ガンダムSEED 天(そら)の英雄    作:加賀りょう

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今回は、シンからの視点で描いています。
オーブでの出来事をちょっと変えてます。少し長くなりました。


第23話 シン

 プラントに到着したのは、今日だった。

 あっという間に過ぎた時間。シンは用意された部屋でベッドに横たわりながら天井を見つめていた。その手にはピンクの携帯電話が握られている。

 

「……なんで、俺は……ここに……」

 

 必死に走った。近くでは戦闘が行われていて、大きな音が恐怖を与えてくる。立ち止まればそこで終わりだと。

 急いでいる中で、マユが携帯を落としてしまった。取りに行くと叫ぶマユ。止める両親。揉めていることも危険だとわかっていた。だから、両親は焦っていたのだ。ならばと、シンが取りに向かった。そこまでは良かった。

 だが、携帯を手に取ったその瞬間、爆発が起こった。必死に地にしがみつき難を逃れたシンが次に目にしたのは、地に伏していた両親やマユの姿だった。ただ伏せていたのではない。変な方向に曲がり、一部が吹き飛ばされていた。

 その光景を思い出したシンは、バッと起き上がり膝を抱えた。嗚咽と共に流れてくる涙。何度も自問する。何故、どうして。誰が悪い。何が悪い。一体、両親やマユが何をしたというのか。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

『何をしてるの! 早く行きなさい!』

『……』

 

 茫然と立ち尽くし泣き続けるシンを叱咤した女性。目の前で何があったのかわかっていたのだろう彼女は、シンの肩を掴み必死に叫んでいた。

 

『ここで君が死んでどうするの! 生きなさい! 君が死ねば、ご両親たちが喜ぶと思うの!? 違うでしょう!』

『だ、だけどっ……おれ』

『モタモタしない! アーシェ、彼と一緒に早く!』

『は、はい、母様!』

 

 少し遠くに離れていた少女が駆けてくるのが見えた。母と呼んだということは、家族なのだろう。家族……たった今シンが失ったもの。

 

『ほら、立ちなさい!』

 

 再びかけられた声に、シンは掴まれていた女性の手を振り払った。自分が失ったものを持っている人たちが憎くて、悔しくて堪らなかったから。放っておいてほしかったから。

 払い除けられたことに、女性は目を丸くしたが直ぐににこりと笑ってシンの頬を両手で包み込んだ。

 

『……生きなさい。君はここで死んではダメ。君が生きることが、未来を繋ぐことがこの絶望的な世界の希望となるかもしれない』

『……え……』

『だから生き──―』

『母様っ! 危ないっ!!』

 

 悲鳴に近い声に女性の後ろを見ると、金属片がシンたちに目掛けて飛んできていた。女性も気がついたのだろう。シンは死を覚悟した。元よりそうなることを望んでいたシンは、どこかで安堵さえしていた。目を閉じてその瞬間を待っていると、身体を抱え込まれて突き飛ばされてしまった。

 

『痛っ……』

 

 背中を打ったことに呻きながら、シンは身体を起こした。すると、目の前には先ほどの女性が倒れていた。背中から腹部にかけて金属片が刺さっている。

 

『か、母様っ!!!』

『……ア、シェ……あな、たは……いきて、ね……シェ、ルを……どう、か……ひ、とり、にしな……いで』

『かあ、さま……』

『い、きな……さい。き、みも……は、や、く……』

『あ……あ……うわぁぁあ』

 

 そのままアーシェとシンは必死に走った。後ろを振り向くことなく、急いで離れたのだ。救命艇に乗り込み、移送船に乗せられても、シンは蹲ったままだった。

 ただただ、どうしていいかわからず、何が起こったのかも理解したくなくて隅にいた。そんなシンに声をかけてくれた曹兵がいた。優しく、気遣うように。一緒にアーシェも来ていた。何も言わずにシンの隣に座り、じっと居るだけだ。

 アーシェの母を殺したのはシンだ。恨み言も言われるだろうと、シンはぎゅっと力をいれるように膝を抱える。

 だが、アーシェは何も言わなかった。プラントが近づいてくると、漸くアーシェが口を開いた。

 

『……私、孤児だったの』

『……え?』

『だから……ずっと一人だった。でも、父様が私を拾ってくれた。母様と兄様が出来た。家族が出来たの。でも……』

 

 シンを見るのでもなく、何もないところをみながらアーシェは話す。シンは黙って聞いていた。

 

『兄様が……怪我をして、重傷って言われて……母様もいなくなって……。何でなのかな……どうしてこんな目に合わなきゃいけないの……私たち、何かしたのかな?』

『……』

 

 その想いはシンが考えていたのと同じものだった。理不尽に奪われたことに、納得がいかなくて。どうしようもない想いを抱えている。

 

『……アスハの伯父様が間違ってるとは思わない。兄様も、母様もきっと同じだと思う。でも……何でなんだろう』

『……』

『君に言っても仕方ないよね……ごめんね』

 

 アーシェの顔を見ると泣き腫らしたように目が腫れていた。恐らくはアーシェだけではない。すすり泣く声はずっと聞こえていたのだから。シンは、ここで初めて気がついた。己だけではないということに。

 

『ごめん……おれ……』

『謝らないで……君に生きてほしいって母様が願ってたから。君は悪くない……』

『……』

『……私はアーシェ・ファンヴァルト。君は?』

『……シン。シン・アスカ』

 

 プラントに着いて、アーシェが飛び出していくのをシンは見ていた。抱きついた相手がアーシェの兄なのだろう。血は繋がっていないので、義理ではあるらしいが。それでも、二人は家族だと感じた。アーシェの無事を喜んでいるように見えた。

 アーシェの兄は、この場において一番偉い人物だった。ザフト軍人で白い軍服を着ていて、周りからはシリウェル様と呼ばれていた。オーブの曹兵たちもだ。アスハの若様だと。

 頭がこんがらがる中、アーシェが戻ってきてシンの腕を引いた。プラントに来るのが初めてなシンは、ただアーシェに着いていくだけだ。

 一人の軍人の前に来ると、眉を寄せてシンを見ていた。

 

『……そちらの君は確か、ファンヴァルト隊長の妹だったか?』

『は、はい……アーシェ・ファンヴァルト、です』

『オーブに避難しているとは聞いていた。お母上は一緒ではないのだな……』

『……母様は……』

 

 表情が今にも泣き出しそうに変わりうつむいたアーシェ。その様子に相手の軍人も察してくれたのだろう。詳しく聞くことはなかった。ただ、そうか、と呟いただけだ。

 

 本来ならばシンは、他のオーブの人たちと同じ施設に向かうはずだった。たが、アーシェが兄に頼んだことで共にファンヴァルト邸へと向かうことになった。

 車で案内されたファンヴァルト邸は、大きな屋敷だった。案内してくれた人によれば、このアプリリウス市の中でも大きい方らしい。部屋は沢山あるらしく、シンにも一室用意してくれた。使用人が沢山おり、シンにとっては居心地が悪い。このような家だとは思わなかったのだ。一般家庭で育ったシンとは別世界だった。

 突然現れたシンにも嫌な顔ひとつせずに対応してくれる人たち。リビングで休んでいると、沢山の写真が目に入った。

 4人で映っているのは、家族写真だろう。アーシェ、そして兄だというシリウェルは、今よりも少し幼い。二人の後ろにいる男性が父なのだろう。隣には、シンを守ってくれた女性が優しそうな笑みを浮かべている。

 最期の姿を思い出してしまう。シンは、シリウェルに何と言えばいいのだろうか。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 今日までにあったことを思い返していると、目が冴えてしまった。少しだけなら歩いてもいいかと、部屋を出る。リビングの方へ向かうと、まだ灯りが付いていた。

 

(まだ、誰かいるのか……?)

 

 居るのならば飲み物でももらおうかとシンは扉を開けた。

 

「あ……」

「ん? ……シン、どうかしたか?」

「シリウェル、さん……」

 

 起きていたのはシリウェルだった。PCを開きながら何か作業をしているようだ。

 

「……えっと」

 

 ちらりとシリウェルの手元に視線を向ける。邪魔をしてしまったのかと、シンは戸惑う。何を考えていたのかわかったのか、シリウェルは苦笑して立ち上がった。

 

「別に仕事をしていた訳じゃない。ちょっとした遊びみたいなものだ……」

「え……」

「眠れないのだろう? 何か飲むか?」

「あ、いえ……その、はい」

「わかった。少し待っていろ」

 

 シリウェルがPCの横にあったボタンを押すと、声が聞こえる。家の中ではあるが通信をしているようだ。

 

『シリウェル様、何かありましたか?』

「飲み物を頼む。俺と、シンの分だ」

『……承知しました』

 

 時間は既に夜中に近い。それでもまだ使用人は起きているようだ。この事実に驚きながらも、シンはどうしていいかわからなかった。

 

「そんなところにいないで、座るといい」

「……は、はい」

 

 隣に座るとPCの画面が少し見えた。何かの設計図のようだ。見てはいけないかと、直ぐに視線を反らす。

 

「……興味あるか?」

「あ……いえ、その……」

「仕事じゃない。……見てみるか?」

「……えっと、はい」

 

 話題があるわけでもない。シリウェルからの提案にシンは乗ることにした。

 設計図とは言ってもシンに内容がわかるわけもなく、ただひたすら文字の配列があるだけだ。何がどうなっているのか全くわからない。

 

「……わからないか?」

「はい……これは?」

「……MSの設計図」

「えっ?」

「俺は軍人だからな……」

 

 軍人。それは戦争をしているということだ。

 オーブを、両親を殺したものと同じことをしている。シンは、眉を寄せてしまう。シリウェルが何かをした訳じゃない。それでも、今はそこまで余裕を持てていなかった。

 

「……シン、君が感じていることは正しい」

「えっ?」

「俺たちは、戦争をしている。オーブを撃った地球軍と同じだ」

「……シリウェルさん」

 

 少しだけ苦しそうに表情が動いた。シリウェルは基本的にあまり表情が変わらない。少なくともシンにはそう見える。だからこそ、それが本心なのだろうと感じた。

 

「君の家族を殺したのは、ある意味でオーブだろう」

「……」

「憎んでいるか……?」

 

 オーブが地球軍に降伏していれば、戦闘にならなければ皆死なずにすんだ。それをはね除けたのはオーブ政府。決定したのは、アスハ家のウズミだ。だが、それはこの人も同じではないのか。シリウェルも失ったはずだ。

 

「……俺は……。貴方は……シリウェルさんは、どうなんですか?」

「……俺か……そう、だな。俺はこうなることがわかっていた。だから、君と同じように悲しむ資格はない」

「え……? どういう、こと……ですか?」

 

 何を言っているのか、シンにはわからなかった。この人はわかっていた、と言った。何がわかっていたのか。知っていたならば、もしかして母親が死ぬことをわかっていたというのか。次の言葉でそれは決定的となる。

 

「……パナマの次に、オーブが狙われること。オーブが地球軍に屈することがないこと。伯父上や母上が……命を落とすことを……俺には予想できていた」

「そ、んな……なんで……」

「……だから、俺は君とは同じじゃない」

「なんで……なんで貴方はっ!?」

 

 シンは立ち上がって叫ぼうとした。だが、それが口から出ることはなかった。表情は変わっていないのに、どうしてかシリウェルが泣いているように見えたからだ。

 憎しみを罵倒を受けようとしている。そんな風にシンには映った。

 

「……なんで、そんな風に……シリウェルさんは……居られるんですか?」

「? シン?」

「悲しいのに……憎いのに、なんで……」

「……悲しい、か」

 

 ふっと、シリウェルは笑った。変わらず悲しそうな顔で。

 

「……戦争の中において悲しみ、憎しみがあるのは当たり前のことだ。なければ、戦争など起こっていない」

「え……?」

「悲しいから、憎いから相手を殺す。殺されたら、また更に憎しみが生まれる。その憎しみがまた人を殺す。戦争は終わらない……その憎しみの連鎖に、俺も含まれている」

「シリウェルさん、も?」

「俺も……多くの人を殺している。そして、憎しみの対象になっているだろう。ならば、誰かを殺されても、悲しくても、そんな資格はないだろう? 当然のことをしているんだからな」

 

 戦争は憎しみから始まっている。殺されたからと相手を殺す。そして、その殺された相手の仇だと更に相手を殺す。シリウェルの話はシンが考えたことのないものだった。当然だろう。シンは戦争とは無縁とも言えるオーブにいた。オーブは中立で、戦火に巻き込まれてなかった。オーブには中立を保つだけの力が、意志があった。何よりもウズミという力が。

 

「……オーブは平和だった。伯父上が戦争に巻き込むことを良しとしなかったからだ。大西洋連邦やプラントからの圧力から守ってきたのは、伯父上だ。出来れば……オーブの国民である君にはオーブを憎まないでほしい」

「……おれ、は」

「戦争を知らないということは、幸せだと思う。君たちの未来を伯父上は守りたかったんだろう。結果としては、オーブは巻き込まれてしまった。多くの命を失った。君の両親たちを含めてな」

 

 戦争を知らない。そうだ、シンは知らなかった。戦争何て言うのは外の世界で、自分達には関係のない話。勝手にやっていろと考え、平和な世界で笑っていた。だが、それは違う。ただ、守られていただけだ。それを失わせたのは地球軍。大西洋連邦だ。オーブは巻き込まれただけ。

 

「……今の君にはきつい話だったな。すまない」

「いえ……その、俺……何でこんなことにって、思うだけで……あそこにいた奴らが憎くて……今まで守られていたなんて、考えたことなかった……」

「それが普通だ……君だけじゃない」

「なら、俺はどうすればいいんですか? ……俺はどうしたら」

 

 自分でも何を言っているのかわからなかった。沢山の情報と想いがあって、シンはもういっぱいいっぱいだ。

 

「……君に必要なのは休息だ。頭を整理する時間が必要だろう。アーシェもな」

「シリウェルさんは?」

「……俺は、暫くは前線にはでないが、命令が下れば戦場に向かう」

「死ぬかも、しれないのに、ですか?」

「そうだな……その時は、君にアーシェを頼むかな」

「えっ」

「そう簡単に死ぬわけにはいかないが……絶対はない。今、あの子を一人残したくはないからな」

 

 死ぬわけにはいかない。死ぬことを許されないという言い方だった。許すとはどういうことか。この時はシンにはシリウェルがどういう立場の人物かわかっていなかった。だから、そこに含まれた意味に気づくことが出来なかった。

 

 

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