――――――何があったのか思い出した。
「あの・・・・・・シュウさん?大丈夫ですか?」
「えっ・・・・・・ああうん、大丈夫です」
死んだって事は僕の死体はどうなったんだろう。この世界の埋葬方式が火葬なのか土葬なのかはわからないけどカズマ達が上手いことやってくれてるだろう。
「それで、僕はこれからどうなるんですか?」
「・・・・・・シュウさんは天国にも転生することはできません」
・・・・・・なんだって?そうなると地獄行き確定ってこと?いや、まあ天国にも転生も出来るとは思ってなかったけど。
「あっ!か、勘違いしないでください!まず、シュウさんは正規の手続きを踏まずにこの世界に来られました」
女神エリスは姿勢を正して話始めた。
「本来ならこの世界には日本で一度、生を終えたご本人の意思を聞いてこの世界に転生するか天国に行くか、日本に転生して再度人生をやり直すかを決めていただきます」
女神エリスの話はカズマから聞いた話と殆ど同じだ。
「ですが、シュウさんは日本で生が終わってからではなくこの世界に来られました。言わば不法入国と同じです」
「ふ、不法入国・・・・・・」
まさか巻き込まれただけなのに不法入国者扱いとか。いや、女神エリスから見たらそうなるのかな?
「ですので、シュウさんは天国でも地獄にも行きませんし転生もしません。シュウさんはこのままもといた時間に帰っていただきます」
「もといた時間に・・・・・・?」
もといた時間ってことはコンビニの帰り道ってことか。
もといた時間に帰るにしても、気になることがある。
「・・・・・・もといた時間に帰ったとして、この世界での記憶はどうなりますか?」
「・・・・・・残念ながら、この世界での記憶は消させてもらいます。それと同時にこの世界の魔法も使えなくなります」
女神エリスは僕の質問に辛そうにしながら答えた。魔法が使えなくなるのは良いけど・・・・・・そっか。
「この世界の記憶を忘れるのは嫌かな・・・・・・?」
それは嫌だな。カズマやアクアと三人で苦労したこと。めぐみんの爆裂魔法で寄ってきたモンスターを討伐したり。ダクネスがモンスターの群れに行きそうになるのをカズマと一緒に止めたり。酔っ払ったアクアを背負って帰って、寝ゲロされかけられたり。カズマが酔っ払った勢いで女性冒険者にスティールするのを止めたり。借金背負わされたり。・・・・・・あれ、ろくでもない記憶しかない。むしろ消してもらった方が僕のためになるんじゃ・・・・・・。
「そろそろ時間です。・・・・・・他に何か質問はありますか?」
「冬将軍はどうなりました?」
「安心してください。冬将軍はシュウさんを斬った後は消えてしまったようです」
そっか・・・・・・なら、安心かな。あとはカズマが頑張ってくれるだろうし。主にアクアの相手とか、借金の返済とか。女神エリスは右手をかざした。すると、座っている椅子の地面に魔方陣が現れた。
「それでは・・・・・・蒼崎秋さん、これからの貴方の人生に多くの幸があることを、祈って――――――」
『さあ帰ってきなさいシュウ!こんな所で何をあっさり殺されてんの!死ぬのにはまだ早いわよ!』
アクアの声が頭上から響いた。それも大音響で。
「なっ!?この声は、アクア先輩!?随分先輩に似たプリーストだなと思っていたら、まさか本物!?」
女神エリスは目を見開き、信じられないといった顔をしている。女神エリスもこんな顔するんだ。
『ちょっとシュウ、聞こえる?あんたの身体に『リザレクション』って魔法をかけたから、もうこっちに帰ってこれるわよ。今、あんたの目の前に女神がいるでしょう?その子にこちらへの門を出してもらいなさい』
『リザレクション』ってデュラハンに斬り殺された冒険者を蘇生させてた魔法か。
「・・・・・・だそうなんだけど?」
「ちょ、ちょちょ、ちょっと待ってください!ダメですダメです、申し訳ありませんが、シュウさんは手違いでこの世界に来られたので蘇生できません!アクア先輩と繋がっているあなたじゃないと、向こうの世界に声が届かないので、そう伝えていただけませんか?」
・・・・・・アクアがそんな理由で納得するかなぁ?とりあえず言うだけ言ってみよう。
「アクアー、聞こえるー?僕って手違いでこの世界に来たから蘇生出来ないって言われたんだけどー!」
『はあー?誰よそんな馬鹿な事言ってる女神は!ちょっとあんた名乗りなさいよ!仮にも日本担当のエリートな私に、こんな辺境担当の女神がどんな口利いてんのよっ!!』
ねえ、女神エリスがすごい顔をしてるんだけど。ていうか、日本担当の女神ってエリート枠なの?ネタ枠じゃなくて。
「エリスって女神なんだけどーっ!」
『はぁーっ!?エリス!?この世界でちょっと国教として崇拝されてるからって、調子こいてお金の単位までになった、上げ底エリス!?ちょっとシュウ、エリスがそれ以上何かガタガタ言うなら、その胸パッド取り上げてやりなさ――――――』
「わ、分かりましたっ!特例で!特例で認めますから!今、門を開けますからっ!」
・・・・・・上げ底って言うのは本当の事なんだ。強く生きろ、女神エリス。女神エリスは顔を真っ赤にしながら指を指を鳴らすと、目の前に白い扉が現れた。
「さあ、これで現世に繋がりました。・・・・・・まったく、こんな事は普通は無いんですよ?本来なら、こんな事はダメなんですよ?・・・・・・まったく」
そういえば、前に女神エリスはアクアの後輩とかって話を聞いたことがある。先輩の言うことには後輩だから逆らえないんだ。
「・・・・・・シュウさん。もし、何か困った事や悩み事がある時は、いつでもエリス教の教会に来て下さい。もしかしたら、ほんの少しだけお手伝いすることが出来るかも知れませんから」
「そうだね。本当に切羽詰まった時には神頼みでもさせてもらうよ」
「・・・・・・もう、いつでも来てくれて良いのに」
女神エリスは少しだけ拗ねたような顔をして頬を掻いた。
「それではシュウさん。――――――この事は、内緒にしてくださいね?」
女神エリスは片目を瞑り、人差し指を口元に持っていき囁いた。
「――――――それじゃあ、また何処かで」
女神エリスの見送りを背にして、白い扉を通り抜けた。
―――――――――――――――――――――
「あ、起きたシュウ?」
目が覚めるとまず視界に映ったのは水色の髪だった。
「・・・・・・アクア?ってことは・・・・・・生き返ったんだ」
「そうよ。シュウったら冬将軍に後ろからぶっすりと刺されたのよ」
胸の部分を触ると服がぱっくりと裂けていた。・・・・・・また新しい服を買いに行かないと。
「ねえ・・・・・・どうして僕はアクアに膝枕されてるの?」
頭が柔らかいものに乗っていると思ったら、アクアの膝に頭を乗せられていたからだ。
「あら、女神の膝枕に不満があるって言うの?冷えたら可哀想だと思ったからしてあげたのよ?女神に膝枕してもらえるなんて滅多に無いんだから感謝して!」
前半はそれなりに良いこと言ってる気がしたのに後半のせいで台無しだ。・・・・・・アクアらしいと言えばらしいけど。
「はぁ・・・・・・それより他の皆は?」
「カズマはダクネスにお説教してるわ。めぐみんは――――――」
「おや、起きましたかシュウ」
「ちょうど目が覚めたところだよ」
めぐみんが顔を覗き込んできた。どうやら動ける程度には魔力が回復したみたいだ。
「よっと・・・・・・」
起き上がって装備の確認をする。魔導書はちゃんと持っている。コートの内側に収納してる黒鍵もパッと見た感じ全部ある。冬将軍に投げた黒鍵が無くなっただけだ。
「お、起きたんだ秋」
「うん、ちょうど今、起きたところだよ」
ダクネスへの説教が終わったのかカズマとダクネスが近づいてきた。
「その・・・・・・ごめん。俺の不注意のせいで秋が死ぬことになって」
「気にしなくていいよ。こうやって生き返ることもできたし。それよりカズマとダクネスは怪我はない?」
「俺は秋が庇ってくれたから怪我はないし、ダクネスも無事だ」
カズマの後ろにいるダクネスは気まずそうにしている。
「すまなかった!私のせいでシュウが死ぬようなことをして」
ダクネスが僕の前に出てくると頭を下げてきた。どうやらダクネスは自分のせいで僕が死んだって思ってるみたいだけど、僕が死んだのは僕の責任だ。誰かのせいにするつもりは無い。
「別にダクネスが謝る必要はないよ。僕が勝手に油断して死んだだけだし」
「いいや!クルセイダーの私が先に仲間の盾にならねばいけないのに、仲間を死なすような真似を・・・・・・っ!」
ダクネスは変なところで頑固って言うか、融通が効かないって言うか・・・・・・。あ、そうだ。
「なら、僕のお願い聞いてくれる?それで無かったことにするからさ」
「どんなことでも言ってくれ!私に出来ることなら何でもするぞ!何でもな!!」
どうして『何でも』を二回言ったんだろう?いや、何となく理由がわかる気がするからあえて触れないけど。
「新しい服、買ってくれないかな?冬将軍に刺されて一着駄目になったからさ」
「そ、そんなことで良いのか?」
「うん」
「ほ、本当の本当に良いのか?」
「良いよ」
「カズマのように鬼畜な命令でもいいぞ?ジャイアント・トードの群れに突撃するとか」
「それはダクネスがカズマにされたいだけだよね?それはカズマ本人に頼んでくれる?」
「なあ、何で二人して俺を鬼畜扱いしてるわけ?怒るぞ?」
「本当のことじゃない」
「否定は出来ないですね」
「んだと駄女神にロリっ娘!」
カズマから抗議の声が上がったが、巷では『鬼畜のカズマ』やら『パンツ脱がし魔のカズマ』とか本人にとっては不本意甚だしいだろうけど殆ど自業自得な気がするからしょうがない。カズマがアクアとめぐみん相手に取っ組み合いの喧嘩を始めた。
「・・・・・・わかった。シュウがそれで良いなら、私も納得することにする」
納得するって言ったわりには不満そうな顔をしてるけどね。立ち上がってズボンについている雪を落として、取っ組み合いの喧嘩をしている三人の方を向く。
「喧嘩してないで帰るよ三人とも。クエストも珍しく失敗も無かったしさ。ダクネスも三人を止めるの手伝ってくれる?」
「うむ、任せろ!」
ダクネスがめぐみんを僕がアクアの首根っこを掴んでカズマから引き剥がす。案の定というか、冒険者で低ステータスのカズマはぼこぼこにされてぐったりとしていた。ぐったりしているカズマを肩に担いで、アクアを引きずりながら街に戻ることにした。
・おまけ
秋が帰った天界に一人、女神エリスは椅子に座って秋が座っていた椅子をジーっと見つめていた。
『・・・・・・もう、いつでも来てくれて良いのに』
「・・・・・・どうしてあんなことを言ったんでしょう?」
女神エリスは小さく呟き、首を傾げた。