ガンダムSEED 天(そら)の英雄    作:加賀りょう

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レイが登場しますが、幼いため口調が原作と違いますのでご留意ください。
成長した時には原作と同じ感じになります。



第20話 報告と決意

 シリウェルがパナマ侵攻の話を聞いた翌日。地球軍パナマ基地は、ザフトに降伏した。マスドライバーは破壊され、新型MSを投入したもののグングニールにより行動不能となり、抵抗することができなくなったことが大きい。しかし、投降してきた兵士の一部は虐殺されたという。アラスカでの非人道的な行いによるザフト側の怒りがそうさせたのだ。

 中には、シリウェルを崇拝する兵たちもおり、恨みを込めて降伏した無抵抗な地球軍兵に銃を向けたという。そんな報告を、シリウェルは黙ったまま聞いていた。

 報告してきたのは、ファンヴァルト隊所属の部下であるマリク・ダイロスだ。ヘルメスの副官もしており、レンブラントと並んでシリウェルの忠臣でもある。

 

「……以上が、パナマでの戦闘内容になります」

「……」

 

 パナマ戦に参戦していた者たちからも得た情報の話も含まれており、内容には信憑性が高い。マリクは隠すことなくそのままを伝えてくれる。話を聞いたシリウェルが何を感じるかはわかっているが、真実を伝えるのが己の役割だと思っているのだ。

 話終えたマリクは、じっと目を伏せたままのシリウェルを見つめる。余計な口出しはしない。どのくらいの時間が経ったのかわからないほどの沈黙。暫くして、シリウェルがようやく口を開いた。

 

「……ご苦労だった」

「いえ。命じられたことですので」

「お前はいつも忠実だな……」

 

 表情を変えずに答えるマリクに、シリウェルは苦笑する。忠実過ぎるほどに忠実な部下だ。だからこそ聞いてみたかったのかもしれない。

 

「俺に何か言うことはないのか?」

「……何を、と言われても返答に困りますが」

 

 僅かに表情を変えるマリクは、本当に困っているようだ。それ以上言葉を加えることはしない方がいいだろう。シリウェルはマリクから視線を反らした。この話は終わりという意味だ。

 

「……隊長。では一つだけ宜しいでしょうか」

「……?」

 

 そんな様子を見てマリクは、決意したように咳払いをして告げる。思わぬ言葉にシリウェルは目を見開きマリクを見た。

 

「隊長の今回の怪我を負った際の行動は、些か軽率だったと思います。隊長が内部の状況を知ったことで、サイクロプスの被害は最小限となりました。しかし、あなた様が卑劣な手段により負傷したことは、我らの士気に影響し、パナマでの行動を過激にしたと言わざるを得ません」

「……」

「結果としてみれば悪くありませんが、我々は殺戮をしているわけではありません。戦争をしているのですから。言わずともお分かりだと思いますが、今後は軽率な行動は控えてください」

 

 パナマでの行動は、軍として誉められたことではない。その原因にシリウェルの件が関係している。シリウェルが既にわかっていることを敢えてマリクは指摘していた。

 

「軽率、か……」

「地球軍は隊長を標的にしていたのです。今後も十分にお気をつけてください」

「俺が死んで、士気があがるならば悪いことではない。とは考えないんだな……」

「私を怒らせたいので?」

「っ……」

 

 眉を寄せ怒気を伴うほどの雰囲気が一気にマリクを纏う。思わず息を詰まらせたのは仕方がないはずだ。

 

「忘れないでください。私は、隊長の部下です。しかし、それは貴方が英雄だからではないということを」

「マリク……?」

「隊長を戦争の道具と考えたことなどありません」

「……」

 

 半分冗談のつもりで出た言葉だったが、マリクにとっては予想以上に気に障るものだったらしい。シリウェルを本当に案じているからこそなのだろう。

 

「我らファンヴァルト隊一同、同じ想いであること。決して忘れないようにお願いします」

「……ふっ、物好きな連中だな」

「光栄です」

 

 パナマでの被害について、シリウェルにも責任がないとは言えない。地球軍への仕打ちも、戦争の中で起きたこととはいえ忘れてはならないだろう。それでも、軍人として武器を手に戦うことを決めた以上は、想いを最後まで貫かねばならない。たとえ、これから先にどのようなことが待っていたとしても。

 たが、ここまで己を想ってくれている人たちがいることに、シリウェルはどこか温かくなるのを感じていた。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 その客が見舞いに来たのは、身体が起こせるようになってからだった。安静は変わらないが、身を起こせるようになったことは大きい。出歩くことは出来ないが、PCを使った作業は出来るようになったのだ。シリウェルは今後のために、新たな力を模索していた。そんな時だった。

 

「シリウェル?」

「? ……レイ」

 

 ノックはなくドアが開けられたかと思えば、そこには弟の様に感じている少年の姿があった。レイ・ザ・バレル。過酷な運命を背負わされた一人だ。

 

「どうしてここに?」

「……ギルから、聞いたんだ。その、シリウェルが入院してる場所を。それで……会いたくなって」

「……そうか。構わない。レイ、入ってくるといい」

 

 許可するとばぁっと顔を上げて嬉しそうにシリウェルのベッドへと駆け寄ってきた。作業していたPCを閉じて、レイの相手をする。

 最近の学園での話から、勉強のことなど日常の話をするレイ。こうして会うのは半年ぶりくらいになる。話したいことが多いのだろう。シリウェルは主に話を聞いているだけだった。だが、ふとレイの話が止まる。どうかしたのかと、シリウェルが見ているとレイは意を決した様に切り出した。

 

「ねぇ、シリウェル。僕は、軍に志願するつもりなんだ」

「……理由を聞いてもいいか?」

 

 レイは優しい少年だ。勉強もできて、運動も優秀だが、趣味のピアノでも活躍できる腕がある。しかし、今の時代を鑑みるとそう簡単に好きなことができる訳がない。

 周囲に流されて志願するのならば、シリウェルは反対するつもりだった。

 

「……ラウもシリウェルも、軍で戦っている。僕は、僕も一緒に戦いたい。シリウェルの力になりたいんだ!」

「……。軍に入るということは、戦場に出るということだ。人を殺すことだ。それが、お前に出来るのか?」

「……わからない。けど……それが必要なら、誰かを守れるなら覚悟は出来る。そしたら、シリウェルは僕が守る! だから……」

 

 危険だと止めるのは容易い。しかし、レイがここまで自分の想いを強く話すのは初めてのことだった。生い立ちが特殊であるレイは、どこか己の存在意義を求めている節がある。危ういのだ。どう応えるのがいいのか。シリウェルは少し逡巡すると、レイの手をそっと握った。

 

「レイ……気持ちは嬉しい。だが、俺はお前に守ってもらう必要はない。レイが守るのは、プラントに住む人々だ」

「……」

「俺がお前を守る。……今までもこれからもそれは変わらない。誓っただろ?」

「それは……けど、シリウェルは今狙われて危険なんだってギルが言っていた。なら、僕が傍にいて守りたい!」

 

 ギルバート・デュランダル。ラウの友人でもあり、レイもよくしてもらっている。だが、その隠された笑顔の裏にある姿を垣間見たことがあるシリウェルにとっては不穏な存在でもある。レイの前なので、不用意な発言は控えているが、悪い影響を与えないかが心配だった。

 

「……ブルーコスモスから標的にされていることなど、今更だ。それに、レイ。何を焦っている? 急いで軍に入る必要などないだろ?」

「……僕は長くないだろ。だから……」

「レイ」

 

 ギルバートの言葉に煽られているのかと思えば、生き急いでいるということのようだ。レイはクローン。テロメアが短いため、普通の人より寿命が短い。だから、何かできることをしたいという願いが強いのだろう。シリウェルが握っていたレイの手に力が籠められていく。まだ少年という年代で、死を意識させられることはそう多くはない。コーディネーターならば尚のことだ。しかし、レイはまさにその局面に立っていた。

 

「確かにお前は長く生きられない。その事実を変えることはできない。だが、レイ……それで未来をあきらめるのは止めろ」

「……シリウェル?」

「人はいつか必ず死ぬ。俺も必ずその時がくる。レイ、お前も」

「それは、わかっているよ」

「なら、最後まで自分の為に生きろ。俺の為でも、ラウやギルバートのためでもなく、レイの為に」

「僕の、ため?」

「お前がこの世に生まれた時点で、お前はレイだ。お前のために生きるのが当然だろ? ……人の命は道具ではない」

 

 戦争という中にいれば、どこかで命を軽くみる。シリウェルとて例外ではない。そういう場面があれば、己の命さえ手段の一つとして戦略に組み込む。先日、部下のマリクに指摘されたことだが、それが有効打になるならば厭うことはないだろう。軍人になるとはそういうことだからだ。

 

「俺は、お前には人生を楽しんでもらいたい。……できれば、平和な世界で、な」

「シリウェル……」

「俺の為だというならば、志願など不要だ。レイが笑えるならそれでいい」

 

 ラウのように、戦争に染まってほしくはなかったのだ。今はそうでなくとも、戦場に出ていれば闇の部分に触れることもある。ストレスを抱え、殺戮だけを繰り返すように狂ってしまう者もいるのだ。優しい人間ほど、自分を見失うことが多い世界。レイには来てほしい場所ではなかった。

 レイは、暫く口を閉ざしていたが、やがて笑みを見せながらシリウェルにはっきりと言う。

 

「ありがとう、シリウェル。やっぱり、僕は志願する」

「レイ」

「僕が僕でいるために。……ラウとは違った形で、シリウェルの力になる。僕は……もう一度シリウェルの笑顔が見たいと思うから」

「俺の……?」

「うん。……目指す場所にシリウェルがいるなら、僕は道に迷わない。約束する。最後まであきらめない。だから、許してくれる?」

 

 ここまで言い切ったということは、これ以上何を言っても決意は変わらないだろう。レイは頑固なところがある。折れるべきはシリウェルの方だ。

 

「……何を言っても変わらないなら、俺に聞いても意味がないだろ」

「それでも、シリウェルには許可してほしい。……僕にとっては、シリウェルは兄さんみたいなものだから、家族の了承は欲しい、かな」

「……家族だからこそ、反対すると思うがな。……レイ、約束だけは守れよ」

「わかってる。……ありがとう、シリウェル」

 

 

 

 

 


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