ガンダムSEED 天(そら)の英雄    作:加賀りょう

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オーブ潜入のため、引き続きシン視点です。


第102話 対立と和解

 内閣府官邸に侵入したシンたち。カガリが相手だと分かると道を空けてくれる人たちもいるが、中には偽物だと銃を向けてくるものもいた。出来るだけ殺さずに倒してほしい、というのがカガリの望みだ。シンとてザフトレッドという自負がある。座学は得意ではなかったけれど、実技であればそう簡単に引けを取らない。ただ実戦経験という意味では、経験不足であることはわかっている。ゆえにシンが戦いの手段として選んだのは銃ではなく、ナイフだった。限りなく相手を殺す確率を下げるために。

 

「う……」

「ふぅ」

「さすがだ。助かるよ、シン」

「いえ。キラさんからもあんたのことは頼まれてるんで……それにしても多すぎじゃないっすか」

 

 カガリとわかっていながら認めず反抗する者たち。軍服の階級から見てもさほど上位ではないらしいけれど、それらがここにいること自体が問題だ。本来ここにいるべき立場の者たちは、おそらく意図的に遠ざけられている。この程度の実力で、本部の警護など務まらないのに、それさえもわからない者たちがここにいるということだ。

 

「ユウナをはじめ、ウナトもだが、軍務経験などないからな。知らないんだろう、彼らがどうやって国を守っているのかも。ここを守るその意味も。有事の際、真っ先に狙われるのはここだというのにな……」

「……あんた」

「行こう」

 

 と、足を踏み出したその時だった。焦ったような声が通信機から届く。

 

『カガリ』

「キラ?」

『急いで!』

「キラさん……?」

 

 それだけでは何のことかわからない。と首を傾げたシンだったが、カガリには伝わったらしい。

 

「走るぞ!」

「え? あぁはい!」

『今ミネルバはカグヤ。その後は指示通り』

「わかった!」

 

 なんでキラの口からミネルバが出てくるのだ。というかそれ以前に、何がどうなっているのか。状況が状況なので、キラの言葉も短くなっているのは理解できる。だがシンにはまだ置かれている状況が読み切れていなかった。

 

「ここだ」

 

 わけがわからないまま、途中に立ちふさがるオーブ軍の人たちをほぼ殴り倒しに近い形で排除し、本部が置かれているという一室へたどり着いた。カガリはすぐさま扉を開ける。

 

「な!」

「え‼」

 

 驚きに染まっている一同など気に留めることもなく、カガリは堂々とした足取りで室内へと入っていった。

 

「キラ」

『うん』

「よし」

 

 短い言葉での会話は、最早二人にしかわからない。ただシンはカガリを守るように前に出て、銃を構える。ここにいる連中が何かを仕掛けようとも、後れを取ることはないが念のためだ。

 

「カ、カガリさまっ⁉」

「カガリ……? 一体どうして君が」

「……私がカガリ・ユラ・アスハだとわかっているようだな」

 

 名乗る前に、彼らから名を呼ばれた。すなわち、彼らがカガリを認めていることに他ならない。

 

「今、世界がロゴス、しいてはその協力者たちの拘束に躍起になっていることは死っているな?」

「な、何を仰っているのですか? ここにそのような関係者がいるとでも?」

「それを先ほど確認した。現在、ザフト軍によりヘブンズゲート侵攻が行われている。隙をついて逃げるだろうロゴス、およびブルーコスモスの現盟主たるジブリール氏をここに匿おうとしているということもな」

 

 カガリの言葉にシンは驚愕した。それはシンだけではなく、ここにいる一部のメンバーもそうだったのだろう。眼前に立っている連中から血の気が引いていく。それがロゴスと通じている者たちなのだとシンにも理解できた。

 

「拘束!」

「はっ!」

 

 カガリの言葉にオーブ軍が動く。この場はシンがやることではない。銃を下ろし、シンは拘束される首長たちを見下ろした。ロゴスに組する者たちがいる。オーブにも。つまり、大西洋連邦との同盟を薦めた連中なのだろう。その所為で、アーシェがどれだけ苦しみ悩んだか。シンは拳を握りしめた。

 

「カ、カガリっ! 僕は君の夫だぞ!」

「……ユウナ」

 

 拘束されている薄紫色の髪をした男。この男が例の相手だったのかとシンはじっと見た。フリーダムによる花嫁強奪。つまりキラがカガリをさらった。この男から。こんな弱弱しい男だったのかとはっきりいってがっかりだった。

 

「そ、それに妹だってシリウェル様の婚約者だ! こんなことをして黙っていると思うのか⁉」

「はぁ⁉ あんた何言ってんだ? シリウェルさんの婚約者はユリシアさんだ」

「それは勝手にプラントが決めたものだ! オーブにはオーブの仕来りがあるんだ! そうだろ、カガリ⁉ 僕と君が夫婦なのも――ぶほっ」

 

 ユウナが言い切る前に、カガリの拳がその頬にのめりこんだ。カガリの拳が震えているのがよくわかる。怒っているのだろう。まさか手を挙げるとは思わなかったシンは目を瞬いた。

 

「私だけでなく、お兄様にまでそれを強要させるな! 私もお兄様も了承していないっ! そもそも、お前と夫婦だなんて吐き気がする! 私は……私はお前の人形でも道具でもないっ! 私はカガリ・ユラ・アスハだっ」

「カ、カガリ……? そんな、だって……」

「キラのことも、アスランのことも、住む世界が違うなどと……そんな勝手な偏見であいつらを見るお前が、私は心底嫌だった……私の大切な者たちを、侮辱することがずっと許せなかった」

 

 カガリの声が震える。拳が強く握りしめられていた。誰もカガリの悲痛な想いに口を挟むことは許されない。そんな雰囲気の中で、カガリは続ける。

 

「オーブは、理念と法を守るものならば、コーディネーターであろうとナチュラルであろうと居住を許す自由な国だ。それが誇りだった……それなのに、その頂点にあるべき者たちが、自らそれを侵していた。私も、国を焼かないためならばとそれを受け入れた。だが……」

「そ、れは……でもカガリ!」

「これはなんだ! 国を守るためならばと私は思ったのに、ジブリールと通じ、ロゴスと通じ、戦火を広げようと動いていたのか⁉ 戦火が広がればその火の粉が多くの民たちに注がれるのだと、何故想像できないっ!」

「でもジブリール様は……」

「大西洋連邦は、子どもたちを人体実験に使っていた。あんたちはそれを知っていたのか?」

 

 シンは出来るだけ感情を抑えるようにして告げた。そうして見たのは顔を逸らすウナトたちだった。ユウナは惚けた顔をしていたので、知らなかったのかもしれない。だが知っている者もいたということだ。

 シンの脳裏に浮かんだのはガイアに乗っていたパイロット、ステラだった。強化人間エクステンデットとして強制的に強化されてしまった少女。状態が悪く、暴れて苦しむ姿を見てきた。でも初めて会った時はどこにでもいるほんわかとした印象を持った少女だったのだ。そんな普通の少女でもあったはずのステラを、無理やりに強化し苦しめたという事実にシンは頭に血が上るのを感じる。

 

「やめろ、シン!」

「でも、こいつらっ」

「殴っても、現実は変わらない。彼らが死んでも、亡くなった者たちは帰ってこないんだ……」

「っ……」

 

 たくさんの子どもたちの亡骸を見た。涙を流している子も、恐怖におびえたままで亡くなっていた子もみてきた。それなのに、それを見て見ぬふりをしていたのに、彼らには何の裁きもない。

 

「こんな奴ら、生きていたって――」

「こんな奴らだからこそ、お前の手を汚す必要はない。お前の手は誰かを守ることのできる手だ。キラと同じ、見て、聞いて、それを知って、それでも戦うことのできる手だ。ここで汚すような手ではない」

「……」

 

 シンの手を止めながらも、カガリはまっすぐにシンを見つめた。信頼などしていなかったのに、カガリのその姿がどことなくキラに重なる。

 

「……あんた、キラさんみたいだ」

「私とキラは姉弟だからな」

 

 

 

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