この魔術師に祝福を!   作:妖精絶対許さんマン

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新年、あけましておめでとうございます。


この魔術師に冬将軍を!

「蒼崎秋さん・・・・・・。ようこそ死後の世界へ。私は、あなたに新たな道を案内する女神、エリス。この世界でのあなたの人生は終わったのです」

 

気がつくと僕は椅子に座っていた。回りには何もなく、対面には修道服を着た少女が座っている。

 

(・・・・・・ああ、そうか。僕は――――――)

 

目の前の少女――――――女神エリスと名乗った少女は哀しそうな顔で僕を見ている。

 

(――――――死んだんだ)

 

ようやく自分の状況を認識した。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「・・・・・・金が欲しいっ!」

 

佐藤君――――――カズマは両手で頭を抱えて、血を吐くように呻いた。

 

「そんなの誰だって欲しいに決まってるじゃない。もちろん私だって欲しいわよ。・・・・・・というか、甲斐性が無さ過ぎでしょう?仮にも女神であるこの私を、毎日毎日馬小屋なんかに泊めてくれちゃって、恥ずかしいと思わないんですか?分かったら、もっと私を贅沢させて。もっと私を甘やかして!」

 

アクアの言葉に少しカチンと来た。僕だって好きこのんで馬小屋で寝泊まりなんてしたくない。冬も近づいて来て、ほとんどの宿は冒険者達で満室になっている。本当なら僕らも宿に泊まって冬を越すはずだったのに。

 

「・・・・・・それもこれも、借金のせいなんだけどね」

 

隣に座っているアクアがびくっと震えた。

 

「過ぎたことをうだうだ言うつもりはないけど・・・・・・お金が欲しい」

 

僕一人で借金返済も考えたけど、それをするとまた借金が増える気がするからおちおち一人でクエストも受けられない。クエストを請けたら請けたで報酬から天引きされ、そこから五人で報酬を山分けするから返済が中々進まない。

 

「「・・・・・・金が欲しいっ!」」

 

カズマは頭を抱えて、僕は机に突っ伏して呻いた。世の中、どこまで行っても金ということか。

 

「お、おい、二人とも。朝からどうした?」

 

「・・・・・・この世の不条理さを嘆いてるだけ」

 

いつもの鎧を着たダクネスが僕たちに合流した。ダクネスは実家暮らしらしいから馬小屋の寒さを知らないのだ。

 

「三人とも早いですね。何か、良い仕事はありましたか?」

 

最後にめぐみんが合流した。これでパーティーメンバー全員が揃った。

 

「よう、お前らも準備できたか。仕事はまだ探してないよ。というか、この状況じゃ急いで探さなくても、お前らが来てから依頼を請けても大丈夫だと思ってさ」

 

ギルド内は朝にも関わらず酒を飲んでいる冒険者で溢れている。魔王軍幹部のデュラハン、ベルディアの討伐戦に参加した冒険者達にギルドから報酬が支払われた。懐が暖かい冒険者達はクエストを請けずにいる。

 

「どれどれ。・・・・・・報酬は良いのばかりだが、本気でロクなクエストが残ってないな・・・・・・」

 

「本当だね・・・・・・」

 

白狼の群れの討伐に一撃熊の討伐もしくは撃退等々、どれも報酬は破格だが一度のクエストの難易度が高い。白狼は大型犬より大きく、群れで行動して襲ってくる。一撃熊は前足の力が強く、人の頭程度なら一撃で刈り取ることができる。他に何かクエストが無いかを探していると変わった依頼書を見つけた。

 

『機動要塞デストロイヤー接近中につき、進路予測の為の偵察募集』

 

機動要塞・・・・・・デストロイヤー?要塞って言うぐらいだから大きいんだろうけど、機動ってなに?動くの?

 

「秋、なに見てるんだ?・・・・・・機動要塞デストロイヤー?デストロイヤーってなんだよ」

 

「デストロイヤーはデストロイヤーだ。大きくて、高速機動する要塞だ」

 

「ワシャワシャ動いて全てを蹂躙する、子供達に妙に人気のあるヤツです」

 

うん。わからない。依頼書を張り直して他のを見ていく。

 

「なあ、雪精討伐って何だ?名前からしてそんなに強そうに聞こえないんだけど」

 

「雪精はとても弱いモンスターです。雪深い雪原に多くいると言われ、剣で斬れば簡単に四散させる事ができます。ですが・・・・・・」

 

カズマの横から依頼書を覗く。雪精一匹を討伐する毎に十万エリス・・・・・・他のクエストに比べれば破格の金額だ。ただ、めぐみんの含みのある言い方から何かあるようだ。

 

「雪精の討伐?雪精は、特に人に危害を与えるモンスターって訳じゃないけれども、一匹倒す毎に春が半日早く来るって言われるモンスターよ。その仕事を請けるなら、私も準備してくるわね」

 

アクアは何かを取りに行ったのか、ギルドを出ていった。

 

「雪精か・・・・・・」

 

いつもなら雪精討伐なんていうダクネスが好きそうじゃないクエストなのに、なぜか嬉しそうだ。逆に気味が悪い。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

街から離れた平原地帯は真っ白に染まっている。目の前にふわふわと漂っている白いふわふわした物体――――――雪精をデコピンで倒す。ジャイアント・トードの方がまだ倒しがいがある。だいぶ弱いし、いくら懐が潤っている冒険者達でも請けそうなものなのに、どうして残っていたんだろうか?

 

「・・・・・・お前、その格好どうにかならんのか?」

 

アクアは普段の服装に虫取り網に小瓶を抱えて、夏場に昆虫採集に行く子供みたいな格好だ。

 

「これで雪精を捕まえて、この小瓶の中に入れておくの!で、そのまま飲み物と一緒に箱にでも入れておけば、キンキンのネロイドが飲めるって考えよ!つまり、冷蔵庫を作ろうってわけ!どう?頭良いでしょ!」

 

雪精の寿命を考慮しているならアクアにしては名案なんだけど・・・・・・そこまで考えてないだろうなぁ。

 

「秋もその格好は寒くないのか?」

 

「もともと寒いところに住んでたから寒さにはなれてるんだ」

 

僕の格好は黒いコートにマフラーと見る人によっては薄着だったりする。ただ、コートとマフラーだが魔術やら何やらで耐寒性能は高い。ダクネスはいつもの鎧の上からピンク色の厚手のジャンパーを着ている。めぐみんは厚着しすぎて雪ん子みたいなことになっている。

 

「めぐみん、ダクネス!そっちに逃げたの頼む!くそっ、チョロチョロと!」

 

佐藤君はショートソードを振り回すが、雪精は素早い動きで逃げる。

 

「四匹目の雪精捕ったー!カズマ、シュウ、見て見て!大漁よ!」

 

・・・・・・本当に虫取りしにきた子供みたい。

 

「・・・・・・討伐というよりピクニックとか遊びに来た感じがする」

 

袖から黒鍵を取り出して、刃を形成する。そして、近くに漂っている雪精を斬る。本来なら投擲剣だけど雪精ぐらいなら問題ない。

 

「カズマ、私とダクネスで追いかけ回しても、すばしっこくて当てられません・・・・・・。爆裂魔法で辺り一面ぶっ飛ばしていいですか?」

 

ダクネスと二人がかりで雪精を追い回していためぐみんが爆裂魔法を使って良いかカズマに聞いている。まあ、辺りに何も無いし大丈夫だろう。

 

「おし、頼むよめぐみん。まとめて一掃してくれ」

 

「わかりました。――――――エクスプロージョンッッッ!!!!!」

 

めぐみんの必殺の一撃が雪精の群れを吹き飛ばした。爆裂魔法が撃たれた場所は積もっていた雪が吹き飛び茶色の地面にクレーターが出来上がっていた。

 

「八匹!八匹やりましたよ!レベルも一つ上がりました!」

 

魔力を使い果たしためぐみんが倒れ伏しながら冒険者カードを見せてきた。五人で倒した数もそれなりになるし、報酬には期待できそうだ。ただ、他のクエストに比べれば圧倒的に旨味が多いのに、どうして誰も受けないんだろうか。

 

「・・・・・・ん、出たな!」

 

ダクネスが腰から下げている大剣を抜いて構える。何の気配も、音もなくそのモンスターは現れた。

 

「・・・・・・・・・・」

 

さっきまで勝ち誇ってためぐみんは死んだふりをしている。今はそれが正しい行動だと思う。

 

「・・・・・・カズマ、シュウ。なぜ冬になると冒険者達がクエストを受けなくなるのか。その理由を教えてあげるわ」

 

アクアが一歩下がる。僕らの前には鎧武者が立っていた。

 

「二人は日本に住んでたんだし、昔から、この時季になると天気予報やニュースで名前ぐらいは聞いたでしょう?」

 

全身白一色の重厚な鎧に腰に帯刀している刀。日本人がよくイメージする武者姿。違いがあるとすれば、全身の至るところから冷気を漂わせている。

 

「雪精の主にして、冬の風物詩とも言われる・・・・・・」

 

鎧武者は腰の刀を抜く。刀の刀身も白く、冷気を漂わせている。

 

「そう。冬将軍の到来よ!」

 

「バカっ!このクソッタレな世界の連中は、人も食い物もモンスターも、みんな揃って大バカだ!!」

 

――――――比喩表現でも何でもなく、本物の冬将軍が僕らの前に現れた。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

冬将軍は八相の構えを取った。冬将軍からは強烈な殺気、それも『直死の魔眼』を発動している式さんに近い物を感じる。正直、このパーティーで討伐するのは無理だ。

 

「くっ!?」

 

冬将軍は近くにいたダクネスに斬りかかった。ダクネスは大剣で受け止めようとする。澄んだ音を立てて、ダクネスの大剣は折れた。

 

「ああっ!?わ、私の剣がっ・・・・・・!?」

 

ダクネスは折られた大剣を見て慌てている。あの慌てようからすると、余程の業物なんだろう。・・・・・・帰ったら見せてもらおう。

 

「冬将軍。国から高額賞金をかけられている特別指定モンスターの一体よ。冬将軍は冬の精霊・・・・・・。精霊は、元々は決まった実体は持たないわ。出会った人達の無意識に思い描く思念を受け、その姿へと実体化するの。火の精霊は、全てを飲み込み焼き尽くす炎の貪欲さから、凶暴そうな火トカゲに。水の精霊といえば、清らかで格好良く知的で美しい水の女神を連想して、美しい乙女の姿に」

 

「ねえ、水の精霊の所はツッコミ待ちなの?」

 

水の女神はやたらと水の精霊の所を強調して言っている。やっぱり水の女神だから水の精霊が気に入ってるのかな?

 

「でも、冬の精霊の場合はちょっと特殊でね?危険なモンスターが蔓延る冬は、街の人間どころか、冒険者達ですら出歩かないから、冬の精霊に出会う事自体が稀だったのよ。・・・・・・そう、日本から来たチート持ち連中以外はね」

 

「・・・・・・つまりこいつは、日本からこの世界に来たどっかのアホが、冬といえば冬将軍みたいなノリで連想したから生まれたのか?なんて迷惑な話なんだよ、どうすんだこれ。冬の精霊なんてどう戦えばいいんだよ!?」

 

「・・・・・・頭痛くなってきた」

 

本を正せば日本からの転生者をこの世界にホイホイと送り込んだのはアクアだ。そしてその転生者は冬=冬将軍という安直なイメージを受けて、冬将軍が物理的に冬将軍になったのか。

 

「カズマ、シュウ、聞きなさい!冬将軍は寛大よ!きちんと礼を尽くして謝れば、見逃してくれるわ!」

 

アクアは捕まえていた雪精を解放して、素早くひれ伏した。

 

「DOGEZAよ!DOGEZA。土下座をするの!ほら、皆も武器を捨てて早くして!謝って!カズマとシュウも早く、謝って!!」

 

(女神のプライドとか無いんだ・・・・・・)

 

アクアは雪に頭をつけて、綺麗な土下座をしてみせた。めぐみんは死んだふりをしている。冬将軍は死んだふりをしているめぐみんと土下座しているアクアに目もくれていない。僕もその場にひれ伏した。

 

「おい何やってんだ、早くお前も頭を下げろ!」

 

「くっ・・・・・・!私にだって、聖騎士としてのプライドがある!誰も見ていないとはいえ、騎士たる私が、怖いからとモンスターに頭を下げる訳には・・・・・・!」

 

変なところで聖騎士のプライドを持ち出さないで欲しい。カズマがダクネスの頭を掴んで無理やり下げさせた。

 

「や、やめろお!くっ、下げたくもない頭を下げさせられ、地に顔をつけられるとかどんなご褒美だ!ハァハァ・・・・・・。ああ、雪が冷たい・・・・・・!」

 

彼女はどうしてこの状況で興奮できるのか、甚だしく疑問だ。

 

「カズマ、武器武器!早く手に持ってる剣を捨てて!!」

 

「えっ?うぉっ!?」

 

アクアの言葉にカズマが慌てて武器を捨てた。そのとき、慌てていたからか頭が地面から離れた。冬将軍の右手が刀の柄に触れ、カズマの首を落とそうとする。

 

「アンサズ!」

 

火のルーンを刻んだ黒鍵を冬将軍に向かって投げる。黒鍵の刀身が炎を纏って飛んでいくが、冬将軍は刀を抜いて弾いた。一瞬、風が吹き雪が舞う。冬将軍は舞った雪に溶けるように姿を消した。

 

「消えた・・・・・?」

 

冬将軍が消えたのは気になるが、とにかくこの場所から全員で逃げる方が先だ。逃げるために立ち上がった瞬間、背中にうすら寒いものが走った。

 

「シュウ!後ろ!!」

 

アクアの言葉に後ろを振り向くより先に、胸元から何度も聞いてきた肉を裂く音が聞こえた。

 

「・・・・・・・・・・かふっ!」

 

血を吐き出した。末端から体が冷たくなっていく。アクアやカズマ達の声が遠くに聞こえる。胸から突き出ている刀を引き抜かれると意識を失った。




・名前呼び

年齢が近い同姓の友人がいない秋君の初めての友人。そのため名前呼びになった。
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