ジェネシスの発射により、地球軍の補給部隊は壊滅した。これで、地球軍は手立てを失ったということになる。ならば、残るは……。
MSに乗り込み、宇宙空間での戦闘に備えてOSを書き換える。準備は完了だ。
「ふぅ……」
やんわりと腹部に触れる。痛みはあるものの、まだ傷口が開いたわけではない。どのくらいまで持ちこたえてくれるか。
『隊長、MS部隊出撃準備完了しました』
「よし……MS部隊出撃!」
『はっ』
返答後、次々と出撃していくMS。シリウェルは最後だ。
CICはユリシアなので、画面にも彼女が映る。先ほど交わした温もりが蘇る。そう感じている自身に、シリウェルは苦笑した。
「思いの外、俺は君を想っていたようだな……」
『シリウェル様?』
「……行ってくる、ユリシア」
『っ……はい』
「シリウェル・ファンヴァルトだ。レイフェザー、出る」
『ファンヴァルト機、発進お願いします』
加重と共にMSを操作し、シリウェルは宇宙へと飛び出した。負荷がかかったことで、更に痛みだす傷口を思わず押さえる。開いたのは間違いないだろう。出血はなるべく押さえるように処置はしてあるが、限界はある。シリウェルは首を横に振り、外に集中した。
宇宙空間には、同じく飛び出してきたフリーダム、ジャスティスがいる。元はザフトの機体だ。通信コードはわかっていた。
「アスラン、そしてキラか」
『はっ』
『シリウェルさん』
「手筈通りに行きたいが、まずは邪魔なものを排除すべきだろう。アスランはヤキン側の対処を頼む……」
『はい』
アスランの機体が動き出すと、それにあわせてシリウェルの部隊も一部が連なるように行動を開始した。赤い機体は目立つ。同じくヤキンへの突入部隊には、前もってアスランの機体については話してあったのもあって、分かりやすかったのだろう。
「ちっ……」
指示をだしながらも、シリウェルは近づいてくる地球軍MSを対処していた。近くにはフリーダムがいる。通信は繋がったままだ。
『シリウェルさん、貴方は』
「俺のことは気にするな……君は、君のすべきことを全うするんだ」
『ですがっ……』
後方からビームを撃ってきたのは地球軍のMSである2機だ。モビルアーマーにも変形できる機動性の高い黒いMSと、高い火力を持つ青緑系のMSだった。
キラがシリウェルを庇う形で反撃する。シリウェルは一瞬対応が遅れていた。助けられたということだろう。
『シリウェルさん、彼らは普通のパイロットではありません』
「……のようだな。ナチュラルでもなく、コーディネーターでもないか。ふざけたことを……」
『シリウェル、さん?』
「こちらの話だ。……悠長に話をしている場合ではないようだしな」
『っ!』
既に攻めのみを行っている姿からは、パイロットとしての判断力が残っているようには見えなかった。シリウェルは、動きを制限しながらも地球軍の残党を始末していく。向かってくる様子のない者ならば、捨て置いてもいいだろうが後ろから攻撃されて墜とされては意味がない。一方でザフト軍のMSを見かけた。シリウェルは通信を開く。
「お前たちは退け」
『な……ですがっ!』
「既に決着は着いた。今はやるべきことは違うだろ!」
『反逆者の肩を持つのですかっ! シリウェル様!』
「このまま世界を滅ぼすつもりかっ! 退けっ」
『っ……』
MSの腕を破壊しながらシリウェルは、戦場を駆けた。いつの間にかフリーダムの姿は見えない。撃たれたとは考えていない。援護に向かったのだろう。未だ、地球軍の旗艦としてアークエンジェル級が残っている。それは、任せても良さそうだ。シリウェルはヤキンへと向かった。
☆★☆★☆★☆
ヤキン・ドゥーエ付近の戦場では、ラクスが呼び掛けたことで混乱は極まっていた。拍車を駆けたのは、ファンヴァルト隊の艦が共に居たことだろう。最も、それが狙いだったので予想通りの動きといったところだ。
その時、一体のMSがエターナルに向かっていた。シリウェルは遠くから、それを捕捉している。誰が乗っているかもわかっていた。最後に設計した機体。この段階で乗るとなれば、一人しかいない。
「ラウっ!」
エターナルへ攻撃をする前に、シリウェルは機体へ攻撃を仕掛ける。容易に交わされた攻撃だが、エターナルから逸らすことは出来たようだ。
『お兄様っ!』
「……ラクス、下がれ。こいつは俺が相手する」
『ほう……来たのか、シェル。あれほどの深手を負って尚、戦場に来るとは……死ぬつもりかな?』
「……お前は、俺が止める」
通信によってシリウェルとラウの会話は、エターナルにも筒抜けになる。そこへ、ヘルメスも加わってきた。
『隊長っ!』
『……ファンヴァルト隊か。やはり、最後まで君は変わらない』
「……ぐっ」
ラウの機体。それは、プロヴィデンスという機体だった。パイロットの操作により自由無人に動き回るビーム砲は、今までにないものだ。地球軍のモビルアーマーをもとに設計したものだった。簡単には制御できない。だが、ラウは制御していた。クローンとはいえ、ナチュラルであるラウがここまでの技能を取得するのは、容易ではない。
攻撃を交わしていくことで、シリウェルは傷口から血が滲み出てきているのを感じていた。腹部に手を当てれば、掌に血がついている。それでも、ここで引くわけにはいかない。
(ヤキンは……アスランたちに任せるしかない、か……)
歩兵として戦力にはならない。なら、この場で力を果たすだけだ。
『傷が痛むのだろう?』
「……」
『隊長、戻ってください! 貴方はもうっ!』
掛け声に答えることなく、シリウェルはラウへと仕掛ける。プロヴィデンスとレイフェザー。性能でいえば、シリウェルは勝てない。ラウのより優っているのは、技量のみだ。更に言えば、ハンデを持っている。誰が見ても分が悪いのはシリウェルの方だった。
『……シェル、君には生きてほしかったが仕方ないな。なら、せめて苦しまずに私の手で送ってやろう』
「ぐっ」
ビームサーベルでコックピットを狙ってくるラウの攻撃を、同じくサーベルで防ぐ。押されていても、シリウェルはここで引けない。
刹那、複数のビームがプロヴィデンスを狙ってきた。シリウェルとの距離をとり、ラウは避けた。
『ほぅ……追い付いてきたのか。キラ・ヤマト』
「キ、ラ……?」
『貴方は! 貴方だけはっ!』
フリーダムが特攻に近い形で飛び込んできた。ラウを真っ直ぐに狙う。その攻撃を前に、シリウェルは手を出すことは出来ずにいた。フリーダムという機体は、万能型の機体だ。それにキラの技量もあるのか、ラウのプロヴィデンスを押していた。二人の問答は、シリウェルにも通信を介して届く。
『まだ苦しみたいのか? いつかは、やがていつかはと! そんな言葉に踊らされて、一体どれ程の血を流してきた!』
ラウの言葉は、コーディネーターの歴史だ。他者より上へ。他者より先へと、進化の道を歩んできたコーディネーターたち。その裏では、その存在を認めないとして虐殺が行われていた。
だが、表では子どもをコーディネーターしようとする者も多くおり、まるで子どもをモノのように扱っていた事実がある。思い通りの子どもでなければ、捨てる親もいたのだ。そんな子どもを生まないように、希望通りにコントロールできるようにと作られた人口子宮のプロジェクト。
『君とてその結果だろう!』
『それでも……それでも僕はっ!』
「ラウ! もうやめろっ!」
キラの生い立ちは、シリウェルも知っている。結果として、キラはコーディネーターとして最高の状況で生まれた。しかし、それは彼自身には関係のないことだ。そのために生み出されたとしても、ラウ自身は既に別の人生を歩んでいるのだから。
「痛っ……お前は、そうだとしても……違うだろうっ! 世界を、巻き込む資格など……お前にもないんだ!」
『シェル……君こそ何故世界を守る? 希望があるからか? そんなこと、君が受けたことと何の関係もない』
「……っ」
『あんな仕打ちを受けておいて、それでも世界を──』
「俺が生きているのは、ここだ。……何があろうと、ここに生きている! お前も、共に……」
こうしている間にもヤキンから情報が入ってきていた。自爆シークエンスが動き始めている。この位置に入れば巻き込まれるのは必至だ。
「な、に……」
『もう遅いのだよ、全て。私の勝ちだ。ヤキンが自爆すれば、ジェネシスは発射される』
ラウの言うことは本当だ。アスランからも報告が届いていた。内部に入り、ジャスティスを核爆発させるという。カガリも着いていったようだが、ここまでくればそこは任せるしかないだろう。
「キラっ、下がれ!」
『シリウェルさんっ!』
『世界は終わるっ! シェル、これがその結果だ!』
「……ラウ……俺は、君を友だと思っている。お前にも未来はある。この世に生み出された意味など関係ない……だから、諦めるな! 見切りをつけるのは、まだ早いんだ……頼む、ラ……ウ」
画面が霞んでくるのがわかった。もう体が限界なのだろう。シリウェルは、そのまま意識を失った。
カタンと操作を失ったレイフェザーをプロヴィデンスが支える。
『……本当に、君は。……どうして、そこまで。君を苦しめた世界を、人を。否、違うか……君はやはり私とは違う。必要な存在だということなのだろうな……』
ラウはすべての通信を閉じた。ジェネシスから光が届く。自爆の時を迎えたのだろう。このままここにいれば、ジェネシスと共に終わりを迎える。プロヴィデンスとともにレイフェザーも。即ち、ラウもシリウェルも共に死ぬということだ。ラウは、これをどこかで望んでいた。
『……おしい、な。さよならだ、シェル。……君のために滅したかったが……と言ったところで聞こえないだろう……生きたまえ、シリウェル』
プロヴィデンスはレイフェザーをフリーダムの方へと投げつけた。と、同時にジェネシスは爆発の時を迎える。
レイフェザーを受け取った勢いのまま、フリーダムは後方へと逃げていく。半ば呆然としながら、キラは爆発する光景を見つめていた。