ガンダムSEED 天(そら)の英雄    作:加賀りょう

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第42話 表と裏

 戦争が終結してから一月が経過した。未だ停戦交渉は協議中であり、締結までには至っていない。シリウェル自身に出向いて欲しいという要請も出始めていたが、その前にシリウェルはやらなければならないことがある。

 運動に制限をしなくてよい程度まで回復したことで、プラント国民の前に顔出しをすることになったのだ。こういった見世物的な形で行動することは、久方ぶりだった。戦争中はラクスに多くを任せ、軍に集中していたからだ。だが、カナーバの発言と、今後のことを考えればシリウェルも公務として継続して行わなければならない。

 

「……隊長、会見についててですが」

「何か変更でもあったのか?」

 

 今、この場には国防委員の者たちが集まっていた。マリクもその1人ではあるが、実質シリウェルの右腕であり幹部と見なされている。

 例の件を一方的に遮断してから、マリクは話題を蒸し返すことはしてこなかった。普段通りに動いており、シリウェルとの関係も以前と変わりない。シリウェルの方も何事もなかったかのようにしているため、外から見れば何かがあったことなどわからないだろう。

 

「いえ、そうではありません。ですが本当に大丈夫なのですか?」

「……問題ない。お前は心配をし過ぎだ」

「今までの貴方の行動を振り返れば仕方のないことだと思いますが?」

「はぁ……戦場に出るわけじゃないんだ。無茶など出来ないだろうに」

 

 本格的に動こうとしていることで、治りかけた怪我に負担をかけるのではということを懸念しているのだろう。しかし、傷口は塞がり痛みもなくなった。激しすぎる運動はしない方がいいだろうが、それほど案ずるものではない。とはいえ、戦時中は無理を通した自覚もあるため、シリウェルもマリクの言い分には強く出ることは出来なかった。

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 アプリリウス市にある広場。そこに舞台は設定され、シリウェルは市民の前に立った。

 愛想笑いは得意ではないため、シリウェルは軍にいるときと変わりない雰囲気でそのままマイクのスイッチを入れた。

 

「……こうして顔を出したのは、血のバレンタイン以来になります。随分とご心配をおかけしました。この場を借りて、感謝と多くの犠牲を出してしまったことへと謝罪を」

 

 そうして一歩下がり胸の辺りに手を当てて目礼をする。

 

「シリウェル様―!」

「お元気そうで良かった……」

「シリウェル様はプラントを守ってくれた。礼を言うのは私たちだ!」

「息子を助けてくれて、ありがとうございますっ!」

 

 口々に発せられる言葉に、シリウェルは集まった人々へと視線を向けることで応える。今回の目的は、シリウェルの姿をみせることと、今後の軍部について報告することだ。個別に掛けられた言葉に反応することはできない。声が収まるのを待って、シリウェルは再び口を開く。

 

「改めてになりますが、今回の件を受けて国防本部委員長に就任することになりました。未だに停戦条約は締結していません。ですが、我々ザフトは今回のような過ちを犯すことのないように、未来を閉じさせないために、これからも私は彼らと共に戦います」

 

 何をどう伝えるべきか。シリウェルは迷っていた。だが、プラントに住む人々には過去を見るよりも、未来へと視点を向けるべきだろう。それが、シリウェルが下した決断だ。

 

「ナチュラルとコーディネーター、どちらも同じ人であり、共に歩むことができるものです。どうか、それを忘れないで下さい」

 

 何よりも、シリウェルから発せられることに意味がある。どちらの血も受け継いでいるからだ。それを知らぬ人々ではない。多くを伝えなくとも理解しているはずだった。

 シーンと静まり返った広場に、シリウェルのこえがとおる。マイクを通さずとも、言葉は届いただろう。

 

「……もう一つ、お願いがあります。どうか戦争で傷付いた人々へ手を差し伸べて頂きたい。貴方は一人ではないのだと、側に寄り添う人がいるのだと伝えてあげてください」

 

 それだけを付け加えて、シリウェルは壇上を降りた。名を呼ぶ声が聞こえては来るが、シリウェルには時間がない。直ぐに本部に戻り、カナーバと付き合わせをしなければならなかった。それが終われば、時間も作れる。屋敷へも戻る時間が出来ると言うわけだ。未だに話ができていないアーシェたちから、これ以上逃げるわけにも行かないだろう。移動中の車内で、シリウェルは重い息を吐いた。運転手を除けば、同乗者は隣に座っているマリクがいる。シリウェルの様子を伺うように、顔を向けてきた。

 

「体調の方は大丈夫ですか? お疲れですか?」

「……いや、問題ない」

「そうですか……」

 

 それ以上何も言うつもりがないことは、わかっているのだろう。マリクは話題を変えてくる。

 

「しかし……流石、隊長ですね。歓迎ムードが凄まじいものでした」

「……」

 

 外に控えていたマリクを初めとする国防本部直属の軍人は、シリウェルの警護を兼ねていた。舞台のすぐ近くに居て、壇上にいたシリウェルよりも人々に近かったと言える。シリウェル以上に、人の声が聞こえたのだろう。

 

「……元々は俺のじゃないがな」

「隊長?」

 

 シリウェルが歓迎される理由。それは、ネビュラ勲章を得たり軍人としての功績が評価されてというだけではない。コロニー設計者であり評議会議員でもあった父は、その容姿とカリスマ性から国民から人気があった。コーディネーターであれば、容姿が優れていることなど当たり前でもあるが、その中でも一際目を引いていたのだ。

 勿論、その一人息子であるシリウェルにも漏れなく受け継がれている。加えて、軍人としても優秀とくれば人々が騒がれない訳がない。要するに、英雄は後付けなのだ。少なくとも、シリウェルはそう思っている。

 それでも、己の言葉に一喜一憂されるというのは、ある意味で恐ろしいと言えるだろう。不用意なことは話せず、責任だけが己に降りかかる。力というのは、責任を伴う。それだけの力が、今のシリウェルにはあるということだ。ラクスが不在であるため、尚強くそれはここにあった。

 

「……本部に戻ればカナーバと会議だ。その後は、屋敷に戻る」

「……貴方は本当に肝心なことは何も言いませんね」

「……」

 

 責めているようではあるが、ラウとのこともありシリウェルは口を閉ざす。話さないのではなく、話す必要がないだけなのだ。だが、マリクが納得しないだろう。

 口を開かないシリウェルに諦めたのか、マリクが溜め息を吐いた。

 

「わかりました。一月ほど戻っていないようですし、それほど本部に詰めていなくても構わないというのに、一体どうしたんです?」

「……私的なことだ」

「もしかして、妹さんと何か?」

「……勘が鋭いな本当に」

「当たり、ですか……」

「アカデミーに入りたいらしい」

「はぁあ!?」

 

 流石にこれにはマリクも驚いたようだ。マリクもアカデミーの卒業生である。その特殊性もよく理解していた。

 

「何でまた、ファンヴァルトの令嬢がそんな……って、こんな時勢だからとも言えますか。なるほど、それで説得されたくないから帰れないということですか……本当に仕方のない人ですね」

「誰が妹をあんな場所に行かせたいと思うんだ……」

「それでも、本人にはきちんと考えがあるんだと思いますよ。貴方の妹だということも含めて」

「……わかっている」

「それなら、ちゃんと話し合うべきです。それが、兄としての貴方の役割でしょう」

 

 アーシェの言い分も聞いた上で、判断しろというのだろう。理解はとっくにしているし、認めなければならないこともわかっている。だからこそ、足が遠退くのだ。

 

 

 

 そうして目的地に到着し、シリウェルは国防本部へと向かおうとするとマリクがその目の前に立ち塞がるように立った。

 

「どうした?」

「言い忘れていました。……クルーゼ隊長とのことも、私は諦めてません。それに、気になることも出来ました」

「マリク、お前──」

「貴方以外にクルーゼ隊長と親しかったという人物、ギルバード・デュランダル……ご存知ですよね?」

 

 突然示された名前に、シリウェルは目を見開いた。まさか、マリクからその名が出るとは思わなかったのだ。

 

「L4コロニーの元研究者。そして、そこには貴方もいた。加えて、ヤキンで戦闘していた地球軍側のMSパイロット。まだ確信はありませんが、無関係ではない、私はそう考えています。貴方も──」

「っ!」

 

 思わずシリウェルはマリクの軍服を掴み、距離を縮めた。そして声を潜める。周囲に聞こえない程度に。

 

「それ以上は言うな……」

「たい、ちょう?」

「……幹部が拘束されたとは言え、残っている者はいるはすだ。調査もするな……いいか、これは命令だ」

「……それは」

「お前が知る必要はない。……事を荒立てるな。伝えておけよ」

 

 バッと手を離すと距離をとり、シリウェルはマリクの横を通り過ぎていく。

 残されたマリクはただ呆然と立ち尽くすだけだった。

 

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