塙麒放浪記(仮)   作:カラミナト

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昇山

昇山。

それは蓬山にいる麒麟という世界に十二体しかいない神獣に面会して天意を諮るために年に四度の安闔日に開く四令門を超えて黄海を征くことである。

 

現在、各国にそれぞれ王と麒麟が存在している。

 

この世界の根幹をなすといってもおかしくはない麒麟という存在は一言で言い表すならば“仁獣”である。

麒麟はこの世界の中心である黄海の蓬山のそしてその蓬山の奥の方にある捨身木という特別な木から当国の麒麟の存在がなくなってしまってから麒麟の卵果が生ることによって生まれる存在である。

更には、仁獣である麒麟は生き物つまりは肉や魚といった食物を食することが出来ず、穢れを嫌う麒麟は血の穢れというものを特に嫌うのだという。

つまりはこのせかいには麒麟は最大でもたったの十二体しか存在しないわけであり天意をもって自らの王を選定するという点、そして穢れを嫌う存在という点からもこの世界の人々にとって尊い存在とされてる。

 

確かに王を選定するという麒麟は尊い存在なのだろう。

しかし、宗嗣は麒麟のあり方をよしとはしたくなかった。

王が民に天に見放されれば失道の病によって最初に被害を被りそして死んでいくのは麒麟なのだ。

 

鄭楽は争いを嫌い、血を嫌い、肉や魚を嫌う俺のことを本当はお前は麒麟なんじゃないかなどと馬鹿なことをを言ったことがあったが冗談じゃない。

そんな存在なのだと言われるのはお断りだ。

 

それに麒麟というのは人と獣の両方の姿を持ち、人の姿の時の髪は金色なのだという。

宗嗣の髪の色は確かに金色が混じっていないとは言えないだろうが赤色だ。

 

こういう民のための仁獣麒麟が王と共に各国に存在する。

しかし、王と麒麟の両方がそろっているのは柳北国と巧州国の二か国以外のことである。

 

未だ王のいない柳北国の柳麟は今回で三年目の昇山で、麒麟旗が掲げられたのは10の時なのだという。

 

そして、もう一つの未だ王もそして麒麟すらもいない国は巧州国で噂によると塙の麒麟の卵果、塙果は蝕によって蓬莱か崑崙へと流されてしまったのだという。

前塙王が崩御してからすでに22年という時が流れている。

既に塙の麒麟は蓬莱か崑崙にて息絶えていてもおかしくはないのだが未だに新しい塙果は生らないのだという。

まだ塙の麒麟はどこかで生きているということだ。

 

さて、現在宗嗣は令巽門の内側にある城塞周りにある小さな町にいる。

剛氏である鄭楽と共に剛氏としてやってきた宗嗣は令巽門の向こう巧国は県城の巽から昇山のためにやって来る竜国の人々を待っている。

 

「なあ、鄭楽。

剛氏という黄海の道案内と道中の護衛は商売なんだろう?

ならば俺たちが道案内や護衛をするのは比較的金を持っている人たちということになるのか?」

 

ふと疑問に思ったことを宗嗣鄭楽に尋ねた。

 

「いや、そうとも限らんな。

確かに金を持っている人たちが俺たちを雇うことはあるが大体金持ちは金持ちで自分で護衛を雇っている場合があるからな。それにあまり金に余裕のない奴らもそういうやつらで集まって俺たち剛氏を雇ったりするからな。」

 

まあ、いろいろだな。

と、答える鄭楽はあまり興味がないといった様子だった。

 

「だけど、一回だけ明らかに普通とは違う時があったな。」

 

「それは、何時?」

 

「芳国の麒麟峯麒が崑崙から帰って数年した後に麒麟旗が揚がったがそのすぐ後の安闔日であるあの春分は凄かったな。

現在の峯王である当時の仮王の月渓が荒れ果てた芳国をいち早く救うために国自体が昇山のために金子の補助をしたのだからな。

その時は俺も含めてそこらの黄朱の里の剛氏を月渓が根こそぎかき集めて芳国の民の道案内兼護衛を芳国の武人と一緒に人纏めにして任せたのだからな。」

 

あの時は凄かったと二度も同じことを繰り返す鄭楽が楽しそうに話す顔を見ながらその光景を出来れば俺も見てみたかったなと宗嗣は考えた。

 

「巧国も20年以上麒麟が現れないせいで当時の芳国かそれ以上に荒れているのだという。

もしかしたら塙の麒麟旗が揚がればまた同じようなものが見れるかもしれないな。」

 

当時の芳国は月渓が仮王だったために為すことが出来たのだろう。巧国の仮王もその月渓と同じかそれ以上の人をまとめるカリスマのようなものがあれば分からないだろうが。

さて、どうだろうか。

 

「おっと。宗嗣、お客が来たようだぞ。」

 

鄭楽が話しかけてくるのを聞いて正面、令巽門のある方向を見るとそこにはこちらへと向かってくる人々が見えてくる。

 

鄭楽がいうには普通は麒麟旗が揚げられてからすぐの一年間ほどはその国の人々が多く昇山にやってくるのだが三年目ともなると昇山にやってくる人数は幾分か少なくなっていくのだという。

 

宗嗣がみるに正面から向かってくる人々の人数を簡単に数えてみると二百人ほどしかいないようだった。

 

「まあ、最初の頃は五百人から七百人くらいはやってくるのだが三年目ともなればこのくらいだろうな。

そもそも昇山するには少なからず金子が必要なんだ。

昇山にやってくるのは荒れてしまった国土において唯一安定して収入を得て特に不自由なく日々を送っている人が多いんだ。」

 

それもそうか。

鄭楽の話を聞いて納得した。

 

柳北国のように王が崩御してしまった国には大体崩御する前くらいからどこからともなく妖魔の類がその国土に跋扈して人々に害を及ぼし、更には土地は荒れてしまうのだ。

 

この世界は王がいるときといないときとで環境の変化が激しすぎるのだがこれがこの世界の普通なのだ。

 

それで、そんな国土において何不自由なくとはいえなくともあまり食に不自由しない人というのはそう多くないのだ。

それが漣極国のように土地柄暖かく農業に適している場所とは違いこの世界の中でも北部に位置して寒さの厳しい柳北国ではなおさらだろう。

 

「さあ、宗嗣。仕事だ。

お前にとって初の剛氏としての仕事だ。」

 

宗嗣は昇山してきた人々のことをいろいろと考えていたが、鄭楽の声を聞いて意識を現実に引き戻す。

 

鄭楽と宗嗣は自分たち剛氏という黄海の道案内や護衛を必要としている人々のもとへと向かう。

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