ガンダムSEED 天(そら)の英雄    作:加賀りょう

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スピットブレイク後の各陣営でのお話です。
主人公不在。原作で描かれていた内容は省いています。


第16話 裏側の事情

 スピットブレイクの失敗。プラントの軍本部には最悪の知らせが届いた。

 

「失敗だと!?」

「はっ、はい。その、確かにそう報告が」

「カーペンタリアは!? 情報確認を急げ!」

「至急、確認をしております」

「クルーゼは、シリウェルはどうした!」

「まだ連絡は出来ておりませんが、クルーゼ隊長はご無事と、伺っております。しかし……シリウェル様は」

「シリウェルがどうした?」

 

 苛立ちを隠さないパトリック。シリウェルについて濁すことに、更に眉を寄せていた。

 

「……シリウェル様は、重傷とのことです」

「あいつが、傷を負ったというのか?」

「詳細はまだ──―」

「急げ! ……シリウェル、あいつは何をしているのだ。立場はわかっているだろうがっ!」

 

 苛立ちは怪我を負ったシリウェルへか、それとも負わせた地球軍側か。パトリックは怒りに完全に染まっていた。近くまで来ていた息子に気づかないほどに。

 クライン派についての問答が終わると、パトリックは席に体重を預けるように座り込む。

 

「……父上」

「なんだそれは」

「し、失礼しました。ザラ議長閣下」

 

 言い直し敬礼するアスランに、パトリックは上っていた怒りを沈めるたてため息を吐いた。

 

「状況は理解したか?」

「はい……しかし、ラクスが」

「信じられん、か。ふん、これを見ろ」

 

 パトリックは背後にある大きなスクリーンに映像を映す。そこにいるのは、MSの前に立っているラクスだった。隣にいる人物の顔は良く見えないが、ラクスであることは間違いない。

 

「証拠がなければ誰が彼女に嫌疑をかける」

「……」

 

 動かぬ証拠。この後に奪取されたMS。国家機密であったものだ。内部にクライン派がいることは確実。

 ラクスはパトリックによって、国家反逆罪の犯人とされアスランの婚約者ではなくなった。

 次に命じられたのは特務隊として、奪取されたMSの破壊だった。国家機密の塊でもあるのだ。他国、地球軍に利用される訳にはいかない。既にパトリックの中では、地球軍へのスパイ行為であったと結論付けている。反論は受け付けない。その表情が物語っていた。

 任務を伝え、部屋を出た息子の姿を送るとパトリックは、ため息を吐く。

 

「……」

「議長閣下……宜しいですか?」

「構わん。何だ?」

 

 入れ替わるように入ってきたのは、部下の一人だ。

 

「クルーゼ隊長から報告がありました」

「話せ」

「……シリウェル様のことですが、刃物で切りつけられたようです。内部に侵入後、複数人により襲撃を受けたものと思われる、と」

「複数、か」

「今はカーペンタリアに移送。未だ意識は戻らず、出来れば本国での治療を要請したい、とのことでした」

 

 本国での治療が必要。それだけでも傷の程度がわかる。

 

「……許可する。今、シリウェルは必要な力だ。直ぐに手配しろ」

「はっ! 直ぐに」

 

 急ぎ足で出ていく部下。報告者は他にもあった。損害を確認し、次の手を考えなければならない。これ以上、負けるわけにはいかないのだ。

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 同じような報告はラクスの元にも届いた。隠れ家からアスランを待つために移動している最中にいる。

 

「お兄様……」

 

 思わずラクスは両手を握りしめた。

 シリウェルの容体は重傷で、未だ意識は戻っていない。本国に移送する手配まで行われているそうだ。

 

「ラクス様……」

「……大丈夫ですわ。お兄様なら、必ず。約束してくれたのですから。それに……そのような状況ならば、お兄様が疑われることはありません」

 

 幸か不幸かシリウェルは、スピットブレイク作戦においての負傷だ。クライン派が動いたのは作戦中のこと。作戦漏洩としてラクスらを追っている。漏洩元がクライン派だというのなら、クライン派と繋がる者が内部まで侵入するとは考えにくい。そこに、サイクロプスがあるというのなら尚更だ。

 

「確かに、シリウェル様が我らと繋がっているとは思われないとは思います……」

「はい」

 

 シリウェルとクライン派は繋がっていない。これは真実だ。一つ間違っているとすれば、国家機密である機体情報をリークしたこと。反逆者として十分な理由になるだろうが、証拠はない。そもそもクライン派ではなく、今後の動きはシリウェルさえ知らないのだ。

 

「……お兄様ならば、私が取る行動などお見通しかもしれません」

「ラクス様?」

「これもお兄様から託された力です。私は、闘うことを決めました。その想いを、平和を未来を望むために」

 

 決意を露にしたラクスに、迷いはなかった。このまま万が一シリウェルが命を落とすことになったとしても、それは変わらないだろう。望む未来は同じだ。誰が倒れようとも突き進む覚悟。何よりも誰よりもラクスが揺らいではいけないのだから。

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 オーブ連合首長国、オノゴロ島。

 傷ついたアークエンジェルが入港していた。脱走艦となった彼らを迎え入れたのは、ウズミだった。

 事情の説明のために、ウズミはキサカを伴い、アークエンジェルクルーの代表者らと応接室にて向かい合っていた。既に、地球軍本部壊滅から数日が経過していた。

 

「……して、これからのことを考えるためにはまだ暫く時間が必要であろう。今はゆっくりと休むといい」

「ありがとうございます、ウズミ様」

『ウズミ様! 申し訳ありません、宜しいでしょうか!』

 

 突然、扉の奥から慌てた様子で誰かが駆けつけてきたようだ。あまりの剣幕に、ウズミはキサカを見た。

 キサカが立ち上がり扉を開ける。

 

「どうしたのだ?」

「歓談中、申し訳ありません!! さ、先ほど報告があり……シリウェル様が、先の作戦において負傷! じ、重傷だと連絡が!!」

「なっ……」

「シェルお兄様が!?」

 

 驚愕したのはウズミとカガリだ。思わずカガリは、彼に駆け寄った。その肩を掴むと強く揺らす。

 

「一体どういうことだ! お兄様が重傷だと!?」

「……落ち着けカガリ」

「キサカ! だがっ」

「カガリ」

 

 強く名を呼ばれ、カガリはうつむき彼から手を離すと場を譲る。

 

「続けろ」

「は、はい……その、こちらには、シリウェル様に意識はなく、プラントに移送されると、連絡が……」

「……そうか。わかった。クレアには伝えたか?」

「……別の者が伝えに走っています」

「うむ。ご苦労だった。下がれ」

「はっ」

 

 彼が去ると、沈黙が室内に広がる。状況がわからない人物はここにはいなかった。

 シリウェルの存在は、地球軍でも知られたもの。その血筋がオーブ首長家であることもわかっているのだ。

 

「……釘を指してすまなかったな」

「いえ、その……」

「あやつはザフト軍。作戦に参加していたことに不思議はない。戦場に出ればこういうこともある。覚悟はできていたことだろう」

「で、ではお兄様はサイクロプスに……」

 

 サイクロプスの影響を受けたので得れば、只ではすまない。カガリが不安に感じているのはそこだった。

 

「……それはないと思うがな」

「少佐?」

 

 ここで口を挟んだのはムウ・ラ・フラガだった。この場にいる誰もがムウの否定する言葉に注目する。

 

「キラが全回線を開いた後、連中は撤退するのが速かった。あれは、ザフト側の指揮官が命令したものだろ。迅速な撤退、判断力を見れば指示を出したのはそいつだろう。あくまで俺の勘だがな」

「少佐……で、でもそれだけでは」

「……いえ、可能性はあります」

「キラ?」

 

 キラは一歩前に出てウズミへと視線を映した。口には出さないものの、ウズミとて気になっていることと感じたのだろう。

 

「僕の機体……あれを設計し、僕に渡るような道を作ってくれたのは、シリウェル・ファンヴァルト。彼なら、僕の機体を見た時に気がついたはずです」

 

 キラが呼び掛けたことで、それがラクスからもたらされたのだと気がついたはず。ならば、いち早くザフトに伝えた可能性が高い。当人も無論逃れたと考えられる。

 

「……なるほど。あの機体は、シェルの」

「はい」

「……可能性の話だ。だが、礼は言おう。キラ君、希望を示してくれた君に」

「キサカ、私はクレアの様子を見てくる。ここは頼んだ」

「はっ」

 

 キサカに任せると、ウズミは部屋を後にした。残されたのは、カガリとキサカ、そしてキラたちアークエンジェルクルー。

 

「カガリ、大丈夫?」

「……キラ。あぁ、すまない」

「その、シリウェルって人はカガリの」

「従兄、なんだ。私の、目標とする人だ」

「そっか……」

 

 言葉からはシリウェルに対するカガリの思いが読み取れる。ザフト軍ということは、オーブにとっても味方ではない。しかし、それ以上に家族としての思いがあるのだろう。

 

「シリウェル・ファンヴァルトね……俺たちにとっては死神の様な相手という認識だが」

「少佐っ!」

「事実、だろ?」

「それは、そうだけれど……」

 

 今まで敵対としていたのだから、こういった評価は当然だ。キサカもカガリも否定することはしなかった。

 

「シリウェル様の力は我々もわかっている。地球軍からは死神と呼ばれ、プラントからは英雄と呼ばれていることも。しかし、オーブにおいてはアスハ家の血を引く希望、という意味もある」

「希望?」

 

 ムウとマリュー・ラミアスは合点がいかないようだ。しかし、オーブ国民だったキラはどういう意味かすぐに理解した。

 

「……コーディネーターとナチュラルの血を引くから、ですね」

「その通りだ。……シリウェル様もザフトにいながらもオーブのために、力を貸してくれている。今となっては難しい立場におられるが……」

「なるほどね。ただ者ではないと思っていたが、随分な人物のようだな」

「えぇ、けれど……ということは」

「ブルーコスモスから見れば、認められないってことか……オーブよりもプラントにいるのは正しいな」

「理解してもらえて何よりだ」

 

 ナチュラルが正しいとし、コーディネーターを悪とするブルーコスモスからみれば、双方の血を引きその未来を示す存在のシリウェルは排除したい。そのようなことをオーブは認めない。たが、守るための力もない。今となってはわからないが以前のプラントならば、シリウェルを排除することはなかった。両方の国籍をもちながらも、プラントを選んだのはそこが大きい。だからこそ、シリウェルはプラントを守るのだから。

 

 


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