評議会に出向いたシリウェルを迎えたのはカナーバだった。そこには、人の面々もいる。
「突然すまなかった、ファンヴァルト」
「力を貸すと言ったのはこちらだ。それで、用件は?」
「あぁ。まずはこれを見てほしい」
議長であるカナーバの隣に座るとモニターが表示される。
「まずはこれを見てほしい。今現在の地球での勢力図だ」
「……」
勢力図では、大西洋連邦の要請により半ば強制的に中立から立場を変えることとなった国々が、自治を取り戻したことが反映されている。勿論、オーブもそこに含まれていた。
「自治権について、大西洋連邦は条約通りにしたってことか……それで?」
「このうち、スカンジナビア王国とオーブ首長連合国。赤道連合については、プラントに避難してきている人々がいる。これらの人々についての今後の動向について、説明を求められているところだ」
「……取り戻した自治権か。ならば、人手不足からくる人材確保が目的というところか」
「その通りだ」
避難してきている多くはコーディネーター。といってもナチュラルがいないわけではないが、今後国の建て直しを図るためにも必要な力だ。
それに、避難した人々の状況を知りたいという要求を拒否することはできない。あくまで避難民であり、国籍はそのまま元の国にある。二重国籍になるため、避難民にはこれからプラントに引き続き住むのか、国へ戻るのかを選択してもらう必要がある。
「……わかった。皆の意志を確認しておこう」
「忙しいのに済まないな」
「あの時に議員だったのは暫定とはいえ俺だけだ。なら、こちらの役目だからな」
「助かる」
「説明するまでの期限は?」
「半年以内とは言われているが、出来るだけ急いだ方がいいだろう」
簡単に終わる作業ではないことはあちらもわかっているということだ。それでも、なるべく早めに情報がほしいのだろう。
「報告に向かうのは俺が良いだろうが、他に同行者は必要か?」
「逆に、ファンヴァルトの方が必要ならば選定する。ファンヴァルトが適任だ。全て任せる」
「……丸投げか」
「ふっ、信頼しているだけだ」
「人使いが荒いな……わかった。俺の方でやる。報告は後でな」
その後、議会や軍の状況について情報交換をし、シリウェルは評議会を後にした。
☆★☆★☆★☆
一方、マリクはシリウェルから指示された仕事のために、軍港にあるヘルメスへと向かっていた。もちろん、ミーアも一緒だ。
「きゃっ」
「手に掴まってください」
無重力空間に入ったことで、ミーアは思うように身体を動かせないでいた。マリクが手を差し出すと、恐る恐るその手をとる。
「ごめんなさい……わたし、慣れてなくて」
「一般人が何度も無重力空間に行くことはありません。慣れていなくて当然です。私が誘導しますから、力を抜いていて下さい」
「……はい」
丁寧に接するマリクだが、それはミーアを敬っている訳ではない。むしろ突き放しているようにも感じられる。誰にでも丁寧語ではあるので、周りからみれば不思議ではないが、疑念を抱いているからこその冷たい対応だった。
「あの……」
「貴女は黙っていてください。何かあれば隊長に迷惑がかかります」
「……」
「わかりましたか?」
「はい……」
プレッシャーをかけられ、ミーアは頷くしかなかった。
そのままヘルメスまで向かうと、艦の側にレンブラントたちがいた。打ち合わせをしているようだ。
マリクが近づくと、レンブラントはこちらに顔を向けた。
「艦長」
「どうした、マリク? ん? そっちは誰だ?」
「……隊長からの指示です。評議会の呼び出しがあり、こちらには来れません。明日になると」
シリウェルからの話を一通り伝える。マリクは既にヘルメスの副官ではない。国防本部直属であり、宙域に出ることはほぼなくなった。とはいえ、レンブラントもマリクもシリウェルの部下であることに変わりはない。
「わかった。それで、彼女は? 制服は国防文官のようだが?」
「ええ、詳細は隊長から聞いた方がいいと思いますが……ミーア・ヴァストガルです。基本は隊長の側にいるので、これからも会うことになるでしょう」
「隊長の?」
この話に反応したのは、側で聞いていたユリシアだ。レンブラントもチラリとユリシアを見る。ユリシアは首を横に振った。聞かされていない、ということだ。
「立場としては、隊長の秘書になります」
「……秘書か。あの方には不要な気もするが、わざわざ用意しなければならない事情があるということだな」
「理解が早くて助かります」
「わかった……」
深くこの場で尋ねることはしないでくれるようだ。ミーアは先に言われた通り、黙ったまま話を聞いており、最後まで話すことはなかった。
去り行く背中を見て、レンブラントはため息を吐く。
「アマルフィ……気になるだろうが、大丈夫か?」
「艦長……ありがとうございます。気にならない訳ではありませんが、私的なことではないのだと思います。必要であれば、教えてくれるでしょうから」
「聞き分けが良すぎるのも問題だと思うぞ? 無理はするなよ。隊長は、こういうことには疎い」
「わかっていますよ……」
婚約者であっても、シリウェルと過ごす時間はほとんどない。多忙なシリウェルだ。結婚の約束はしたが、あれ以来二人きりになったことはなかった。不満があるわけではないが、それでも寂しいと思ってしまう。
秘書ということは、一緒にいられる時間も多いに違いなかった。
「……少しだけ、彼女が羨ましいです」
「アマルフィ……」