この魔術師に祝福を!   作:妖精絶対許さんマン

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続・この魔術師とリッチーにデートを!

「わぁ!見てくださいシュウさん!いろんなお店がありますよ!」

 

「本当だね」

 

広場には所狭しと露店が軒を並べて賑わっている。王都で有名らしい菓子店の出張店や武具防具だけでなく日用品の包丁を取り扱っている鍛冶屋、酒類を売り出している店まである。

 

「凄いね・・・・・・。こんなに賑わってるのは初めて見たかも」

 

「この広場は普段は街の人達の憩いの場所なんですが、他の街から商隊が来たりしたらこの広場には露店が出るんです」

 

「そうなんだ。ウィズ、どの店から見ようか」

 

「ゆ、ゆっくり見て回るのはどうでしょうか?こ、恋人同士のフリをしている訳です・・・・・・」

 

確かに今日はウィズをつけ回しているストーカーを炙り出すのが目的だし、早々(はやばや)と終わっては意味が無い。

 

「そうだね。なら、近くの店から見て行こう」

 

「はいっ!」

 

ウィズは見惚れるような笑顔で、手を握り直してきた。

 

 

こ・の・す・ば!

 

 

「こうやって見て回るといろんな露店があるんだね」

 

「そうですね。アクセルの街は大きいですけど、こうやって賑やかなのはそんなに多くありませんから」

 

レストランのテラス席で昼食を食べて、食後のティータイムを楽しんでいる。

 

「そういえば・・・・・・」

 

目の前で紅茶を飲んでいるウィズを見ながら、朝から気になっていたことを聞くことにした。

 

「いつも着ている服以外にも、ウィズってそういう服を持ってたんだね」

 

「この服は私が冒険者をしていた頃に仲間の一人が選んでくれたんです。冒険者をしていた頃は服装や装飾品に興味は無くて、よく仲間達から怒られていたんですよ。なんでも『ウィズはアイテム選びの才能は皆無だけど、見た目は良いんだからもっとおしゃれをしないと勿体無いわよ!』って」

 

ウィズのアイテム選びのセンスの無さはどうやら冒険者をしていた頃からのようだ。むしろ仲間ならウィズのアイテム選びのセンスをどうにかして欲しかった。

 

「私からも質問してもいいでしょうか?」

 

「僕に答えられることなら良いよ」

 

「でしたら・・・・・・シュウさんどうして冒険者になられたんですか?」

 

・・・・・・その質問が飛んでくるか。いや、誰かはわからないけど聞かれると思ってたけど。

 

「あっ!こ、答え難いことなら無理に答えられなくて良いですから!ほんの興味本位みたいなものですし」

 

「いや、別に良いよ。僕が冒険者になった理由か・・・・・・」

 

正直に『僕は異世界から異世界人なんだ』なんて言って信じてくれる訳も無いだろうし、下手したら頭のおかしい子だと思われかねない。嘘の中に本当のことを混ぜて適当にぼかしておくのがベストか。

 

「僕が冒険者になった理由は有り体に言うとその場の成り行きでかな」

 

「成り行き・・・・・・ですか?」

 

「うん。僕やカズマの名前でなんとなくわかるだろうけど、僕達は出身地が同じでさ。カズマとアクアがこの街に来る時にに巻き込まれて、帰り方もわからないから二人と行動をしている内に冒険者になってたんだ。あっ、だからって勘違いしないでね?巻き込まれて戻れないけど、僕はカズマもアクアも恨んだらしてないよ。むしろ、感謝してるぐらいだから」

 

嘘もちょこっとと本当の事も言ってるから良しとしよう。実際、ウィズに言った通り僕はカズマとアクアを恨んだらしていない。思うところも、心配事もあるけど、今のところ日本に今すぐ帰りたいとは思わない。

 

「辛気臭い感じになっちゃたかな?そろそろ移動しようか」

 

「そうですね。あの・・・・・・シュウさん」

 

「うん?どうかした?」

 

「シュウさんはご家族と離れ離れになって寂しくはないんですか?」

 

ウィズの言葉に立ち上がるために上げた腰が止まった。寂しくは・・・・・・無いと思う。今の生活もそれなりに満足している。

 

「・・・・・・どうだろう?ちょっとわからないかな?・・・・・・別れとかには慣れてるし

 

それに今生の別れとは限らない。もしかしたら、また会えるかも知れない。なんとなく、そんな気がする。

 

 

こ・の・す・ば!

 

 

「ねえ、ウィズ。見られてる(・・・・・)?」

 

「はい。どこからかはわかりませんけど、見られてます」

 

相手はよほど隠れるのが上手いみたいだ。僕も視線を感じはするけど、どこからかはわからない。それに、僕に向ける視線は敵意と殺意が混ざり合っている。

 

「もう少しこのままでいよう。誘き寄せるにしても、ここじゃ場所が悪い」

 

「わ、わかりました」

 

ウィズの手を握り直して、道を歩く。どうやら今歩いている場所は宝石類や装飾品などをメインに売ってる場所みたいだ。高級そうな装飾品や宝石類を扱ってる店やお手頃価格で手作りのアクセサリーを売ってる店が並んでいる。

 

「おっ、そこの恋人さんたち!ちょっと見てかないかい?」

 

露店を覗いて回っていると露店の店主から呼び止められた。露店には手作りと思しきアクセサリーが並んでいる。

 

「これは・・・・・・この辺りではあまり見かけないアクセサリーですね」

 

「おっ、目の付け所が良いね別嬪さん!このアクセサリーはベルゼルグ王国のはるか北にある集落に伝わる物なんだ!俺はいろんな場所を旅しながら商ってるんだが、このアクセサリーを見た時にこれは売れる商品だと確信したね!」

これは売れる商品だと確信したね!」

 

「わかります!私もこの街で魔道具店を経営してるんですが、売れると思った物がなかなか売れなくて・・・・・・」

 

「わかる、わかるぜ別嬪さん。どうだい?何なら俺が仲介に入ってこのアクセサリーを店に卸そうか?」

 

「本当ですか!?是非お願いしま––––––」

 

「はいはい。仕事の話をするのは今日は無しって約束したよね?」

 

そんな約束はしてないけど変な物を仕入れて店の経営が悪化したら大変なので話を遮る。

 

「ははっ!確かにそういうのは将来の夫としっかりと話あってからの方がいいな!」

 

「ふぇぁっ!?」

 

ウィズが変な声を出して顔を赤くして両手で顔を隠した。かくいう僕も少し顔が熱くなった気がする。

 

「そんな将来夫婦になるだろうお二人さんにオススメなアクセサリーはこれだ!」

 

店主は小さな木箱を取り出して蓋を開けた。箱の中には透明な氷柱の形をした水晶で作られたイヤリングが入っていた。

 

「これは七色水晶って言って採れる場所が限られてる希少な水晶なんだ。その希少な水晶を加工してイヤリングにした物だ。それになんと、この水晶は身につけている間に魔力を貯めてこの透明な状態から色を変えて赤や青、黄色や緑になるんだ」

 

なるほど。着けている間に魔力を貯めて、着けてる人間の魔力に反応して色を変えるってことか。

 

「そして、魔力が貯まった状態でこのイヤリングを交換すると生涯結ばれ続けるって言う伝説があるんだ」

 

「本当ですか!?」

 

さっきまで顔を赤くしてフリーズしていたウィズが急に動いた。やっぱりウィズも女性だしそういう事にやっぱり興味あるのかな?

 

「お、おう」

 

「買います!買わせていただきます!おいくらですか!?」

 

「ちょっ、ウィズ?買うのは良いけど贈る相手とか何よりお金は・・・・・・」

 

ただでさえウィズの店の経営状況は酷いのにここで所持金を使い果たして塩水生活とか目も当てられない事になりかねない。

 

「一組三百万エリスだ」

 

「・・・・・・ぁぅ」

 

値段を聞いたウィズが一気に気落ちした。それはもう見てるこっちが可哀想になる程だ。まあ、使っているのが希少な水晶なら妥当か少し安いのかも知れない。水晶とか宝石の値段の相場が分からないので何とも言えないが。

 

「ーーーーーーと、本来はこの値段なんだが今回は特別に半額の百五十万エリスで売るぜ。どうだ?買うかい?」

 

「うぅ・・・・・・こ、今回はご縁が無かったという事で・・・・・・」

 

どれだけこのイヤリングが欲しいんだよ、ウィズは。それにさっきから店主が目で「おらっ!男の甲斐性の見せ所だぞ兄ちゃんっ!!」と訴えてきている。

 

(買えない事も無いけど・・・・・・)

 

チラリとウィズの顔を覗き見る。しょんぼりとして、目に見えて落ち込んでいることがわかる。ストーカーを誘き寄せるためとは言え、仮にもデートしてる訳だし、何か思い出とかになる物があっても良いとは思うけど・・・・・・。

 

「・・・・・・本当に百五十万エリスで売ってくれるんだよね?」

 

「えっ、シュウさん!?」

 

「応よ!男に二言は無いぜ!」

 

懐から財布を取り出すフリをして宝物庫から全財産が入っている革袋を取り出して机の上に置いて中身を広げる。中身の金貨や何やらを数えると締めて百五十万エリスと少し入っていた。

 

「百五十万エリスちょうどあるな。よっしゃ!これでこのイヤリングは兄ちゃんのもんだ!」

 

「どうも」

 

「あ、あの、シュウさん・・・・・・どうしてっ!」

 

「ウィズってばこのイヤリングを諦めきれないみたいだしさ。だから・・・・・・はい」

 

店主から受け取ったイヤリングが入っている小箱をウィズに渡す。確かに痛い出費ではあるけどめぐみんが吹き飛ばした風車の借金があるから今更だ。

 

「それにさ、デートなんだしちょっとぐらいは僕にも格好つけさせてよ」

 

「ぁ・・・・・・ありがとう・・・・・ございます

 

「うん、どういたしまして」

 

ウィズはイヤリングが入った小箱を大事そうに両手で胸の前で握りしめめた。

 

 

こ・の・す・ば!

 

 

「へぇー、壁の上にこんな場所があったんだ」

 

「はい。ここは人があんまり来ませんから、落ち込んだりした時によく来るんです」

 

アクセルの街をぐるりと囲む壁の壁上には中身が空の木箱や丸太、工具が置いてあるだけで誰もいない。時刻は夕方で夕日で街が照らされてるのは、ビルのような高層建築物が建っている日本では早々にお目にかかれないだろう。

 

「夕方ならクエストに行っていた冒険者の方達が帰って来るのが見えるんです」

 

城壁から街の反対側を見てみるとボロボロになっているダストをキースとテイラーが肩を貸して歩いているのを後ろでリーンが呆れた顔をしながら歩いている。

 

「シュウさん、今日はありがとうございます。とても楽しかったです!」

 

「そう言ってもらえたら僕も嬉しいよ。こうやって誰かと一緒に・・・・・・遊ぶためだけに街を歩いたことがあまり無いからウィズが退屈してたらどうしようって思ってたんだ」

 

日本にいた頃から平日休日関係なく魔術の訓練。武器、それも刀剣類の扱いに長けている式さんが暇なら真剣を使った実戦訓練に費やして、同年代の子たちがしているような遊びや友人同士で出かけたりすることも無かった。そもそも友人と呼べる人間もいなかったような気がする。

 

「あ、あの!シュウさん!」

 

「な、なに?」

 

「す、すすす、少しだけ目を閉じていてくれませんか!?」

 

「い、いいけど・・・・・・」

 

ウィズの顔がほとんど目と鼻の先に近づいて来て戸惑いながら目を閉じる。至近距離で見るとやっぱり整った顔つきだ。

 

「ちょっとチクってすると思うので我慢してくださいね」

 

そう言われた直後、左耳に軽い痛みが走った。注射器で刺された時のような痛みだ。

 

「もう目を開けても大丈夫ですよ」

 

ウィズに促されて目を開けると、ウィズの右耳にさっきウィズに贈ったイヤリングが着けられていた。もう一つが見当たらないのが気になり、ふとさっき左耳に走った痛みを思い出して左耳を触る。そこにはウィズに贈った筈のイヤリングの片割れが着いていた。

 

「ウィズ・・・・・・どうして?」

 

「と、特別な意味はないですっ!そのイヤリングは今日のお礼と言いますか・・・・・・と、とにかく何も聞かずに受け取ってください!」

 

そもそもこのイヤリングを買ったのは僕だけどとか、使われてる水晶の意味がわかってるのかとかすごく聞きたいけど、顔を真っ赤にして目をキュッと瞑っているウィズを見ながらイヤリングに触る。

 

「・・・・・・ありがとう、ウィズ。大切に使わせてもらうよ」

 

「・・・・・・はいっ!」

 

せっかくウィズがくれた訳だし、クエストの時は外しておこうかな。

 

 

ーーーーーーーーーーーー背中に殺意と敵意が混ざり合った不快な視線を感じた。

 

 

ウィズを庇うようにしながら後ろを振り向くが、誰もいない。潜伏スキルを使っているのか、物陰に隠れているのかはわからないけど確実に僕たちの近くにいる。

 

「ねえ、いい加減出てきたらどう?ここには僕たち以外の人はいないんだ。話ならじっくりと聞くからさ」

 

「シュウさん?どうされたんですか?」

 

「いいから」

 

しばらく待つと物陰から赤髪碧眼の男が出てきた。年齢はおそらく二十代前半、やたら装飾が目立つ軽鎧を身につけて腰には鎧と同じで装飾が目立つ鞘に収まっている剣を佩ている。

 

「それで?出てきたってことは君がウィズの後をつけましてたストーカーさん?」

 

「ウィズさん。貴女を迎えに参りました」

 

無視された。どうやら僕はこの男の眼中に無いらしい。かと言ってこのまま傍観する訳にはいかない。

 

「名乗りもしないわけ?いい大人がみっともないと思わないの?」

 

「・・・・・・チッ。私はギデオット・ガスト・ギルバート。さあ、名乗ったのだから君のような卑賤な者は去りたまえ。我がギデオット家は代々この国の騎士団の騎士団長を輩出している名家、そして私はギデオット家の後継ぎにして次期騎士団長だ。卑賤な身分な君でもこの意味が・・・・・・わかるね?」

 

要するにウィズを置いてこの場から立ち去れってこと?・・・・・・絶対に嫌だね。

 

「だから?どれだけ偉い貴族様だろうが女性の後を付け回してる時点で犯罪者一歩手前なんだよ。君の方こそ家に帰って剣の腕でも磨いたらどうだい?それに、どうもウィズには君の心当たりは無いみたいだよ?」

 

「あっ、はい。心当たりは無い・・・・・・と思います」

 

ウィズは人差し指を顎に当てて考えながらそう言った。

 

「仰る通り、私とウィズさんには面識はございません。私が一方的にウィズさんの武勇伝を聞いて知っているだけです。そして、ウィズさんの活躍を聞いている内に確信したのです。私の伴侶はウィズさん、貴女しかいないとっ!」

 

ウィズの方を見てみるとウィズは首を傾げている。たぶん、自分が当回しに結婚を申し込まれてるのに気づいていない。

 

「ですから、ウィズさん。どうか私と一緒に来てください。そこの卑賤な者が贈った小汚い石ころなど、美しい貴女には似合いません。貴女にはもっと美しく、煌びやかな宝石が似合う筈です。その全てを私が貴女に贈りましょう!なんならウィズさんが経営されている魔導具店を王都に移転しませんか?こんな底辺冒険者しか居ないような街に麗しい貴女が店を構えるなど不釣り合いだ!」

 

底辺冒険者って・・・・・・そもそもこの街は駆け出し冒険者の集まる街だ。王都の冒険者達がどれほどのものか知らないけど、勝手な物言いにカチンと来た。

 

「ねえ、いい加減に––––––」

 

 

「いい加減にしてくださいっ!!」

 

 

割って入ろうとしたらウィズが今までで一番大きな声を出した。

 

「何なんですかさっきからっ!!私は宝石なんかで靡くような安い女だと思われるのは心外です!!それにこの街は駆け出しの冒険者の方々が集まる街です!!決して底辺なんかではありません!!何より私が一番怒ってるのはシュウさんことを卑賤な身分と罵ったことです!!シュウさんに謝ってくださいっ!!」

 

ウィズは色白の肌を真っ赤にするほど怒っていた。こんなウィズは初めて見た。普段は温厚そのものでアクアに詰め寄られて半泣きになってるのに。

 

「謝れ・・・・・・だぁっ?ざっけんじゃねーぞクソアマァ!!この俺にぃ?掃いて捨てるほどいる卑賤な身分のガキに謝れだぁ!?人が下手に出てたら調子に乗りやがってっ!!」

 

ギデオット何某は剣を抜き僕たちを脅すように突き付けてきた。化けの皮が剥がれたのか今までの紳士然とした話し方から一転、そこらのチンピラと大差ない口調に変わった。

 

「いいかっ!?俺は貴族だ!!貴族の俺が白って言えば黒でも白なんだよ!!なのになんだよお前らぁ!!俺が失せろって言えば失せろよ!!宝石なんかで靡くような安い女じゃない!?女なんて生き物は金と権力がある男に尻尾振るもんなんだよ!!」

 

・・・・・・なるほど。貴族至上主義・・・・・・いや、自己中心的なだけか。

 

「知ってんだよ俺はっ!!そこのガキとお前が付き合ってるのは嘘だってことをなぁ!!何よりウィズ!!お前は人間じゃなくてリッチー(・・・・・・・・・・・)だってなぁ!!」

 

「ど、どうしてそのことをっ!?」

 

「姿を消せる魔導具をたまたま手に入れてなぁ。お前らが話してる時もずっっっっと近くにいたんだよっ!!ギャハハハハハハッ!!」

 

ギデオット何某は下卑た笑い声をあげる。聞いていて気持ちがいいものでは無い。

 

「ウィズゥ!!お前がリッチーだってことをバラされたく無かったら俺と一緒に来い!!二度と俺に舐めた口聞かないように思う存分躾けてやるからよぉ!!」

 

本当に不愉快だ。本当はこの駄貴族が心の底からウィズを愛しているのなら、おとなしくこの場から去るつもりだった。だけど、実際はどうだ。蓋を開けたらただの下衆野郎じゃないか。

 

「ウィズ。行かなくていいよ」

 

怒りで赤くしていた顔色が一転、真っ青になったウィズが駄貴族の下に行こうとするのを引き止める。

 

「シュウさん・・・・・・ですが、私がリッチーということが知られて」

 

「大丈夫。僕を信じて」

 

かつて僕の義母にして魔術の師、蒼崎橙子は語った。『魔術師という輩はね、弟子や身内には親身になるんだ』と。僕には弟子はいないし、そもそも弟子を取れるような技量も技術も無い。身内という意味なら、カズマ達は身内と言ってもいいかもしれない。もちろんウィズもだ。

 

「あっ?テメェみたいなガキに用はないんだよ!!とっととうせやがれ!!」

 

「君には用が無くても僕にはあるんだよ」

 

ゆっくりと駄貴族の方に歩いて行く。駄貴族は僕が一歩近づくごとに一歩後ろに退がる。

 

「そ、それ以上近づくんじゃねぇ!!それ以上近づいたらここからウィズがリッチーだってことを叫ぶぞっ!?」

 

「どうぞご勝手に。でも、意味は無いと思うよ」

 

「ああっ!?どういう意味だ!!」

 

「この街はお前が罵った冒険者達だけじゃなくて、住人も変わり者が多くてさ。ウィズがリッチーだって知ってもむしろ喜ぶと思うよ。『死ぬまでずっと美人な店主さんを拝める』って。まあ、仮にお前がここから叫んだとしても何処の馬の骨ともわからないような奴の言葉を信じる人間はいないよ」

 

ちょっと危機感無いじゃ無いかなって思うぐらいこの街の冒険者も住人も変わり者が多い。アクセルの変わり者筆頭はこのパーティーだと思うけど。

 

「今、お前に残された選択肢は二つ。このままおとなしく家に帰って枕を濡らすか、痛い目を見て家に帰るか。好きな方を選んでいいよ」

 

「この・・・・・・クソガキがぁ!!ぶっ殺してやるっ!!」

 

駄貴族は剣を振りかぶりながら走ってくる。大振りで隙だらけ。相手が無手だから油断でもしてるのだろう。

 

「死ねぇ!!」

 

駄貴族が剣を振り下ろす。その動きに合わせるようにして左斜め前に抜けるようにして避ける。そして、振り向きざまに足を払う。そうすることで駄貴族は後ろ向きに体勢を崩した。崩した衝撃で手に持つ剣が宙を舞う。

 

「あぐっ!?」

 

駄貴族が起き上がろうとするのを腹部を踏んで阻止する。落下してきた剣を掴み取り、剣先を駄貴族に突き付ける。

 

「テ、テメェ!!俺にこんな事してタダですむと思ってんのか!?俺に傷一つでもつけてみろ!!親父が黙っちゃいねえぞ!?そうなったらお前もお前の仲間もウィズも終わりなんだよ!!」

 

駄貴族は顔を真っ赤にしながら脅してきた。まだ、自分の方が有利な立場に立てていると思っているみたいだ。僕は無言で手の中で剣を逆手に持ち替える。

 

「お、おい・・・・・・ま、待てよっ!!そ、そうだ!?お前冒険者なんだろ!?どうだ!?俺の下で働かないか!?報酬なら弾むぞ!?」

 

脅しが通用しないとわかったら次は抱き込みにきたか。貴族というよりは小悪党みたいだ。

 

「おかしなことを言うね?これから死ぬ人間がどうやって報酬を出すんだい?」

 

冷笑を浮かべて駄貴族を見下ろす。

 

「ひっ!?」

 

駄貴族は真っ赤にしていた顔を真っ白に変えた。別に本当に刺すつもりは無い。

 

「わ、わかった!!ウィズにはもう近づかない!!だから、もう見逃してくれよぉ!?」

 

「ウィズ『には』?」

 

「こ、この街にももう近づかない!!これで良いだろ!?」

 

「あと、姿を消せる魔道具も渡してもらうよ。約束を破ってまた姿を消してウィズに近づかれても迷惑だし」

 

駄貴族は慌てながら首から下げていたネックレスを外して渡してきた。ネックレスを懐にしまう。

 

「なあ、これで良いだろ!?見逃してくれよ!?」

 

「ああ、それから。ウィズがリッチーだってことは誰にも言わないように。もし、誰かに言ったりしたら・・・・・・わかるよね?」

 

駄貴族から足を退ける。駄貴族は四つん這いになりながら這って逃げていく。ふと駄貴族から奪った剣の存在を思い出して・・・・・・とりあえずそのまま持っておくことにした。

 

「ウィズ。もう、終った–––––––」

 

「シュウさんっ!」

 

––––––––––––いきなりウィズが抱きついてきた。咄嗟にウィズを剣を持っていない左手で受け止める。

 

「シュウさんは無茶しすぎです!武器も持たずにあの人に立ち向かって!怪我したらどうするんですか!?」

 

「えっと・・・・・・ごめん?」

 

怪我をしたとしてもカズマ達が近くに隠れてるだろうからすぐに治してもらえる。デートってことで装備一式も持ってきていなかったから、余計に心配されたのかもしれない。

 

「おーい、秋!」

 

ウィズの後方からカズマが手を振りながら走り寄ってくる。その後ろにアクア達もついてきている。

 

「カズマにみんな。お疲れ様」

 

「おう、お疲れ。って言っても俺たちは遠くで見てただけだけどな」

 

「そうですね。ですが、あの男は一体どこから現れたのでしょうか?」

 

「それは帰ってから話すよ。そろそろ暗くなるし帰ろう」

 

「ねえ、そんなことより聞きたいことがあるんですけど」

 

今まで黙っていったアクアが口を開いたと思ったらウィズを指さした。

 

「いつまでウィズはシュウに抱きついてるつもり!?早く離れなさいよ!」

 

「っ!?」

 

抱きついていたウィズがバッと勢いよく離れたと思ったら、真っ赤になって俯いてしまった。

 

「ふんっ!」

 

アクアはアクアで鼻を鳴らしてそっぽ向いてしまった。アクアは何に怒ってるんだろう?

 

「とりあえず・・・・・・一件落着かな」

 

 

お・ま・け・!

 

 

「これで良しっと」

 

「シュウさん?何をされてるんですか?」

 

「前みたいに姿を消されて入ってきてもわかる札を貼ってるんだ」

 

ウィズとのデート翌日。僕はウィズの店で前みたいに姿を消して入ってきてもわかるように『退去』のルーンを描いた札を店の東西南北に貼った。どこまで効き目があるかはわからないけど、用心して貼ってみることにしてみた。

 

「あっ・・・・・・シュウさん。イヤリング、着けてくれてるんですね」

 

「まあね。せっかく貰ったんだし着けないともったいないし。あ、クエストに行く時は着けてないよ?無くしたりしたら大変だし」

 

右耳に着けているイヤリングを軽く触れる。帰ってからは大変だった。アクアが何故か怒りながら詰め寄ってきてイヤリングを捨てようとするし、カズマとめぐみんは僕らを見てニヤニヤしてたしダクネスに至って遠い目をして虚空を眺めていた。

 

「これでよし、それじゃあウィズ。もしなにかあったら教えて。その都度札を貼り替えるからさ」

 

「ありがとうございます、シュウさん」

 

用事も終わったしカズマ達と合流してクエストにでも行こうかな。めぐみんが吹き飛ばした風車の借金も返さないといけないし。

 

「––––––シュウさん」

 

「どうかした、ウィ––––––」

 

––––––––––––チュ

 

「頑張ってくださいね、シュウさん?」

 

「・・・・・・う、うん

 

一瞬だけ頰に感じた柔らかい感触とやけに距離が近くなっているウィズにドキドキしながら店を出た。・・・・・・こんなにドキドキするのは久しぶりかも。




・ ギデオット・ガスト・ギルバート

ベルゼルグ王国騎士団長の息子。好みの女性を見つけると紳士を装って近づいて、飽きたら捨てるを繰り返していた。どこかでウィズの話を聞きつけて近づいた。後日、この件と他の件を聞いた父親が激怒、当主は弟がなることが決定、ギデオットは下っ端として騎士団に強制入団させられた。ギデオット個人の資産は全て被害者たちへの賠償にあてたれた。



最後ノやつは蛇足だったかなぁ・・・・・・。
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