ガンダムSEED 天(そら)の英雄    作:加賀りょう

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第41話 隠された事実

 それから数日が過ぎた。

 結婚の表明をしたことで、ユリシアの周囲は少しずつ落ち着いてきたようだ。最も、シリウェルはあの日以降ユリシアと会ってはいないし、艦にも戻れていなかった。屋敷にも戻っていない。

 理由は、最優先とされた軍の再編に向けて動いていたからだ。実際には、問題からの逃避もあるのだろうが……。

 再編には、隊編成を整えつつ、除隊や戦死者の確認などの戦後処理も含んでいた。中でも生死が確認されていない者は、戦死とされることが決まった。一番困ったのは、クライン派として戦っていた彼らのことだった。

 

「バルトフェルト隊、それにアスラン・ザラ……亡命扱いにするか。それとも……」

「生死不明ではありませんが、表向きにはプラントを出たことになっています。ラクス嬢も、ですが……」

 

 国防委員長となったシリウェルの姿は、国防本部にあった。側にはマリクがいる。国防本部異動となったマリクは、シリウェルの部下として今までと同様に動いてくれているのだ。一部隊の副官よりは出世したことにはなるのだろう。

 

「……結果だけを見れば何も犯歴があるわけでもない。ただの出国扱いでも問題はない、か」

「あの戦いについては、我らもザラ議長たちに弓引きましたから、問題ないと私も思います」

「全てはパトリックに、か……随分と死者を愚弄するやり方だな」

 

 プラントが核を保持したのも、大西洋連邦に核が渡ったのも含め、多くの罪状がパトリックに課せられた。真実ではないものもある。だが、それを覆す根拠はない。部下が起こした不始末は、上官が責任を負うと言われれば、ラウが何をしようが責任はパトリックに向かうのだ。

 

「ですが、実際にパトリック・ザラが先導したのですから間違いではないと思います。隊長は、ザラ議長に情状酌量の余地を与えるのですか?」

「……戦争で大切な人を失ったのだ。パトリックが正気ではなかった、と思いたいだけなのかもな。あいつに罪があるのはわかってるさ」

 

 パトリックの背後にはラウがいた。確証はないが、ラウがパトリックを唆したのではないかと、シリウェルは考えている。ブルーコスモスに核を渡したのはラウなのだ。スピットブレイクの情報を彼らに渡していたとしても不思議はない。ラウにとってパトリックは戦火を広げ、良いように動いてくれた駒の一つだったのかもしれない。とすれば、憐れだと思う。だからと言って許されることではないが。

 ラウのことを考えていたためか、無意識に腹部の傷へと手を当てていた。

 

「隊長? まだ怪我が痛むのですか?」

「? ……いや」

 

 未だ包帯が巻かれているため怪我が治っているわけではない。無理に動かなければ痛むこともないはずなので、傷がある場所に触れていたことを不思議に感じたのだろう。と思ったのだが、マリクは眉を寄せて爆弾を落とした。

 

「そう言えば……あの時、隊長は一体誰に襲われたのですか?」

「……」

「ザラ議長側の人間だということですか? 隊長はご存知なのですよね?」

「……もう終わったことだ」

「直接襲われなければあれほどの重傷を負うことはないはずです。隊長の懐に入るような相手……ということは既知の人間なのでしょうが、何故庇うのですか?」

 

 今更ではあるが、あの時は切迫していた状況だったこともあり、言及するものはいなかった。よく考えれば誰にも咎められないことの方があり得ない。

 油断していたのはシリウェルだ。と言っても、ラウがあのような暴挙に出るとは流石に想定外だった。

 

「庇う、か……」

「裏切り者がいたのであれば、周知すべきでした。他にも犠牲が出た可能性もあります。貴方が理解してないはずはありません。それでも伝えないということは、貴方が庇っている以外にありません」

「……なら、俺を捕らえるか?」

 

 マリクが言っていることはそういうことだ。

 

「馬鹿なことを仰らないで下さい。……貴方は、それが他の誰かを襲うとは考えていなかった。違いますか?」

「……」

「……クルーゼ隊長、なのではありませんか?」

 

 既に確信を持ちつつ、確認するようにマリクはシリウェルへ問う。状況を見れば、ラウが一番の容疑者なのだから疑うのは当然だ。

 怪我を負う前後には、シリウェルはラウと共にいたのだから。

 

「隊長……クルーゼ隊長とのヤキンでの戦闘、会話が聞かれていたことはご存知で?」

 

 マリクの言葉にシリウェルは、思わず目を見開く。直前に回線を開いたことは覚えている。しかし、確かに今思い返せばその後何かをした記憶はない。ということは、エターナルには繋がったままだったことになる。

 

「……なるほどな。確かに、通信を切ってはいなかったか……らしくなかったな」

「それだけ隊長の状態が悪かったということでしょう。エターナルが拾っていた会話ですが、艦長と私にのみ伝えられました。だからわかったのです。クルーゼ隊長は、シリウェル隊長を戦場に出さないために、あの時襲ったのだと。黙っていた理由は、相手がクルーゼ隊長なのだからだと」

 

 シリウェルは、溜め息を吐く。そこまで知られているのなら、隠す必要もないのかもしれない。あの時のラウの言葉を思い出せば、想像することなど難しくはないのだ。白旗をあげるしかないだろう。

 

「……そこまでの結論、誰かに話したか?」

「いえ、艦長と私だけです。最も……艦長は、クルーゼ隊長が話した『隊長が世界にされた仕打ち』の方が気になっているようですが」

「……そうか」

 

 たったあれだけの会話を拾い、意味があると考えるレンブラントは勘がいい。プラントの上層部の疑念まで抱かざるを得ない件だ。

 

「既に過去のことだ。気にする必要はない」

「……そんな理由で私たちが納得するとでも?」

「……」

「隊長……」

 

 一歩も引かない。そんな様子がマリクからは見てとれる。調べようとすれば、ある程度の事は知れるだろう。レンブラントならば既に動いている可能性もある。言わずとも、真実に辿り着く。だから、シリウェルが話さないことは、ただの時間の浪費に過ぎない。それもわかっていた。

 

「……俺とラウは……お互いが特別だった」

「隊長?」

「あいつが、俺を刺したのも……世界を巻き込もうとしたのも……理由の一端に、俺はいる」

「それは、どういう──―」

「俺たちにとって、世界は優しくなかった。それが、あいつには許せなかったんだろう。人に欲望によって生み出され、不要だからと捨てられた。だから、人を滅ぼしたかったんだ……俺は、それを知っていた……それだけのことだ」

「……貴方は……貴方も世界を……?」

 

 マリクから呟きのように問われた言葉に、シリウェルは苦笑する。結果として、シリウェルはラウの元へはいかなかった。最後は、助けられた形ではあったが、シリウェルは否定し続けたのだ。ラウと同じ世界を望んでなどはいない。

 

「そうであれば、俺はここにはいない。……俺には、まだ希望があったからな」

「……教えては、くれないんですよね?」

「知る必要がない。今は過去よりも、未来だ。この件はそれ以上追及するな……知らない方が良いこともある」

 

 それだけいうと、シリウェルは立ち上がりそのまま国防本部を後にした。

 

「……貴方の一番側にいて、理解していたのはクルーゼ隊長なのですね」

 

 後ろ姿を見送ったマリクは、1人呟いた。

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 国防本部を出て、シリウェルは司令本部の私室へと戻った。軍服の上着を脱ぎ、そのまま仮眠室へと入ると、体をベッドへ投げ出した。

 些か乱暴ではあるが、傷に支障をきたすほどではない。

 

「……」

 

 倒れたまま目を閉じる。思い出すのは先程の会話。ラウもパトリックと同じく、扇動した指揮官の1人として罪状をあげられている。シリウェルを刺したのがラウだとわかったとしても、然程変わりはない。罪が追加されるだけだ。問題は、その理由にある。だから、何も言わなかったのだ。シリウェルにとっては既に終わったこと。蒸し返す必要はない。

 あの様子では、マリクもレンブラントも何かに気がつき、知ろうとしているのだろう。釘を指したとはいえ、効果があるかはわからない。

 

「……無理、だろうな。ラウ……とんだ置き土産をしてくれたものだ」

 

 周りを見ている余裕などなかったのだから、仕方のないこと。それでも、部下たちに余計な情報を与えてしまったことは後悔しか感じていなかった。

 

「……知らなくていいんだよ……あんなことは」

 

 

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