ガンダムSEED 天(そら)の英雄    作:加賀りょう

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主人公不在です。



第32話 それぞれの想い

 アプリリウス市内は戦争停止の状況を受け、混乱が生じていた。議会も不能に陥っている。このような状態が続けば、戦後の対応を協議している場合ではないだろう。

 混乱の中、ナンナとマリクは病院へと向かった。この事態を読んでいたのか、担当医は既に準備をしており、担架に運ぶとすぐに処置室へとシリウェルを運んでいく。

 

 倒れたのは出血多量による貧血と、加重負荷による衝撃で身体を痛めていることが原因らしい。しばらくは体を動かすことはせずに、体調を整えることを優先すべきだと叱責を受けた。受けるべき本人は未だ目覚めていないが、ひとまずはこれで危機は去ったと言えるだろう。

 

「マリク殿、私はファンヴァルト邸へ連絡を入れてきます」

「……そうですね。心配しているでしょうから、お願いします」

「はい」

 

 病室で眠っているシリウェルを残し、ナンナは出ていく。病院に来た時点でマリクの任務は終わりだ。ナンナと違い、マリクはあくまでもファンヴァルト隊の一員で部下でしかない。

 

「……戦争は終わりましたが、これからが大変なのでしょう」

 

 所謂、戦後処理だ。

 立場上、シリウェルも駆り出されるはずである。治療という名目があるとはいえ、出来ることはやる人だ。人前に出ることを、要請されれば頷くだろう。人々の混乱を制するには手っ取り早いのだから。

 その為にはストッパーとして、マリクも側にいる必要があるかもしれない。艦を動かすことは今は不要なのだ。

 

「暫くは、隊長の公的任務に付き合ってあげますよ」

 

 軍人が行わないことをしても、文句を言う相手はいないのだから。

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 同じ頃、ファンヴァルト邸。

 

 戦争終結との報が流れるテレビ画面をアーシェとシンは、食い入るように見ていた。状況までは伝えられていないが、どういうわけか議長ではなく臨時最高評議会として他の議員らが話をしていたのだ。

 一般人に真実が伝えられる程、状況の整理が行われていないからだ。

 

「兄様……」

「アーシェ」

 

 一人の人の安否を公共放送が報告するわけがない。それはアーシェもわかっている。シンと共に屋敷に戻ってきて、次の日からシリウェルは帰ってきていない。

 戦いに向かったのだ。シリウェルは軍人。プラントの英雄なのだから、当然のこと。それからアーシェは不安で堪らなかった。その時、屋敷がザワザワと騒がしくなる。

 

「……なぁ、何かあっちが」

「えっ……」

 

 リビングではなく、廊下の方がバタバタとしている。と、ガチャリと扉があいたと思ったら、執事のセイバスが珍しく音を立てて入ってきた。慌ててアーシェも座っていたソファーから立ち上がる。

 

「アーシェ様! シリウェル様が」

「兄様が?」

「……ご無事だと、ナンナより連絡がありました」

「あ……」

 

 無事。それは、シリウェルが生きているということだ。アーシェは足の力が抜けて床に座り込んだ。

 

「アーシェ、良かったな!」

「シン……うん。兄様……良かった。良かった……ぐすっ! 良かったよぉ!」

 

 安堵からかアーシェからは涙が流れていた。側にいたシンに抱きつき、そのまま声を上げて泣き出す。

 セイバスを初めとした使用人たちもほっとしていた。侍女の中には、泣いているものもいる。ここ数日、屋敷を覆っていた張り詰めていた空気が解れていくようだった。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 宇宙艦ヘルメス。

 シリウェルが不在のため、レンブラントが艦長としてこの場にいる。ひとまずは、戦いは終わった。精神的に参っている兵たちも多いため、休息を取らせるとして全員を艦から降ろしていた。自宅に帰っているものもいれば、寄宿舎に戻っているのもいるだろう。そんな中、一人艦に残っていたのは、気になることがあったからだった。

 

 エターナルの艦長であるバルトフェルドから、シリウェルとラウとの戦いで交されていた話の内容を聞いていたのだ。向こうも気になったのだろう。ラクスも今は戦いが終わったことで、それどころではないようだったが、レンブラントもバルトフェルドもそこまで繊細ではない。

 

「……隊長がこの世界にされた仕打ち、か」

 

 ヘルメスの指揮官にあるPCを起動してみる。複雑な機構もあるが、操作するだけならばレンブラントも可能だ。複雑な処理やパスワードが入っているわけではないため、開くのは簡単だった。

 開いていても、ヘルメスに搭載されているMSの情報や武器、宙域での情報、戦闘データなど戦いにおいて必要なデータがほとんどだった。だが、一つだけ無名のフォルダを見つける。奥の方にあったため、普通ならば気が付けないところにひっそりとそれはあった。鍵はかかっていない。少しの罪悪感を抱きながら、レンブラントはフォルダを開く。

 

「これは……ナチュラルの、強化……っ!?」

 

 暗号のように記載されているところもあるが、普通に読み取れる箇所もある。一部分だけとはいえ、読み取っていけばそれは、いわゆる人体実験のデータだった。被験者の名は、シリウェル・ファンヴァルトとある。

 詳細まではわからないが、これはプラント側で行われていたことだということはわかる。

 

「クルーゼ隊長は、これを知っていた? ……だから……いや、ということは隊長のためだというのか」

 

 話を詳しく聞けば、核を地球軍に渡したのはラウ。パトリックに地球を撃たせ、ブルーコスモスにプラントを撃たせる。そうすれば、世界は憎しみに包まれ人は戦い続ける。いずれ、己の手で世界を滅ぼすまで。

 最悪の事態は避けられたが、それでも憎しみは収まったわけではない。更に言えば、これを知ってしまったレンブラントは、少なくともプラント政府側にも疑念を抱いてしまっているのだ。これが軍に、否プラント国民に広まればどうなるか。非人道的行為を認めることはないだろう。具体的にどういうことが行われていたのかは、わからないがどのような方法であったとしても幼い子供に対して行うことではない。

 

「……聞くべき、だろうな。全く……」

 

 誰も聞いていないが、レンブラントも悪態をつきたくなってしまう。大西洋連邦だけでなく、プラント政府側にもある膿を出さなければいけない。まだ、平和への道のりは長いのだと、通感させられたのだ。

 

 

 

 

 

 




一旦、種側がひと段落したので、投稿ペースは落ちると思います。
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