国や奏国の首都はどれほどに綺麗なのだろうかと目の前の見上げても頂上が見えないような山の存在も視界に捉えながらも絢仁は下の古代中華の匂いが色濃く漂う街並みの夜景を眺めていた。

 

そして、現在絢仁は途轍もなく大きな凌雲山の頂上まで連れられてここの主である淳州州候に会っていた。

 

「姓名を玄珀、字を椁夭という。

この淳州の州候を嫌々ながらに任されている。」

 

「・・・林堂絢仁です。」

 

嫌々ながらというその言葉に靜尚の話を思い出した。

 

この州候は海客や海客のちしきを知ろうとするのは趣味だと言っていたが、もしかして趣味の合間に仕事をしているような人物だったりして。

と、絢仁はなんとなくそう当たりを付けていた。

 

「早速聞くが、お前はどのような職についていた?

研究者か?技術者か?官僚か?もしや軍役か?」

 

「・・・いえ、高校生、学生です。」

 

絢仁は椁夭の勢いに押されながらもどうにか答える。

その絢仁の答えに対する反応は非常に分かりやすいものであった。

学生というその言葉を聞くなり椁夭は随分と気を落とした。

 

「何だ学生か・・・

ある程度の職に就く者ならば使えると期待していたのだがな。

まあいい。

お前、こちらに渡った時に何か持ってこなかったか?」

 

「一応、教科書類を持ってきましたが、里の者たちに取り上げられてしまいました。」

 

「そうか!

書物があるか!

靜尚、すぐに人をやってその書物を取り上げよ。

金子は用意してやる。」

 

いきなり書物に興味を持った椁夭は人が変わったように絢仁の教科書類を手に入れるようにと下知を下した。

はっきり言ってこの州候に教科書類を取り上げられようが構わない。

どうせ今は必要はないのだ。

 

「さて、林堂絢仁と言ったか。

お前はもういい。

靜尚、こいつを連れていけ。」

 

椁夭はもう用が済んだとまるで無邪気な子供が飽きたおもちゃをそこら辺に放り投げるようにして靜尚に言った。

 

これはまずい。

州候という人物に俺はせっかく会えたのだ。

このままでは俺は日本に帰るすべがなくなってしまうかもしれない。

このまま外に放られて食うも寝るも困るようになってしまえば宗嗣を探すだなんていってはいられなくなってしまう!

 

「あ、あの!

俺を雑用でもいいんで雇ってもらえませんか!?」

 

学生だからとそんなことで切り捨てられてはかなわない。

 

絢仁は必死になって椁夭に懇願した。

 

「俺は能力のない奴を雇おうとは思わない。

お前には何か人並み以上の才があるか?」

 

そうか。

この椁夭という人物は簡単に言えば実力主義だということか。

 

俺の特技、それはもちろん

 

「剣です。剣を扱えます。」

 

この世界における剣とはスポーツなどではない。

本当に人を切るような剣だ。

しかし、迷っていられない。

日本に帰るために。宗嗣をさがすために!

 

「ほう。剣術か。

その実力は?」

 

「蓬莱で同年代の者たちの中で上位8人に入るほどには実力はあると自負しています。」

 

絢仁は中学校の剣道の最後大会で全国ベスト8に残るほどの実力を持っている。

それをもって高校もスポーツ推薦で今の強豪の高校に入ったのだ。

まあ、宗嗣は普通の受験で合格したのだが。

 

「なるほどな。

・・・分かった。

州師左軍に入れる。

靜尚、左将軍に取り付けておけ。」

 

「分かりました。」

 

どうにかここに置いてもらえるようだった。

 

「林堂絢仁。

一応、軍でお前の実力を見極める。

励むように。」

 

「はい。」

 

「おっと、そうだ。

林堂絢仁というのは海客の名前だったな。

・・・そうだな、お前は今日より林絢仁(シュンジン)を名乗れ。」

 

最後に言い残したように椁夭はそう言って去っていった。

 

こうして、林堂絢仁いや、林絢仁はこの十二国の世界に武人として根を張ることとなった。

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