塙麒放浪記(仮)   作:カラミナト

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登極

「この方が、塙王?」

 

「ああ、今から蓬山に行ってくる。」

 

宗嗣は早朝にこの宿の井戸の近くで玄瑞の友人だという衒笙の目の前で詳しくは天意によってだが、宗嗣は玄瑞を自らの王として選んだのだ。

 

それを見ていた衒笙を除いてこのことについて絢仁と義衡、そして玄瑞の母親に伝えた。

まだ朝早いうちにそれら全員を叩き起こして現在の状況を伝えた。

 

「それじゃあ、俺はどうするんだ?

俺も一緒に蓬山に行けるのか?」

 

「無理だな。

いくら俺の友人だからと言っても蓬山に行くことは無理だろう。

しかも俺と玄瑞が行くのは蓬蘆宮だ。

只人は入ることは出来ない。」

 

宗嗣はもっともな疑問をぶつけてきた絢仁に対して答える。

 

「しかし、麒麟がこの宿に来てくださるとは・・・

それに、玄瑞が次の塙王なんて・・・」

 

「心配するな、母上。

麒麟が俺を選んでくれたのだ。

ありがたく玉座に座らせてもらおうではないか。」

 

やはり、玄瑞の母親は自身の息子が王に選ばれたことに関して動揺しているようだ。

衒笙においては彼の父親であるこの瑚斗の郷長に事の次第を話しに行っている。

宗嗣は衒笙にはこのまま蓬山へと向かうつもりであることは伝えてある。

 

「僕はこのまま予定通り雁国に向かうつもりだ。

宗嗣、これはおめでとうとでもいうべきかな?」

 

「まあ、それに関しては玄瑞に言ってやってくれ。」

 

突然の王の選定故か絢仁と玄瑞の母親の混乱が酷い。

玄瑞は自分の母親を落ち着かせるので精一杯だ。

 

「絢仁。

お前は、そうだな・・・

後のことは登極してからということで取り敢えず傲霜の翠篁宮へ行っていてくれ。

俺の旌券を渡しておく。

これを見せれば王宮の中は無理としても鷹恂が丁重に扱ってくれるだろう。」

 

そう言って宗嗣は自分の仮王の裏書きのある旌券を絢仁に渡した。

 

「それと、烈魁。

お前は絢仁について翠篁宮に向かってくれ。

絢仁を頼んだ。」

 

『了解した。』

 

宗嗣は剣を持つ絢仁に烈魁の護衛を付けた。

一応、妖魔が出た時のためだ。

きっと役に立ってくれることだろう。

 

「じゃあ、義衡はここでお別れってことになるのかな。」

 

「そうだな。

君も国の中枢で働くことになるんだ。

頑張って。」

 

「そちらこそ兄が見つかることを祈る。」

 

ここで別れることになる義衡とは簡単な挨拶を済ませてしまう。

恐らくはもう会うことはないだろう。

宗嗣は巧国の翠篁宮に留まらないとならないし義衡は雁国に兄を探しに行って、次は慶国に行くつもりなのだそうだ。

 

「玄瑞。

そろそろ行こうか。」

 

宗嗣はとりあえず母親と話を済ませた玄瑞に問う。

王は妻と子はまだしも家族を王宮に迎えることはないのだ。

宗嗣の影から爍繃と晧霍が出てくる。

少し玄瑞の母親が驚いたようだった。

 

「ほう。

彼らが台輔の使令か。

随分と頼もしい。」

 

対して玄瑞は現れた爍繃と晧霍を興味深そうに見ている。

 

「そうだろう。

自慢の使令だからな。

それと、台輔などと言わず宗嗣と言ってくれ。

俺の名前だ。」

 

「そうか。

ではこれよりは宗嗣と呼ぶことにしよう。」

 

宗嗣と玄瑞が話している中、玄瑞の母親が話の途中に割って入ってきた。

 

「あの、塙台輔。

息子をよろしくお願いします。」

 

「分かりました。

俺が玄瑞を選んだんだ。

しっかりと玄瑞を支えていきます。」

 

そう言うと、宗嗣は爍繃に玄瑞は晧霍に乗った。

 

そのまま二人は爍繃と晧霍に乗って絢仁たちに見送られながら玄瑞の宿屋から飛び立った。

そして、早朝の人の少ない郷城の上を越えながら二つの影は太陽に背を向けて西の蓬山へと向かっていった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「塙麒!

よくぞお戻りになられました!」

 

蓬蘆宮に辿り着いて最初に聞こえたのは樟崋の嬉しそうな声だった。

その樟崋の声につられて周囲に数人の女仙たちが集まった。

 

辺り一帯に塙麒が戻ってきてくれたことに対して女仙たちの明るい声が聞こえてくる。

 

「塙麒、もしやそのお方は?」

 

周囲の女仙たちの好奇心と期待に満ちた視線が一心に隣にいる玄瑞に向けられている。

 

「次の塙王、玄瑞だ。」

 

「お慶び申し上げます。玄瑞様。」

 

周囲の女仙たちがその場に平伏した。

 

「突然いなくなって驚いたものだが・・・

なるほど、王をお探しになられておられたか。」

 

そこに聞いたことのある声が響いた。

 

「玉葉様。」

 

「なるほど、あなたが碧霞玄君か・・・」

 

そこにはいつの間にそこにいたのかこの蓬山の女仙の長である碧霞玄君・玉葉がいた。

 

「塙麒がこの蓬山におられた頃は随分と悩まれていた御様子であったが、塙麒は良い旅を来てきたようじゃ。

こうして王をお選びになられたはほんに喜ばしき事よ。」

 

「万歳をお祈り申し上げます。

塙王ならびに塙台輔。」

 

こうして、塙麒は蓬山に塙王を連れて戻ってきた。

 

宗嗣と玄瑞は吉日を選んで慣れない礼服を身に纏って天勅を受けるために雲梯宮へと昇る。

 

翠篁宮は内宮の悟桐宮にて白雉が"即位"の一声を発した。

20年以上待ちに待った塙王が即位した。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

永寿十年、秋、宰輔塙麟失道、よって卒す。

十一年、夏、塙王禁中にて崩じ、諡して錯王という。

 

同じく夏、蓬山に塙果実る。而して、塙果五年経てども孵らず。

十五年、冬、五山に蝕あり。塙果、枝を離れて失せる。

 

三十二年、十月、塙麒還る。黄朱の民として昇山すなり。巧国祀祀に黄旗揚がる。

 

三十三年、十一月、塙麒蓬山より脱する。

三十四年、一月、玄瑞、本姓は陸、名を璋、巧国寧州にて塙麒と盟約。

 

同じく二月、蓬山に天勅を受け、神籍に入りて塙王を号す。

 

塙王玄瑞、元を玄禄と改め、梁王朝を開けり。

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