「明日はダンジョンに行きます」
「嫌です」
「行きます」
カズマが唐突にそういうとめぐみんは拒否すると逃げ出した。注文したコーヒーを飲みながらカズマに捕まっためぐみんを見る。
「嫌です嫌です、だってダンジョンなんて私の存在価値皆無じゃないですか!ダンジョンが崩れるから爆裂魔法なんて使えないし、私はもう本当に只の一般人!」
・・・・・・めぐみんが一般人?アークウィザードなのにいくらステータスが低いけど男のカズマを素手でボコボコにするのに?
「そんな事はお前を仲間にする時に言ったことだろうが!そん時お前、荷物持ちでも何でもするから捨てないでって言ったんだぞ!」
そう言えばそんな事言ってたね。あの時は捨てられまいと必死だったし。
「はぁ・・・・・・。分かりました。でも、何の役にも立てませんよ?本当に荷物持ちぐらいしかできませんし・・・・・・」
「まあ安心しろよ、ついて来るのはダンジョンの入り口までで良い。ダンジョンへの道中、危険なモンスターと遭遇したらお前の魔法で蹴散らしてくれ」
「へっ?入り口まででいいんですか?」
めぐみんが不思議そうな表情を浮かべた。
「でも、何でいきなりダンジョンへ行くなんて言い出したの?ダンジョンにいくなら、パーティー内に盗賊は必須よ?最近ギルドで見かけないんだけど、クリスは?」
確かに最近、クリスをギルドで見かけない。またどこかのダンジョンにでも潜っているのだろうか?
「クリスは、急に忙しくなったって言ってたな。何でも、昔世話になった先輩に理不尽な無理難題を押しつけられたんだと。それで、後始末の為にしばらく留守にするそうだ。だが、ダンジョン探索に必要な、罠発見や罠解除のスキルは、すでにクリスに教えてもらって修得済みだ。クリスに教えてもらったんだが、ダンジョンの中ってのは季節により生息モンスターが変わるって事が無いらしい。そこで、手頃なダンジョンに潜り、あわよくば一攫千金を狙ってみようかと思う」
なるほど・・・・・・。確かにクエストを受けてチマチマと借金返済していくよりダンジョンで一攫千金を狙った方が返済出来る可能性が高い。
「むっ?待って欲しい。私の大剣が冬将軍に折られてしまったからな。今新しいのを発注しているが、完成までにまだ時間がかかる。今の私を戦力に数えているのだとすると・・・・・・」
「お前は最初から戦力外だから大丈夫だよ」
「!?」
ダクネスが涙目になりながら頬を染めるという器用な事をしている。・・・・・・今のでも興奮するんだ。
「なら、僕はカズマと一緒にダンジョンに潜った方が良いのかな?」
「いや、秋にもダンジョンの外に残っておいて欲しい。今回は俺一人でダンジョンに潜るつもりだ。皆には、ダンジョンに行くまでの道中の警護をして欲しいんだよ」
「「「「?」」」」
―――――――――――――――――――
アクセルの街から半日かけて山を歩き、その麓にある獣道をひたすら進んでいく。時たまアクアが弱音や泣き言を言う中、唐突に『避難所』と書かれた看板をぶら下げたログハウスが現れた。
「ここがキールのダンジョンか・・・・・・」
ありふれた話だ。地球で多く書かれている身分差の恋愛物語だ。このダンジョンを造ったアークウィザード、キールは一人の貴族の令嬢に恋をした。だが、それは叶わぬ恋心だ。この世界での身分差には大きな障害だ。その恋心は叶わぬモノだと理解しているキールは恋心を忘れるかのように魔法の研究に没頭した。月日は流れて、キースは国最高のアークウィザードと呼ばれた。キールは持てる魔法を惜しむことなく使い、国に貢献、大いに発展させた。そして、キールはその功績を持って王城に呼ばれた。キールのための宴が開かれるからだ。国王はキールに問うた。
――――――その功績に報いたい。どんなものでも望みを一つ、叶えよう。
キールは言った。
――――――この世にたった一つ。どうしても叶わなかった望みがあります。
その時、キールが何を王に望んだかまでは知られていない。それでも大まかな推理は出来る。キースは恐らく、貴族の令嬢との結婚を望んだんだろう。だが、王はそれを許さなかった。当然だ。国に貢献したアークウィザードでも、貴族の令嬢との結婚など前代未聞だろう。だから、キールは令嬢を拐い、このダンジョンを造って立て籠ったんだろう。令嬢が抵抗したのか、あるいは令嬢も拐われる事を望んでいたのかは今となってはもう知るよしも無い。そんな経緯も忘れ去られ、今は初心者冒険者達の初めてのダンジョン探索の練習場所となっている。
「よし。それじゃあ、ここから先は俺一人で行ってくるから、皆はそこの避難所で待っててくれよ。一日立っても帰って来なかったら、秋には悪いけど迎えに来てくれ。・・・・・・つていっても、今日は偵察と実験を兼ねてお試しで潜るだけだから、すぐ帰ってくるよ」
「分かった。とりあえず夕方になるまでに戻って来なかったら迎えに行くよ」
「おう。頼んだ」
行きが無事に行けたからって帰りも同じように帰ってこれるかは分からない。なら、僕が迎えに行って無事に終わるならそれに越したことはない。
「本当に行くのか?一人でダンジョンに潜るなんて聞いた事が無いぞ。カズマの考えを聞く限り、喧しい音を立てる全身鎧の私がついて行っても、邪魔になるだけだろうが・・・・・・」
喧しいって自覚があったんだ。
「私も、ついて行ってもかえって邪魔になるだけです。・・・・・・やっぱり考え直しませんか?」
「大丈夫よ、私がついてってあげるから」
「はいはい、アクアは僕らと避難所で待ってようねー」
「なんでよー!?」
アクアは自分の体質を忘れてるのだろうか。彼女のオーラやら神気やらに当てられたアンデット達は本能的に救いを求めてアクアに群がる。腐っても女神の端くれってことか。
「ほら、カズマ。アクアは僕が押さえとくから早く行って」
「アクアの事は任せるからなー!」
「あっ!ちょっとシュウ!カズマが行っちゃう!離してっ!離しなさいよぉぉぉぉぉぉ!!お宝がぁぁぁぁぁぁ!?」
「避難所の中に入ったら離してあげるから、今は大人しくして」
カズマがダンジョンの中に入ったのを確認して、僕もアクアの首根っこを掴んで、アクアを引きずりながら避難所に入る。避難所の中は簡易的な机と椅子が並んでいて休憩する分には何ら問題ない広さだ。ブスッと不貞腐れたアクアの首根っこから手を離す。
「ふぅ・・・・・・まったく」
避難所に備え付けられた棚には御菓子や飲み物が入っていた。とりあえずアクアには何か御菓子を渡しておいたら当分は大人しくなるだろう。・・・・・・本当はお酒の方がいいけど、それはそれで面倒な事になるし止めておこう。
「ほら、アクア。御菓子があったよ。これでも食べて落ち着いた・・・・・・ら?」
何種類かの御菓子を片手に振り向くとそこにはアクアの姿が無かった。
「・・・・・・ねぇ、二人とも?」
「は、はいっ!!」
「なななな何でしょうか!?」
どうしてめぐみんもダクネスも涙目になって震えてるんだろうか。
「アクアがどこに行ったか知らない?さっきまでそこに居たと思うんだけど?」
「ダ、ダンジョンに入って行ったぞ?な、なあめぐみん!?」
「そそそそそそ、そうですよ!わ、私もダクネスも止めようとしたのですが止めるより早く出ていって止められなかったのです!?」
どうして二人はそんなに動揺しながら抱き合ってるんだろう。別に怖がらせてないはずなんだけど。
「そう・・・・・・」
・・・・・・一旦、落ち着こう。魔術師とは常に冷静じゃなくてはいけない。凜さんの家の家訓も『余裕を持って優雅たれ』だし。深呼吸、深呼吸・・・・・・。
「・・・・・・よし」
御菓子を簡易机に置いて、出口に向かう。
「これからアクアを連れ戻して来るから二人はここで待っててくれる?大丈夫、すぐに帰ってくるから」
「「りょ、了解!!」
「じゃあ留守番よろしくね」
避難所の扉を閉める。。
「・・・・・・あの駄女神があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
強化の魔術を使って身体能力を上げて、全力でアクアを追いかけた。
オマケ
「シュウは行きましたか?」
「ああ、ものすごい速さでダンジョンの中に入っていった」
ダクネスは少しだけ開けていた扉を閉めながら言う。
「・・・・・・しかし、シュウがあそこまで怒るとは思わなかった」
「私もです。普段のアクアに接している時みたいに苦笑しながら追いかけると思ったのですが・・・・・・」
「・・・・・・このパーティーで怒らせてはいけないのはシュウかも知れないな」
「かも知れませんね・・・・・・」