目的地へと到着すると、そこには既にナンナが待機していた。
「お疲れ様です、シリウェル様。それに、ミーア」
「お、お疲れ、さまです。マイロード、さん」
先に車を降りたミーアがオドオドしつつも挨拶をする。ミーアにとってはナンナも緊張せずにはいられない相手なのかと、思わず苦笑しながらシリウェルも車を降りる。
「ご苦労だった。ナンナ、マリクには伝えてあるか?」
「はい。国防本部には通達済みです」
「わかった。……行くぞ」
「はっ」
シリウェルが先に動く。どちらが先に行くのかと、ミーアはナンナにさ迷う視線を向けた。
「貴女が先に」
「わ、私?」
「その後に付くから大丈夫。さぁ、早く」
「は……い」
促されるままミーアが足を動かす。本部に到着するまで、多くの人達に頭を下げられ、敬礼をされる。全てはシリウェルに向けられたもの。ミーアは改めてシリウェルの立場を意識せざるを得なかった。
国防本部に到着すると、シリウェルはミーアを紹介する。クライン家の遠縁で一人になったところを保護したと。
「今後、俺の秘書として付くことになる。不慣れだが、皆宜しく頼む」
「「「はっ」」」
戦後のゴタゴタで孤児が居てもおかしくはない。それがクライン家関連ならば更に確率としては高い。一時は反逆罪として抹殺対象にもなったのだ。実際に、シーゲル・クラインは国防軍直属によって殺害されている。そこに多少の嘘があろうとも確かめることは既にできない。
全員に不満の色がなかったことに安堵し、シリウェルはミーアに視線を向けた。
「……ミーア、挨拶はできるか?」
「は、はいっ」
シリウェルの隣に立ち、ミーアはファンヴァルト家で学んだように姿勢を正し、顎を引いて真っ直ぐに皆を見た。
「ご紹介に預かりました、ミーア・ヴァストガルです。ご縁がありシリウェル様に拾われました。仕事をするのは初めてとなりますので、ご迷惑をお掛けするかと思いますが、どうか宜しくお願いします」
と頭を下げた。
淀みなくスラスラと話すミーア。本人は必死に取り繕っているのだろう。僅かに肩が震えていた。
その肩にポンと手を置くと、ミーアは不安そうにシリウェルを見てきた。
「……良くできたな」
「あ、ありがとうございます」
☆★☆★☆★☆
午前中の仕事として事務周りを処理していると、通信が入った。評議会からだ。
『ファンヴァルト、少しいいか?』
「カナーバ? 何かあったのか?」
『……話がある。来てもらえるか?』
「……わかった。1時間後に行く」
『頼む』
通信を切ると、シリウェルは椅子の背もたれに体を預ける。こうして評議会から呼び出されるのは珍しいことではない。条約が締結されたとはいえ、まだまだ戦後処理としてやるべきことは残っている。仕方ないと言えることだが、本日の予定を変えなければならないため、通達をする手間が出る。
「隊長……」
「マリクか。済まない、レンブラントには明日に向かうと伝えてくれ。今日は無理だろうからな」
「はい。それは構いませんが、彼女は?」
「評議会には連れてけないな……」
いくら秘書として付かせるといっても、最高評議会の中までは連れてはいけない。マリクやナンナでさえ、連れ立ったことはないのだ。かといって誰かに頼むのも問題がありそうだった。
「ミーア」
「は、はい? 何ですか?」
手元にある資料に集中していたミーアが呼ばれたことで慌てて立ち上がった。
「俺は評議会に向かう。流石に連れていくわけにはいかない。マリクの側についてほしい。マリク、構わないか?」
「私は構いませんが……いいんですか?」
マリクとてこの場にずっといるわけではない。これから軍港と工匠に向かう予定があった。そこにミーアを向かわせても良いのかということだ。
「評議会よりはいい。それに、事情を知っているお前しか任せられない」
「……それはそうですが」
チラリとマリクはミーアを見る。視線を向けられたミーアはビクッと怯えたような表情を見せた。ミーアはマリクのことを覚えていない。あの時はそれどころではなかったので、シリウェル以外に誰がいたかはわからなかったようだ。だが、マリクの瞳から好意的ではないことを感じ取ったのだろう。
「おい、怯えさせるな」
「……すみません。わかりました。隊長が戻るまでは私がみます」
「頼む。ミーアも、いきなりで済まないがマリクと居てくれ」
「あ、え……でも」
心細いのかミーアは視線をさ迷わせる。来たばかりで慣れないのは当然だ。だが、連れていくことはできないことに変わりはない。
仕方なくシリウェルは、ミーアの頭に手を乗せた。
「えっ?」
「……心配することはない。すぐに戻る」
「……は、はい」
「隊長……」
「何だ?」
今度はシリウェルに対しマリクは呆れた視線を向けた。
ミーアの頭から手を避けて、シリウェルはマリクに向き直った。
「誤解をされかねない行動は控えた方が良いと思います。アマルフィが悲しむのでは?」
「……ユリシアが? 何故だ? 関係ないだろ」
「そうですよね、隊長はそういう人ですね……はぁ」
「マリク?」