ガンダムSEED 天(そら)の英雄    作:加賀りょう

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原作でいうところの、オーブ辺りの話。
タイトルで何となく想像がつくかもしれません。


第12話 悲報

 最高評議会。プラントにおける最も強い権力を保持する集まりである。平議員達よりは上位に座るシリウェルは、会議の進行を見守っている。

 議長となるのは、パトリック・ザラでほぼ決まりだろう。シーゲルをはじめとする穏健派の主張では、今のプラント市民を、ザフト軍を納得させるだけのモノがない。犠牲は増え、終わりの見えないこの状況を変えることこそが求められているのだから。

 

「……議論する意味もない……」

「シリウェル様? どうかされたのですか?」

 

 思わず呟いてしまった声を聞き取ったのだろう。隣に座っていた最高評議会議員の一人が声を掛けてくる。不穏な言葉と受け取られるわけにもいかないので、シリウェルは首を横に振り笑みを浮かべた。

 

「……いえ、何でもありませんよ」

「そうですか……あの……」

「何か?」

「シリウェル様は、その……議長になることはお考えではないのですか?」

「……」

 

 声を潜めてシリウェルの上をいく不穏な言葉を加えた議員に、眉を寄せてしまったのは仕方がないだろう。

 

「……貴方様がなるなら、我々は──―」

「何を期待されているのかは理解していますが、今のは聞かなかったことにします。私は軍人であり、この状況を好転させるのが役目ですから」

「……それは……。はい、そう、ですね」

「わかっていただけて嬉しいですよ」

 

 笑みを向けてはいるが内心では、怒鳴りたい気分を押し殺していただけだった。余計な話をするな、と。

 下手に派閥を作れば戦争など出来ないというのに、議員自ら割れるような発言をするのは、案にパトリックを認めないと示しているようだ。誰も聞いていないとは言え、不穏な言動は慎んでもらいたい。

 念のため周囲を確認したが、やはり聞いている者はいない。

 

 一方で、議会は滞りなく進んでおり、無事に多数の支持を得てパトリックが議長へと就任したのだった。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 議会を終えた後、シリウェルが来たのはMS製造をしている一画だった。設計したMSの製造状況を確認しに来たのだ。最優先で組まれたライン。こちらが考えているよりもペースは早い。もしかしたら、スピットブレイクに間に合わせようとしているのかもしれない。

 

「……これが、X-10Aか」

「ファンヴァルト隊長、お越しでしたか」

「あぁ。順調みたいだな」

 

 X-10Aフリーダム。白い機体の前に立つ。沢山の技師達が動き回っている中で、指揮官服を来ているシリウェルは目立つ。だから、ここを預かる責任者が声を掛けたのだろう。設計士として優秀なシリウェルがここに来ることは珍しくないし、知らない者もいないので特別に何か言われることではない。通る度に敬礼をされるが、それだけだ。

 

「この機体は凄いですよ。我々も勉強させてもらってます」

「そうか……今のところ問題は起きてないか?」

「そうですね。強いて言うならですが、この機体はかなりの技量を必要としますから慣れるまで時間は必要になりそう、ってことくらいです」

 

 技師の懸念は最もだ。わかっていてシリウェルも設計した。訓練を施す時間があるかどうかが、問題にはなるだろう。とはいえ、パイロットも決まっていない今の段階では、テストするのはシリウェルになる可能性が高い。

 

「仕方ないか……」

「ファンヴァルト隊長?」

「いや、こっちの話だ。問題があれば直ぐにあげてくれ」

「はっ」

 

 張り切って敬礼をする技師に苦笑をしながら、手をあげるとシリウェルは軍本部にある自分の私室へと戻るため、その場を離れた。

 私室へと近づいたところで、部屋の前に女性士官がいることに気がつく。

 

「……何か用か?」

「っ!」

 

 声をかければ俯いていた女性が顔をあげた。涙で腫れた顔がそこにある。

 

「ユリシア?」

「うっ……シリウェルさま……ニコルが……ニコルが……ううっ」

「ニコル? ……クルーゼ隊だったか、彼がどうし──―」

 

 言いかけてユリシアはシリウェルへと勢いよく抱きついてきたと思うと、一層声をあげて泣き出した。それが意味することがわからないシリウェルではない。要はそういうことなのだろう。

 ニコル。ユリシアの弟であり、シリウェルにとって将来の義弟となるはずだった優しい少年は、戦死したのだ。

 

 泣き止まないユリシアを私室へと入れ、後から来たナンナに情報の確認を頼んだ。ベッドに座らせて、泣き止むまで好きにさせる。

 肉親を失うということがどれだけの悲しみを持つのか、シリウェルはよく知っている。それが軍人であろうとなかろうと関係ないのだ。

 暫くユリシアを抱きしめその背を擦っていると、そのままシリウェルに身体を預けて眠ってしまったようだ。泣きつかれたのだろう。起こさないようにベッドへと横たえる。顔を覗き込めば、泣き腫らした目元は赤くなっていた。

 恐らく、今日はこのまま帰した方がいいのだろうと、シリウェルは考えていた。

 

『……シリウェル様、宜しいでしょうか?』

「ナンナか。あぁ、入ってこい」

 

 ユリシアがいることで伺いを立てたのだろう。シリウェルは私室の中にある仮眠室にいたのだが、執務室へと移動した。すでに、ナンナがそこにいる。共にいるはずのもう一人の姿が見えなかったのか、ナンナはチラリと奥の方へと視線を向けた。

 

「はい……ユリシア殿は?」

「寝ている……泣きつかれたんだろう」

「そう、ですか」

「……持ってきたか。見せてくれ」

「はい……こちらです」

 

 ナンナが持ってきたのは、クルーゼ隊の状況についてだ。

 オーブ領海にて行われた戦闘についての詳細が載っていた。クルーゼ隊は一時的にアスラン・ザラを隊長としたザラ隊を結成して別れ、地球軍のMSらを迎え撃った。結果的に、MSは撃破したがザフト側の損害も大きいもので、隊長たるアスランも行方不明、ディアッカ・エルスマンも同じく行方不明となり、ニコル・アマルフィは撃墜された。生還者は、イザーク・ジュールただ一人。

 

「……」

「シリウェル様……」

 

 行方不明ということは、生きている可能性がゼロではない。だが、ニコルだけは撃墜とある。

 

「ニコル……」

 

 初めて会ったのは随分前だった。その頃は、ニコルが軍に志願するとは思えなかったのだが、何の因果かニコルは軍に志願し、トップクラスの証である赤服を纏うほどの力を手にした。ならば、前線に投入されるのは当たり前だ。納得して受け入れている。シリウェルとて同じ。いつその時が来るかわからないのだから。それでも、ニコルはまだ15歳だったのだ。成人したばかりで、軍の中でも最年少。

 

「……多くの犠牲を使って、漸く墜とせた、か。喜んでいいのかわからないところだな」

「強敵だったのですよね? その地球軍のパイロットは」

「強い。それは間違いないだろうな」

「シリウェル様よりも、ですか?」

 

 シリウェルと例の地球軍のパイロット。どちらの技量が上か。会ったこともない相手に対して、その技量を計ることは難しいだろう。ザフト軍の中においては、現時点でシリウェルは最強の一人だと言われている。ただ、周りがそう評しているだけで、シリウェルとしてはどうでもいいことだった。

 

「……比べるだけ無駄だ。技量が全てではない」

「それは、そうですが……」

 

 ともあれ、クルーゼ隊は組織編成を迫られるだろう。半分が離脱しているのだから。

 哨戒任務もあるが、スピットブレイクの準備をしなければならない。シリウェル自身の機体の調整も必要だ。とはいえ、まずは連絡すべきだろう。

 ナンナを下がらせると、シリウェルは通信回線を開いた。

 

『隊長、どうかしましたか?』

「レンブラント、アマルフィだが今日は休暇を取らせる。急な指示はしていないか?」

『アマルフィ、ですか? いえ、こちらは問題ありませんが……』

「ならいい。あと、カウゼに機体を動かせるように伝えてくれ」

『それも、構いませんが……隊長、アマルフィはどうかしたのですか?』

 

 シリウェルが不在の時は、レンブラントが責任者だ。気になっているのならば、伝える必要はあるだろう。

 

「……アマルフィの弟が戦死した」

『っ……そう、ですか。アマルフィは帰したのですね?』

「……」

 

 今日はやけに食いついてくると思いつつも、シリウェルは何と話すか、答えに詰まった。だが、隠しても無駄だろう。無理に隠す必要はない。

 

『隊長?』

「これから帰すつもりだ。艦に戻るのは少し遅れる。先に調整だけ頼むとガウスに──―」

『隊長。機体は明日に回して、今日は貴方もアマルフィと共にいてください』

「……何を言っている」

『アマルフィの弟ということは、貴方にとっても弟のようなもの。それに……アマルフィの側にいてあげた方が言いと思います』

「レンブラント」

『余計なお世話だと思いますが……隊長、スピットブレイクには我々は行けません。貴方と共に戦えないのは、アマルフィにとっても不安なはず。弟を失った今ならなおのことです』

 

 レンブラントたちは艦を動かすため、宇宙域で待機の予定だ。共に戦えないとは、前線にいけないということ。それは間違いではない。

 ニコルを失ったばかりのユリシアが不安に感じるのは当然だろう。シリウェルが時間を取れるのは今だけ。つまりはそういうことだ。

 

「本当に余計なお世話だな……」

『年長者としての助言ですよ。こちらは、任せてください。隊長は今日は戻らないと伝えておきます』

「明日の朝一で向かう」

『承知しました』

 

 プツンと、通信を切る。

 椅子にもたれ掛かるように身体を預ける。ユリシアを送るつもりではあったが、こういう状況になるとまでは考えていなかった。それでも、レンブラントが言うことに反論は出来ない。

 ナンナに連絡を入れると、シリウェルはユリシアが眠る奥へと入っていった。

 

 ベッドに横たわるユリシアは、まだ眠っているようだ。

 泣きつかれた目。冷やした方がいいだろうが、触れて起こしてしまうのも忍びない。ユリシアとニコルは仲がいい姉弟だったと聞いていた。家族仲も悪くない。これが初めての肉親を失う経験だとすれば、衝撃は計り知れないだろう。

 しかし、慰めることがシリウェルにできるかといえば無理だ。どうしたものかと、思案しているとユリシアが身動ぎする。

 

「……ユリシア」

「ん……あ……あ……!? シ、シリウェル様……?」

「起きたのか……」

「は、はい……あの……」

「待っていろ」

 

 寝起きで理解が追い付いていないようだが、まずは目元を冷やすのが先だ。濡れたタオルを持ってくると、ユリシアへと手渡す。

 

「あ……ありがとうございます」

「あぁ」

 

 目元にタオルを当てて冷やしている。ずっと見ているわけにもいかないし、女性に対して失礼だろう。目が覚めたのならばと、シリウェルは踵を返して動こうとした。が、動けなかった。

 

「あ……」

「……どうかしたか?」

 

 軍服の裾をユリシアが掴んでいたためだ。その表情が置いて行かれた子供の様だった。

 シリウェルとユリシアの関係は、隊の上司と部下で婚約者同士。関係を示せば親しいように見えるが、こうして二人だけの空間にいたことはほとんどない。食事をするときは個室ではあるが、ユリシアがシリウェルの隊に配属される前は、アマルフィ邸で会う程度だった。それ以上の関係はなかったのだ。

 

「ユリシア?」

「あ……あの……シ、シリウェル様……私……」

 

 再び涙が目に浮かんでくる。仕方ないという風に、シリウェルはベッドに腰を下ろすとユリシアの目元を拭う。

 

「ゆっくりでいい。……話してみろ」

「……あの……い、今だけでいいのです。傍に、いてくれませんか?」

「……構わないが」

 

 少し考えたのちに、シリウェルは答える。レンブラントからも言われていたことだ。拒否することもない。

 

「自宅へ送るつもりだったが、いいのか? ……ここではゆっくり休めないだろう?」

「……家には、今は戻りたくありません」

「……」

「申し訳ありません……ですが」

 

 ガシっとシリウェルの両腕を掴み、ユリシアは必死になるように抱き着く。まるで、つなぎとめるかのように。

 

「傍で……貴方を感じていたいのです。……生きていることを。私は……どこかで死を別世界の話だと考えていました。……あの子が、そんなわけがないと……でも……でもっ!!」

「……」

 

 どれほど泣いてもその涙が乾くことはない。再びユリシアから涙があふれ始めた。叫ぶ言葉は懺悔のようでもあった。軍人であるというのに、どこか違うことのように感じていた死について。身近な人が戦死したことで、実感してしまったのだと。

 ユリシアは今、困惑と恐怖の中にいて混乱している。最愛の弟の死が、ユリシアを不安定にさせているのだ。

 

「ユリシア」

「お願いです! シリウェル様……今宵だけでいいのです。貴方の傍に……」

「……ユリシア、その意味がわかっているのか?」

「はい……」

 

 泣いている顔を上げて、シリウェルを見つめてくる。戦場において、生を実感するために関係を持つことは珍しくない。だからこそ、ユリシアが求めているものが何か理解はしている。

 

「……シリウェル様」

「……わかった」

 

 ここまで言わせてしまって拒絶することは、更に不安を煽ることになる。シリウェルも覚悟を決めるしかない。

 ユリシアの頬に手を添えて、ゆっくりと彼女の唇に己のそれを重ねた。

 

 

 

 

 

 




種の方は、生死について改変はありません。死亡キャラはそのままお亡くなりになります。種運の方は改変ありますが・・・。
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