ファンヴァルト邸。
それから二か月後、ようやく情報をまとめた報告書の作成が完了した。
人数が多いこともあるが、状況次第では交渉の必要も出てくるため、一人一人の意見を聞く必要があったため時間がかかった。あとは実際に各国に伝えに行くだけだが、これが最も面倒な作業だ。
「数週間か……ひと月はかからないと思うが」
訪問国には、オーブも含まれていた。
自室の机に置いてある写真がふと目に入る。そこには、ウズミ、クレア、カガリとシリウェルが写っていた。十年ほど前に撮影した家族写真の一つだ。オーブで撮られたもので父テルクェスとアーシェはその時にはプラントにいたため、共に写ってはいない。オーブにあるアスハ邸での写真だ。まだ幼いカガリは、父であるウズミをよく慕っていた。尊敬もしていただろう。父としても為政者としても。そんなカガリが、今は首長家を背負ってオーブをまとめている。カガリが代表首長になるというのが、概ねの意見だ。首長の中でも最年少だが、恐らく名家であるアスハ家の者だからという意味合いが強い。
「カガリ……潰されるなよ。その名に……」
アスハの名を持っていても、シリウェルがオーブに留まることはできない。既にプラントで権力を持っている以上、下手にオーブへ顔を出すことも控えた方がいいだろう。ただの軍人だった時とは違う。今のシリウェルは、ザフト軍のトップだ。オーブの為にできることは以前よりも少なくなっていた。
しかし万が一、オーブの首脳陣がアスハの名を利用し、カガリを傀儡にでもしようものなら、容赦はしない。コーディネーターだろうと、プラントの者だろうと……シリウェルはアスハであることを止めたわけではないのだから。
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ザフト軍新造艦であるカーリアンス。ファンヴァルト隊に配属された最新式の艦だ。艦長は、レンブラントとなりヘルメスの艦長は引き継ぎを行った。ヘルメスの武装も艦の能力も申し分ないが、宇宙艦であるため地球上での航行ができない。先の大戦でスピットブレイクから漏れたのもそれが原因だった。このことから、ファンヴァルト隊の母艦とした、双方での運用を可能にする艦が製造されていたのだ。戦争が終わったとはいえ、あくまで表面上のもの。今後、同じようなことが起きないとは言えないのだから。
軍港にてシリウェルはカーリアンスへと乗り込む。ミーアも一緒だ。そして他の者たちもそれに続く。約半数の人員はヘルメスからの馴染みがあるメンバーだった。
ブリッジにいる者たちについてはほぼ変わらない。だが、地球に降りるという経験はない者が多い。今回は試運転も兼ねての航行となる。
新たな指揮官席にシリウェルは座った。そのやや後方にミーアが座る席が用意されていた。
「この艦では、そこがミーアの席だ。部屋は後で案内する」
「はっ、はい」
まだ無重力には慣れてないが、何とか椅子に座った。その様子を見て、シリウェルは艦長であるレンブラントの元へ移動する。
「どうだ?」
「はい、問題ありません。直ぐにでも行けます」
「そうか」
周りを見回しても問題ないというように頷きが返ってくる。改めてシリウェルは席につく。
「……カーリアンス、発進する」
「はっ」
シリウェルの声で艦が発進する。今回はプラント周辺を回りながら最終的にはカーペンタリアへ向かうのが目的だ。
針路を確認しながら艦の様子を見る。ヘルメスよりも広いブリッジだが、基本的な機能は大きく変わらない。
チラリとミーアを横目で見ると、加速の衝撃に驚いたようで座席の肘掛けに力をいれていた。こればかりは慣れてもらうしかない。一般人が使うシャトルとは違い、艦内に重力はない。宇宙空間を移動する場合はこれが普通なのだから。
「レンブラント」
「はっ」
「何かあれば知らせてくれ。俺は格納庫の様子を見てくる」
「わかりました」
「あ、あのわたしは……」
シリウェルが移動すると聞いて、不安になったのだろう。ミーアが震えながら声を上げた。それはそうだろう。この場にはマリクはいないし、知り合いの軍人はいないのだから。
「そうだな。なら、ミーアも来い。つまらないとは思うが」
「……はいっ!」
「ついでに部屋も案内するか……ユリシア」
「はっ、はい」
「お前も来てくれ……リスティル、構わないか?」
試験的なものとはいえ、ユリシアはCIC担当と管制も担っていた。一人ではないが負担は増える。そのため、片割れであるリスティル・バースに確認をしたのだ。
「はっ、構いません。アマルフィ、こちらは任せて隊長と」
「了解しました」
ヘッドマイクを外し、ユリシアもブリッジの出入口に移動する。
「ユリシアはミーアを誘導してくれ」
「……わかりました。ミーアさん、お手を」
「えっと、はい。その……お願いします」
そっと差し出したユリシアの手を戸惑いながらもミーアがとる。シリウェルは先にブリッジを出た。直ぐにユリシアもその後を追う。
格納庫の前に部屋を確認する。まずはシリウェルの部屋の前に来る。
「俺の部屋はここだ。ミーアは、向こうの方だな。先に行っていてくれ。ユリシア頼む」
「はい。こちらです」
「えっと」
ミーアがユリシアに手を引かれながら更に移動すると、シリウェルの部屋から数部屋離れたところに個室があった。
部屋を開くと、一士官と同じような広さがある。既に荷物は置かれていた。ミーアのものだ。
「ここが……」
「休憩や就寝する時はここで。食事は食堂がありますので、そこで取ります。睡眠も食事も各員が交代で取りますが、ミーアさんはいつでも構わないと思います」
「ユリシア、ミーア」
「隊長?」
シリウェルがミーアの部屋まで来た。自室での用を済ませたので追いかけてきたのだろう。
「後でゆっくりと中は見ればいい。先に格納庫に向かう」
「はっ」
「わ、わかりました」
そうして区画を抜けて、格納庫まで移動した。
ここにはMSも複数機配置されている。中は、メカニックらが忙しなく動いていた。
シリウェルが来たことに気がつくと、彼らは敬礼をして周囲に集まってくる。
「隊長っ!」
「お疲れ様です。ファンヴァルト隊長、もしかして機体ですか?」
「あぁ。調整はどうなっている?」
「もう少しで終わります。動かしますか?」
「……いや、まだいい。こちらでも状態を見たい。中にはいっても構わないか?」
「勿論です」
「案内してくれ」
「こちらです」
そうしてシリウェルはメカニックとその場を離れる。残されたのはユリシアとミーアの二人だ。
「……暫くかかりそうですが、ここで待っていましょう」
「……すごい……」
「ミーアさん?」
返事がなく呟かれたようなことばにユリシアは、怪訝そうにミーアを見る。その視線は、MSにあった。
「ミーアさんは初めてでしたか?」
「うぇ? あ……えっと、はい……これがモビルスーツ? 何ですよね?」
「はい。幾つか試験的に配置された最新式のもありますが、量産型がメインですね」
まだ十代ではあるがユリシアも多くの戦場を経験している。更にMSの発進シークエンスはユリシアがメインで操作していることもあり、MSには詳しい。無論、ミーアが素人であり軍人ではないことはわかっているため、なるべく個名称や専門用語は避けて話す。それでもミーアには理解できていないだろう。
「興味がありますか?」
「その、わたしにはちょっと難しいです……」
「そうですか」
「ユリシア、さんは……軍人さんですよね? その……銃とか使ったりもするんですか?」
「私は軍人ですから……必要ならば銃を取って戦います」
当たり前のことだ。この場にいて軍人でないのはミーアだけ。戦えないミーアを何故連れてきてのか。この点については、シリウェルの考えが知りたいとユリシアは思うのだった。