この魔術師に祝福を!   作:妖精絶対許さんマン

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お久しぶりです。


この魔術師にベタベタを!

下り坂を登りきると、リーンが頬をひきつらせていた。

 

「き、君・・・・・・すごいね」

 

「そう?いつもこんな感じだよ?ね、カズマ?」

 

「あー、まあ、初めての人には刺激が強すぎる気がするけどな。俺は慣れた」

 

「それ慣れたらダメなやつじゃん!」

 

リーンのツッコミを聞き流す。やけに静かなテイラーとキースの方を見ると――――――。

 

「「調子こいてすいませんでしたあぁぁぁぁぁ!!」」

 

――――――それは見事な土下座を披露していた。この世界にも土下座って文化があるんだ。

 

「・・・・・・いきなり土下座されても困るんだけど」

 

いや、本当に困る。土下座されるような事をした覚えはないし。

 

「い、いや、お前が街に襲撃してきた魔王軍幹部のデュラハンを倒したって聞いて・・・・・・」

 

「後で調子乗ってた先輩冒険者としてシめられる前に謝っておこうと思って・・・・・・」

 

別にシめないし。デュラハンのことは言ってないはずなんだけど・・・・・・。

 

「・・・・・・カズマ?」

 

この中で唯一僕がデュラハンを倒したことを知っているカズマを見る。

 

「いや、シュウがゴブリン相手にあれだけの大立ち回りすれば誰だって気になる」

 

・・・・・・ごもっとも。久しぶりにはしゃぎすぎた。

 

「あー、二人とも頭を上げて。別に駆け出し扱いされたのを不快に思ってないし、調子乗った先輩冒険者だからってシめないからさ」

 

「ほらー、だから言ったじゃん二人とも。いきなり土下座なんてしたらシュウが引くって」

 

引くどころがドン引きだよ。

 

「カズマもあんまり言い触らさないでね。変に絡まれるのも嫌だからさ」

 

「へーい」

 

あっ、これ他でも絶対に言い触らすやつだ。

 

「はぁ・・・・・・とりあえず帰らない?ゴブリン討伐も終わったしさ」

 

無傷とはいえゴブリンの返り血で少し汚れてしまった。ギルドでクエスト終了の報告が終わったら銭湯に行こうかな。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「いやー、カズマとシュウが居てくれて助かったぜ」

 

「ああ、いつもならこんな風にスムーズにいかないからな」

 

「カズマとシュウのコンビネーションも凄かったね!」

 

ゴブリン討伐の帰り道。キースとテイラー、リーンが口々にそういう。カズマともそれなりに長い付き合いになってきたから何となく考えていること、やろうとする事がわかる。それでも・・・・・・そう言われると少し気恥ずかし。

 

「ん?」

 

「カズマ、どうかした?」

 

隣を歩いていたカズマが首を傾げて立ち止まった。

 

「いや、何か敵感知に引っ掛かった。凄いスピードでこっちに向かってきてる」

 

敵感知に反応?ゴブリンは一匹残らず討伐したし、それに例えゴブリンの生き残りがいたとしてもそんなに早く僕らに追い付ける筈がない。

 

「あっ・・・・・・」

 

思い出した。ゴブリン討伐の前に遭遇したモンスター。草原地帯の真ん中にいる僕らに向かって猛スピードで接近してくる影。そいつは――――――

 

「「「「初心者殺し!?」」」」

 

――――――猫科のモンスター、初心者殺しが追い掛けてきていた。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「あいつ何処まで追い掛けてくんだよ!?」

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・っ!!も、もう無理!走るのしんどい!」

 

「それでも走れ!!」

 

「ぜぇ・・・・・・ぜぇ・・・・・・し、死ぬ。あ、足が・・・・・・っ」

 

「カズマ、がんばれー」

 

後ろから追いかけてくる初心者殺しから僕ら五人は必死に逃げている。

 

「仕方ないかぁ」

 

袖口から黒鍵を取り出して刀身を作り、後ろに向かって投げる。初心者殺しは黒鍵を難なく避けて――――――動きを止めた。止めた、というよりは無理矢理止められたと言った方が正しい。投げた黒鍵には『氷』のルーンを刻んでいる。ルーンの効果で氷が鎖状になって初心者殺しを拘束した。黒鍵一本で動きを止められたんだ、安い買い物をしたと思っておこう。

 

「とりあえず・・・・・・全員全力でダッシュ!!とにかく走る!!」

 

「「「「りょ、了解!!」」」」

 

全員がさっきより早く走る。それなりの強度だと思うからそうそう壊れることはないはず。

 

「グルァァァァァァァァァァァッッッ!!!!」

 

怒り狂っているであろう初心者殺しの咆哮を背にして僕らは全力で逃げた。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「た、助かった・・・・・・?俺たち助かったのか!?」

 

「こ、怖かったぁ・・・・・・!死ぬかと思ったよ!?」

 

「さすがに今回は肝を冷やしたぞ・・・・・・」

 

「うぷっ・・・・・・」

 

初心者殺しの姿が見えなくなるまで走り続けた僕らは小休止をとっている。それぞれが座り込んだりして休憩している。カズマに至っては吐きそうになっている。

 

「カズマ、吐くなら向こうに茂みがあるから行ってきなよ」

 

「・・・・・・・・・・っ!」

 

カズマは口を手で塞いで無言で頷いて茂みの方に歩いていった。元引きこもりらしいし、カズマには命懸けの鬼ごっこはしんどいか・・・・・・。でも、冒険者稼業を続けるなら体力は必須だし、カズマの体力作りのメニューでも考えてみようかな。

 

「今回はカズマとシュウが居てくれて助かったぜ」

 

「そうだね!カズマの初級魔法同士の組み合わせとか魔法使いの私でも思い付かなかったよ!」

 

「ゴブリン相手とはいえ一人であの数を捌ききったシュウの動きも凄かったな。さすがは魔王軍幹部を倒しただけはある」

 

僕の評価はともかく、カズマが評価されるのはパーティーメンバーとしては嬉しい限りだ。

 

「・・・・・・ヤバかった。いろんな意味でヤバかった・・・・・・」

 

さっきよりは顔色がマシになったカズマが戻ってきた。

 

「お帰り。スッキリした?」

 

「だいぶとマシになった・・・・・・」

 

そう言いながらもカズマは座り込んだ。後衛職のリーンも近くの岩を背もたれにして座り込んでいる。

 

「よし、もう少し休憩してから街に戻ろう。俺とキース、シュウで交代しながら辺りを警戒。悪いがシュウもそれでいいか?」

 

「構わないよ。なら、最初の見張りは僕がするよ」

 

「おっ!サンキューな!」

 

キースは何の躊躇いもなく地面に寝転がった。

 

「さてと・・・・・・」

 

地面に落ちているちょうどいい大きさの石を数個見繕って、誰にもばれないように『王の財宝』からナイフを出して石にルーン文字を刻んでいく。黒鍵が有限なのに対して石なら街の外に出れば大量に落ちている。黒鍵みたいに殺傷能力は無いけど足止めに使う分には申し分ない。文字を刻み終わった石を『王の財宝』に収納していく。街に帰ったら雑貨屋で布袋でも買おう。腰から吊るせるようにして、石をいつでも使えるようにしたい。

 

「――――――――――」

 

どれくらいの時間が過ぎただろう。石に文字を刻んでは収納、刻んでは収納を繰り返している内に辺りは紅い夕陽に照らされていた。辺りの警戒は怠ってなかったけどかなりの時間が過ぎたみたいだ。

 

「・・・・・・全員、寝てるし」

 

もう少し寝かせてもいいけど、そろそろ出発しないと街に着く頃には夜だ。そろそろ起こさないと。

 

「みんなー、そろそろ帰るよー」

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

全員を叩き起こして街に戻る頃にはやっぱり夜になっていた。まあ、残るはクエスト終了のだけだし問題ないだろう。

 

「いーや、悪いなシュウ。見張りをずっとさせて」

 

「別に気にしなくていいよ。初心者殺しに追われた訳だし皆疲れてたんだよ」

 

四人はそれはもうぐっすりと眠っていた。特にカズマなんて声をかけても起きないは揺さぶっても起きないはで最後は文字道理叩き起こした。

 

「・・・・・・なあ、シュウ」

 

「何かなカズマ」

 

「・・・・・・顔がスゲー痛いんだけど?」

 

「寝てる間にどこかにぶつけたんじゃない?」

 

「へー、そうなのか。俺はてっきりお前に往復ビンタを喰らわされたからだと思ったんだけどなー」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「おい、目をあわせろよ」

 

カズマが半目でじーと見てくる。待ってほしい。確かにやり過ぎた気もしなくは無いがそもそもは何をしても起きないカズマにも問題があると思うんだ。

 

「ほ、ほら二人とも!ギルドについたよ!」

 

リーンがギルドの扉を開く。いつもなら他の冒険者が飲めや歌えやな軽い宴会状態だ。そこにアクアも加わってのお祭り騒ぎになる。なのに今日は――――――

 

「ふわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ふわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

――――――アクアが号泣していた。ギルドにいる冒険者どころか職員の人達までドン引きするぐらい泣いていた。めぐみんは魔力を使いきったのかダストに背負われている。ダクネスは白目をむいて気絶してるのになぜか恍惚とした表情でテーブルに突っ伏している。ダストは燃え尽きて真っ白になっている。

 

「ふわあぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・ぁぁ」

 

あ、アクアと目があった。

 

「しゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

僕の姿を捉えたアクアがアークプリーストのステータスを存分に生かした身体能力で僕にしがみついてきた。うわ、なんかベタベタしてるし頭に歯形がついている。

 

「ふわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!しゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

「どうかしたのアクア。ほら、話聞いてあげるから泣き止んで――――――ちょっ!?頭を擦り付けるな!汚れる!服が汚れるから!!」

 

号泣したアクアが頭を擦り付けてきて服が大変な事になってきている。

 

「カ、カズマ!アクアを引き剥がすの手伝って!」

 

「え、やだ」

 

「!?」

 

カズマはイイ笑顔でギルドに入っていった。往復ビンタしたことを根に持ってるのか!?

 

「しゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

「ちょっ!?だから頭を擦り付けるなぁ!!!!」

 

結局、最後はこうなるのか・・・・・・っ!




オマケ

・宿の裏


「・・・・・・はぁー」

アクアのせいでベタベタになった服を洗っているがなかなかベタベタしたのが取れない。いったいアクア達は何に襲われたんだう。

「シュウー?何してるの?」

「あ、アクア。昨日、君に擦り付けられたベタベタしたのが取れないだよ」

ふむっ・・・・・・いっそのこと捨てて買い直すか?でも、買ってくれダクネスに悪いし。

「ふーん・・・・・・ちょっと貸して」

アクアが僕の服をひったくると桶の石鹸で泡立っている桶に突っ込んだ。アクアはしばらく服をじゃぶじゃぶと洗っている。

「はい。これで取れたんじゃない?」

アクアが手渡してきた服はベタベタしたのが完全に取れて、新品同様になっていた。

「綺麗になってる・・・・・・。え、どうやったの?」

「ふふんっ。私は水の女神アクアその人よ!水に関係することなら何だって出来ちゃうだから!」

水の女神云々はともかく、アクアのおかげで服を買わずにすんだ。

「ありがとう、アクア」

「・・・・・・どーいたしまして」

アクアがぷいっと顔をそらした。・・・・・・何か変なこと言ったかな?







後日、アクアをベタベタにしたのは怒り狂った初心者殺しだと聞いて申し訳なさでアクアとダクネス、めぐみんにしばらく晩御飯を奢り続けた。
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