オリジナルキャラがメインに話が進みますので、原作キャラがいないと嫌だという方はお気に召さないかもしれません。
第1話 始まり
「っ!!!」
シリウェルは勢よくベッドから身を起こした。額には汗が滲んでいる。また同じ夢だ。
目の前でユニウスセブンが墜ちる瞬間の夢。あの時、画面越しの映像で見た父の最期のこと。未だに引きずっている自分に情けなさを感じながらも、どうして事態を回避することができなかったのかと後悔ばかりが押し寄せる。
C.E.70 2月14日≪血のバレンタイン≫。
農業コロニーだったユニウスセブンが爆発に飲み込まれた日だ。
視察と称して父であるテルクェス・ファンヴァルトはその日ユニウスセブンへと赴いていた。そこへ向けられた一発の核ミサイル。24万人以上の人々が犠牲になった。忘れられない日である。
ふぅと息を吐くと、近くにかけてあったタオルを取り汗を拭う。
時間を確認すれば、予定の時間はとっくに過ぎていた。
少し休憩をするつもりが寝入ってしまったようだ。思わず舌打ちをし、立ち上がると椅子に掛けてあった軍服の上着を羽織る。
ザフト軍指揮官を示す白色の軍服だ。シリウェルの髪は茶色だが、光に透かせば水色にみえる。男性にしては中性的な容姿を持っており、白い軍服を着ればその容姿と相まって一種のカリスマオーラを発していた。といっても本人に自覚はない。特に髪を整えることもなく、襟元を閉めて軽く身支度を整えると、シリウェルは部屋を出ていった。
ザフト軍宇宙艦ヘルメス。それがこの戦艦の名前である。
シリウェルが率いるファンヴァルト隊の母艦だ。現在は、哨戒任務から帰還する航行途中である。
艦内にある自室で休んでいたシリウェルは、ブリッジへと姿をみせた。
「あ、隊長」
「お疲れ様です、ファンヴァルト隊長」
「すまない。予定をオーバーしたな」
部下たちから敬礼を返しながら、軽く謝罪をする。隊長と言えども、休息時間を超過してしまったのだ。切羽詰まっていない状況なのだから問題はないとしても、非があるのはシリウェルの方だ。
「問題ありません。隊長もお疲れでしょう。もうしばらく休んでいただいても構いませんが」
「いや、気を遣わせたな。問題ない、レンブラント」
シリウェルはっきり断ってしまえば、それ以上言葉を重ねることはなかった。
艦長席に座っているのはレンブラント・ケニー。シリウェルの父親と言ってもいいほど年は離れているが、実直な軍人気質のお堅い人物であり、シリウェルは彼を気に入っていた。
シリウェルとの付き合いは短くなく、お互い信頼を抱けるほどの戦場を駆け抜けてきている。レンブラントも、年下だからとシリウェルを侮ることもなく、そのまま上官として受け入れてくれている。
シリウェルの年で指揮官となっている者は他にいない。最年少記録だともてはやされてはいるが、結局は国民へのプロパガンダの一つだ。無論、能力に問題があるわけではなくパイロットとしても指揮官としても一流の技術を持っている。とはいえ、年齢からみても戦闘経験でいえば、レンブラントには及ばないだろう。
プラントへ戻るだけの航行。特に何かが起きるわけでもないので、シリウェルは自席へと座った。モニターを見ても敵影の姿もない。それもそのはずで、まもなくヤキン・ドゥーエの防衛網だ。警戒する必要もないだろう。
「……警戒態勢を解除」
「はっ」
索敵などを怠ることはできないが、シリウェルがそう宣言したことで艦内の緊張が弱まる。
哨戒任務というのは、ある意味気を抜く暇がないという酷な任務の一つだ。コンディションレッドが発令された時は無論のこと、それ以外の場合でも見落としがないように常に誰かは気を張っている必要があった。
ザフトの勢力圏内であればその必要はない。ヤキンに入れば、警戒はヤキンの防衛を担う隊がやってくれる。
「帰還後、しばし休暇を与えるつもりだ。皆、羽を伸ばしてきてくれ」
「隊長もですか?」
そう疑問を吐いたのは、CIC担当で緑色のウェーブがかかった髪を肩まで伸ばしふんわりとした雰囲気をもった
女性士官だった。
「……議会に呼ばれているからな。それ次第だ」
「そう、ですか」
「ユリシア?」
彼女の名は、ユリシア・アマルフィ。評議会議員の一人であるアマルフィ議員の娘だ。そして、プラントルールで決められたシリウェルの婚約者でもあった。
年齢的にいつでも婚姻を結んでも構わない状況なのだが、今の情勢がそれを許してくれない。
人材不足であるプラントには、優秀な軍人を遊ばせておくことはできないのだ。出生率の低下も重要な問題であり、婚姻を結べば次世代を生み出すことが第一となる。となれば、シリウェルが前線から離れることは必至。それは認められない、ということだ。シリウェル自身、ユリシアに不満はない。しかし、あくまで政略的なものであるので、そこにそれ以上の感情はもっていなかった。だが、自身が有名であることの自覚はあるため、公に知られている婚約者を無下に扱うことはしていないつもりだ。
「どうかしたのか?」
「……いえ、何でもありません」
「そうか……」
ユリシアが何でもないと言えば、シリウェルはそれ以上追及することはない。
傍から見ている者たちは、そんなシリウェルを見てため息をつくのだった。
艦を下りる準備をするため、ちらほらと席を立つ士官たち。ユリシアもそれに追随した。
「隊長……少しは乙女心を学んだ方が宜しいかと思います」
「レンブラント? 何故だ?」
「アマルフィは、休暇を共に過ごしたいのだと思いますよ。私的な時間を作られてはどうですか?」
「……余裕があれば、な」
私的な時間。そこまで言われれば、シリウェルとて理解する。
要するに、婚約者としての時間を過ごしたいということなのだろう。時間を作れるかどうかは、この後の議会の内容次第になってくる。必ず約束はできない以上、下手に期待させるのはやめた方がいいとシリウェルは考える。
加えて、今までの任務ではあるが共にいたのだ。あえて時間を作る必要はないのではという考えがよぎっていたのだが、敢えて口にすることはなかった。
何故だが、非難を浴びそうな気がしたからだ。
「そんなことより、気になるのは議会だな……」
「……そんなこと、ではないと思います」
どこまでも真面目なレンブラントは、シリウェルに指摘せずにはいられなかったようだ。