お待たせしました!
「ダクネス、この
幽霊騒ぎからしばらく経ったある日、屋敷で本を読んでいた僕は休憩がてらキッチンに飲み物を取りに行くと、キッチンに備え付けの台に笊いっぱいのカニが置いてあった。
「私の実家から届いた物だ。引っ越し祝いと日頃私が世話になってる御礼だそうだ」
「へぇ、いい親御さんだね」
「ああっ・・・・・・私の自慢の親だ」
ダクネスは照れ臭そうにしながらどこか嬉しそうだ。
「あっ!シュウも降りてきてたのね!見てよこの真っ赤なカニ!霜降り赤ガニって言ってめったにお目にかかれない超高級カニよ!」
両手にカニを持ったアクアがキッチンに転がり込んできた。
「アクア、食べ物を持ってはしゃがない。それにしても、これだけ量があると五人でも少し残りそうだね」
「そうですね。いっそのこと蟹全部を使って今日は蟹パーティーにしましょう!」
「それが一番無難かな?ところで、めぐみんは料理できる?」
「出来ますよ」
「出来るんだ、ちょっと意外」
アクアは絶対に出来ないだろうし、ダクネスも料理が出来そうなイメージが浮かばない。てっきりめぐみんもそっちのグループだと思っていた。
「僕も簡単な作業なら手伝えるから、めぐみんをメインにして料理作っていこう」
「任せてください!最っ高の蟹料理を作って見せましょう!」
めぐみんは意気揚々とエプロンを着けて、下拵えの準備をしていく。
「そういえばカズマは?」
「カズマなら出掛けていったぞ」
それは困った。カズマが居ないとアクアを見張ってて貰えない。
「ねえねえ、シュウ!私は!?私は何をしたらいいのかしら!」
「アクアは――――――」
どうしよう・・・・・・何を頼んでもろくでもない事になりそうな気がする。アクアに何を任せるかを悩んでいると、ふとダクネスが視界に入った。
「なら、ダクネスと一緒にお皿とかの用意してくれる?カズマが帰ってきたらすぐに食べられるようにさ」
「任せてっ!」
アクアはそういうとキッチンを出ていった。
「ダクネス。アクアのことはお願いね。お皿とか出すだけだから変な事にはならないと思うけど・・・・・・」
「うむ、任せろ」
ダクネスはアクアの後を追ってキッチンから出ていった。ダクネスも自分の性癖が絡まなかったら頼りになるのに。
「さて、そろそろ始めようか。遅くなって騒がれてもたまらないしね」
「そうですね。ところで、シュウはアクアの扱いが手慣れてきていますね」
「そんな事を褒められても嬉しくないよ・・・・・・」
最近、ギルドでもアクアの保護者扱いされ始めてるんだよね・・・・・・。
―――――――――――――――――――
「これって・・・・・・蟹鍋か!?」
「そうよ、カズマ!ダクネスの実家の人が持ってきてくれてたのよ!」
街から帰ってきて、いつものジャージに着替えたカズマがテーブルに並べられている蟹料理に驚いていた。
「シュ、シュウ。もう十分茹でたのでは?」
めぐみんがそわそわしながら言ってきた。確かにもう十分かな。
「それじゃあ開けるよ。――――――それ!」
鍋の蓋を開ける。
「「「「「おおっ――――――っ!!」
真っ赤になった甲羅に食欲をそそる香り。僕も含めた全員が鍋を覗きこむ。
「こ、これが霜降り赤ガニで作った鍋・・・・・・っ!」
「そんなに高級なカニなのか?」
「当たり前です!分かりやすく喩えるならば、このカニを食べる代わりに今日は爆裂魔法を我慢しろと言われれば、大喜びで我慢して、食べた後に爆裂魔法をぶっ放します。それぐらいの高級品なのですよ!」
「おお、そりゃ凄・・・・・・!・・・・・・あれ?お前今最後なんて言った?」
結局、いつも通り爆裂魔法は撃つんだね。鍋からカニの足を一本取って折り、剥き出しになった身をタレにつけて食べる。
「んうっ!?」
スッゴい美味しい!何これ、こんなの食べたら普通のカニなんで食べられなくなる!
「ふふっ、皆が喜んでくれてたみたいで私も嬉しい」
「うん、こんな美味しいカニをくれたダクネスの親御さんには感謝だよ。それにしても・・・・・・高級食材の霜降り赤ガニをこんなにくれるなんて、もしかして、ダクネスの親御さんって商人かなにか?」
「ま、まあ、そんなところだ!そ、それよりシュウ!まだまだいっぱい残ってるんだ!もっと食べろ!」
「自分で取るから止めてくれる?」
誤魔化すように話を切り上げたダクネスは僕の皿にどんどん鍋の食材を入れていく。
「ねえ、シュウ!カニの甲羅いらないなら私にちょうだい!」
「良いけど何に使う気?」
「みんなにこの高級酒とカニの甲羅の取って置きの使い方を教えてあげるわ!」
アクアは僕からカニの甲羅を受け取ると、簡単な作りの七輪に金網を置いて甲羅を乗せた。
「カズマ、ちょっとここにティンダーちょうだい」
「んっ、ティンダー」
カズマが初級魔法のティンダーで炭に火をつける。アクアは甲羅に高級酒を並々と注いで、焦げ目がつく程度に炙って、熱燗にした高級酒を一口すすった。
「ほぅ・・・・・・っ」
実に美味しそうに息を吐いた。それを見ていた全員が喉を鳴らした。残念なことに甲羅はアクアにあげてしまったので、今回はお預けだ。
「!?これはいけるな、確かに美味い!」
「ダクネス、私にもください!いいじゃないですか今日ぐらいは!私だってお酒を飲んでみたいです!」
「ダメだ、子供の内から酒を飲むとパーになると聞くぞ」
その言葉にめぐみんが上機嫌で酒を飲むアクアに目をやり、ダクネスも無言でアクアを見た。もちろん僕も。
「・・・・・・?何かしら」
自覚が無いって幸せだよね・・・・・・。
「あら、シュウたっら全然お酒飲んでないじゃない。ほら、シュウも飲みなさいよ!」
「今日は止めとくよ。今日の片づけの当番は僕だしさ」
この屋敷の掃除や夕飯等の準備は持ち回り制で、今日は僕が食器の片づけの担当の日だ。
「えっー!少しぐらい飲みなさいよ!」
「だから、飲まないって」
やたらと絡んでくるアクアをあしらいながら鍋をつつく。このカニ本当に美味しい。流石、高級食材。
「それじゃあ、ちょっと早いけど俺はもう寝るとするよ。ダクネス、ご馳走さん、お前ら、お休み!」
さっきから何かを悩んでいたカズマは箸を置いて立ち上がった。
「あれ、もう良いのカズマ?まだ、残ってるよ?」
「あ、ああ、昼間にダスト達と飲んで来てお腹一杯なんだよ」
「そうなんだ・・・・・・うん、お休み、カズマ」
「お、おう、お休み」
満腹なら仕方ないか。カズマの分も美味しくいただこう。
―――――――――――――――――――
「これで最後っと・・・・・・」
夕食後、僕は自室で庭先で広い集めた小石にルーン文字を一つ一つ刻んでいたのが終わったところだ。
「肩が痛い・・・・・・っ!」
時間がある日にコツコツと作ってたけど、結構しんどかった。今度からは焼き印みたいなのを作って、押すタイプにしようかな。
「そろそろお風呂も空いたかな」
お風呂に入る順番は特に決めていない。ただ、誰かが入浴している時は『入浴中』のプレートにする決まりだ。
「この曲者ーっ!!出会え出会え!皆、この屋敷に曲者よーっ!!」
着替え一式を用意してお風呂場に移行としたら、部屋の外から屋敷中に響くぐらいのアクアの大声が聞こえた。
「夜ぐらいはゆっくりさせてよ・・・・・・」
机に置いておいた夫婦剣を持って部屋を飛び出た。
「どうかしたの?」
「シュウも来たのね!見て見て!私の結界に引っ掛かって、身動きが取れなくなった曲者がいたのよ!あっ!でも、それ以上は近づいちゃダメよ?男のシュウは操られるから」
「そうですね。シュウはそこに居てください。もし、シュウが操られるような事があったら、誰も止められなくなりますから」
「わかったけど・・・・・・サキュバス?」
廊下の真ん中には紫の魔方陣に閉じ込められた空想上のサキュバスに比べてかなり幼い、カズマ風にいうならロリっ娘サキュバスがペタリと座り込んでいた。
「アクアーっ!!」
「カズマ、見て見てって・・・・・・こっちにも曲者がいた!」
「誰が曲者だ!・・・・・・あれっ。何これ?何でそこにサキュバスの子が?」
腰回りをタオル一枚で隠したカズマが走ってきた。・・・・・・その格好で曲者扱いは仕方ないよ、カズマ。
「実はこの屋敷には強力な結界を張ってあるんだけどね?結界に反応があったから来てみれば、このサキュバスが屋敷に入ろうとしてたみたいで、結界に引っ掛かって動けなくなっていたの!サキュバスは男を襲うから、きっとカズマを狙ってやってきたのね!でも、もう大丈夫よ!今、サクッと悪魔祓いしてあげるから!」
アクアの言葉にサキュバスの女の子がヒッ!と小さな悲鳴を上げた。
「さあ、観念するのね!今とびきり強力な対悪魔用の・・・・・・カズマ、男のあんたはこっちに来ない方がいいわよ?でないとサキュバスに操られて・・・・・・」
カズマは無言でサキュバスの女の子を庇い、アクア達の方に向き直る。
「ちょ、ちょっとちょっと!カズマったらなにやってんの?その子は悪魔なの。カズマの精気を狙って遅いに来た、悪魔なのよ?」
カズマは無言でファイティングポーズを取る。
「・・・・・・ちょっと、一体何のつもり?仮にも女神な私としては、そこの悪魔を見逃す訳には行かないわよ?カズマ、袋叩きにされたくなかったら、そこを退きなさいよ!」
チンピラみたいな事を言うアクアもファイティングポーズを取り、めぐみんも持っていた杖を構えた。
「アクア、今のカズマは、恐らくそのサキュバスに魅了され、操られている!先程から、カズマの様子がおかしかったのだ!夢がどうとか設定がこうとか口走っていたから間違いない!おのれ、サキュバスめ、よくもこの私に、あんな・・・・・・、あんな辱しめを・・・・・・っ!ぶっ殺してやる!」
普段のダクネスからは考えられない物騒な事を言うダクネスも女性陣の輪に加わった。・・・・・・って、そうなるとさっきまでカズマとダクネスは一緒にお風呂に入ってたって事か。裸見られて恥ずかしがるなら、普段の言動でも恥ずかしさを覚えなよ。
「カズマ、一体何をトチ狂ったのですか?可愛くても、それは悪魔、モンスターですよ?しっかりしてください、それは倒すべき敵ですよ?シュウからも何か言ってください」
呆れと冷たい目線をめぐみんがカズマに向けながら、僕にもカズマを止めるように促してきた。
「はぁ・・・・・・カズマ?今すぐ止めるなら痛い目にはあわないと思うよ?」
後ろからでカズマの顔は見えないが、微かに頭を横に振ったのがわかった。
「うん、無理みたい」
「そう・・・・・・どうやら、カズマとはここで本気で決着をつけないといけないようね・・・・・・!いいわ、掛かってらっしゃい!カズマをけちょんけちょんにした後、そこのサキュバスに引導を渡してあげるわ!」
三人がカズマに襲いかかる。三人を見据えたカズマは――――――
「かかってこいやーっ!!」
――――――屋敷中に響く大声で、熱く叫んだ。
・・・・・・と、かっこよく叫んだのはいいが、最弱職のカズマが三人に勝てるわけがなく、アクアが言ったように袋叩きにされている。
「ねえ」
「ピッ!な、何ですか・・・・・・っ!?」
「このまま大人しく帰るなら、見逃してあげるけど、どうする?」
「か、帰ります!帰らさせてもらいます!」
「ん、了解。窓から放り投げるから、上手く飛んでね」
廊下の窓を開けて、サキュバスの女の子を魔方陣から引っ張り出す。
「それじゃあ、行くよ」
「は、はいっ!」
サキュバスの女の子を横抱きにして、窓から放り投げた。サキュバスの女の子は屋敷の外の空中で一回転して、羽根を広げて、お辞儀をして飛び去った。
「・・・・・・眠っ」
お風呂は明日の朝一で入ろっと。窓を閉めて、カズマを袋叩きにしている三人と、袋叩きにされているカズマを放置して自室に戻ることにした。
―――――――――――――――――――
朝風呂を終えた僕は広間で寛ぎながら、窓の外を眺めている。
「・・・・・・さっきからダクネスはカズマの後ろで何してるの?新手のストーカー?」
「違いますよ。昨日のことをカズマに確認しようとして、聞けずにいるみたいですよ」
「へぇー」
ダクネスは屋敷の敷地に作られている小さな墓を掃除しているカズマの後ろでソワソワしている。
「ダクネスの恥ずかしさの基準は一体なんだろうね。カズマに罵られて興奮してると思ったら、昨日みたいにカズマと一緒にお風呂に入って恥ずかしがってさ」
「シュウはダクネスを何だと思ってるんですか!確かに言動に少々・・・・・・多分に・・・・・・かなり問題があるところもありますが、ダクネスだって立派女の子なんですよ!裸を見られたら誰だって恥ずかしがります!」
めぐみんに怒られた。確かに今のは僕の失言だ。
「ところで・・・・・・もし、カズマがめぐみんの裸を見たらどうする?」
「記憶が飛ぶまでぼこぼこにします」
とんでもなく物騒な答えをキメ顔をしながら即答で返してきた。
「・・・・・・めぐみんもだいぶ物騒だよ」
このパーティーの女性陣はお淑やかさとは無縁かも知れない。
『デストロイヤー警報!デストロイヤー警報!機動要塞デストロイヤーが、現在この街へ接近中です!冒険者の皆様は、装備を整えて冒険者ギルドへ!そして、街の住人の皆様は、直ちに避難してくださーい!!』
デストロイヤーって・・・・・・前の偵察依頼のやつのこと?