戦争停止後、直ぐの話。
第31話 終幕
ヤキン・ドゥーエ、ジェネシスが爆発し、パトリックも死した。最高評議会は、ザフト全軍に戦闘行為の停止を指示。議長不在ということだが、臨時としてカナーバが名乗りをあげた。
多くの犠牲を出しながら、双方の現段階における責任者たちはこれを受諾し、ここに長きに渡る戦争は終結した。
レンブラントは急いでMS部隊の生存を確認し、信号弾を撃って帰投を命じた。だが、その中に隊長であるシリウェルのレイフェザーがない。
「隊長……どこに……」
焦りが艦内に広がる。爆発したヤキンに巻き込まれたのか。最悪の事態を想像して、首を横に振った。
「……各機、収容完了を急げ」
シリウェルがいない今はレンブラントがここの責任者だ。取り乱すことは出来ない。ちらりと、ユリシアの様子を伺いながらレンブラントは己の責務を全うするべく指示を飛ばした。
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呆然としていたキラは、ふと我に変えると急いでエターナルへと向かっていた。
最後の最後でラウの乗るプロビデンスから渡されたのは、シリウェルだ。呼び掛けても反応がないことから、意識がないことが考えられる。最悪の想定をしながらも、キラは傷ついた機体でエターナルへと駆け込んだ。
『ラクスっ、シリウェルさんが!』
切羽詰まったようなキラの声に無事を喜ぶ想いと、兄にも等しいその名にラクスはブリッジを急いで出て格納庫へと向かった。
ボロボロのフリーダムの近くには、レイフェザーがある。直ぐにバルトフェルドも追い付き、そのま
コックピットを無理やり開けた。
「っ……ファンヴァルトっ! おいっ!」
「バルトフェルドさん……」
「ちぃ、ダメだ。おい、ダコスタ! 聞こえるな」
『は、はい隊長』
「ヘルメスが近くにいる。通信繋げ! ファンヴァルトが意識不明だ! 応急処置はするが、迎えに来いとな」
『はっ』
よく見れば、腹部からは血が出ていた。コックピットが傷つけられたわけではない。ということは、乗る前から負っていた傷ということだ。
急ぎ医務室へと運ぶ。慌ただしく治療をする医師たちを見ながらバルトフェルドは息をついた。その横には、不安そうな顔をしたラクス、キラがいる。
「バルトフェルド艦長……お兄様は、どうですか?」
「まずいな……ここでは応急処置程度しか出来ん」
「……そう、ですか」
いい言葉を聞けなかったためか、ラクスはぎゅっと唇を噛みしめるように俯いた。そして、側にいるキラに寄りかかる。
ラクスの家族だったシーゲルは既に亡くなった。ならば、シリウェルはラクスに取って兄と同じであり、最後の家族のようなものだ。
と、足音と共に医務室の扉が開いた。
「……失礼します、隊長。ファンヴァルト隊の方が……」
「ご苦労、ダコスタ。……そちらは確か」
「……お久しぶり、でしょうかね。バルトフェルド隊長。マリク・ダイロスです。ヘルメスの副官をしております」
バルトフェルド相手に律儀に挨拶をしたかと思えばそのまま、マリクは直ぐに視線を横たわるシリウェルに向けた。
「全く……本当に心配事ばかりかける方です。……隊長を助けていただき、ありがとうございます」
「……助けたのはキラだ。礼ならそいつにいいな」
バルトフェルドはキラを示す。この場にいるのだから、関係者だということはマリクにも直ぐにわかるだろう。よもやキラがフリーダムのパイロットだとは思わないだろうが。
「……キラ殿ですね。ありがとうございました。ファンヴァルト隊一同、貴方に敬意を」
「いえ……僕はその……」
「受け取っておけ、キラ。こいつらはファンヴァルトの信望者だから下手に拒否すると面倒だ」
「はぁ……」
「それと、ラクス嬢」
次にマリクはラクスへと向き直った。寄りかかっていた体を起こして、ラクスはマリクを見据える。
「はい」
「……隊長は、常に貴女を気にしておられます。その事をお忘れなきように」
「……わかっています。マリクさん、お兄様のことを宜しくお願いします」
「勿論です。では、我々はこれで」
頭を下げた後、マリクは治療の終わったシリウェルを抱えた。傷に触れないように優しく横抱きにし、ゆっくりと歩き出す。そうしてマリクは出ていった。その背中を見ながら、バルトフェルドは重く息を吐く。
「バルトフェルドさん?」
「……本当に過保護な部隊だな。噂に違わず」
「えっ……」
「お兄様の部隊は、過保護なことで有名なのです。英雄、ですから」
「そう……」
エターナルはこの後、アスランとカガリを収容し、戦線を離脱することになる。
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ヘルメスへと戻ってきたシリウェルだが、目が覚めることはなかった。医務室で様子を見ながら、一行はプラントへと戻ることになる。
カナーバを含む臨時最高評議会より、呼び出しがあったためだ。ザフト軍においても、多くの指揮官が亡くなり、国防委員会も機能していない。だからこそ、シリウェルが呼び戻されたのだ。
プラントに到着し、レンブラントらが医務室を訪ねると、未だシリウェルは眠っていた。顔を青くしたユリシアも涙を浮かべながら様子をうかがっている。
「……出血は予想より押さえることはできたと思いますが、それでも酷いことには変わりありません。やはり、安定した場所で治療を受けた方が良いと思います」
「そうだな……なら、まずは隊長を──―」
「その必要はない……っ」
レンブラントの言葉を遮ったのは、シリウェル本人だった。体を動かそうとして失敗したのか、痛みに眉を寄せていた。
「隊長……意識が戻ったんですね」
「……ヘルメス、か。俺はどうしてここにいる?」
「エターナルが隊長を収容したんです。私が引き取りに行きました」
マリクが答える。同時にエターナルの無事をも知らせていた。ラクスらが無事であることに、シリウェルも安堵の息を洩らす。
「そうか……状況は?」
レンブラントは両軍の間で戦闘の停止が受諾されたこと。臨時最高評議会がカナーバ主導の元発足したこと。ファンヴァルト隊の被害についてを報告した。
「……」
「隊長、まずは治療をするのが先かと思いますが?」
「……いや、最高評議会に顔を出してからだ」
「隊長っ!」
「少し話をするだけだ……カナーバとな」
投げっぱなしにしたのだから、結果として報告をしなければならないだろう。シリウェルは痛む傷を押さえつつも、ゆっくりと起き上がる。そんなシリウェルをナンナが横から支えた。
「……レンブラント、皆に休息を与えてくれ。今後については、追って伝える」
「……わかりました。マイロード、任せたぞ」
「はい」
「艦長、私は隊長と共に向かいます」
「マリク……わかった」
無重力とは違い立ち上がるのも痛みを伴う。思い通りにならない体に、シリウェルは苦笑する。
あの時、シリウェルは死を覚悟した。戦場で意識を失うということは、死と同義だ。だが、シリウェルは生きている。
あの場にいたのは、キラとラウ。恐らくは、ラウは死んだのだろう。見逃してくれたのか。それとも、助けてくれたのか。どちらであるかはわかることはもうない。
それでも、生き長らえたのならばやるべきことをしなければならないだろう。
軍内部を歩けば、困惑の表情が目立っていた。事態が理解できない。何が起きて、これからどうなるかもわからないという感じだろう。
シリウェルの側に寄ろうとする者もいるが、マリクが追い払う。相手が出来る状態ではないからだ。ナンナに支えてもらわなければ歩くことも出来ないのだから。
「……シリウェル様だ……」
「シリウェル様……ラクス様と共に居たと聞いたが」
「議長が、間違っていたというのか……?」
「だが、それでは俺たちは一体……」
呟かれる言葉に、マリクは眉を寄せる。その矛先がシリウェルに向かないようにと気を配っているのだ。このために、同行したのかもしれない。
人気がなくなったところで、シリウェルはマリクに礼を伝える。
「……助かった。すまなかったな」
「いえ……隊長にすがりたいのでしょう。気持ちは分からなくはありません。ですが、今優先すべきことは貴方ですから」
「そうか……」
時間をかけつつも議会室へと到着する。警備の兵はいない。本当に臨時としての意味しか持たないということだ。
マリクが扉を開ければ、立ったまま話し合いをしているカナーバ達がいた。シリウェルらが来たことに気がつくと、駆け寄ってくる。
「ファンヴァルト! 無事、とは言えないようだな……」
「……まぁな。カナーバ、対処してくれて助かった」
「私らは務めを果たしたまでのこと。それよりも……良く生きて戻ってくれた」
「……」
本心からの言葉を受けて、シリウェルは答えに詰まった。何を言えばいいのかわからなかったのだ。
「ふふっ、お主もその様な顔をするのだな」
「?」
「まぁいい。顔色も良くないようだ。怪我の具合はどうなのだ?」
「傷が開いただけだ。血が足りない位だな」
「お言葉ですが、貴方は直ぐにでも病院へ向かう必要があります。カナーバ議員、要件は早めにお願いしたいのですが」
シリウェルの回答を否定するようにマリクは続けた。傷が癒えないのだ。専門的な場所できちんとした治療を受けなければいけない。その後は、安静が必要となるだろう。シリウェル自身にもわかっていることだ。
「……そうか。要件は今後の連邦との付き合わせについてだ。出来ればお主の力を借りたかったが」
「知恵だけならば可能だ。が、今の俺は暫く動けないだろう。この身が必要な案件は……治るまでは見込めないと考えてくれ」
「承知した……頭だけは貸してもらうぞ」
「そちらは構わない」
シリウェルとしても早くこの場を去りたかった。貧血気味なのか、目眩が襲ってきているのだ。マリクではないが、今後は治療に専念してからでなければ動くことは避けた方がいい。
「……確約がとれただけでもいいか。早く行け。青い顔をしている」
「すまない、な」
「失礼します」
支えられつつ部屋を出ると、シリウェルは崩れ落ちた。
目眩に耐えられなかったのだ。
「隊長……抱えていきますか?」
「……俺が、意識を失ったら、な」
「シリウェル様、ですが……」
「仕方ありませんね」
とは言うものの、結局差ほどの距離を移動することなくシリウェルは気を失い、マリクに抱えられることになるのだった。