ガンダムSEED 天(そら)の英雄    作:加賀りょう

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引き続き、シン視点です。


第103話 再会

 内閣府官邸を掌握してからオノゴロ島へ戻り、カガリと共に国防本部に向かった。既に陽は落ち、辺りは完全に真っ暗だ。それでもここにはたくさんのオーブ軍人が集まっていた。カガリが帰ってきたことを歓迎するために。だがその雰囲気をすぐに崩れてしまう。

 

「そうか、ヘブンズゲートは既に落ちたか」

「はい」

『カガリ、聞こえる?』

「キラ?」

 

 キラがカガリを呼ぶ声がする。シンにも届く距離だったので、内容は届いていた。

 

『悪い知らせ』

「……何かあったのか?」

『グラディス艦長から、不穏なシャトルを一機逃したって』

 

 状況の詰め合わせのため、カガリたちと共にシンはアークエンジェルが停泊しているドッグへと急いだ。ミネルバもその近くに停泊しており、ドッグ内には懐かしい顔触れがあった。

 

「シン!」

「アーシェ!」

 

 その姿を見るなり、アーシェへと駆け寄るシン。その身体を抱きとめて、安堵する。

 

「良かった、シン。無事で……わかっていたけれど、戻ってこなかったから」

「ごめん。心配かけて」

 

 シンの取った行動は作戦にはなかったことだ。だがタリアには行動を咎められなかった。誰もシンを責めるものもいなかった。二人が再会の喜びを分かち合っているところに、カガリがゆっくりと近づいてくる。シンはアーシェを離し、カガリの前に二人並んで立った。

 

「久しぶりだな、アーシェ。無事で何よりだ」

「カガリお姉様……」

「それと……辛い思いをさせてしまったこと、すまなかった。謝っても許されることでないだろうが」

「顔を上げてください! わかっていますから、私……それに、お姉様が必死になって頑張ってくれていたこともちゃんとわかっています」

 

 すまなかったと頭を下げるカガリに慌てるアーシェ。カガリが悪いわけではない。裏切られたつもりになってしまったのは事実だけれど、そうではないことはちゃんとわかったからと。

 ミネルバの乗組員たち、そしてカガリらオーブ軍が面と向かい合う。なんとも歪な光景だが、やがてオーブ軍がざわめき始めた。道を空けるようにして人が開かれていく。そこには、ミリアリアに支えられるようにしてキラが、そしてマリューたちがこちらへと歩いてくるのが見えた。

 

「お久しぶり、ですね。こうして会うのは、グラディス艦長」

「えぇ、そうねラミアス艦長」

 

 二人の艦長が敬礼をしあう。あまりに異質過ぎるが、それだけでは終わらない。

 

「このような形ですみません、キラ・ヤマトです」

「タリア・グラディスです。貴方が、あのフリーダムの」

「はい」

 

 フリーダム。その名はミネルバの乗組員たちをざわつかせる。そのざわめきもタリアが手を挙げれば静まった。

 

「まず謝罪をします。おそらく例のシャトルがジブリール逃亡機だった可能性が高いと」

「そうですか。状況を教えてもらえますか?」

 

 マリューでもなくカガリでもなく、キラがタリアに尋ねる。そのことに疑問を覚えるのはミネルバ側のみだが、タリアが何も言わないのであれば口を挟むことはできない。それはシンも同じだ。

 

「カグヤに潜入し、申し訳ないのですがオーブ軍の方々は拘束させてもらいました。無論、怪我を負わせることは極力考慮したつもりです。その隙を狙われたようで、暗闇の中で動くものを見つけた時には既に遅かった、ということになります」

「……その時、ミネルバの中の乗員人数に変動は?」

 

 キラのこの質問に、タリアの表情が変わる。一体何を言っているのだろうか。オーブに入ってからのキラの言動がシンには理解できないことばかりだ。あの穏やかで優しい人とはまた違うキラの姿に困惑を覚えずにはいられなかった。

 

「ご明察の通り、とお答えしておきます」

「そうですか。わかりました、ありがとうございます」

「キラ……状況を説明してくれ」

 

 カガリまでキラに尋ねる始末だ。否、むしろここで一番状況を整理できるのはキラなのだろう。カガリは今まで国防本部にいて、情報はすべてキラに渡していた。だからこその判断なのかもしれない。

 

「ヘブンズゲートは落ちた。そしてシャトルでブルーコスモスの盟主でもあるジブリールが月に上がった。おそらく、ヘブンズゲート侵攻前に彼は脱出していて、ミネルバと同時期にはカグヤにいた。そして、シャトルをわざと見逃した。というところだと思う」

「……そうか。それがシェルお兄様の指示ではなく、議長の指示。つまり彼女はジブリールを月に上げたかったということだな」

「もしくは、確実にジブリールを討ち、オーブを討つ口実を探していたのかもしれない」

「え?」

「シャトルがオーブから上がったことは知られていると思うよ。議長には。ミネルバにはシリウェルさんの手がかかっているからと安堵はしていだんだけど、流石に全員ではなかったみたいだね」

 

 わざと見逃した。議長がジブリールを意図的に月に上げたとキラは結論づけた。ミネルバの動きもすべて筒抜けだと。

 

「見逃したものについては既に逃亡後、処分をしております。ここの動きが議長に伝わることはないでしょう。今のところではありますが」

「グラディス、艦長……それ」

「仕方ないでしょ。それが軍であり、機密というものよ。どのような状況であろうと、私には閣下の指示を遂行し、貴方方を守る責任がある。艦を危険にさらす者であれば、その処遇に遠慮はいらないわ」

 

 それが軍であり組織というものだと。だとして、そもそも何故ジブリールを逃がす必要があるのかが全くわからない。ロゴスを討つといったのは議長だ。その議長側がジブリール意図的に月にあげる理由はない。だがキラは言った。オーブを討つ理由になると。

 

「グラディス艦長」

「何でしょう」

「ミネルバは先に宇宙に上がってください。嫌な予感がします。たぶん、これを放置しておいちゃいけない。そんな気がするから」

「……それは貴方の勘、かしら?」

「そうです」

 

 タリアとキラの視線が合う。二人の交差する視線がどこか緊迫した様子で、シンは思わず息を飲んだ。先に逸らしたのはタリアだった。ふっと穏やかな笑みへと変わり、緊迫感から解放される。

 

「いいでしょう。今は貴方のその勘を信じます」

「ありがとうございます」

「そちらもお気を付けて」

「はい」

 

 タリアが敬礼をすると、キラもそれを返す。それはザフトの敬礼だった。オーブ軍服を着ているキラがザフト軍の礼をする違和感。だが何故かキラならばそれも許される気がした。キラを見ていると、その視線がシンへと向けられる。

 

「シン」

「は、はい」

「君も、ミネルバと行って」

「……キラさん。でも」

 

 元々シンはミネルバに合流するつもりだった。当然のことだ。でも、とシンはアークエンジェルを見た。格納庫にいたからわかる。アークエンジェルにあるのはムラサメたち。正直に言えば心もとないのだ。フリーダムがいない今、このままアークエンジェルを放っておいていいのかと。

 

「シン、君はザフトだ」

「それは……わかってますけど、俺」

「シン」

「レイ?」

 

 それでもと言い募ろうとするシンの肩を掴んだのはレイだった。

 

「シンはミネルバに戻れ。インパルスと共に」

「レイ……うん、わかってる。けど俺……俺がフリーダムを墜としたから、もしオーブが狙われたら、そしたら」

「うん、フリーダムがなくても、僕は戦う」

「キラさん」

 

 そうだろう。キラならばそういう気がしていた。怪我をしていても、きっとこの人ならば戦場に出る。シンもわかっていた。キラが強いことは。けれど、どれだけ強くてもキラの技量にあったMSがない。アークエンジェルにあるムラサメに乗ったキラならば、シンでも勝ててしまう気がするのだ。それは誇張でも何でもない事実。キラとてそんなことわかっているはずだ。

 

「俺……」

「ならシン、俺がここに残る」

「え?」

「ちょうどいい機会だから。俺は話がしたかったんだ、キラ・ヤマトと」

「レイ?」

「いいですか?」

 

 シンの肩に手を置きながら、レイはキラへと向き直った。どこか硬い口調のレイに、シンは首を傾げる。話をしたい、キラと。何故だろう。

 

「……君……そっか。うん、構わないよ。僕も君と話がしたい、レイ」

 

 一瞬だけ目を見張ったキラ。だが次には柔らかく微笑んで頷いた。レイと話をすると。

 

「キラさん、レイ?」

「心配するな。俺がいなくとも、シンとルナマリアがいればミネルバは大丈夫だ。俺もすぐにそっちに戻る」

「……ちゃんと帰ってくるんだよな?」

「あぁ」

「わかった。なら俺、ミネルバに行く。キラさん、色々とありがとうございました。それと、あんたも……」

 

 最後にキラ、そして何だかんだと関わることになったカガリに頭を下げて、シンはインパルスの下へと走った。

 

 

 

 

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