評議会を後にしたシリウェルは、そのまま軍港を抜けてヘルメスへと向かっていた。
出会う兵たちから挨拶を受けながら、艦へと急ぐ。
「あ、隊長!」
「作業中済まないな。レンブラントはいるか?」
「はいっ! 艦長なら中に」
「助かる」
それだけ聞き後ろで何かを言っているのも無視して、艦の中へと入っていく。ブリッジに入れば、数人が作業をしているところだった。戦時中ではないため、巡回をする以外で艦を動かすことはほぼない。ヘルメスが日程に組まれているのはまだ先のこと。だから人数も少ないのだろう。かといって無人にすることはできないが。
「シリウェル様!」
「隊長?」
ちょうど話をしていたレンブラントとユリシアの二人が、シリウェルに気が付くと、直ぐに居直り敬礼をする。
「すまない、打ち合わせ中だったか?」
「はい。ですが、特に急ぎではありません。隊長は」
「レンブラント、直ぐに俺の部屋に来い。話はそこでする」
「……承知しました。アマルフィ、続きは後だ」
「は、はい」
困惑しているユリシアを残し、シリウェルはレンブラントを伴い艦内にあるシリウェルの部屋へと移動した。最後に使用したのは、随分前ではあるが、定期的に清掃されているため使用するには問題がない。
二人が部屋に入ると、シリウェルは自席に座り、レンブラントはその前に立った。
「……お話とは、先日の件でしょうか?」
「それ以外にないだろう……随分と無茶をしてくれたな」
「差し出がましい真似をしたとはわかっています。隊長に嫌なことを思い出させてしまったとも」
過去の事象を持ち出されていい気分ではなかったのは確かだ。しかし、改めて客観的に己に起こったことを見ることが出来たこともまた事実。非難することが出来るはずもない。
「俺はそこまで子どもじゃないが……」
「私から見れば、隊長も十分子どもですよ。それに……当時の貴方は幼すぎた。できれば思い返したくないことだとしても、無理はありません。正直、腸が煮えくり返りそうだったんですがね……」
「レンブラント……」
「まだ落ち着ききっていない今ならば、可能だと思いましたので……色々と」
色々の中には、高官が消息を絶っていることも含まれるのだろう。証拠もないし、そもそもシリウェルが原因なのだから罪に問いたくはない。としても、レンブラントたちの情報がなければギルバートの計画を早期に止めることなどできなかった。双方の事象を鑑みて、相殺扱いとすることはできる。
「そうか……結果としてギルバートを拘束できた。レンブラント、感謝する」
「隊長……」
「だが、一歩間違えばお前たちは消されていた。ギルバートが議長となれば、何とでも罪を偽ることもできた。俺の部下だとしても関係がなかっただろう。……もうこれ以上、危険な真似はするな。俺はお前たちを失うわけにはいかない」
ギルバートにどれだけの支持者がいたのかは、これから調査される。あの様子だと、既に色々と仕組みを整えていることは間違いないはずだ。研究内容を破棄し、つながっている協力者たちを見つけなければならない。しかし、シリウェルが間に合わなければ、逆にレンブラントたちが協力者によって消されていた。もう少し危機感を持ってほしいとシリウェルが思っても不思議ではないだろう。
「……もしそうだとしても、私たちは止めません。確かに、私は貴方の部下です。ですが、テルクェス閣下とそう変わりません。守られるべきは、我々ではなく貴方なのですよ」
「はぁ? 何を言っている?」
「いい年をした大人が、己の半分にも満たない青年に守られてばかりではいられません。戦闘ならまだしも、そうでないのならこの程度はさせてください」
「レンブラント……」
「せめて年長者としてのプライドくらいは持たせてください。ファンヴァルト隊の者として、貴方に心配をしていただけることは光栄ですが」
ファンヴァルト隊の中でも年長者は艦長であるレンブラントやメカニックを担当している数名が当てはまる。隊内において、シリウェルは年少者の方に分類される。実力主義とはいえ、ここまで隊長と隊員の年齢に差があるのは珍しい。それだけシリウェルの実力が飛びぬけていたということでもあるが、端から見れば新人とそう変わらないシリウェルを上官と認め、指示に従っている彼らがいるからこそ、ファンヴァルト隊は成り立っているのだ。
レンブラントの言葉に、シリウェルは目を伏せる。指示のみでしか動かない駒は必要としない。レンブラントたちは、己の信条に従って行動し、結果としてプラントの為となっている。シリウェルにとっても、有益なことだった。言うまでもなく、危険なことをしている自覚はあるだろう。生きている時間は、シリウェルよりも長いのだ。わかっていて当然だったが、パトリックたちのような融通の利かない凝り固まった思想を持つ大人たちとばかり接してきたためか、最も身近にいる彼らのことを失念していたようだ。
「……すまなかった」
「……」
「俺が一人でできることなど、たかが知れている。わかっていたことだというのに……全てを知ったつもりになっていたよ」
「背負いすぎなのですよ、隊長は。最も現状を最も理解しているのは、隊長だということは変わらないと思います。我々は、貴方の部下です。戦闘時だけでなく、そのことを忘れないでください」
英雄と呼ばれ、ラクスがいない今はプラントの支えとならなければいけないことに加えて、停戦交渉にも駆り出されたことで、多少己の価値を傲慢に感じていたようだ。天才と呼ばれていても、レンブラントたちから見れば、まだまだ大人になり切れていないということなのかもしれない。
「覚えておく。……ありがとう」
「えぇ」
「打ち合わせの邪魔をしてすまなかった。アマルフィにも伝えてくれ」
「はい。では、私はこれで失礼します」
いつものように敬礼をして、レンブラントは出て行った。姿が消えて行った扉を見つめながら、シリウェルは顔を手で覆う。
「……まだまだ、か。やはり、俺にはまだ……」
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