塙麒放浪記(仮)   作:カラミナト

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不調

宗嗣は重い瞼をゆっくりと開ける。

何だかガタガタと地面が揺れているような感じがする。

恐らくは馬車の中で寝ているのだろう。

 

周囲にある小道具は見たことのある旅芸人の一座が芝居などで使っているものだ。

もちろん、基本は馬車に積まれている。

 

気分が悪い。

熱でも出したかのようだ。

これは日本で焼き肉を食べた後のことだろうか。

もう中学生にもなっていたが随分と酷い熱を出したような気がする。

しかし、今回のそれは前回のよりも酷い。

 

頭痛がかなり酷い。

動こうにも動けないほどにだ。

 

「徠河・・・」

 

『・・・塙麒は人の血に濡れて二日の間ずっと馬車の中で伏していました。』

 

宗嗣の影に遁甲していた徠河が宗嗣の呼びかけに答える。

 

なるほど。

二日間ずっと眠っていたということか。

・・・まさか、人を助けるために血に濡れたがここまでこの身体が血に弱いのだとは知らなかった。

日本ではせいぜい自分の血を足を擦りむいた時などにしか血を見ることもなかったからここまで血に弱いとは思わなかった。

確かに、この十二国に世界にやってきた前と後とでは転変もして麒麟の力も解放されつつあったから日本にいた時とは違うのだが。

 

『塙麒、もうあのような無理はなさらないでください。

今回は旅芸人の者が塙麒を水で洗い清めてくれたから良かったのです。』

 

そうか。

微真や玉葉たちが・・・

 

確かに気を付けないとな。

・・・まだ俺は麒麟としての自覚が足りないということだろうな。

 

「起きたようだね。」

 

徠河と話していたそこに声が聞こえてきた。

だるい身体をどうにか動かして宗嗣は声の主の方へと向き直る。

 

玉葉だ。

 

「無理しなくていいよ。

そのままそこで寝て良いって。」

 

宗嗣はその玉葉の言葉に甘えてそのままさっきと同様に馬車の荷台に寝そべった。

まだまだ体調が優れないのだ。

 

「もう二日間も眠りっぱなしだったからね。

身体の調子はどうなんだい?」

 

玉葉はゆっくりと進む子の馬車の荷台へと移ってから宗嗣にそう言った。

 

「まだ本調子というわけには・・・

それよりも怪我をしていた護衛の青年は?」

 

「大丈夫だよ。

宗嗣のおかげですぐに治療ができて助かったんだよ。

それよりも今は宗嗣だ。

どれ、熱が出ているようじゃないか。」

 

玉葉は宗嗣に近づいてくる。

そして、その手を宗嗣の額に当てようとするがその前に宗嗣はその手を振り払った。

 

「あ、すみません。」

 

無意識に自分のことを本当に心配してくれる玉葉の手を振り払ってしまった。

麒麟の額には角があり、麒麟は人にその角を触れられるのを極端に嫌う。

今の弱った状態の宗嗣にとっては力の源である角を絶対に触れられたくはなかったのだ。

 

それゆえに、宗嗣の麒麟の本能とでもいうようなものが無意識に玉葉の手を振り払ってしまったのだ。

 

「すまない・・・

そうか、額は駄目なんだね。」

 

宗嗣は玉葉のその言葉に疑問を持ったために玉葉を訝しむようにして見た。

 

いや、何でそのように言ったのかは予想できる。

あれだけ派手にやってしまったのだから。

 

「ああ、そうだね。

すまなかったね。」

 

・・・何かがおかしい。

 

普通、妖魔を従えているというだけでただの人間じゃない言うことに気が付くはずだ。

それにただ血に濡れただけでこんなにも身体が弱いと言っているようなものなのにどうして仁獣である麒麟なのではないかと疑わないのだろうか。

・・・もしかして、麒麟が血を嫌うことを知らないのか?

 

いや、そんなことはないはずだ。

さっきの角を触られるのを嫌うのは知らなくとも麒麟が血を、争いを嫌うということは知っているはずだ。

 

「玉葉さん・・・」

 

「朱旌の中には自身のことを知られたくはないと思っている者たちが多くいる。

宗嗣が何者であろうと構いやしないよ。

今は、山客で朱旌の仲間であるというだけで十分だ。」

 

宗嗣は玉葉はどうして俺が何者なのかをすぐに尋ねないのかと聞こうとしたものの先手を取られてそのように言われてしまった。

 

・・・玉葉のその言い方から思うにどうやら俺のことは麒麟であると疑ってはいるようだ。

しかし、それでも尋ねないのは朱旌には何らかの過去を持つものが多くいるからだろう。

 

今、その玉葉の朱旌のあり方は非常にありがたい。

もしかしたら一座のみんなが疑いの目で見られ、更には麒麟という分不相応な存在がここにあるのに戸惑って何やら雰囲気がおかしくなってしまうのではないだろうかと考えてしまっていたのだが杞憂のようだ。

 

「もう喜州に入ったよ。

傲霜にはあと数日もしたら着く予定だよ。」

 

そうか。

もうそんなに近くまでやってきたのか。

随分と長かったな。

蓬蘆宮を出てから一月半もかけてここまでやってきたが今までの二年半のどの時間よりも有意義な時間を遅れたような気がする。

これも全て朱旌の旅芸人の中に入って庶民の眼で巧国という国を見ることが出来たからだ。

 

「そうか。

もう旅も終わりか。

何か手伝えることはあるかな?」

 

「そんな、気にする必要はないさ。

あおの馬腹を退けて私たちを助けてもらったんだ。

それだけで十分さ。

礼金を受け取ってもらいたいくらいだね。」

 

「いや、そんなものは必要ない。」

 

「じゃあ、何かしてほしいものはないかい?

野菜だけの雑炊でも作ってこようか?」

 

「・・・そうだね。

それは食べたいね。お願いするよ。」

 

宗嗣がそう言うと玉葉は馬車を降りて行った。

恐らくは作り置きしていたものでも持ってくるのかもしれない。

 

それでもありがたい。

二日間何も食べてなくて腹が減っていたところだ。

 

そのまま、この旅芸人の一行は傲霜へと向かう。

 

巧州国は首都傲霜に到着したのはその5日後のことであった。

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