塙麒放浪記(仮)   作:カラミナト

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黄朱

一条宗嗣は普通の日本人などではなかった。

この十二国の世界から誤って日本の母親のもとへと流れ着いた異界の人間だったのだ。

 

「・・・そうか。

俺は元々ここの人間だったということか。

俺はこの世界に迷い込んだというよりも戻ってきたという方が正しいのか。」

 

不思議とそのことを嫌悪感を抱くことはなかった。

世界を超えるという普通ならざる業によってここへ辿り着いたのだ。恐らく今後俺はは日本へと両親のもとへと変えることは叶わないのかもしれない。

そうであっても俺は不思議と特に悲しいとも何とも思わなかった。

 

まるで俺の本能とでもいうべきものがお前はここの人間なのだと言い聞かせているかのように。

 

「一応聞くけど海客や山客が元の場所へと帰ることは出来るのだろうか?」

 

「いや、俺は海客や山客に会ったことがないからよく知らないが恐らくは無理なのではないだろうか。

可能性があるとしても国の中でも上位の方たちつまり、仙やはたまた王や麒麟を訪ねなければならないだろうな。」

 

仙とは主にその国の中枢を担う者たちが多い。簡単に言うならば日本でいうところの官僚だろう。

仙はその国に仙として登録されたらそれ以降は不老になるのだという。

 

宗嗣がその天上の存在たる仙に会うにはまさに天上高くに聳える凌雲山を登る必要があるが仙のいる凌雲山の頂上は王と麒麟の住まう宮殿のある場所でもあるため只人の宗嗣には不可能なことだろう。

 

「やはり帰りたいのか?」

 

「・・・いや、あまりそうは思わない。

不思議と一生帰ることなくここにいてもいいと思っている自分がいる。」

 

本当に不思議だ。

そう思う。

 

「そうか。ならばしばらくこの里にいるといい。

追い払おうとは思わん。」

 

そうだ。そういえば、

 

「黄朱や剛氏というのは何なんだ?

そういえば聞いてなかった。」

 

「そうか、そうだったな。」

 

宗嗣は自身の出生について驚きの事実とやらを目の当たりにして少し落ち着いてから黄朱の民であり剛氏である鄭楽のことについて知ろうと思った。

 

「そうだな。

黄朱の民というのはいうなれば定住せず、芸や商売をしたりしながら諸国をまわる浮民のことだ。他にも黄民や朱民、朱旌などと言ったりする。

剛氏というのはその黄朱の民の中でも昇山の際に昇山する人たちを護衛するのが生業の人たちのことを言う。」

 

つまりは鄭楽は用心棒というわけか。

 

「そうだ。

でもまあ、俺たち剛氏が護衛をする黄海はこの世界の中でも国には普通は現れない妖魔や妖獣を相手にするわけだから十二国の狼などといった獣を相手にするような用心棒と違って特に腕は立つんだけどな。」

 

鄭楽は宗嗣に向かって自慢するようにして答えた。

 

「昇山か・・・」

 

昇山というのは自らが王たらんと望む者が黄海にある蓬山に登って麒麟に会い、天意を諮ることである。

王は例外を除いて基本的には危険な道程を超えてきた人達の中から自らの王たらんと麒麟に選ばれることによって誕生するのである。

 

人ではなくまさに天意によって決まる王。そして、それを決める王と同じくこの世に十二しか存在しない麒麟の存在。

 

この世界の中心である黄海。そして、その黄海の中心である蓬山。さらには、その蓬山への道案内兼護衛である鄭楽。

 

この十二国の世界に一人飛ばされてしまった宗嗣はどうせこの世界を生きていくには何か目標が欲しい。

その目標が今出来た。

 

「なあ、鄭楽。

俺は世界の中心である蓬山に行きたい。」

 

鄭楽は宗嗣の話を黙って聞く。

 

「何故行きたいのか理由は分からない。

そして、黄海を進むということがどれだけ危険なことなのかは分かっている。」

 

この世界に流れ着いて初めて目を覚ましたあの海辺。

そして、あの場で起こった妖獣である赤虎に襲われ気を失った件。

 

それを忘れたわけではない。

 

「でも、如何して行きたい。

俺の本能とでもいうようなものがいきたいと言っている気がする。」

 

そう。

まるで赤虎の接近を直感したあの時のように。

 

「だから、鄭楽。

俺を剛氏として蓬山へと連れて行ってくれ。」

 

「そうか。剛氏は護衛だ。戦うことが出来なければならないが・・・」

 

戦い。つまりは争い。

 

俺は争いは嫌いだ。それ以上に血が嫌いだ。

それに、実践だなんて一切経験がない。

赤虎によって血を流したあの時、この世界にやってきてからどうにも血への耐性が極端に低下してしまったような気がする。

しかし、俺は心身ともに強くなりたくて今まで剣道をやってきたのだ。

 

今がその時だろう。

 

「剣術の基礎は多少なりともできている。

護衛とは言わずとも自衛くらいは出来るはずだ。

でも、出来れば稽古についてほしい。」

 

剛氏は護衛が出来るだけの技量がなければお荷物になってしまうだろう。

でも、俺はとにかく蓬山とやらに行ってみたい。

その後のことはその後に考える。

だから、どうか。

 

「どうか俺を剛氏として蓬山まで連れて行ったくれないか?鄭楽。」

 

「・・・分かった。

ならばお前を剛氏としてこの里に迎え入れよう。

ただし、しばらくは俺が稽古をつけてやるから剛氏として蓬山に昇るのはしばらくしてからになるだろうな。」

 

「!あ、ああ。構わない。ありがとう。」

 

こうして、一条宗嗣は”見習い”剛氏としてこの黄朱の里に迎え入れられた。

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