ドイツ海軍奮闘記!! 作:栃民
1940年、12月11日、ノルウェー沖北海海上、0923時。
「もう、一体誰ですか!!今日の北海は風もなく静かな海だって言ったのは!?」
ドイツ艦隊は嵐のなかにいた。
2時間前。
「『敵艦隊見ユ。位置、ベルゲンからの方位3-1-0、距離210海里。』か・・・。」
この電文を受け取ったシャルンホルストは不安を覚えていた。
敵艦隊の存在を知らせるこの電文には肝心の敵艦隊の進路、速度、そして何より敵の編成に関する情報がなく20分前にこの電文を発信したベルゲンのフランス軍偵察機からは連絡が途絶したままであり、恐らくは撃墜されたと考えるのが自然であるがそれが対空砲火によってなのか、敵戦闘機によるかで状況は大きく異なってくる。敵戦闘機がいるということはすなわち敵艦隊に空母がいる何よりの証拠である。
敵艦隊に空母がいるのならドイツ艦隊としては制空権が確保できない分不利な戦闘を強いられることになる
しかし、敵艦隊に空母がいなかったとしても敵艦隊の戦力は不明のままであり無闇に交戦するのは危険なままであるが、ドイツ艦隊は陽動を任務としている以上、敵艦隊を見逃す訳にはいかなかった。
(せめて敵艦隊の進路だけでもわかればいいのですが・・・)
シャルンホルストが考えを巡らせているとアドミラル・グラーフ・シュペーより通信が入る。
「シャルンホルストさん。哨戒中のU-522より入電です。『敵艦隊捕捉、位置ベルゲンからの方位3-1-0、距離210海里、速力18knot、進路、南南西。敵艦隊は空母1、戦艦2、重巡2
駆逐艦8。』です。」
「以外に多いですね。しかも空母を伴う艦隊ともあれば不利は免れませんね・・・」
「シャルンホルストさん。前方を見てください。」
「?」
シュペーに促され前方を見ると前方の海上にどす黒い雨雲が出ていることに気づく。
(これは・・・もしかすると・・・)
「シュペー!U-522に周辺の気象情報を送らせて!!」
「?Ja」
シュペーが戸惑いながらも哨戒中のU-522に通信を送る。3分後返信が帰ってくる。
「『周辺海域は波浪高し、上空は雲量9 なれども降雨、降雪なし。』です。」
「これならいけますね。」
「?どういうことですか?」
つまりはこういうことだ。敵艦隊は現在南南西に向かって航行しているがその前方にはシュペーが見つけた雨雲があり、敵艦隊もその影響下に入ると予測される為、嵐で敵艦載機による発見と攻撃を防ぎつつ、こちらは嵐を隠れ蓑にし敵艦隊に奇襲を仕掛けるというものだった。
「それは危険ではないですか?」
「それでも空母を無力化するにはこの方法しかありません。もたもたしていると輸送船団が危険です。」
「・・・わかりました。いきましょう!」
シュペーは一旦考えを巡らせるがシャルンホルストの案以外に有効な方法を見いだせずシャルンホルストの案を受け入れた。
「艦隊取り舵!進路3-5-0。第二戦速!!」
現在。
「グナイゼナウ気を抜かないで!この天候よ、少しでも油断すると現在位置を見失って僚艦と衝突するわ!!」
「ですけどシャルンホルスト姉様!この天候のなかを航行するなんて無茶です!!」
抗議の声を上げたのはシャルンホルスト級戦艦2番艦のグナイゼナウだ。普段のおとなしい彼女とはまるで別人のような様子で額に冷や汗を浮かべ青ざめた表情で必死に自身の姉シャルンホルストに訴えかける。
「全くだ!現在位置を把握するのでも精一杯なのに、ましてや艦隊行動なんてもってのほかだ!」
そんなグナイゼナウの抗議に賛同したのはドイッチュラント級重巡洋艦1番艦のドイッチュラントだ。彼女も額に汗を浮かべ半ば呆れたような表情でシャルンホルストに抗議する。
「こちら前衛!!いまだ波浪高し!!天候も回復の見込みなし!!」
悲鳴じみた声で報告を送ってきたのは、艦隊の前衛を担当する軽巡洋艦カールスルーエだ。彼女ら第一駆逐戦隊は戦力を二分し前衛にカールスルーエとZ5型駆逐艦4隻、後衛に軽巡ケーニヒスベルクとZ1型駆逐艦4隻を配置し前方と後方の警戒に当たっている。
「艦隊、進路そのまま!!」
「姉様!!」
「あと少し!あと少し耐えれば敵艦隊を捕捉できる!それまでの辛抱です。!!」
「無茶だ!」
「けどドイッチュラント、ここで我々が敵艦隊を見逃したらほぼ無防備な輸送船団はひとたまりもありません。確実に敵艦隊を叩くために耐えてください!」
「Scheiße!!こんなことなら艦隊司令部でデスクワークしてた方が良かった!!シェーア!!今からでもいいから代わってくれー!!!」
ドイッチュラントが悪態をつき、自身の2番艦アドミラル・シェーアに届かぬむなしい救援要請を叫ぶ。
同時刻 ヴィルヘルムスハーフェン ドイツ海軍大洋艦隊司令部
「はぁ・・・。こんなことなら姉さんに言って代わりに出撃すればよかった・・・」
大洋艦隊司令部の一室ではドイッチュラント級2番艦のアドミラル・シェーアがドイツ最高峰のツークシュピッツェのごとく積み上げられた書類との果てしない消耗戦を戦っていた。
(提督にいい所を見せようとしたのが裏目に出たなぁ・・・。そもそもこんな仕事はシュペーのが得意なんだしおとなしく前線に出ておけばよかったんだ。)
アルプス山脈に積もる雪のごとく一向に減る気配のない書類の山を目の前に意気消沈するシェーアだったが、そのときおもむろに部屋のドアがノックされる。
(?誰だろう。提督はまだOKM(ドイツ海軍総司令部)にいるはずだし・・・)
「どうぞ!」
「失礼するわ。」
「!!貴女は!!」
「ここです!全艦取り舵20!!」
「Ja!取り舵20。」
「取り舵20!!」
シャルンホルストの号令で艦隊は一斉に進路を変える。未だ収まらない波浪が艦達を容赦なく揺さぶる。
「駆逐艦達は大丈夫!?」
「こちら前衛、皆問題ありません。」
「後衛も問題なし・・・」
第一駆逐戦隊の軽巡カールスルーエとケーニヒスベルクから報告がくる。
現在のところ大きな混乱もなく艦隊は一路敵艦隊を目指し航行する。
(U-522の情報ではまもなく吹雪はやむはず・・・)
「前衛!!天候はどうですか?」
「天候は相変わらず・・・いえ!空が明るくなってきました!!吹雪も若干弱まっています!」
カールスルーエの報告の直後シャルンホルストも西の空が明るくなっていき吹雪が弱まっていくのを確認し、安堵する。
(天候はなんとか持ち直しましたか・・・後は敵艦隊ですね)
敵味方の相対位置からみて敵艦隊はもう目と鼻の先ほどに接近しておりいつ接敵してもおかしくない。
しかし、吹雪が弱まってきたとはいえ未だ波は高く目視では水平線が見ず、加えてレーダーも精度が落ちているこの状況下敵艦隊を捕捉するのは容易ではないように思われる。
「全艦警戒を厳に!!敵艦隊はこの周囲にいるはずです!」
シャルンホルストは指示を下し彼女も周囲を警戒する。
しかし、辺りに見えるのは時折激しく飛沫ををあげる大西洋の荒波だけであり、敵艦隊の影も形もない。時間だけが30分、40分と過ぎシャルンホルストは焦りと不安に襲われ始めていた。
(私の計算が間違っていた?それとも敵艦隊が進路を変えた?やはり嵐を迂回すれば良かった??)
焦りが不安を、そしてさらに不安が焦りを生む。
(私の判断は間違っていたのでしょうか提督・・・)
シャルンホルストは意を決し艦隊を移動させることにした。
「艦隊。取かz「敵艦隊発見!!」
しかしシャルンホルストの号令は前衛駆逐艦テオドール・リーデルの報告でかきけされ、シャルンホルストは一瞬気が抜けその直後安堵感に襲われるが、彼女はすぐに気を引き締め直し接近してくる敵艦隊を睨む。
「方位、0-5-0。距離82,000!!」
「全艦砲雷撃戦用意!!第一駆逐戦隊は合流後敵艦隊へ突撃、敵空母へ攻撃を!!第三戦隊は突入する第一駆逐戦隊を援護!!」
「「Ja. Flagschiff!」」
シャルンホルストの号令で第一駆逐戦隊、第三戦隊が動き出す。第一駆逐戦隊は合流するやいなやカールスルーエ、ケーニヒスベルクを先頭に複縦陣で敵艦隊へ突撃を開始する。第三戦隊も第一駆逐戦隊を援護するため単縦陣で敵艦隊へ向かう。
「姉様、私たちは?」
「勿論敵戦艦を叩くわ」
「はい。行きましょう姉様!!」
第一駆逐戦隊と第三戦隊の突撃より少し遅れて、シャルンホルスト達第一戦隊も動き出す。目標は敵艦隊の水上戦力の要、戦艦ル級だ。
「グナイゼナウ最大戦速で敵の頭を抑えるわよ!」
「はい。姉様!!」
今のシャルンホルストに先ほどまでの不安、焦りはもうない。今は眼前の敵艦隊を撃破することだけに集中している。
「敵ル級まで距離36,000。敵は複縦陣で接近してきます姉様。」
「なら側面に回り込めば火力で圧倒できますね。面舵40、左砲戦、目標ル級一番艦!!」
「Ja!!」
第一戦隊は複縦陣で接近するル級に対し左側面に回り込みつつ一隻ずつ火力を集中し撃破しようとする。
距離が30,000mを切った辺りでル級が発砲を開始する。16inch砲弾の重々しい飛翔音途切れたとおもうとシャルンホルストの前方に着弾する、が照準はまだ定まっていないようだ。第二、第三弾が飛来するが射撃精度はシャルンホルストを捉えるには至らない。その間にも第一戦隊の二隻は確実に距離を詰めていく。
「距離、25,000まだ少し遠いですね。」
「せめて38㎝砲があれば・・・」
「無いものをねだっても仕方ないわ、今の装備でできるだけの事はしないと。」
「はい。姉様」
彼女達が装備する28㎝砲は元はといえばフランス海軍のダンケルク級戦艦に対応するために装備されたものである。性能は315㎏の主砲弾を40,000mに届かせる能力をもち、距離20,000mで225mm、15,100で335mmの装甲を貫通させる威力を持ち、ダンケルク級には20,000m以上の距離でも十分な対応力を持っているが16inch砲を装備しその分装甲も厚いル級に対しては20,000m以下の距離でないと十分な威力をを発揮するのは難しいといえる。
しかし、それは20,000m以上での砲撃戦の場合であって現状シャルンホルスト達はル級に対して速度の優位を武器に20,000m以下での砲撃戦を挑もうとしている。
「距離、18,000!姉様!!」
「ええ。行くわよ。主砲砲撃戦!目標左舷18,000のル級戦艦1番艦!!」
「Ja!!目標敵1番艦。方位2-7-0、距離18,000。的速16knot!」
シャルンホルストが目標を指示すると、艦内にいるレーダー妖精が正確な方位と距離を割り出し砲術妖精に伝達する。砲塔内では砲術妖精達が割り出された緒元にしたがって主砲を旋回させ、砲身角度を調整する。
「アントン(第一砲塔)射撃用意よし!」
「ブルーノ(第二砲塔)、ツェーザル(第三砲塔)射撃準備完了!」
3基の主砲塔から射撃用意完了の報告が入り、あとはシャルンホルストの命令を待つばかりだ。
「ふぅ・・・。各砲塔交互撃ち方!第1射Feuer!!」
一呼吸置いた後シャルンホルストは砲撃命令を下す、と同時にアントン(一番砲塔)の3門の主砲が火を吹く。
腹のそこに響くような轟音が艦橋を支配し、発砲煙が視界を遮るがすぐに収まる。
一瞬遅れてグナイゼナウも発砲する。距離があるため発砲時の音は小さいが心強い音には違いない。
若干の間を置いてシャルンホルストの第一弾が着弾する。しかしシャルンホルストの第一弾はル級を捉えるには至らない。射弾はル級の手前に着弾し飛沫をあげるにとどまった。
「第一射、近!」
「ブルーノ、仰角修正プラス100」
二番砲塔ブルーノの主砲塔内と射撃指揮所で指示が交わされブルーノが修正した照準で射撃する。
着弾を待つ間にル級の砲撃が着弾する。通算8回目になるその砲撃はついにシャルンホルストを捉える。二発の砲弾はシャルンホルストの手前、二発が奥に着弾しル級はシャルンホルストを夾叉する。次の砲撃からは12発の16inch砲弾がシャルンホルスト襲うことになる。
(先手を取られてしまいましたか・・・。数の優位があるとはいえマズイですね・・・)
現状ル級二隻とシャルンホルスト達はほぼ直角に近い角度で砲撃戦を行っており短縦陣のシャルンホルスト達はル級一番艦に最大の火力を叩きつける事ができるが、ル級は複縦陣をとっているため二番艦となるル級は一番艦が射線に入りシャルンホルスト達に砲撃することができず、実質戦力差は2:1となっているが火力においてはル級のほうが勝り戦力では拮抗しているといってよかった。
一方シャルンホルストの砲弾はル級の奥に着弾しル級を捉える事はできない。
「修正射、急いで!!」
「Ja!」
第三砲塔ツェーザルが修正射撃を行おうとしている間にル級の第一斉射が飛来する。今までの交互撃ち方のときとは比較にならない轟音が急速に大きくなりそれが途切れた刹那、十二本の水柱がシャルンホルストを包み込み衝撃が艦体を激しく揺さぶる。
「被害報告!」
「アントンからツェーザルまでの主砲塔異常なし」
「左舷の兵装すべて健在!」
「こちら機関室左舷側隔壁より若干の浸水あり、なれども戦闘航行に支障なし!」
「全弾至近に着弾!直撃なし!!」
「助かりました・・・」
安堵の声を漏らすシャルンホルストだが安心してもいられない、次の砲撃で敵弾は確実にシャルンホルストを捉えるだろう。
しかし、シャルンホルストの第三弾はル級を捉えることはできない。三発の砲弾は虚しく海面を叩くだけとなっている。
「姉様、大丈夫ですか!?」
「ええ、大丈夫至近弾で若干の浸水があるけど問題ないわ。」
「私はル級を夾叉しました。次より斉射に入ります。」
「頼んだわよグナイゼナウ!」
「はい。お任せください姉様!!」
(とは言え、妹に任せっきりもよくありませんからね・・・火力で圧倒するためにも早く敵を捉えなければ!!)
グナイゼナウから報告を受けひとまず五分の状態まで戻せたと考えるシャルンホルストだが戦闘は始まったばかりであり誰が勝者たりえるかは当事者達を含め誰もわからなかった。
お待たせしました。第二話でございます。ついに敵艦隊と接触したシャルンホルスト達ですが敵味方どちらが優勢とも言えない状態で戦闘は続いていきます。果たして勝利の女神はどちらに微笑むのでしょう・・・
話は変わりますが、中盤のシェーアとあった艦娘は皆さんの知っているあの艦娘です。次回以降の活躍にご期待ください。
それでは次の話でお会いしましょう。
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