ガンダムSEED 天(そら)の英雄    作:加賀りょう

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第52話 新たな艦

 ファンヴァルト邸。

 

 それから二か月後、ようやく情報をまとめた報告書の作成が完了した。

 人数が多いこともあるが、状況次第では交渉の必要も出てくるため、一人一人の意見を聞く必要があったため時間がかかった。あとは実際に各国に伝えに行くだけだが、これが最も面倒な作業だ。

 

「数週間か……ひと月はかからないと思うが」

 

 訪問国には、オーブも含まれていた。

 自室の机に置いてある写真がふと目に入る。そこには、ウズミ、クレア、カガリとシリウェルが写っていた。十年ほど前に撮影した家族写真の一つだ。オーブで撮られたもので父テルクェスとアーシェはその時にはプラントにいたため、共に写ってはいない。オーブにあるアスハ邸での写真だ。まだ幼いカガリは、父であるウズミをよく慕っていた。尊敬もしていただろう。父としても為政者としても。そんなカガリが、今は首長家を背負ってオーブをまとめている。カガリが代表首長になるというのが、概ねの意見だ。首長の中でも最年少だが、恐らく名家であるアスハ家の者だからという意味合いが強い。

 

「カガリ……潰されるなよ。その名に……」

 

 アスハの名を持っていても、シリウェルがオーブに留まることはできない。既にプラントで権力を持っている以上、下手にオーブへ顔を出すことも控えた方がいいだろう。ただの軍人だった時とは違う。今のシリウェルは、ザフト軍のトップだ。オーブの為にできることは以前よりも少なくなっていた。

 しかし万が一、オーブの首脳陣がアスハの名を利用し、カガリを傀儡にでもしようものなら、容赦はしない。コーディネーターだろうと、プラントの者だろうと……シリウェルはアスハであることを止めたわけではないのだから。

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 ザフト軍新造艦であるカーリアンス。ファンヴァルト隊に配属された最新式の艦だ。艦長は、レンブラントとなりヘルメスの艦長は引き継ぎを行った。ヘルメスの武装も艦の能力も申し分ないが、宇宙艦であるため地球上での航行ができない。先の大戦でスピットブレイクから漏れたのもそれが原因だった。このことから、ファンヴァルト隊の母艦とした、双方での運用を可能にする艦が製造されていたのだ。戦争が終わったとはいえ、あくまで表面上のもの。今後、同じようなことが起きないとは言えないのだから。

 

 軍港にてシリウェルはカーリアンスへと乗り込む。ミーアも一緒だ。そして他の者たちもそれに続く。約半数の人員はヘルメスからの馴染みがあるメンバーだった。

 ブリッジにいる者たちについてはほぼ変わらない。だが、地球に降りるという経験はない者が多い。今回は試運転も兼ねての航行となる。

 

 新たな指揮官席にシリウェルは座った。そのやや後方にミーアが座る席が用意されていた。

 

「この艦では、そこがミーアの席だ。部屋は後で案内する」

「はっ、はい」

 

 まだ無重力には慣れてないが、何とか椅子に座った。その様子を見て、シリウェルは艦長であるレンブラントの元へ移動する。

 

「どうだ?」

「はい、問題ありません。直ぐにでも行けます」

「そうか」

 

 周りを見回しても問題ないというように頷きが返ってくる。改めてシリウェルは席につく。

 

「……カーリアンス、発進する」

「はっ」

 

 シリウェルの声で艦が発進する。今回はプラント周辺を回りながら最終的にはカーペンタリアへ向かうのが目的だ。

 針路を確認しながら艦の様子を見る。ヘルメスよりも広いブリッジだが、基本的な機能は大きく変わらない。

 チラリとミーアを横目で見ると、加速の衝撃に驚いたようで座席の肘掛けに力をいれていた。こればかりは慣れてもらうしかない。一般人が使うシャトルとは違い、艦内に重力はない。宇宙空間を移動する場合はこれが普通なのだから。

 

「レンブラント」

「はっ」

「何かあれば知らせてくれ。俺は格納庫の様子を見てくる」

「わかりました」

「あ、あのわたしは……」

 

 シリウェルが移動すると聞いて、不安になったのだろう。ミーアが震えながら声を上げた。それはそうだろう。この場にはマリクはいないし、知り合いの軍人はいないのだから。

 

「そうだな。なら、ミーアも来い。つまらないとは思うが」

「……はいっ!」

「ついでに部屋も案内するか……ユリシア」

「はっ、はい」

「お前も来てくれ……リスティル、構わないか?」

 

 試験的なものとはいえ、ユリシアはCIC担当と管制も担っていた。一人ではないが負担は増える。そのため、片割れであるリスティル・バースに確認をしたのだ。

 

「はっ、構いません。アマルフィ、こちらは任せて隊長と」

「了解しました」

 

 ヘッドマイクを外し、ユリシアもブリッジの出入口に移動する。

 

「ユリシアはミーアを誘導してくれ」

「……わかりました。ミーアさん、お手を」

「えっと、はい。その……お願いします」

 

 そっと差し出したユリシアの手を戸惑いながらもミーアがとる。シリウェルは先にブリッジを出た。直ぐにユリシアもその後を追う。

 

 格納庫の前に部屋を確認する。まずはシリウェルの部屋の前に来る。

 

「俺の部屋はここだ。ミーアは、向こうの方だな。先に行っていてくれ。ユリシア頼む」

「はい。こちらです」

「えっと」

 

 ミーアがユリシアに手を引かれながら更に移動すると、シリウェルの部屋から数部屋離れたところに個室があった。

 部屋を開くと、一士官と同じような広さがある。既に荷物は置かれていた。ミーアのものだ。

 

「ここが……」

「休憩や就寝する時はここで。食事は食堂がありますので、そこで取ります。睡眠も食事も各員が交代で取りますが、ミーアさんはいつでも構わないと思います」

「ユリシア、ミーア」

「隊長?」

 

 シリウェルがミーアの部屋まで来た。自室での用を済ませたので追いかけてきたのだろう。

 

「後でゆっくりと中は見ればいい。先に格納庫に向かう」

「はっ」

「わ、わかりました」

 

 そうして区画を抜けて、格納庫まで移動した。

 ここにはMSも複数機配置されている。中は、メカニックらが忙しなく動いていた。

 シリウェルが来たことに気がつくと、彼らは敬礼をして周囲に集まってくる。

 

「隊長っ!」

「お疲れ様です。ファンヴァルト隊長、もしかして機体ですか?」

「あぁ。調整はどうなっている?」

「もう少しで終わります。動かしますか?」

「……いや、まだいい。こちらでも状態を見たい。中にはいっても構わないか?」

「勿論です」

「案内してくれ」

「こちらです」

 

 そうしてシリウェルはメカニックとその場を離れる。残されたのはユリシアとミーアの二人だ。

 

「……暫くかかりそうですが、ここで待っていましょう」

「……すごい……」

「ミーアさん?」

 

 返事がなく呟かれたようなことばにユリシアは、怪訝そうにミーアを見る。その視線は、MSにあった。

 

「ミーアさんは初めてでしたか?」

「うぇ? あ……えっと、はい……これがモビルスーツ? 何ですよね?」

「はい。幾つか試験的に配置された最新式のもありますが、量産型がメインですね」

 

 まだ十代ではあるがユリシアも多くの戦場を経験している。更にMSの発進シークエンスはユリシアがメインで操作していることもあり、MSには詳しい。無論、ミーアが素人であり軍人ではないことはわかっているため、なるべく個名称や専門用語は避けて話す。それでもミーアには理解できていないだろう。

 

「興味がありますか?」

「その、わたしにはちょっと難しいです……」

「そうですか」

「ユリシア、さんは……軍人さんですよね? その……銃とか使ったりもするんですか?」

「私は軍人ですから……必要ならば銃を取って戦います」

 

 当たり前のことだ。この場にいて軍人でないのはミーアだけ。戦えないミーアを何故連れてきてのか。この点については、シリウェルの考えが知りたいとユリシアは思うのだった。

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