「・・・なるほど。
君が海客でありながら何の苦労もなく宿を見つけられたのはそういうことか。
君の旌券に仮王の裏書きがあるのも麒麟だからか・・・」
宗嗣が麒麟であると聞いて義衡は驚いてはいたようだが何の問題もなくそれを受け入れた。
しかも、宗嗣が麒麟であると聞いて納得しているようだった。
元々、義衡は宗嗣のことに関してその存在に疑問を抱いていたのは宗嗣だって気付いていた。
義衡にとってこの事実というものはようやく宗嗣がどういう存在なのかということを知ることが出来たという程度のものだったのだろう。
「じゃあ、宗嗣はどうするんだよ。」
しかし、絢仁は違う。
今まで日本で小学校の高学年くらいからの長い付き合いである絢仁にとって先程の宗嗣の話した事実というものはそう簡単に受け入れられるものではなかった。
それは、親友であった宗嗣が人ではなくて麒麟だったということではない。
元々は地球にいるべき人ではなくて異界の存在であったということではない。
「お前、日本に帰るよな?」
よな?絢仁にとって重要なのは一緒に日本に帰れるかどうかの問題だった。
絢仁はこの世界に来てから常識であるこの世界のことは仙である靜尚などから聞いて、そして言語を学んで周囲のこの州の兵士たちから聞いていた。
だからこそ知っているのだ。
麒麟は世界に十二しかいない神獣であり、その国の王を天意によって選定し、王の選定の後はその国の王宮にて王の政治を支える宰輔としてその国の中枢にいる特別な存在なのだということを。
そんな麒麟である宗嗣はこの巧国にとっては文字通りかけがえのない存在なのである。
そんな宗嗣は日本に帰るのだろうか。
それについて絢仁は疑問に思っていた。
「絢仁。
俺がもしも日本に帰るようなことになれば王のいないこの国からはもっと死人が出てしまう。
それを阻止するには俺が王を見つけるしかないんだ。
王を選ぶことでその王と心中しなければならないのは前は気に食わないと思っていたが、この荒れてしまった巧国に住んでいる人々のためならば日本なんて捨てていいと思っている。」
確かに未だに王の生き様一つで自分の運命が決められてしまうことに対しては嫌悪感があるものの、俺は本心でこの国を救いたいのだ。
「何もせずに数年後に日本で死んでしまうよりはこの国のために生きていきたい。
麒麟だからこんなことを思っているのだとしてもそれでもいい。
何が何でも俺が決めたことなんだ。
後悔はない。」
宗嗣が絢仁に向かって強くその意思を伝えると彼は顔を俯かせて何かを考えているようだった。
「安心してくれ。
絢仁に関しては巻き込んでしまった俺が責任をもって日本に帰す。
俺はやり方を知らないが麒麟は蝕を起こして日本とこの世界を行き来することが出来るんだ。
劉麟か劉麟をとおして延麒にでも頼めば日本に帰ることは出来るはずだ。」
宗嗣はここまでで考えていたことを絢仁に告げた。
義衡はもう十年も経っているのだからここに残りたいと思っているのは理解できるものの絢仁はまだこの世界に流れ着いてから三年も経っていないんだ。
少しでも日本に未練があるのならば日本に帰るべきだ。
「麒麟は血と争い事を嫌う生き物なんだよな?」
「?あ、ああ。
事実俺は血を見るだけでも弱ってしまうな。
それがどうかしたのか?」
「ならば俺がお前を守ってやろうじゃないか!」
「は?」
何を言ってるんだ?
俺には爍繃たちもいるから身の危険が及んだら大丈夫なんだ。
「さっき麒麟について話したときに言ったよな?
麒麟には指令がいるって。
実際に俺にも爍繃たちがいるんだから。」
「いいじゃないか。
俺はもうこの世界で宗嗣と一緒に生きていくことを決めたんだ。」
「何を言ってるんだ。
お前は日本に帰るべきだ。
まだ三年も経っていないんだ。
親だって待っているだろう。」
「問題ない。
何かあったらお前が蝕を起こして日本に帰ることも出来るんだろう?
それに、俺は人を殺している。
あの平和な日本ではきっと生きにくい。
だから、お前の側で働かせてくれ。」
絢仁の必死な思い。
最後の理由はどうであれ宗嗣は絢仁の自分と一緒にいたいという気持ちは嬉しかった。
親友だからこそ日本に帰って欲しかったが親友だからこそここに留まって欲しいとも思っていたのだ。
「分かった。
この世界での就職先はちゃんと探してやる。
だから、その剣で俺を守ってくれ。」
「よし、分かった。
まあ、ここで日本に帰ればこれ以上宗嗣に会えなくなってしまうけれどもここにいればいつでも日本に帰れることが分かったんだ。
これが俺にとっての最善の選択だった。」
そうして、宗嗣と絢仁が話しているとそれに区切りがついたころにそろそろといったように椁夭が話し始めた。
「そこの海客、永田義衡と言ったか?
改めてこの州城で働かないか?仙として迎える。」
「仙というのは不老長寿だという?」
「そうだ。
お前持つの蓬莱の医療の技術は他の海客から聞く限りなかなかのものだという。
俺はその技術が欲しいのだ。」
「その誘いにはまだ答えかねます。
まだ、この宗嗣と一緒にいる方が面白いと考えているので。」
「そうか・・・
では、いつでも待っている。
気が変わったらこの州城に来てくれ。」
義衡は仙にもなれるはずのその椁夭の誘いを宗嗣といるのが面白いからと断った。
流石の宗嗣も苦笑を浮かべるほかない。
何故、俺の周囲の海客はそこまでして俺に付いてきたがるのだ。
「出来れば州候に僕の問いにお答えいただきたい。」
「何だ?
何でも問うといい。」
「今より20年前に流れ着いた僕と同じ永田の姓を持つ海客を知りませんか?」
宗嗣と絢仁は義衡は何を聞くのだろうかと思っていたところにその言葉を聞いて驚いた。
義衡はこの柯柊の街にやってくる前から会うことが叶うかも分からない州候に会いたいのだと言っていた。
その理由がこれだったのだ。
「僕の3つ年上の兄が20年前に海で行方不明になりました。
海客に興味を持ちこの州都に集めていると聞いたのでもしかしたら何かを知っているではないかと思ったのですが。」
「そうか。
しかし、永田という姓の海客は聞いた覚えがない。」
「そうですか・・・」
「しかし、海客が流れ着くのはこの巧国だけではない。
むしろ北の慶国や雁国の方が流れ着く海客は多いのだ。
そちらを当たったらいいのではないか?」
「そうですか。
ありがとうございます。」
こうして義衡は特に重要な情報も得られずに州候椁夭との会合は終わった。
「さて、今日は公も他の二人もしばらくこの州城に滞在なさるとよろしい。」
そう言う椁夭に甘えて宗嗣たち三人はkの柯柊の州城にしばらく厄介になることとなった。