カーペンタリア基地。一室にシリウェルの姿はあった。
未だ意識は戻らず、人工呼吸器によって補助されている状態だ。傍にはラウが控えていた。
「……ラクス・クラインは君にとっては妹のようなものだったな。不幸中の幸いだよ、君が議長に疑われずにいるのは、こうして意識がないおかげなのだからな」
勿論問いかけても答えるわけもない。カーペンタリアでできる処置は既に終わっているが、拮抗状態だった。思ったよりも出血が多く、その後に無理に動いた所為で傷口が広がった。更に言えば、相手の武器には毒性のものが塗ってあったらしい。
「シェルが侵入することを想定していた、ということだな。アズラエルもそこまでして消したかったらしい。ブルーコスモスにとって、所在が確かである君の方が標的としてやりやすかったのだろうな」
スピットブレイクがザフト側にとって大きな作戦だった。ならば、そこに投入されてくるのも出し惜しみはしないと考えるだろう。ザフト兵が内部に入るならば、指揮官クラスとしてシリウェルが来ることを想定していたということだ。無論、別の兵たちが遭遇した可能性もゼロではない。どちらにしても、どういった相手と対峙したのかは、シリウェル本人しかわからない。ラウ自身も推測の域を出ないことだった。情報を地球軍にリークしたのは、ラウ。ならば、シリウェルが怪我を負った原因の一端はラウにもある。
「君が目を覚ました時、世界はまた一つ変わっている。私の願いに近づく。君がどう動くのか楽しみではあるが……同時に怖くもあるな。それでも……君は私に希望を与えてくれるのかな?」
眠るシリウェルの頬に触れる。その温かさは生きていることを示している。ならば、それでいい。
普段は決して見せないラウの表情は、それだけでシリウェルが特別であると言っていた。こうして、ラウはファンヴァルト隊が到着するまでの間、傍に居続けるのだった。
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ナンナとユリシアたちは、カーペンタリアに到着するとすぐさまシリウェルの元へと向かった。
病室があるのは、基地の治療施設だ。目的の病室へたどり着くと、直ぐに扉を開ける。
「……ようやく来たかね」
「あ……ラウ・ル・クルーゼ隊長……」
「シェル、君の護衛たちが来たようだから私は行く。……約束は後日としよう」
ラウは意識のないシリウェルへと話しかけると、立ち上がってそのまま部屋を出て行った。何があったのかと茫然としながらも、ユリシアたちはシリウェルへとゆっくり近づいていく。
「……シリウェル様……」
「まだ意識は回復していないようですね……ですが、生きておられる。本当に、心配をかけるお人です」
「そう、ですね……でも、まだ安心はできない、のですよね?」
「はい。……直ぐにヘルメスまで移動させます。艦ならば、プラントまで早く向かえますから。ユリシア殿、皆さまも急ぎましょう」
「「はいっ」」
ファンヴァルト隊として複数人がシリウェル移送のため、ここにきたのだ。既に準備は整っている。移動用のベッドにシリウェルを乗せ換えて、機器を装着したまま専用機へと移動させた。
限界ギリギリまで艦を地球に寄せていたヘルメスは、専用機の到着を待っていた。しばらくして姿が見えると、素早く収容し艦をプラントに向け舵を切る。
格納庫より通信がレンブラントへと入った。
『マイロードです。艦長、発進をお願いします』
「わかった。隊長は医務室へ」
『承知しています』
「愚問だったな……任せる。皆、急ぐぞ、本国に向け発進する」
「「「はっ!」」」
現段階において、宇宙艦では最速を誇るヘルメスだ。それほどの時間をかけずにプラント本国へと到着できるだろう。他でもない、隊長を救うため。気合が入るのも無理はなかった。
数時間をかけ、プラントへ到着したヘルメスを待っていたのは、医療関係者たちだった。手配された通りに、ストラクチャーに乗せられたシリウェルが病院へと運ばれていく。付き添いとして、ナンナとユリシアが付いていった。他のファンヴァルト隊の者は、ここで待つしかない。別命あるまでは、待機ということになるだろう。
後は、無事に意識が戻ることを祈るだけだった。
☆★☆★☆★☆
アプリリウス市にある病院に、シリウェルは搬送された。
問題となるのは、使用された毒物についてだ。時間が経っていることが懸念されるが、これを取り除かないと命に係わる。移送を急がせたのはそういった理由だった。
手術室の前でナンナとユリシアはただ終わるのを待っている。どのくらいの時間そうしていたのかはわからない。気が付けば夜となっており、本来ならば就寝している頃だろう。だが、手術は終わっていない。不安が増していく中、ようやく手術室の扉が開いた。
「あっ!?」
「シリウェル様!!」
医師と共に寝かされたままのシリウェルが出てきた。そのまま病室へと運ばれていく。あとを追うと、たどり着いた病室では、看護師たちが呼吸器などの機材を設置していた。
「シリウェル様……」
「……失礼します。ファンヴァルト家の方ですか?」
「……はい。ファンヴァルト家の使用人をしています。マイロードです」
医師に声をかけられ、ナンナが答える。ファンヴァルト家は、プラントにはシリウェルしかいない。クレアとアーシェはオーブに避難しているからだ。使用人として一番傍にいるのは、専属であるナンナだった。
「では容態については、説明は貴方にした方がいいでしょうか?」
「はい。私と……それとここにいらっしゃるのは、シリウェル様の婚約者のユリシア殿です。二人でお聞きしたいと思います」
「あ……そうでしたか。お名前は知っていましたが、お顔までは知りませんでしたので、失礼いたしました」
「いえ……」
シリウェルの婚約者としてユリシアは知られている。無論、公人ではないので顔を知られていないのは当然だった。ユリシアも特に気にしていない。
「では……。毒物については取り除くことはできました。ただ、時間が経っておられたのが懸念として残っていますので、暫くはこちらで安静にし経過を見守っていきたいと思っています」
「暫く、ですか?」
「……シリウェル様のお立場はわかっております。ですが、命に係わることですのでご了承ください」
「……わかりました。ユリシア殿、艦長へは私がお伝えしてきますので、シリウェル様についていてください」
「……はい。お願いします」
「では、私もこれで失礼します」
医師を見送ると、ナンナもいったん病室を離れる。残されたのは、数人の看護師とユリシアだった。
「ユリシア様……どうぞ、お傍に」
「……ありがとうございます」
気を利かせてくれた看護師が、ベッドの横に椅子を用意してくれた。ユリシアは椅子に座ると、点滴を打たれて布団の上に出されたままの左手をそっと握った。
「シリウェル様……」