ガンダムSEED 天(そら)の英雄    作:加賀りょう

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第47話 偽りの歌姫

 プラントで最高評議会が動き出し始め、ようやく平和への道を進もうとしていた矢先に、その知らせは届いた。

 

「ラクスがいる?」

「……恐らくは、影武者のようなものかと思われます」

 

 最高評議会の場に呼び出されたシリウェルは、他の議員たちからの報告に眉を寄せる。ギルバートが拘束されてから、周囲を調査するように命じたカナーバの指導によって、デスティニープランの協力者たちが次々と洗い出され拘束されていった。その拘束されたものの中に、ラクス・クラインがいたというのだ。あり得ない情報に、議員たちもどうしてよいのかわからず、シリウェルを頼ったということだった。

 

「どうする? ファンヴァルト。一応、事情を聞くために別の場所にて拘束はしているが……」

「別の場所?」

「姿を見せるわけにはいかないだろうと思ってな」

「……なるほどな」

 

 不在となった今でもラクスは、プラント国民にとっては平和の象徴の一つとなっている。エターナルに乗り込み、自ら戦争に身を投じ平和を望み続けたその姿勢が、そのまま評価となっているためだ。そんなラクスが、拘束されたものたちと通じていた。もしくは、拘束されるようなことをしたなどと広まれば、評議会への疑念とラクスへの疑念の二つが出てきてしまう。混乱を防ぐための措置だと言える。

 

「わかった。……そのラクス・クラインに会わせてもらおう。構わないか?」

「そうしてくれると助かる。ファンヴァルトならば、真偽についても信用できる」

「その後の彼女の処置は、俺に任せてもらえるということか?」

「構わん。評議会の方でどうこうするよりはいい」

 

 扱いが難しいということだ。何にせよ、まずは問題の人物に会う必要があるだろう。シリウェルは、居場所を教えてもらい、すぐさま彼女に会いに向かった。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 指定された場所は、アプリリウス市にあるホテルだった。この最上階に彼女はいるらしい。

 面会にはシリウェルの他にナンナとマリク、そして先日正式に隊長格へと任命されたイザーク・ジュールと副官のディアッカ・エルスマンが同行していた。二人を巻き込んだのは、ヤキンでの戦いにおいてエターナル側に賛同したザフトの人間であり、プラントに残っている人員だったからだ。戦いの真実を知っており、ラクスの事情も理解している二人ならば、先入観を持つことなく対することができるとシリウェルが判断したからだ。最も、この二人への認識は、元クルーゼ隊だったという程度。あとは、ニコルの戦友だったことくらいだった。

 当初、任務を伝えた時の狼狽ぶりを見て人選を間違ったようにも考えたが、ディアッカの対応をみてそのまま続行することに決めた。どうやら、冷静さはディアッカの方が上らしいので、いざというときのストッパーにもなってくれると踏んでいる。

 

「……ここだ。俺が話をする。それまで、誰も声を出すな」

「「「はっ!」」」

 

 返答を聞き、問題ないことを確認すると、シリウェルは室内へと入る。

 そこには衛兵たちに囲まれ、銃を突き付けられたまま涙を見せているピンク色の髪の少女がいた。

 扉の音に反応したのか、全員が一斉にこちらの方を見る。その場にシリウェルがいることに驚いたのか、思わず少女が立ち上がった。許可を得ずに動いた少女を、近くにいた衛兵がゆっくりと座らせる。この間、一言もやり取りはない。衛兵たちも相手の正体がわからずに、戸惑っているようだ。

 

「……君が、ギルバートの協力者か?」

「っ……わ、私は、ラクス・クライ──―」

「俺の前でその名を告げるということは、その覚悟が君にあるということか?」

 

 目を泳がせながらも少女は、己がラクス・クラインだと名乗ろうとする。どうみても、ラクスではない少女だ。幼馴染でもあり妹同然だった少女を間違うはずがない。それ以上に、現時点においてラクスの名は、単なる歌姫以上の意味がある。どのような理由があろうと、名乗らせるわけにはいかなかった。

 シリウェルの言葉に、目を見開き涙目になる少女。そこにあるのは畏れ。それでも、シリウェルが偽るわけにはいかない。

 

「君はラクスじゃない。ラクスならば俺を畏れることなどないし、尚且つこの程度で泣きわめくほど柔ではないからな」

「で、でも」

「ギルバートは拘束され、計画は潰えた。君がそれでもラクスを名乗るというのならば、この場で消させてもらう」

「え……」

 

 最後通告だというように、シリウェルは少女に向けて銃口を向ける。頑なにラクスを騙ろうというのならば、兄として許すことはできないからだ。

 

「これが最後だ。……君は一体何者だ?」

「ど、どうして……だって、あの人はそう名乗ればいいって。悪いようにはしないって……なのに、どうして」

 

 シリウェルの本気に気が付いたのか、少女は混乱したように泣き叫びだす。吐き出される内容から、ギルバートによって用意された駒なのだということはわかった。少女が多少なりとも落ち着くのを待って、シリウェルは銃をしまうと更に少女に近づく。

 

「……ラクス・クラインは、プラントにいない。第一、俺とラクスの関係性を知らないわけはないだろう? 騙せるわけがない。世論を操作しようとも、俺が許容するわけがないだろう」

「シリウェルさま……わ、わたし」

「それが君の仕事、違うか?」

 

 首をゆっくりと縦に振る少女。ラクス不在を利用して、この少女にラクスの偽りの言葉を語らせることで人々の意識を向けさせようとしたのだろう。ということは、ギルバートはシリウェルをプラントから動かせるつもりだったのだろうか。それとも、殺させるつもりだったのか。いずれにしても、シリウェルがこのような茶番を認めるはずがない。

 最も、全てもしもの話であり、今となっては実現することはない。今の問題は、この少女をどうするか、だろう。

 

「その顔は整形でもしたのだろうが……本当の名は? 家族はどうしている?」

「……わ、私は、ミーア。ミーア・キャンベルです……お父さん、とお母さん……あと弟、が一人」

 

 天涯孤独というわけではなく、アイドルを夢見てオーディションなどに参加していたところ、声色が似ていることからスカウトされたのだという。顔を変えることは抵抗があったが、世界を救うためだと言われて有頂天になり、即答してしまったようだ。ラクスの代わりともなれば、歌も歌えるし、ステージにも立てる。ミーアにとっての夢が叶う。そんな甘い言葉に誘われ、深く考えることもなかったという。全てギルバートの策略だ。疑うことを知らず、自分が行う行為がどのようなものかもわからないまま動いた結果が、今だ。

 ミーアは、迷子の子供のようだった。ラクスと似た顔では、家族の元へ返すこともできず、簡単に街を歩くこともできない。アイドルになりたいとしても、ラクスの顔になってしまっては難しい。ミーアはラクスではないのだから。

 

「……ギルバートは、逃げ道をすべてなくして君を利用した、か。本当に、絶望した人間は何をするかわからない」

「あの……わ、私はどうなるんですか?」

 

 ミーアを始め、そこにいた全員がシリウェルを見る。話を聞けば、彼女も被害者の一人だともいえる。利用されただけだ。その代償は大きく、未来の一部を閉ざされてしまったようなもの。自由に動くことはできない。シリウェルはミーアを見て、ため息をつく。

 

「……仕方ない、か。マリク」

「はっ!」

「カナーバに報告だ。ラクスではなく、ギルバートに利用された被害者だったと。彼女の身柄は、俺が預かると」

「……隊長が、ですか?」

「問題があるか?」

「いえ……わかりました」

 

 多少きになることがあるようだが、マリクは承諾すると一旦部屋を出て行く。衛兵たちにもこの場を譲ってもらうために、引き払ってもらった。

 

「ナンナ」

「はい、シリウェル様」

「屋敷に連絡を頼む。そのままお前も屋敷に向かってくれ」

「わかりました」

 

 ファンヴァルト邸に向かうということになる。部屋なども含め、諸々の準備が必要だ。ナンナから連絡がいけば、あとは使用人たちがうまくやってくれる。これでこの場に残ったのは、シリウェル、ミーア、イザークとディアッカだけとなった。

 

「イザーク、ディアッカ」

「「はっ」」

「……君たちに聞きたいが、ミーアはラクスに似ているか?」

「へ……?」

「えっと……似ている、と思いますけど」

 

 呆気に取られているイザークとは違い、困惑しながらもディアッカは答える。ラクスと身近に接したことがある彼らだ。それでも、ラクスに似ていると感じるならば、他の者はそれ以上に本人と間違うほどには感じるだろう。

 

「そうか……」

「シリウェル隊長、その……整形というのは、元の顔に戻せばいいのでは?」

 

 一度整形したのだから、同じく整形をして戻せばいい。それがイザークの提案だ。しかし、シリウェルにその提案は飲むことが出来なかった。

 

「理屈ではそうだ。だが、整形をしてそれほど時が経ったわけじゃない。ということは、今手術をすれば彼女の顔が元に戻るどころか酷くなる可能性の方が高い」

「それでは、このままにする、ということですか?」

「そうなるな」

 

 納得していない様子のイザークは、ミーアを睨みつけていた。シリウェルの言い分も理解はできるが、恐らくラクスに似ていることが許せないのだろう。ディアッカにしても複雑そうな顔をしている。

 

「はぁ……それとミーア」

「は、はい!」

「君には、俺の屋敷でこれから過ごしてもらう。ただ、姓は変えた方がいい。と言ってもファンヴァルトの姓を与えるわけにはいかないからな……誰か使用人のところに養子になってもらう」

「……はい」

「キャンベル夫妻には、君は行方不明になった後、亡くなったということにさせてもらう。これが君に与える処遇だ」

 

 知らなかったとはいえ、ミーアが行ったことは許されることではない。無知であったとしても、己の行動に責任を持ってもらう。ミーアは、その場で泣き崩れてしまったが、シリウェルたちはただ黙ってみているだけだった。

 

 




原作でミーアが死んだ回は泣きました。好きなキャラなので生きていてほしいと思った末の今回のストーリーです。
知らなかったから許されるわけではありませんよね。戦後処理はこれで一区切りです。

次話から新しい章となります。個人的な都合ですが、少し期間を開けてからの投稿とさせてください。
そのため、次回は3月10日になります。

評価・お気に入り登録ありがとうございます!これからもよろしくお願いします。
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