なだめるようにユリシアを抱き寄せていたシリウェルだったが、あまりこの問題に時間を使うわけにはいかなかった。蔑ろにしているわけではない。他にもしなければいけないことは山ほどあるのだ。
涙をぬぐうように目元に指を滑らせて、ユリシアの顔を上げさせる。まだ赤いが落ち着いては来たようだ。
「……ユリシア、大丈夫か?」
「グスっ……は、はい……申し訳ありません……私」
「別に構わない……それと、これからだが」
「っはい!」
本題に入ると思ったのだろう。パッと体を離して、ユリシアは居住まいをただした。
「……俺は直ぐにでも籍を入れても構わない。勿論、君がよければだ」
「す、すぐに、ですか?」
「言ったはずだ。戦争が終わった今、結婚を伸ばす必要はなくなったと。ただ……式は直ぐには無理だ。停戦交渉が終わり、プラントが落ち着くまではな」
停戦交渉にどのくらい時間がかかるかはわからないが、その後にプラント情勢が落ち着くのをみても一年以上はかかる。二年はかからないとみているが、過程次第でどうなるかわからない。立場上、盛大に行う必要があるため、こればかりは先送りとさせてもらうしかないのだ。
「……シリウェル様、私は情勢が落ち着いてからでも構いません」
「ユリシア?」
「今は、私事に時間を使っている暇はありませんし……シリウェル様は国防委員長となるのですから」
「だが、それでは君への中傷を止めることはできない。隊の中には、強く反論している者もいるらしいしな……」
ユリシア自身はさほど有名ではない。あくまで、議員を父に持っていることと、シリウェルの婚約者であるということで名前だけが独り歩きしている状態だ。だからこそ、異論を唱えやすいのだろう。
「……私は不安だったのかもしれません。他の方々の言う通りではないかと……私がシリウェル様の婚約者だなんて、おこがましいと」
「随分と自己評価が低くないか?」
「シリウェル様と比べれば誰でもそうなります」
「なんだそれは? ……君も十分綺麗だろ?」
「っ!!!」
「どうした?」
己の顔が整っていることなど、当たり前のように理解しているし、今更言われることでもない。だが、ユリシアも昔から可愛い少女だった。今もそれは健在なので、当たり前のように言っただけだった。
「……は、初めて、言われました……」
「そう、か?」
「はい……」
「……そうかもしれないな」
思い起こしても誰に対しても伝えたことはない形容詞だ。たかが一言だったが、ユリシアが喜んでいるのなら正解だったのだろう。
「……まぁいい。なら、情勢が落ち着き次第にはなるが式を挙げると公表する。文句は俺に伝わるようにしておくしかないか……くだらないことを言う前に、やることがあるはずだがな」
「ありがとうございます、シリウェル様」
「俺が決めたことだ。気にするな」
「……はい」
「……ここでの要件は終わりだ。ひとまずは、艦に戻ってくれ」
「わかりました、ファンヴァルト隊長」
未だに目元が赤いままではあるが、敬礼をしてユリシアは部屋を出て行く。
結果としては現状維持ではあるが、意識は変わるだろう。何よりも、シリウェル自身が変わったように感じるのは決して気のせいではないはずだ。
「……ユリシアの件はこれで終わりだ。次は……これ、か」
再びデスクに向かい合うとPCを立ち上げる。これからしなければならないことは、まず生き残った軍人たちの状況説明と今後の動向についてだ。一人一人と話をするため時間がかかる作業だが、何よりもシリウェルの意気を消沈させたのは一人の人物の参加だった。
市議会委員の一人で研究者でもあるギルバート・デュランダル。ラウと友人にして、現在のレイの保護者の一人。そして、シリウェルが危険視している人物だった。