塙麒放浪記(仮)   作:カラミナト

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妖魔

宗嗣と鄭楽の二人を雇ったのは三十人ほどの集団だった。

どうやら昇山のための旅費が十分でない人達が集まって剛氏を宗嗣と鄭楽の二人を含めて四人を纏めて雇うことにしたのだという。

 

「邵珀です。よろしくお願いします。」

 

「鄭楽だ。よろしく。」

 

邵珀は柳国のとある県城の中にある販売も兼ねた小さな鍛冶屋を営んでいるのだといった。

今回この集団の纏め役となった邵珀とこの剛氏四人の纏め役の鄭楽が挨拶を交わす。

 

「ああ、そうだ。

今回から剛氏見習いとして連れてきている俺の弟子の宗嗣だ。」

 

「一条宗嗣です。よろしくお願いします。」

 

「一条宗嗣?変な名前だな?」

 

「ああ、それは俺が山客だからですよ。」

 

やはり日本の名前というのはこちらの人間にとっては可笑しく感じるのだろうか。

 

それにしても別世界だというのどうして俺の日本語は鄭楽や他の人たちにも通じるのだろうか。

そういえばそういうことは考えたことなどなかったな。

 

「・・・山客?普通海客や山客は言葉が通じないはずでは・・・?」

 

邵珀は周りの人たちに聞こえないくらいの声の大きさでポツリと呟いた。

 

・・・どうやら邵珀も疑問に思ったようだ。

でも、鄭楽は・・・

鄭楽はそんな小さな事を気にするような奴ではないな。

 

「まあ、こいつは見習いだがこいつの危険を察知する直感力は頼りになる。

それにこいつに支払う分は俺らの半分で構わない。」

 

宗嗣が未熟であるということも了解した邵珀はそれを鄭楽に伝えるために頷いた。

 

「よし。準備はできてるな?」

 

鄭楽は三十四人に尋ねる。

 

昇山する三十人分の食料や夜営などに使う天幕などはすでに彼らが持ってきている。

宗嗣たち剛氏の連中は合計四人分の百稼などの腹持ちする主食や宗嗣は食べないが日持ちする塩漬けされた干し肉などの食料や同じく夜営の際に使う天幕などを準備し終えた。

 

そして、宗嗣は中華風の古めかしい長距離の移動に優れた動きやすい鎧を身に纏い、腰には日本刀でも木刀でもなく素振りで使い込んだ中華剣佩刀している。

ちなみに兜は邪魔なので被っていない。

 

剛氏の連中は宗嗣を含めて妖魔や妖獣の毛皮などを身に付けており野性味溢れた感じになっている。

 

昇山者の中には剣を佩刀しているものはいないようだ。

 

「よし。出発だ。」

 

全員の様子を確かめてから鄭楽は声を張り上げ出発の号令を上げた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

薄く広がる朝霧の中、宗嗣たち剛氏を連れた集団はゾロゾロと蓬山への道のりを進んでいく。

 

三十人は二列に並んでおり先頭には宗嗣と鄭楽の二人を後ろにはその他二人の剛氏を配置してある。

 

宗嗣はその危険察知に適した直感力をもつために先頭にて行く道の先に危険がないだろうかと神経を尖らせている。

そして、その集中している宗嗣を守るようにして鄭楽が横に並んでいるのだ。

 

「鄭楽。」

 

「ん?何だ?」

 

鄭楽は宗嗣の声に反応して一度立ち止まる。

宗嗣が何かを察したのだと気付いたのだろう。

 

「問題ないかもしれないけどとりあえず左の方に迂回しよう。」

 

鄭楽は頷き後ろに続く人々に声をかけて宗嗣の言ったように左の方に迂回し始める。

 

今のところなんの問題もなくこの集団は蓬山への道のりを進んでいた。

これは一重に宗嗣のお陰といっても依存はないだろう。

 

妖魔や妖獣に出会うことはあっても争い事の得意でない宗嗣を除いて三人でも十分に対応できる程度の物事だった。

それ以外の危険は一年半に及ぶ黄海での狩猟・採集の日常において磨き抜かれた宗嗣の獣並みの直感によって避けてこられたのだ。

 

ふいに宗嗣の視線が正面から外れた。

 

宗嗣の視線の先に見えたのは草臥れた外套で全身を覆って一人でこちらを見ている男性であった。

 

この黄海を一人で歩くなどというのは危険すぎる。

黄海の中で生きていく黄朱の民であってもその中でも腕の立つ剛氏であっても絶対に一人でいることはなく必ず二、三人で活動するようにしているのだ。

 

「おい、宗嗣。大丈夫か?」

 

何故こんなところに一人でいるのだろうか。

そんなことをボンヤリと考えながら歩いていると隣にいる鄭楽に声をかけられた。

 

いきなり現実に引き戻されて少し驚いた。

 

「ああ、大丈夫だ。」

 

男性のいるところから鄭楽の方を見るがすぐに男性の方を見た。

 

しかし、そこにはすでに男性はいなかった。

 

さっきのは見間違いだったのだろうか。

 

そうやって納得しながら再び正面の方に意識を集中させる。

 

「っ!?て、鄭楽!」

 

そこでようやく気付いた。

 

しまった!ボンヤリとしていて正面に意識を集中させるのを忘れていた!

 

「どうした?」

 

鄭楽は宗嗣が焦っているのを感じたからか顔を引き締める。

宗嗣の焦る姿を見たためか昇山者たちも心配したようすだ。

昇山者たちは一旦止まって妖魔か妖獣が出たのかと周囲を眼を盛んに動かして見渡している。

 

「正面の方に何かいると思う。

ダメだ。絶対にダメだ。すぐに引き返した方がいい!」

 

あの時、赤虎に出会ったときよりも嫌な予感がする。

すぐにも襲ってくるだろう恐怖に怯えて宗嗣はその場にうずくまって身体を震わせる。

 

こんな宗嗣を見たことがない鄭楽は動揺してしまう。

そんなにも気圏なのだろうかと。

 

「は、早く!何でもいいから引き戻るんだ!」

 

宗嗣は声を震わせながらも全員に聞こえるようにして叫ぶ。

 

「わ、分かった。

全員、撤退!急げっ!」

 

ようやく危険度が分かった鄭楽は全員に伝わるように伝える。

鄭楽は恐怖で地面にうずくまってしまった宗嗣を拾い上げるために手を伸ばしたがそれはやって来た。

 

「さ、サン猊だーっ!」

 

最恐の妖魔の名前を誰かが叫んだ。

混乱が宗嗣と鄭楽たち剛氏の率いる集団を襲う。

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