ユリシアにミーアを任せ、シリウェルは機体内部の座席に座って状態を確認していた。
この機体は、核エネルギーに代わる新たな動力を使った最新式のもので、シリウェルの愛機のレイフェザーの後継機でもある。武装の強化もされており、大戦時にシリウェルが設計した3機に劣らない性能を持っている。キーボードによるカスタマイズが容易になり、座標を入力することでシールドの広域展開を可能にした。シリウェル以外に扱えなくなるのは当然だった。
「……やはりまだ効率が悪いか……」
「動力としては問題ありませんが、攻守の同時は難しいと思われます」
「当然だろうな……なら、次に考えるのは武器の多様化か。あとは、MAとMSのメリットを合わせてみるのも面白そうだな」
今後の課題としては、パイロットにある程度の技量があれば扱える機体であることが必須だろう。個人に限定された機体よりは、複数人の候補がいる方がよい。量産まではいかなくとも、数機は用意できるように。あまりにもかけ離れた技量を持つ者がいるならその限りではないが、現時点では不要な考えだ。
「あの、隊長?」
「……あぁ、済まない。俺は一旦部屋に戻る。レンブラントにも伝えてくれ。引き続き、残りを頼む」
「はっ承知しました」
機体を降りると、ユリシアとミーアの元へ戻る。何やら話し込んでいたようだ。
「……こちらの用事は終わった。俺は一度部屋に行く。ミーアも部屋に戻って休め」
「は、はい」
「ではミーアさん、手を」
来たときと同様にミーアの手を取ってユリシアが誘導する。
部屋の前まで来ると、ミーアは部屋の中に入る。
「あの、シリウェル様」
「どうした?」
「その……この後私はどうすれば」
「移動中は特にやることはないから、好きに過ごして構わない。移動の仕方は掴めたか?」
誘導しながらもユリシアはミーアに艦内の動き方を教えていた。慣れるまでは上手くいかないだろうが、繰り返していればその内慣れてくる。
「えっと、何となくなら」
「そうか……俺の部屋はわかるな?」
「はい」
「何か困るようなら訪ねて来ていい。艦内は広いから、迷子にならないようにな」
「……はい、気を付けます」
そうして中に入るのを確認するとシリウェルは、その場を離れた。向かうのは自室だ。
「あの、シリウェル様……」
「ん? どうした、ユリシア?」
ブリッジに向かうでもなくシリウェルの部屋の前で止まったユリシアに、シリウェルは顔を覗き込むように声をかけた。
「その……」
「……まぁいい。中に入れ」
「はい……」
シリウェルの部屋は指揮官ということもあり、一人部屋にも関わらず広々としていた。広い机の上にはPCが置いてある。いつも使用しているシリウェルの必須アイテムだ。
居心地が悪そうにしているユリシアを招くとシリウェルはベッドに腰を掛けた。隣にユリシアも座る。
「それで、どうかしたのか?」
「……彼女、ミーアさんを艦に乗せたのは、どうしてなのですか?」
「……非戦闘民であるミーアを、か?」
「はい。平和にはなりましたが、危険がないとは言えませんし……万が一何かあったら」
戦えないミーアに、己を守る力はない。ユリシアはそれを言いたいのだろう。いや、口には出さないだけで他の皆も思っているのかもしれない。しかし、ミーアを別行動にすることは出来なかった。
「……ミーアはただの一般人ではない。一人にすることはできないんだ。少し面倒な事情がある。……君にも伝えることは出来ない」
「シリウェル様……」
ユリシアは軍人だが、上層部に関わる者ではない。ギルバートの計画も知らされていないので、ミーアのことも知るはずがないのだ。
「付き合わせて悪いな。だが、出来れば艦にいる間は君が気にかけてやってほしい」
「私が?」
「……不用意な誤解もされているようだからな」
「えっ……シリウェル様、知って……」
「常にミーアと行動しているんだ。それがどう映っているかわからないほど鈍いつもりはない」
驚くユリシアにシリウェルは苦笑する。
その件でユリシアが責めてくることはないとわかっているが、恐らくはユリシアは周囲に色々と言われているだろうということも。多忙だとはいえ、ユリシアと共に過ごしていないことも要因としてあるかもしれない。
「シリウェル様……」
「不快な思いをさせていたなら……悪かった」
「あ……」
シリウェルなりにユリシアとのことは考えているつもりだった。以前ならばプライベート以外ではアマルフィと呼んでいたが、今はユリシアと名前で呼んでいる。それは周囲に示すためでもあるが、一番はユリシアへの想いがシリウェルの中で変化したからだ。
そっと、シリウェルはユリシアを抱き寄せる。
「シ、シリウェル様っ!?」
「ただの一部隊の指揮官であった頃とは違って、共にいられる時間も減った。以前は、意識しなくてもよかったんだがな……これからは、意図して行動しないといけないらしい」
「……それは、どういうことですか?」
「君と会うための時間を作る。これからはな」
ユリシアは目を大きく開いてシリウェルを見ていた。それはそうだろう。ファンヴァルト隊にユリシアが所属してから、以前まで行っていた食事会もなくなり、顔は見ているし話はするが二人だけで何かをすることはほとんどなかった。任務中のカーペンタリア滞在の時のデートや、出陣前のひと時くらいだ。関係を持ったのも、ニコルが亡くなったことを聞いたその時だけである。接触が少ないことはシリウェル自身わかっていたが、当初はそれでも構わないと考えていた。
ユリシアの頬に片手を添える。
「……こうして君に触れるのは久しぶりだな」
「シリ、ウェルさま……」
ゆっくりと顔を近づけて、シリウェルはユリシアと唇を重ねると、もう片方の手もユリシアの頬に当てた。わずかに唇を離し、吐息がかかる距離で止まる。
「ん……」
「……ユリシア」
「シリウェル様……私は、少しだけ……寂しかった、のだと思います」
「そうか……」
決してわがままを言わないユリシアが、初めてシリウェルに伝えたのは「寂しかった」という言葉。そう感じさせた自覚はある。それを埋めるかのように、シリウェルは再びユリシアへとキスを送る。ユリシアもシリウェルの背に手をまわし、二人は暫くそのまま抱き合っていた。
土日は投稿をお休みします。次回は、3/18の予定です。