第48話 新しい生活
シンとアーシェがアカデミーへ入学してから数週間が経った。慣れない寮生活で、ルームメイトとは未だに打ち明けられてはいないが、目標が出来たことで充実した日々を送っていた。
「シンー!」
「アーシェか、どうしたんだ?」
「兄様から手紙が届いたの!」
「シリウェルさんから?」
走って駆け寄ってきたアーシェは手に持っていた紙をシンへと手渡す。寮に入ったため、シリウェルと顔を合わせることはなくなってしまった。シンも端末を持っているので連絡をとることはできるが、向こうは国防委員長だ。多忙な人にシンの方から連絡をするのは憚られる。そのため、入学してからは挨拶も何もできないでいた。
手渡された手紙をみると、宛先はシンとなっている。不思議に思ってアーシェを見ればもう一通手紙を持っていた。
「ん? これは私宛で、そっちはシン宛だよ。ほら、シンの保護者は兄様になっているけど、色々言われたら面倒だからって私経由にしたみたい」
「そっか……気を遣ってくれたんだな」
「兄様だもん」
「あはは」
軍養成学校ということもあり、シリウェルの名前はよく耳にしていた。アカデミー時代でも、優秀な成績だったことから講義でもそれとなく話が上がるのだ。シンにとってシリウェルが目標になるのも当然のことだろう。憧れの部分も大きいが、シンにとってシリウェルはそれだけの存在ではない。恩人でもある。そんな人からの手紙だ。嬉しくないわけがなかった。
「ありがと、部屋に戻ってから読んでみる」
「うん。それじゃあ、私は行くね!」
「おう」
用件を済ますとアーシェは再び走り去っていった。
シンは手元に残った手紙を見る。口許が緩んでしまうのは仕方がないことだった。
講義を終えて寮に戻ると、シンは早速手紙を開く。綺麗な字がそこには並んでいた。
『シンへ
アカデミーの入学おめでとう。直接言えなくて済まなかったな。そろそろ寮生活にはなれたか? 不自由していることがあれば、何でも言ってほしい。アーシェにも伝えてある。
閉鎖された空間とはいえ、外出も出来る。たまの休暇には、屋敷に帰ってこい。無理はするなよ。
シリウェル・ファンヴァルト』
何てことない手紙だ。だが、シンは手紙を握りしめた。
帰ってこい。
シリウェルにはシンが考えていることなどお見通しだったのかもしれない。だからこそわざわざ手紙で伝えたのだろう。ファンヴァルト邸に、シンの居場所があるということを。
「……凄い人だな、シリウェルさんは」
「お前、シェルの知り合いなのか?」
「えっ?」
突然、声をかけてきたのはシンのルームメートだ。最もルームメートとはいえ、会話はほとんどしたことがない。アカデミーの首席入学者で、優等生ではあるが常に一人でいるような変わり者。それがシンが知ってるレイ・ザ・バレルだ。それが、向こうから声をかけてきたのだから驚くのも当然だった。
「えっと……」
「答えろ」
「……そんな恐い顔をしなくてもいいだろ? シリウェルさんと知り合いだったらなんだって言うんだ」
「……」
ムスッとした顔を隠さないレイに、シンはため息を吐く。有名人であり英雄とされているシリウェルと関わりがあることで、何か言い掛かりなど向けられることは事前に伝えられていた。だから、レイがシンに向けるものもある程度は理解できる。理不尽だとは思うが、こればかりは仕方がない。ただ、シンとて言われっぱなしではいたくなかった。
「お前こそ、シリウェルさんと知り合いなのか? 今までシリウェルさんをシェルなんて呼ぶ人に会ったことないけど……」
「……お前には関係ない」
「ならいちいち突っかかってくるなよ……ったく、ガキじゃないんだ。知り合いくらいいるだろ普通……」
「シェルはガードが硬い。知り合いなんて、軍関係者が多い。お前のような何でもない奴が知り合うことなんて出来ない人なんだ」
饒舌になったレイだが、そこにはシンとは違う世界の人なのだという意味が含まれていた。要するに気に入らないということか。
「はぁ……別にいいだろ。全く……俺にとってあの人は恩人だ。俺は……オーブからの避難者だから」
その言葉の意味に気がついたのか、レイは顔色を変えた。戦火に巻き込まれ、故郷を奪われたオーブの避難者は多い。その一人だと理解したのだろう。
「オーブ……そう、か。お前も……いや、済まない」
「お前に謝られてもな……」
同情や憐れみはいらない。レイから微かに感じられたのは、まさにそれだ。確かに忘れられない出来事で、悲しみがなくなった訳じゃない。後悔もある。だからこそ、力を手に入れるためにアカデミーに入ったのだから。
「……俺も、家族を亡くした」
「えっ?」
ポツリとレイは呟くように漏らす。近くにいたシンには当然聞こえている。
家族を亡くした。シンと同じく。それはあの戦争でということだ。
「俺にとって父のような人をな。……だから、お前の気持ちはわかる、つもりだ。だから……思い出させて悪かった」
「お前も、か……」
この件についてはシンの中である程度気持ちを落ち着けてはいる。思い出すのは、最後に家族で行った旅行やバーベキューでの笑顔だ。それを奪った戦争は許せない。レイも同じ思いなのだろう。
シンはレイに手を差し出した。
「……シン・アスカ」
「何だ? これは」
「ファンヴァルト邸に世話になっているから、シリウェルさんが保護者になってるけどな」
「……俺はレイ・ザ・バレルだ。レイでいい」
「わかった。これから、宜しくな、レイ」
「……あぁ、シン」
これが、後にエースとなる二人が絆を結んだ日だった。
原作と違いますが、シンとレイの本当の意味での出会いになります。
時間軸も原作にはないので、主人公以外の視点ということでシン視点をこれからも度々入れていこうと思っています。主人公だけでは、話も繋がらないと思いまして・・・。