塙麒放浪記(仮)   作:カラミナト

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自己

宗嗣は玉葉や微真たち朱旌の旅芸人の一座の好意で一緒に傲霜まで行動を共にするようになった。

 

宗嗣たち一行は巧州国は禄州の巽城から喜州の巧州国首都傲霜までを巧州国の民たちに娯楽を提供しながら進んでいった。

宗嗣はこの旅芸人の一座の手伝いをしながら目的地まで進んでいった。

この一行はある時は街の外の野木の下で寝ることもあるが多くの里や街を巡るということもあって非常に勉強になることばかりであった。

 

宗嗣はこの旅の中で昇山者たちに聞いたことや蓬蘆宮で読んだ多くの書物からの知識の多くを実際にその眼で見て確かめることが出来て非常に面白かった。

しかし、それは、この巧州国の実情を目の当たりにするということでもあって宗嗣には心苦しいものであった。

 

この巧州国は血の匂いがいたるところでするのだ。

これは、宗嗣が麒麟であるがゆえに以上に血の匂いに対して敏感だからなのかもしれないがこの血の匂いは黄海での人の流した血の匂いよりも濃いものであるような気がする。

 

確かに黄海には妖魔や妖獣がわんさかいるから多くの人が襲われることが分かるのだが、この国内いたるところから匂う血の匂いは異様であるとしか言いようがない。

恐らくは、玉座にあるべきものの姿がないがために巧国中を妖魔がはびこっているのだろう。

 

そう危険なものではないのだが妖魔や妖獣には何度も襲われた。

黄鉄含め護衛の者がいなかったならばこの旅芸人の一座は大変な被害を被っていただろう。

 

そして、この巧国という国は人による手入れの行き届いていない土地つまりは、巧国民が国から与えられたものの放置されている農地が多いのだ。

 

それは、馬車で移動中でもこの巧国が荒れているということの証左としてよく見受けられた。

 

そして、現在一行は荒れてしまった土地を見放したことによって無人となってしまった里にお邪魔して里の中で野営をしていた。

 

20年以上も王が現れることがなかったこの巧州国という国の民は早く塙王が登極されるのを欲している。

蓬蘆宮では薄ぼんやりとしか見ることの叶わなかったこの国の実情を宗嗣は今ははっきりとその両目に見せつけられている。

 

俺が塙王を見つけなければならない。

そして、俺が王を選ばなければならない。

 

この巧国の実情を見せつけられると俺自身はどうなってもいいからとにかくこの国を、この国の民を救わなければならないという使命感に突き動かされる。

王を選んだ後の奪われる自由なんてなんてちっぽけなことを考えていたのだろうか。

 

この旅を通してそう思わされた。

 

しかし、この心は俺自身が麒麟だからこその国への民への哀れみなのだということにも気付いた。

 

俺の心には麒麟の盲目ともいえる慈悲の心と蓬莱で培われた知識をもって作られた現実主義や人間の人間らしい自己保身の心の両方が宿っているのだと。

やっとそれに気が付いた。

 

「どうすればいいんだ・・・」

 

分かっている。

王を選びさえすればいいのだ。

しかし、その王が俺自身がどうにかしたいと思っていることに対してどのような策を講じてくれるのだろうか。

浮民の差別をなくしてくれるだろうか。

半獣への差別を。

海客・山客の。

 

俺は本心でこの巧国の理不尽な差別をなくしたいと思っている。

この巧国の荒れてしまった土地に人を戻したいと思っている。

この巧国から妖魔を排除したいと考えている。

 

この思いは恐らく麒麟の心と人間の心両方がそう思っている。

麒麟の慈悲が、人間の偽善が。

この国を俺の国を何とかしたいのだと思っている。

 

俺は塙王を選ばなければならないのだろう。

しかし、麒麟の直感という天の意志によって王を軽々しく選定したくはない。

わがままだと自分でも思うが、納得したい。

何をどう納得したいのかは分からないが納得して自らの王を自らの王として仰ぎたいのだ。

 

「俺が16年も蓬莱にいたせいだな。」

 

そのせいで麒麟の性というものの他にも人間の性というか一条宗嗣の自我というべきものが出来てしまったらしい。

巧国の民には本当に申し訳なく思っている。

俺は早く蓬山に戻らなければならなかったのだ。

 

・・・この感情は麒麟の慈悲によるものだろうか?

 

「何を考えこんでいるんだい?」

 

宗嗣が考え込んでいる間に近くまで来ていたらしい玉葉が話しかけてくる。

 

「いえ、玉葉さんに迷惑をかけるわけには。」

 

「いいから話してみな。」

 

玉葉のその強気な態度に押されて話してしまう。

どうやら宗嗣は昔から劉麟の例もあるように女性の強気な態度には弱いらしい。

 

「悩み事です。

今後の俺の将来についてを考えてました。」

 

「・・・俺の義務と自己保身とでもいうようなものがうまく両立してくれないって何を言っているか分からないな。」

 

「まあ、確かによく分からないけど・・・

宗嗣がしなければならないことをしたら宗嗣がしたいことが出来なくなってしまうという感じかな?」

 

「そうですね。

そういうところです。」

 

「・・・一応聞いていいいかい?

今、この巧国では民が税という義務を払えなくなって自己保身のために荒民として他国に逃げている。

宗嗣はその義務から逃げて自分のために生きようだとは思わないのかい。」

 

「逃げれば俺は10年ほどで死ぬことになります。

そして、この国の多くの人々を結果死なせてしまう。

俺の慈悲の心と偽善の心がその義務から逃げることを許してくれないのです。」

 

「そうだ。

やはり会ってみなければ分からないんだ・・・」

 

宗嗣はポツリと玉葉に聞こえるか聞こえないかくらいの大きさで呟く。

 

「すみません。

愚痴のような訳の分からないことを聞かせてしまって。」

 

そう言って宗嗣はその場を離れた。

これ以上話していたら玉葉に宗嗣自身が麒麟であるとバレるのではないかと思った。

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