ドイツ海軍奮闘記!! 作:栃民
1940年12月11日1208時
北海での戦闘は第一戦隊の砲撃戦に始まり、次第に激しさを増していく。
「第一駆逐戦隊全艦最大戦速!敵の懐に飛び込むわよ!!」
「「Ja!!」」
第一駆逐戦隊は敵空母ヲ級を攻撃するべく最大戦速で突撃して行く。
「方位0-2-0、距離12,000に敵駆逐艦隊!」
「方位0-4-5、距離18,000に敵重巡二隻、単縦陣で接近してきます!」
「敵重巡は第三戦隊に任せて、私たちはこのまま空母に向かう!!」
「第一駆逐戦隊は敵駆逐艦隊、重巡を突破しヲ級へ向かうようです。」
「ならリ級二隻は我々で抑えるぞ。最大戦速!進路このまま、右砲雷撃戦用意!!」
「Ja!!」
「シュペー、第一戦隊の状況は?」
「敵ル級と砲戦状態に入った様ですが詳しい戦況はわかりません・・・」
「場合によっては第一戦隊の援護に向かう必要もあるか・・・、手早く片付けて遊撃的に対応する。」
「はい。敵は重巡二隻、ポケット戦艦と呼ばれた私達の威力を見せてあげましょう!」
「ああ!」
ドイッチュラント達は第一駆逐戦隊の後方5000mに追従し右舷側より接近してくるリ級二隻に攻撃を開始する。
敵はリ級重巡、ドイッチュラント達も重巡に分類される艦だが両者には決定的な差があった。リ級は巡洋艦としてその能力を火力、装甲、速力を巡洋艦の分類内で収めた艦であるのに対し、ドイッチュラント装甲、速力は巡洋艦に及ばないものの火力はシャルンホルスト級の28cm砲を装備し火力に主眼を置いた艦であるということだ。
ワシントン海軍軍縮条約下において戦艦建造枠数の制限を受けたドイツ海軍は通商破壊用の小型戦艦の建造に着手し、厳しい条約制限枠の中で列強の条約型巡洋艦を上回る火力を持たせたのがこのドイッチュラント級である。結果として防御力は巡洋艦並み、火力、速力は戦艦並の性能となったドイッチュラント級は列強各国からポケット戦艦の通称で呼ばれることとなった。Z計画が始動しシャルンホルスト級や、その後継となるH級戦艦の建造が進む今となってはドイッチュラント級は重巡洋艦に格下げとなったがポケット戦艦の異名は廃れていない。
二基の28㎝砲塔がゆっくりとリ級に向けて指向し、砲身が重々しく仰角を掲げる。
「いくぞ!交互撃ち方・・・Feuer!!」
ドイッチュラントの号令でアントンが砲撃を開始する。シャルンホルスト級の28㎝砲と同じ砲声が艦橋を包み315㎏の砲弾がリ級に対し飛翔する。
(勝負のカギはどちらが先に直撃弾を得るかだな・・・)
砲撃を指示しつつドイッチュラントは考えを巡らせる。戦艦の砲撃戦では相手に先手を取られてもその主砲の発射速度が遅いため十分逆転が可能であるが、巡洋艦以下の砲撃戦ではひとたび直撃弾が出れば約10秒前後で矢継ぎ早に次弾が発射されるため逆転は難しい。ましてドイッチュラント達は28cm砲の為装填速度はリ級の8inch砲には遠く及ばないため先に命中弾を許してしまうといっそう厳しい戦いとなる。
彼我の距離は15,000m。リ級の8inch砲の射程内に入っているがリ級は発砲しなかった。
(撃たないのか・・・?)
ドイッチュラントは違和感をを感じるが自身の第1射の着弾に気を取られ疑問を頭の隅に追いやった。
「第1射着弾、全弾近、ブルーノ修正プラス200」
「修正射急げ!!」
「レーダーより艦橋!!リ級二隻取り舵、第一駆逐戦隊を追撃する模様!!」
「Scheiße!!砲撃中止、シュペー!!」
「わかっています追いましょう!!」
「やってくれるな、機関最大戦速!!カールスルーエに通信『リ級二隻が追撃態勢に入った、対応されたし』」
「カールスルーエ、リ級が僕たちを追いかけてきてるみたいだけど・・・」
不安そうにカールスルーエに話しかけたのはZ1型駆逐艦一番艦レーベレヒト・マースだ。
「分かってるわ・・・レーベ、戦隊の指揮をお願いできる?私とケーニヒスベルクはリ級を迎撃するから。」
「ぼ、僕がかい!?」
「あなたはこの戦隊の最先任、適任だと思うけれど」
「そ、そうだけど・・・僕自信がないよ。」
「・・・いい?レーベ、あなたはこの駆逐戦隊の最先任なのよもっと自覚と自信を持ちなさいな。大丈夫、訓練どおりやればきっとうまくいくわ、それにあなたの妹たちもきっとサポートしてくれるから一人で抱え込んじゃダメよ!」
「わっ分かった、やってみるよ。」
不安を抑えきれないレーベだが、カールスルーエはそんなレーベの実力をしっかりと見抜いている。彼女はほかの駆逐艦たちより早く第一駆逐戦隊に着任しているため戦隊旗艦であるカールスーエにもっとも長く訓練を受けてきた艦であるからだ。ほかの駆逐艦たちが着任した後は一歩引いた位置にいることが多く、あまり自己主張の強くない彼女だが実力はカールスルーエが認めるほどで自信がつけばその実力を遺憾なく発揮することができるとカールスーエは考えている。だからあえて戦隊の指揮をレーベに任せ自分たちはリ級の迎撃に出ることにしたのだ。
(少々荒療治ではあるけどレーベならやってくれる)
その思いは口に出さず胸中にしまいこんだカールスーエは追撃してくるリ級を見つめる。その後方にはリ級を追撃しているドイッチュラントたちが荒波の波間に見えているが距離は離れ始めているように見える。そうドイッチュラント級の最大速度は26knot、対してリ級は33knotを発揮することができるためドイッチュラント達が全速で追撃しても追いつくことはできない。
(リ級二隻・・・なんとかなるか)
「ケーニヒスベルク、私たちはリ級を迎撃するわよ。」
「・・・了解。」
ぼそりと返事をしたのはカールスルーエの姉であるケーニヒスベルク級軽巡洋艦一番艦のケーニヒスベルクだ。普段の彼女と変わらず物静かな態度を変えることなく返事をする。
「それじゃレーベ指揮は任せたわよ。ケーニヒスベルク、面舵一杯!進路1-2-0!」
「Ja・・・」
カールスルーエの号令でケーニヒスベルクとカールスルーエは後方のリ級に向かって行く。
小さくなっていく二隻の艦影をレーベは不安そうに見送る。だがすぐに前を見直し、自身が対峙すべき敵艦を見つめ気を引き締めるが緊張で足は震えていたが、その様子を知ってか知らずか自身の三番艦マックス・シュルツより通信が入る。
「レーベ大丈夫?」
「マックス・・・僕自信がないよ。」
「カールスルーエも言っていたけど貴女はもっと自信を持つべきよ。貴女はケーニヒスベルクの訓練を一番長く受けてきたのだからここにいる全員より練度は高いのよ。」
「わかった、僕やるよ!」
「しっかりね戦隊長、私達もサポートするから。」
「うん。よし行くよ!第一駆逐戦隊は当初の目的通りヲ級を攻撃するよ。皆僕についてきて!!」
「「Ja!!」」
レーベが指示を下すと普段通りの元気な返事が返ってくる。その声に自身のなかの不安が完全に消え、自信が湧いてくるのをレーベは感じた。
(僕ならできる!いや、僕たちだからできるんだ!!)
更に追い打ちをかけるように自身を奮い立たせ、敵を見つめるレーベ瞳には迷いや不安は微塵も残っていなかった。
一方ル級と砲撃戦を繰り広げるシャルンホルスト達第一戦隊は苦戦に陥っていた。グナイゼナウがル級一番艦に六度、シャルンホルストも三度の斉射を行い打撃を与えたがル級の主砲塔は四基とも健在であり逆にル級の第七斉射はシャルンホルストの主砲塔ツェーザルを直撃しこれを破壊した。更にシャルンホルストの不運は続き高波によってアントンが電気系統を故障し砲撃が不可能となっていた。
(これはマズイですね・・・使える主砲は一基だけ、敵はまだ一隻が無傷で残っている。戦力差は埋めがたいですね。)
「グナイゼナウ、今から変針するけど貴女は変針した後もそのままル級と砲戦を継続して。」
「姉様どうする気ですか?」
「奴の土手っ腹に大穴を開けてやるわ!!」
「!?危険です姉様!!」
シャルンホルストの狙いは、彼女達に装備された三連装の魚雷発射管の魚雷でル級に雷撃を敢行しようというものだ。装備されたG7a魚雷の炸薬は280kg、一本でも命中すれば撃沈は難しくとも浸水による傾斜で砲撃の続行は困難となる。例え魚雷が回避されたとしても回避行動によって射撃緒元はズレるため修正射撃からのやり直しとなる、シャルンホルストはル級との砲撃戦に勝利するのではなく時間稼ぎを目論んでいるのだ。だが、その為にはル級に接近する必要がある。被我の距離は18,000m、G7aの射程は雷速30knotで12,500m、命中を期待するなら接近するしかない、しかし敵に近づけば近づくほど主砲の貫通力は増しヴァイタルパート(重要防御区画)を容易く貫通される危険が高まることになる。
通常、16inch砲の砲戦距離は25,000m前後であるからただでさえ今の砲戦距離でもヴァイタルパートを貫通される危険があるのだ。
「空母さえ沈められれば後はどうにでもなる、今はケーニヒスベルク達が空母を沈めるまで時間稼ぎをする。」
「わかりました。でも姉様無茶だけはしないでくださいね!!」
「ええ、こんなところで沈むつもりはないわ」
「本当に無茶だけはしないでくださいね。」
「わかってるわ。それじゃ行くわよグナイゼナウ!取り舵一杯!」
「Ja!取り舵一杯!!」
「機関室最大戦速!右舷雷撃戦用意、雷速を30knotに設定!」
「Ja!雷速30knotに設定」
シャルンホルストの右舷魚雷発射管
に妖精達が取り付き魚雷の雷速をセットし発射管に装填する。
「・・・・」
一方ル級はシャルンホルスト達の変針に即座に対応する。一番艦は射撃緒元を修正するため、交互撃ち方に変更し二番艦は増速し一番艦を追い抜きシャルンホルストの頭を抑えようと取り舵を切り接近しつつシャルンホルストに砲撃を開始するがル級、シャルンホルスト共に速度を上げながらの状況であるため照準はなかなか定まらない。
「当たらないわよ!面舵40!!」
「Ja!!面舵40!!」
シャルンホルストも直進するだけでなく、左右に舵を切りル級の照準を容易につけさせない、逆にシャルンホルストも残ったブルーノと左右両舷の副砲でル級に牽制射撃を行う。互いの距離はどんどん詰まっていく。距離は13,000m、魚雷の射程まであと少しだ。
(あと少し、あと少しで!!)
「魚雷発射準備!!」
「魚雷、発射準備!!」
距離が12,000mを切った。十分魚雷の射程内だ。
「ル級との距離、11,000!!」
「魚雷発射準備よし!!」
レーダー妖精と発射管担当の妖精から同時に報告が上がる。
「発射用意!!」
「撃て」。その号令をシャルンホルストは発することが出来なかった。彼女の艦体に強烈な衝撃が走り、シャルンホルストは海図台に強かに体を打ち付け彼女の意識は朦朧とする。
(いっ、一体何が・・・?)
シャルンホルストは手放しそうになる意識を辛うじて引き留め、事態を把握しようとする。
「じ、状況報告を・・・」
「艦橋直下に被弾、ヴァイタルパートを貫通されました!」
「こちら機関室、被弾によりタービン二基損傷、速力12knotに低下します!!」
「なんてこと・・・」
ル級の放った砲弾はシャルンホルストの艦橋直下と艦体後部に直撃し装甲を貫通した。また後部を直撃した砲弾は右舷、中央のタービン二基を破壊しシャルンホルストの武器である足の早さを奪い、更に舵も損傷させてしまったことでシャルンホルストは敵の目の前で行き足が止まってしまったような状態になってしまったことだ。これではただの動かぬ標的になってしまう。
「そんな・・・こんなところで・・・」
「沈む」そう続く言葉をシャルンホルストは辛うじて飲み込んだ。そう、まだ彼女の魚雷発射管は健在であり魚雷を叩き込むべき敵艦は目の前にいるのだ。
(せめて一矢報いてから!)
再び闘志を込めた瞳でル級を見つめシャルンホルストは短く命じた。
「撃て!」
皆さんお久しぶりでございます。前回投稿から遅くなってしまい申し訳ありません。
3月末にインフルエンザにかかりまして、それがなおったら胃腸炎にかかるという地獄をみました。そのせいで体重が7㎏減りました・・・。
いやぁ辛かった。
これからも頑張って連載続けていくのでよろしくお願いします。