愛機であるレイフェザーに乗り込む。専用のパイロットスーツでの感触を確かめるように、手を動かしていた。
『……シリウェル様、各機配置完了しました』
「わかった。指示があるまで待機だ」
『はっ』
報告を受け、シリウェルは別の回線を開く。顔を出したのは仮面姿の友人だ。
『シェルか』
「ラウ、こちらは完了だ。そちらはどうだ?」
『問題ないな。報告は──―』
「お前からで構わない」
『そうか……シェル』
「何だ?」
『……これが終われば、また会うとしよう』
「ラウ……」
作戦が終わった時、状況がどう変わっているのか。わからないが、ラウの言葉にシリウェルは頷いた。
「あぁ。……楽しみにしている」
『死ぬなよ、シェル』
「お前もな」
回線を切ると精神統一をするように、シリウェルは目を閉じた。ミスは許されない局面。
それは僅かな時間だった。軍本部から通信が入ったからだ。
『シリウェル様、オペレーションスピットブレイク発動しました。目標は……地球軍本部アラスカ、JOSH-A』
「っ!? ……何だって?」
『司令部から、伝えられました。その……どう、なさいますか?』
オペレーターからも困惑の表情が見える。パナマだと言われていた場所からの変更。それも、本部へのものだ。困惑するのも当然だろう。だが軍人である以上、これを覆すことは出来ない。シリウェルならば、拒否することも不可能ではないか。この場では最高指揮官はシリウェルだ。
一瞬判断に迷ったのち、シリウェルは全体へと通信を開く。
「……全軍、降下準備。スピットブレイク発動に伴い、JOSH-Aへと降りる」
『『は、はっ!』』
困惑する声も聞こえるが、意気込む声も届く。この作戦には多くの時間と人を費やしている。今さら止めることなど出来るわけがない。シリウェルが立ち止まれば、被害が増える可能性もある。何より、これは指揮官としてシリウェルが負う責任だ。
「レンブラント、そっちは予定通りだ」
『はっ!』
「シリウェル・ファンヴァルト、出る」
『はいっ! レイフェザー、ファンヴァルト機発進お願いします!』
ヘルメスから発進するレイフェザーは、他の機体と共に降下シークエンスに入る。MSの中で単機で降下できるのは、現時点ではシリウェルのレイフェザーのみ。他は降下ポットで降下していった。
「アラスカ本部……最悪な状況だな……」
作戦に成功しても失敗しても、戦争が過熱することは間違いない。司令部もとんでもない判断をしたものだ。
大気圏を抜けると見えてきたのは青い海。そして、地球軍本部。
「……あれがJOSH-Aか」
『シリウェル様!』
「あぁ。俺は裏に回る! 部隊は正面に向かえ」
『はっ』
部隊が展開され、多数のMSらが基地へと向かっていく。対する地球軍も戦闘機をはじめとした戦力を配備しているようだが、主力でない。パナマに防衛網を敷いていた為だろう。
戦艦が複数、基地の迎撃がこちらに弾幕となって降り注いでいた。基地の内部を制圧すれば終わりだが、それまでに墜とされるわけにはいかない。
まずは、本部の迎撃手段をなくす方を優先する。
「……戦艦、ユーラシア艦隊か」
レイフェザーを駆り、シリウェルは容赦なく戦艦を撃沈させていく。と、同時に基地への攻撃も繰り出していた。
『第一陣、突破しました!』
「わかった」
本部というだけあり、固い守りのようだ。門をこのまま突破するのは任せても問題ないだろう。
「内部に入る」
『シ、シリウェル様?』
「外の砲撃は任せた」
『は、はい! お気をつけて』
迎撃した砲台の近くにレイフェザーを降ろし、シリウェルは機体から地上へと降り立ちそのまま内部に侵入した。
「……?」
静まり返った内部。シリウェルは不審を抱く。本部だというのに、人の気配がないのは明らかにおかしい。
手に銃をもちながらも、奥へと進む。
「一体、どういうことだ? っ!?」
ふと、殺気を感じて思わず身体を壁へと隠す。視線を感じた先には、同年代位の人の姿。その手にはナイフが握られている。数は10人位だ。
「ちっ……待ち伏せか」
「コーディネーター、殺す!」
襲いかかってくる彼らを銃で迎撃する。だが、致命傷を追っても尚その士気は衰えてない。殺すまで止まらないということか。
「仕方ない……」
シリウェルは勢いよく彼らに突っ込む。隠し持っていたナイフを左手に持ち、近くにいた少女から倒していく。血に染まる手を気にする余裕などない。襲いかかる相手を減らすのが先だ。
最後の一人となった時、シリウェルに隙が生まれた。それを見逃さないように後方に隠れていた一人が、シリウェルへと突撃してくる。身体を動かそうと力をいれるが、致命傷で死にかけているというのに最期の力をもってシリウェルを押さえつける。その相手もろとも、シリウェルはナイフの攻撃を受けてしまった。
「ぐっ……ちぃ」
「ぐわぁ」
腕を振り回し、二人を更に切りつけて撃沈させる。完全に動きが止まった様子をみて、シリウェルは息を吐いた。
「……死を恐れない兵士、か」
傷口を押さえるが、これは放置できるものではないことはシリウェルも良くわかっていた。更なる追撃はない。人の気配も完全に消えた。それが意味するところは、嵌められたのはザフト側だということだ。
「くそっ」
痛む傷を堪えながら、シリウェルは機体へと戻る。
血を流しすぎたのか、目眩を感じる。それでも、指示をしないわけにはいかない。回線を開こうとしたその時だった。
『ザフト・連合、両軍に伝えます』
「何、だ?」
全回線を開いて叫ばれたのは、連合基地が爆発するということだった。一体誰が話しているのか。シリウェルは回線を開いている主の機体を見つける。
「……フリーダム……そう、か。動いたか……」
ラクスに託した力がこの場にあるというこたは、ラクスが動き始めたということ。フリーダムはラクスが認めた人物が乗っているのだろう。ならば、信用できる情報だ。
「司令……俺だ。直ぐに、撤退だ……」
『ファンヴァルト隊長? ですが、しかし……』
「内部は空だった……は、早くしろ。この、情報が真実なら……ザフトの、被害は……」
『た、隊長! どうかされたのですか?』
「……いいから……頼む!」
回線を切るとシリウェルはレイフェザーを動かし、己も戦場を離れる。意識が朦朧とする前に離れる必要がある。最後まで、他のMSを誘導する必要もあるだろう。
「倒れるわけには、いかない……堪えてくれ……」
レイフェザーが撤退していき、司令も通信を広げたことでザフト軍も攻撃を止め撤退を始める。中にはまだ不審を抱いている者もいるようだ。
「ぐっ……」
『シェル?』
「ラウ、か……」
『っ、どうした?』
「……すまない」
『シェルっ!』
限界だと、シリウェルは意識を手放した。
その直ぐ横では、司令からシリウェルの不審を聞いたラウが止まったレイフェザーを抱えていた。
「シェル……ちぃ」
気を失ったのだろう。異常を察知して、ラウは急ぎ艦へと向かった。その後ろでは、サイクロプスの眩しい光が輝いていた。
格納庫に着くと、不安そうな兵たちが様子を伺っている。イザークもその中にいたが、ラウは気にすることなくシグーを降りるとレイフェザーの搭乗席を無理やり開けた。
「シェル! っ……ストラクチャーだ! 急げ」
ラウには珍しく声を荒げる。周りが驚いたとかはどうでもいいことだ。
慌ただしく動く兵たち。ラウは、血の気を失って倒れているシリウェルを抱えて、機体から降ろす。その姿をみた一同が息を飲んだ。
「クルーゼ隊長!」
「医療班っ」
「はいっ、ここに」
白いストラクチャーにシリウェルを乗せ、連れていくように指示を飛ばすラウ。一刻を争うだろうことは、誰の目にも明らかだった。
「……ちっ」
舌打ちをしながら、ラウはそのあとをゆっくりと追った。