塙麒放浪記(仮)   作:カラミナト

6 / 50
一章
秋分


宗嗣と同じ胎果つまりは日本生まれの女王がいる黄海の東にある慶東国でいうところの赤楽23年の秋、宗嗣がこの十二国の世界にやって来てから一年と半年ほどの時が流れた。

 

黄海の海辺に倒れ、鄭楽によって救われてから宗嗣は鄭楽が住んでいる黄朱の里で過ごしてきた。

 

この黄朱の里は猟尸師や剛氏など黄海を旅する黄朱の民が、比較的地の利の安全な場所に少しずつ築いた里で、普通この黄朱の里は黄朱の民以外の者の出入りを禁ずるような外との関わりを絶った場所であるため宗嗣も入ることが叶わないと思われたが故国を失った人々が集い定住する場所でもあり、山客としてこの世界へとやってきた宗嗣を拒むということはなかった。

 

この黄朱の里には人口自体は多くはないがいろいろな人々がいる。

鄭楽のような昇山の際の道案内や護衛を担う剛氏。そして、黄海で騎獣となる妖獣を捕らえることを生業とする猟尸師などといった危険と隣り合わせの毎日を送る人たちや、その他にも黄海にある野木を巡って新しい草木の種を採集する猟木師や荒れた土地である黄海で穀物を生産する者などといった比較的安全な仕事をする人々がいる。

 

宗嗣はこの一年と半年の間は鄭楽に頼んで剣道で培ってきた基に自分の身を守る剣術を習ってきた。

 

最初の内は何故だか日本でもしてきたことが思うようにできなかったことに驚いた。

ただ単に基礎を確かめるためなどに木刀の素振りの練習をするなどといった時には何ともなかったが鄭楽を相手にして稽古をするときは身体が震えて打ち合いがまともにできなかった。

 

赤虎と対峙し血を浴びた時に身体が麻痺したように動かくなってしまったこともあるし、まるでこの世界にやってきてから争い事や血に対する忌避間が酷くなったように思われた。

 

しかし、それでも剛氏として黄海を征き蓬山へと向かうためにも自分自身の身を守るためにも鄭楽との打ち合いの稽古を続けた。

そのおかげか一年半たった今では打ち合い稽古なら日本にいた時と同じように何ともなくなって更には鄭楽による実践的な指導のおかげで宗嗣は剣術が随分と上達した。

 

未だに剛氏として蓬山へ向かうことも出来ず、また以前よりも血に対して見るだけでも目眩がおこるなどといったように体が弱くなってしまったようなので食い扶持を得るための狩猟にも行く回数は非常に少ない。

 

血に対するものも以前のように狩猟による経験で少しはよくなって欲しいのだが・・・

 

今は、日本から持ってきた私物の中で服以外の唯一のものである木刀をもって毎朝素振りの稽古をするのが日課となっている。

 

さて、問題は食に関してのことだ。

 

宗嗣は肉が嫌いだ。

しかし、穀物も野菜も育ちにくいこの黄海という荒れた土地において黄朱の里での主食は一応百稼というさまざまな穀物を煎ったものをごく細かく挽き、水を加えて煮ると六倍ほどにも増える非常に優れたものを食べているがやはりそれだけでは足りずに青海などでとれた魚や黄海などで狩猟などによって得られた肉を食べることが多いのだ。

 

宗嗣は偶に肉や魚なども食べるのだがやはり好きにはなれずに更には、今まで日本ではそんなことはなかったというのにそれらを食べた次の日には一日寝込んでしまうといった程である。

 

そのため、基本的には毎日自らの食事を得るためにも知り合いの鄭楽の友人だという同じ剛氏の人に付き添ってもらいながら果物などと言ったものをみんなが狩猟に行っているときに採集しに行っている。

 

偶に行う狩猟はこの採集の合間に剛氏の知り合いとを手伝って行っているのである。

 

宗嗣は黄朱の里のみんなのための狩猟と採集を行いながら自分が食べる分の野菜や果物といったものを採集を行うという毎日を送っている。

 

この世界に来たことによって宗嗣にもたらしたものは身体が弱くなるなどと言った悪影響ばかりではない。

 

最初にこの世界の黄海の海辺に漂着して赤虎に出会う前に感じたあの第六感とも直感ともいえるようなものの感覚が鋭くなったように思われるのだ。

確かに命の危険に脅かされるようなこの危険な世界にやってきたのだからそんな感覚も鋭敏になってもおかしくはないだろうが宗嗣のそれは地震を人よりも早く察知する犬・猫などのような獣染みた超直感なのだ。

 

宗嗣が黄朱の里にやってきてからいくらか経ってから狩猟に参加するようになって初めて参加した時に宗嗣はこっちは何か危険な感じがするからあっちに行こうなどと言ったのだ。

宗嗣の場合は赤虎の接近を察知したらしい自分の直感を多少なりとも信じていたが他の連中は違った。

 

この狩猟には宗嗣とそして鄭楽を含めて五人の腕の立つ剛氏が参加していた。

宗嗣の言葉を何を馬鹿なと世迷い事だと思った鄭楽以外の三人はそのまま宗嗣が危険だと指摘した方向へと向かっていったが絶対に行きたくないと言い張る宗嗣と流石にこの黄海を一人でいるのは危険だからと鄭楽だけがその場所に残ることになった。

 

そして、数分後に三人の悲鳴が聞こえてそしてすぐに三人のうちの一人だけが戻ってきた。

そしてこう言った。

 

「向こうには窮奇がいた。他の二人はもうだめだ。」

 

と。

 

この一件によって宗嗣は自分のこの直感は間違っていないのだとそう確信し、そして狩猟には加わらなくてもいいからと危険を察知する役を担うものとして狩猟に行くようになった。

 

そして、狩猟の最中などに亡くなる人が目に見えて少なくなったことによって宗嗣は黄朱の里の人たちによく頼られるようになった。

 

そして今日。

 

「宗嗣、次の安闔日である秋分にお前を剛氏として俺に付いて来てもらう。」

 

やっとこの日がやってきた。

 

「お前は護衛とは言えずとも自分の身は自分で守れるしそれに、お前のその直感は非常に頼りになる。

頼むぞ。」

 

赤楽23年の秋分。

宗嗣は令巽門を潜り待ちに待った蓬山へと向かうこととなった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。