痛みと共に目を覚ませば、そこは本部の執務室にある仮眠室だった。身を起こそうと動けば、腹部に痛みが走り思わず声が出る。すると、隣からガタガタと音がして複数の足音が仮眠室へと入ってきた。
「隊長っ!」
「シリウェル様っ」
レンブラント、ナンナが声をあげながら駆け寄り、マリクがゆっくりと歩み寄ってきた。状況が把握できずに、時間を確認すると既に4時間は過ぎている。ラウに襲われてから、ここに運ばれたのだろうか。それとも……。
「……クルーゼ隊長が貴方を運んできたんです」
「マリク?」
「応急処置はこちらで済ませました。医療班を呼んだので問題ないと思います」
淡々と説明はしているが、どこか怒りを含んでいる。怪我をしたシリウェルに対してか、それともラウに対してなのか。
「シリウェル様、一体何があったのですか!?」
「……ラウは何か言っていたか?」
「……いえ、何も」
「そうか……」
何も言っていないといいつつ、ナンナの表情は優れない。確実に何かを話していったのだろう。己が傷つけたと白状したとは思えないが、決していいことではなさそうだ。
治療は住んでいるということならば、黙って寝ている暇はない。シリウェルはベッドから動こうとすると、レンブラントが手で身体を抑えてきた。
「……?」
「隊長……今日はここで休まれてください」
「……そんな暇はない。俺は──―」
「そんな体で何をすると言うんですか? ……わかっていますか、隊長。貴方の体は、治癒力が低下している状態なのですよ。そんな体で動けば、治るものも治りません」
レンブラントが言っていることは正しい。だが、どれだけ正しくとも聞くわけにはいかない。ラウが動いた以上、こちらも手を考えなければ世界は終わる。何としても、避けなければならない。
「治らなくても構わない。それよりも大事なことがある。レンブラント、艦を動かす準備をしておけ。ナンナは──―」
「隊長っ!! 話を聞いているんですかっ!」
「……レンブラント、命令だ」
「っ……」
低い声色で告げた。説教を聞いている時間はないのだ。シリウェルは、異論は認めないという意志をレンブラントに伝える。いつ、プラントに核が向けられるかわからない。動けないと言われようが、シリウェルは出撃するつもりでいるのだ。
「……隊長、何をなさるつもりですか?」
「このままでは、世界は終わる。俺の勘に過ぎないが……パトリックはヤキンに上がっているはずだ。核はザフトも保持している。打ち合いになれば、全て終わる」
「っ……」
「な……まさか、議長がそのようなことっ!」
「……パトリックは、ナチュラルを滅ぼすことを目標にしている。地球軍は、コーディネーターを。ならば、どうなるかは想像できる」
どちらかが滅ぶまで、戦いは終わらないということだ。そんな未来は望んでいない。
「……穏健派の議員が捕らえられている。まずは、拘束を解く。カナーバがいれば、話がしたい」
「……承知しました。艦長、私は先に動きます。マイロード、隊長を頼みました」
「は、はい」
「わかった。……仕方ありません。私も準備に向かいます」
「すまないが頼む」
「……無茶だけはしないでください」
最後に念押しをすると、マリク、レンブラントの二人は部屋を出て行った。
「ナンナ」
「……はい」
「ラウは何と言っていた」
「あ……その……」
「……何も言わないはずがないからな」
隠しても無駄だということだ。ナンナは、視線をさ迷わせているが、ようやく決意したのか口を開く。
「……シリウェル様を死なせたくないのならば、ここから動かすな。……と言っていました」
「俺を動かすな、か……モノはいいようだな」
「本気の言葉だったのです。……怪我をしているシリウェル様を見て、私は息が止まりそうでした。レンブラント艦長が、必死だったのはそのためだと思います」
「……そうか」
心配ばかりかけている部下に、シリウェルは感謝しかなかった。引くわけにはいかないが、彼らのためにも負けるわけにはいかない。可能ならば、ラクスらとも連絡を取りたいが無理を言ってもいられないだろう。
できることをしていかなければ、いけない。
そうこうしているうちに、軍内に警報が響いた。ヤキンの防衛網に地球軍艦隊が引っ掛かったのだ。数は今までで一番多いようだ。恐らくは核攻撃部隊もいるだろう。
慌ててシリウェルは立ち上がろうとするが、痛みに顔を顰め崩れ落ちそうになる。
「シリウェル様っ!」
「っ……助かる、ナンナ」
「……カナーバ様の元へ向かうのですね。お供します」
「あぁ……頼む」
マリクのことだ。予めある程度の予想はついているだろう。パトリックたちの目は完全に地球軍へと向いている。この時が、隙を付ける好機だった。ヤキンを除いた本部を掌握する。
時間は刻々と迫ってきていた。