ガンダムSEED 天(そら)の英雄    作:加賀りょう

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第33話 戦後翌日

 その日の夜、シリウェルはふと目を覚ました。意識を失ったのは、最高評議会を後にして直ぐだったので、ここまではマリクが運んだということだろう。

 ならば、ここは以前運ばれた時と同じ病院ということだ。

 ふぅ、と息を吐くが病室には誰もおらず、唯一音がするのはシリウェルの腕に繋がれた管の先にある機器音のみ。軍服ではなく入院着に着替えており、腹部に手を当てれば包帯が巻かれている。出撃時の時のように締め付けるものではないが、止血のためか硬く巻き付けられていた。

 

「……生かされている、か……」

 

 体を動かすのは億劫で、顔だけを窓に向ける。プラントの空は人工的なもの。それでも、この空を再び見上げることができるという事実は、戦争から生きて戻ってきたことを自覚させてくれる。暫くは、命のやり取りから離れることができる。ザフト兵の全員に言えることだ。無論、シリウェルも。

 戦後、ということにはなるが、ここからどう動いていくべきか。手を回した自覚はあるので、関わらない訳にはいかない。カナーバとも、そう約束したのだから。ただ、今だけは休んでも文句は言われないだろう。

 

「ラウ……」

 

 最後の最後に力尽きたことが悔やまれる。最期に、ラウがどういった行動を取ったのか。それを知りたいと思った。生きていないことは何となく予想できている。覚悟もしている。結局、シリウェルにはラウを止めることも救うことも出来なかったということに変わりはないが、ならば最期の瞬間まで見ていたかった。

 その悔しさに、シリウェルは右手拳を握りしめる。力を入れなければ、涙が溢れそうだった。

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 翌朝、シリウェルの元に医師が訪れた。まだ早い時間のため、ナンナは来ていない。

 

「シリウェル様、ご気分はどうですか?」

「別に」

「……まだ顔色は優れないようですし、気分が悪いのであればおっしゃってください」

 

 近くにいた看護師に指示を出しながら、医師はシリウェルの容態を確認していく。そうして、暫くはされるがままだったシリウェルだが、腹部の包帯を替える時は流石に痛みを押さえることはできなかった。思わず体を捩ってしまったのだ。

 

「っ……悪い……」

「いえ。……出来るだけ動かないでください」

「あぁ……わかっている」

「昨日は状態が良くありませんでしたので、少しきつめに薬を塗りました。効き目があるかはわかりませんでしたが、今の状態を見るに……どうやら良くなっているようです。少しずつ、毒の後遺症も治ってきているみたいですね」

 

 そう話ながら医師と看護師はテキパキと手を動かす。

 元々、シリウェルの怪我がここまで悪化したのは、アラスカでの襲撃の際に負った毒による怪我が原因だ。その毒さえ完全に抜ききれば、それほど危険な状態ではなくなる。

 

「……シリウェル様、出来るだけ体は動かさないようにお願いします。せめて完全に傷が塞がるまでは」

「出来るだけ、なのか?」

「先生っ!」

 

 絶対安静と言われることを覚悟していたが、医師から伝えられたのは多少ならば構わないという制限だった。シリウェルでなくとも不思議に思うだろう。共に処置をしている看護師は、驚いたように声を上げ動きを止めて医師を見ている。

 

「医師としてならば、絶対安静の上に面会も制限したいところです。ですが……そういうわけにいかないことも理解しているというだけです。こちらも動くことを想定して対応をしなければなりませんから。今は戦後の不安定な時期です。シリウェル様を必要としている人は多くおります。……そのお顔を見るだけでもいいと」

「……」

「ラクス様はいません。反逆という発表が真実でないことは直にわかるでしょうが、だからこそ──―」

「言われなくともわかっている。……議会も求めてくるだろうからな」

 

 戦争で拠り所を失った人々の、それに成れということだ。要するに、シンボルのようなもの。立っているだけ、もしくは座ったまま顔を見せるだけでもいいと。

 

「とはいえ、評議会の方以外は面会も控えてもらいたいですが」

「……謝絶ではないんだろ?」

「それは……。ですが、時間は制限させていただきます。短い時間ならともかく、こうしてお話するだけだも傷に触りますから」

「……」

 

 話をするということは、端から見ている以上にシリウェルにとって負担となる。そうはいっても、元来話をする質ではないので、制限する程ではないとシリウェル自身は思っていた。

 

 コンコン。扉が軽くノックされ、医師が看護師に目配せすると、看護師が扉を開けた。そこには、ナンナがいる。軍服を来ているがナンナは、ファンヴァルト家の使用人。看護師が横にずれると、病室へと入ってくる。

 

「シリウェル様、お気づきになられたのですね」

「……あぁ。すまなかったな」

「いえ! ……本当に、安心しました」

「そうか……」

 

 ホッと息を付くと、ナンナは医師に向かって頭を下げる。医師も挨拶を返した。

 再度、注意事項としてシリウェルのことを伝えると医師と看護師は、病室を後にした。

 

「あの……シリウェル様」

「……?」

「昨夜屋敷に戻りましたら……その、アーシェ様がシリウェル様にお会いしたいとおっしゃっられて……許可がないと難しいとはお伝えしたのですが」

 

 アーシェとシン。二人に会ったのは、たった1日だった。アーシェとは満足に話をしたとは言えない。事情を聞いて、次の日に出たっきり会っていないのだ。戦争をしていたのだから、当然だが不安にさせていたのは間違いないだろう。

 

「……二人とも、元気か?」

「はい。アーシェ様もシン様も、お元気でした。シリウェル様が無事でいることを聞くまでは、不安で一杯だったようですが」

「ならいい……落ち着くまで……暫くは、会えない。そう伝えてくれ」

「……わかりました」

 

 今の状態で会うことは、また不安にさせてしまうだけだろう。無事であることは伝えてあるのならば、急いで会う必要はない。ある程度回復すれば、シリウェルから連絡をすればいいのだ。

 

「……少し、休む」

「? ……はい」

 

 体が休みを求めているのか、異様な眠気がシリウェルを襲っていた。疲れたのだろう。今は、求めるまま休めた方がいい。シリウェルは、そのまま眠りにつくのだった。

 

 

 


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