数時間後、最高評議会の会議室でシリウェルは、救出されたカナーバらと会うことができた。
既に核攻撃がプラントに放たれ、ヤキン・ドゥーエは内部の状況を気にかける余裕もない。
プラントへの攻撃はラクスらが防いでくれた。シリウェルも早く合流したいが、その前にプラント側の体制を整えなければならなかった。
「シリウェル・ファンヴァルト、私たちを解放してくれたのは感謝するが、一体何を考えているのだ?」
解放された穏健派の議員たちを代表した言葉なのだろう。シリウェルはどちらかと言えば、軍側だ。ということは、パトリックと近しいと思われても仕方がない。不信感があるのは当然だった。
「カナーバ、貴方方に頼みたいことがある。そのために、力を貸してほしい」
「……頼み、だと?」
「現在、地球軍とザフト軍が戦闘中であることは知っているな」
捕らえられていたのだ。状況はわかっているかどうかは重要だった。議員らは顔を見合わせて確認をする。
「……問題ない。わかっている」
「ならば、お互いが核攻撃の手段を持っていることも理解しているか?」
「どういうことだ?」
カナーバは厳しく眉を寄せる。ここまでは把握できていないということだ。まさかそこまでのことをするとは、考えたくないということかもしれない。
「……パトリックは核攻撃を厭わない。報復として、必ず撃つ」
「……まさか……我らは放棄を誓ったはず。それは最高評議会での決定だ。それを違えるというのか?」
「Nジャマーキャンセラーは、既にMSに搭載され、データが地球軍へと流れた。開発したのは、ザフトだ。誓いなど既に破られている」
「……ファンヴァルト」
「最高評議会議長として、パトリックは既に相応しいとは言えない。ザフトが核攻撃を──―」
その時、バタバタと会議室へと駆け込んでくる足音が聞こえた。シリウェルらがそちらを向けば、息を切らしている兵の姿。ファンヴァルト隊の部下だ。
マリクが駆け寄り落ち着かせると、息を大きく吐いて声を張り上げた。
「隊長、申し上げます! た、只今ヤキン・ドゥーエより巨大なエネルギーが照射されました! 核が使用されたものと思われます! 軍の内密資料を模索したところ、それはジェネシスというものだと」
「……」
「なっ……」
黙ったまま眉を寄せるシリウェルと、驚きに声を失っているカナーバたち。シリウェルとて全ての兵器を知っているわけではない。マリクが部下から資料を受け取り、シリウェルへと渡す。中に記載されているのはジェネシスの内容だ。
「……虐殺兵器、だな」
「……はい」
『勇敢なるザフト軍の諸君』
「こ、これは……ザラの声か」
ザフト軍全域に対する放送なのだろう。この場にまで届いてきたのは、パトリックの演説だった。地球軍の核攻撃を虐殺とし、ジェネシスの攻撃を肯定する。全てはザフトのためだとし。
「パトリック……お前はそこまで墜ちたのか」
「隊長……いかがしますか? このままでは」
「わかっている。俺も出る」
「……隊長、今の貴方は出撃できる状態では──」
「迷っていれば取り返しがつかない。ヘルメスへ戻るぞ。エターナルとも連絡を取る」
「待て、ファンヴァルト! 何をするつもりだ」
時間がなくなった以上、ゆっくりと説明する時間はない。
シリウェルは会議室にある端末を操作すると、ヤキンを除く軍本部へと通信を開いた。
「……司令部に残っているザフト軍兵士に告げる。俺は、シリウェル・ファンヴァルトだ。地球軍へ向けられたザフトの核攻撃。いずれその射程は地球へと向けられるだろう。ナチュラルを殲滅するのが、パトリックらの目的だからだ」
「……ファンヴァルト……」
「隊長……」
施設内にいる軍人の中には、出撃を待機している者もいる。技術者たちも、パトリックに近い立ち位置にいる議員も。しかし、シリウェルにとってそんなことは既に関係がなかった。躊躇してもいられない。この先、例え裏切り者だと言われようとも、これ以上の暴挙は防がなければならない。軍人として、指揮官として認めるわけにはいかないのだ。
「皆はそんな世界を望んでいるのか? ナチュラルだというだけで、彼らはコーディネーターである者と何ら変わらない。そこまで、生まれた遺伝子が重要だと言うのか? ……俺は、そんな世界は望まない。もし、同じ想いを持つならば、力を貸して欲しい」
放送を聞いている兵たちは、静まる。シリウェルの生まれを理解していない者などいない。だからこそ言葉には重みがあった。ナチュラルとコーディネーターの双方の血を引く。どちらかを滅ぼすということは、シリウェル自身の存在を認めぬということだ。
「シリウェル様……」
「……しかし、議長は」
「アラスカで俺は命を救われた……なら、俺はシリウェル様を信じる」
「それは……だかっ」
各々が迷う。権力者としての議長に従うか。英雄であるシリウェルに従うか。この時点で、シリウェルの勝ちだと言えるだろう。
実際に、残っているほぼ全員の中ではシリウェル側に心が動いていたのだから。
シリウェルは通信を開いたまま、カナーバらを向く。聞かせるために敢えて閉じなかった。
「……カナーバ、ヤキンは俺が押さえる。エザリア・ジュールらの拘束は任せてもいいか?」
「ファンヴァルト、本気か?」
「世界を終わらせるわけにはいかない。そのためならば構わないさ」
「……本当に、お主はテルクェスの息子だな」
苦笑しながらカナーバは、シリウェルへと手を差し出した。
「死ぬなよ、ファンヴァルト。この後の世界を作るには、お主の力が必要だ……」
「……俺がいなくても、問題ないと思うがな」
「……帰ってこい」
約束は出来ない。カナーバもわかっていて言質を取ろうとしているのだ。だが、それでもここで言葉にすることは出来なかった。代わりに、シリウェルは手を差し出してカナーバの手を握る。
「ここは頼んだ」
「……任されたよ」
「……行くぞ、ナンナ、マリク」
「はいっ」
「……はっ」
不満そうではあるが、シリウェルの後を二人は追いかける。動きが遅いことに、カナーバは気がついていた。アラスカでの怪我のことは無論知っている。
先ほどの部下の言葉から、シリウェルが万全の状態ではないことは予想するに難くない。
「死ぬなよ……シリウェル」
「カナーバ殿……彼は」
「覚悟なのだろう。若い彼が死地に向かうというならば、私たちも期待には答えなければならない」
「しかし……」
「彼は軍部において、かなりの崇拝者がいる。ならば、先ほどの放送により私たちに協力してくれる者も多いだろう」
迷いがあるものは不要だ。動くものだけでもいい。カナーバは心を決めた。