ガンダムSEED 天(そら)の英雄    作:加賀りょう

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キラ視点になります。
連続投稿、ひとまずここまで(;´・ω・)


第104話 因縁と絆

 シンがインパルスに乗り、アークエンジェルからミネルバへと移動する。その代わりにミネルバからは別の機体と共にレイがやってきた。

 

「改めて、レイ・ザ・バレルです」

「既に知っていると思うけれど、僕はキラ・ヤマト……レイ、でいいかな?」

「えぇ」

 

 既視感ではない。キラは間違いなく彼を()()()()()。正確には彼と同じ存在()()()人を。アークエンジェルの修理がまだ終わっていないこともあり、キラはドッグ内にあるベンチに腰を下ろした。ここから動かないようにとミリアリアとカガリから厳命されている。遠目からはオーブ軍の人が監視するように見守っているが、こちらの会話は届いていない。距離を取るようにお願いしたのだ。レイとの会話を聞かれないように。

 

「フリーダムが墜ちたのは、意図的ですか?」

「え?」

「シェルが言っていました。本気を出せば、きっと貴方には誰も敵わないと。たとえ、貴方がそれを望まなくても」

「……そう、シリウェルさんが。そうだね、確かに僕は()()()()()()()()でいたから」

 

 あの人はどこまでキラのことを知っているのだろうか。もしかすると、キラ以上に事実を知っている可能性すらある。

 

『キラ、君ももしかしたら()()なのかもしれない』

 

 あの言葉が何を指しているのか。今は何となくだがわかる気がしていた。隣に座るレイを見れば、重なる影。その姿と声、忘れたくとも忘れられない記憶。いまも尚、カガリに告げることもできずにいる真実の一つ。あのメンデルで行われていた数多の命だったものの残り香の存在と同様、実父が作った彼ら、クローンという存在を。

 

『私は、己の死すら金で買えると思いあがった貴様の父、アル・ダ・フラガの出来損ないのクローンなのだからな!』

「俺のこと、貴方ならわかりますよね?」

「うん……でも、僕は君を知っているわけじゃない。僕が知っているのは、()だから」

「……」

 

 レイが何を言っているのか、キラには理解できた。今の答えが求める答えではないことも理解している。それでも言わなければならない。彼は、ラウではないのだから。キラとレイはこれが正真正銘初対面だ。

 

「貴方は、この世界でただ一人の最高のコーディネーターだ。望むなら世界だって手に出来るかもしれない。きっとシェルよりも貴方の方が出来ることは多いはずです」

「……どうだろうね。才能があっても、努力しなければ何もできない。コーディネーターであってもナチュラルであってもそれは同じだ。彼に出来ることは、僕には出来ないことばかりだよ」

「そうやって逃げるんですか?」

「え?」

「貴方が自分を卑下すれば、そのために作られた俺たちはどうすればいいんです? 貴方を創るために俺たちは創られた。できるから、それだけの理由で」

 

 禁止されていようとも、技術的には可能だった。だからそれを行った。資金が必要だったから。そのために創られた命、その過程で失われた命。キラはそれを背負わなければならないのかもしれない。その結果の上にいる以上、見て見ぬふりはできない。

 

「逃げるつもりはないよ。これは……僕が背負うべき業だから。それを誰にも背負わせるつもりはない。カガリにもね」

「ならば――」

「君が生まれたことに、僕は無関係じゃない。それを否定することはしない」

 

 ちらりとレイを見れば、その瞳が揺れているのがわかった。ラウとは違うレイの想い。キラに何を聞きたいのかはわからない。けれど、その誕生に関係している以上、キラも誤魔化して伝えることはしない。これが本音だ。

 

「それでも僕も完璧な人間じゃないし、できないこともある。できることできないこと、それは人それぞれだ。才能とはまた違う」

「それは詭弁だ。貴方ならなんでもできる」

「レイ」

「そうでなければ、俺たちが生まれた意味がっ」

「生まれた意味はあるよ」

 

 そういいながらレイの手を取る。彼の手は震えていた。レイの気持ちが全て理解できるとは言わない。けれど、似たような想いならばキラもしてきた。何度も自問自答した。己が生きていて良いのか。たくさんの犠牲の上に成り立つ自分は、ここに存在してもいいのかと。最高のコーディネーター、設計図通りに描いたままに生まれた己という存在に、どのような想いが込められていたのかなどキラは知らない。唯一の成功体。キラだけがそうやって生まれたという事実に、何度打ちのめされたかしれない。それでも、そんなキラだからこそレイに言えることがある。

 呆然と見上げてきた瞳は、どこか不安定な色を持っていた。だからキラは微笑みながらレイの額に己のそれを合わせた。

 

「ここに君がいる。生きている。共に手を取り合うことが出来る。生まれた意味はそれだけで十分なんだって」

「なに、を」

「どんな形でもいい。その命は誰かのために生きているわけじゃない。理由があって生まれてくるわけじゃない。生まれた時から、その命は生きてるんだから」

 

 何度も何度も自問した。死んでもいいと思ったことは数えきれない。そんな時でも、傍にいてくれた人がいた。ここにいていいのだと言ってくれる人たちがいた。傍にいて笑ってくれる。同じ空間で過ごす人たちがいる。名を呼び、手を取ってくれる人がいる。そこにいるだけでいいと、何度も伝えてくれた。だからいま、キラはここにいる。

 

「レイ、生きるために理由を探す必要はないんだ。君がここにいることが、その理由だから。僕はそう教えられた」

「貴方も……?」

「そう。僕も。だから言えるんだ、君に」

 

 ラウ・ル・クルーゼと同じクローン。ならばレイもテロメアが短く、長く生きることはできない。シリウェルとてそれは知っているだろう。

 

「……シェルに、俺は自分で選べと言われた。ラウとは違う。俺は俺だと」

「そう」

「それでも俺たちが創られた理由は貴方だ。そのために俺は創られたことも変わらない」

「……そうだね」

 

 どれだけの詭弁を並べようとも、それが変わりようのない事実だとキラとてわかっている。キラが肯定すれば、レイはぎゅっとっ拳を作り握りしめた。震えは止まっている。落ち着いたのだろうと、キラもレイから手を離した。

 

「聞きたかった。貴方に……じゃないと俺は、きっと前に進めない気がしたから」

「レイ」

「時間を取らせて申し訳ありません。もう大丈夫です。少し取り乱してしまっただけなので」

 

 話は終わりだと切り上げて立ち上がったレイに、キラは同じく立ち上がる。

 

「レイ、戦いが終わったら……また話ができるかな?」

「……おかしなことを言う人だ。俺はアークエンジェルにいると言いました。暫くはいますよ、貴方の傍に。今ここで、貴方に死なれては困ります。シェルのためにも」

「え?」

 

 それはどういう意味だろうか。シリウェルのためにキラに死なれては困るというその意味を計りかねて、キラは戸惑う。だがレイはそんなキラを尻目に、ふっと目元を和らげた。

 

「貴方が力を取り戻すまで、俺が貴方を守ります。言っておきますが、シンほどの技術を期待しないでください。どうあっても元の俺はナチュラル素体なので、第二世代のシンとは違いますから」

「それを言ったら僕も第一世代なんだけど」

「貴方は別格です。一緒にしないでください」

「えー」

 

 ナチュラルの素体であっても、ザフトに所属しレッドを身に纏っている時点で規格外なのはレイの方だ。ラウとて同じだった。その子であるというムウもパイロットとしてはナチュラルの枠にとらわれないほどの実力を持つ。だがラウも、ムウも、そしてレイも努力して勝ち得たものなのだろう。コーディネーターは確かに才能を与えられた。けれど、それを開花させるのは才能ではない当人のやる気と努力だ。そして周囲の人たちの存在が大きい。キラがこうして戦っていられるのも、誰かを守りたいという想いが根底にあるからなのだから。

 

「ラクス……僕はまだ戦える。だから君も……」

 

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