ガンダムSEED 天(そら)の英雄    作:加賀りょう

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第54話 オーブへ

 航行は順調に進み、問題が起きることなく予定とおり地球に下り立ちカーペンタリアへと到着することができた。

 現地の歓迎を受けながら、ファンヴァルト隊はひとまずの休息を取ることとなった。

 いつもの部屋へと移動すると、シリウェルはベッドに横になった。慣れているとはいえ、宇宙から地球へと移動をすると疲労を強く感じる。更に、これまで休みがほとんどない状態で仕事をこなしてきたのだ。多少はゆっくりと過ごしたいと思っても仕方ないだろう。

 今回は日程も緩く組んであった。それはシリウェルだけの予定でなく、新造艦であるカーリアンスの性能を確かめる必要もあったからだ。地球上での演習もスケジュールに入れてあるため、その状態も確認しなければならない。

 

「仕方ない、か……」

 

 少し重い身体を起こすと、少し乱れた軍服を正す。

 すると、コンコンと扉が叩かれた。

 立ち上がり扉を開けると、緑の軍服を着たままのユリシアが立っていた。

 

「ユリシア?」

「……シリウェル様、少しお話があるのです」

「どうかしたのか?」

「その、ミーアさんの予定なのですが……彼女をショッピングに連れていくのはいいのでしょうか?」

「ミーアを?」

 

 ミーアの仕事は基本的にシリウェルの側にいて、基本的な事務作業を行うことだ。少しずつ慣れてきたのもあり、簡単な書類整理等は任せている。当初よりはシリウェルから離れて仕事をすることも増えてきたが、自由な時間などはあまり与えていない。

 

「慣れない航行でしたし、気分転換も必要ではないかと……その、私も初めての時は気が滅入ってしまったので」

「そういうものか?」

「駄目でしょうか?」

 

 いまいちユリシアの話には頷くことは出来ないが、シリウェル自身、己の感覚と周囲の感覚がズレているのことには気がついていた。ならば、ユリシアの言うことは正しいのかもしれない。それほど、ミーアの気分が落ちている様には思わないが、シリウェル相手だからという可能性もある。同性同士ならば、シリウェルよりも気兼ねなく接することも出来るだろう。

 

「……わかった。だが、あまり羽目を外し過ぎないように頼む」

「はい! ありがとうございます」

「ミーアのこと、頼んだ」

「お任せ下さいっ!」

 

 笑みを見せて去っていくユリシアの姿をシリウェルは腕を組みながら見守る。艦内では度々会話をしている様子は見ていたが、ここまで親しくなるとは思っていなかったのだ。ミーアの様子を見ている限りでは嫌がってはいないようで、良好な関係を築いている様に見える。それ以外の女性士官とも、挨拶を交わしていたのでそちらも問題はなさそうだった。

 初めてミーアが艦に来た時は、厳しい視線を向けていたことをシリウェルは知っていた。だからこそ、ここまで関係が変化するとは思わなかっただけに、驚きも大きい。

 

「やはり、女性同士の方がミーアには良さそうだな……」

 

 ユリシアに任せることは正解だった。これからもミーアが生活をしていく上で、良い方向になればとシリウェルは思う。人生を狂わされた被害者の一人なのだ。出来れば、明るい未来を与えてやりたいと思っていた。

 

 

 

 翌日から、シリウェルはミーアと数人のファンヴァルト隊の兵たちを連れて中立国を訪問するためにカーペンタリアを出ていた。赤道連合とスカンジナビア王国を回り、最後はオーブだった。

 

 オーブ連合首長国のオノゴロ島にある軍施設の空港へと降り立つ。シャトルから降りたシリウェルを出迎えたのは、オーブの各首長たちだった。見覚えのある者も多い。無論、その中には従妹であるカガリの姿もあった。

 シリウェルは表情を出さずに、軍人としての敬礼ではなく、政府関係者として来たことを示すため軽く目礼をした。

 前に出て、カガリがシリウェルの近くに来る。

 

「……ようこそオーブへ、ファンヴァルト卿」

「遅くなってすまなかった、アスハ代表」

 

 シリウェルが手を差し出すと、カガリもそっと手を握ってくる。だが、その手は微かに震えていた。シリウェルは安心させるように、空いていたもう片方の手でカガリの手を包む。

 

「お、にいさま……」

「……元気そうで良かった。カガリ……」

 

 出来るだけ周囲に聞こえないように二人は声を潜めた。正式なプラント大使としてシリウェルは来た。対応も公のものとして相応しいものが求められるのだ。私的な話は後でゆっくりできる。この場で控えなければならない。

 

「ファンヴァルト卿、遠いところをわざわざありがとうございます」

「……いえ、気遣いは必要ない。各首長殿たちもご苦労だった」

 

 カガリの後ろから口を出したのは、ウナト・ロマ・セイランだった。言葉では歓迎している風を装ってはいるが、目元が笑っていない。そして、シリウェルも彼を良くは思っていなかった。

 この二人の間にある不穏な空気は、他のどの首長たちも介入出来るものではなかったため、そのままの雰囲気が会議室まで続くこととなった。

 

 

 

 会議室では主にシリウェルから現在の避難民の状況を説明することで進められた。各首長たちは、それを聞いた上で今後の方針を決めるとのことだった。

 ひとしきり話終わると、シリウェルは周りを見回す。

 

「以上がプラント側からの報告だ。何か質問等は?」

「……」

 

 隣同士の首長が顔を見合せながら、囁き合っている。プラント側のは報告だけだ。この内容からオーブ側がどう動こうとも、プラントにとっては然して問題ではない。

 後日改めての方が良いかと、この場を切り上げようとした時だった。ウナトが立ち上がったのだ。シリウェルは僅かに眉を寄せる。

 

「……少し確認をさせていただきたいのですが、宜しいですか?」

「……何か?」

「シリウェル様は、オーブには戻られないのですか?」

 

 シーン。

 部屋が静まった。何を言っているのだ、この男は。しかも、呼び方を敢えて変えている。その意味するところがわからないシリウェルではない。しかし、ここでは場違いな発言と言わざるを得ない。

 

「……ここにはプラント側の代表として来ている。そのような話をする場ではない」

「オーブにとってアスハ家の正当な血筋を遺すことは重大な問題。プラントとて無関係ではいられますまい」

 

 シリウェルはカガリ、ウナトと視線を移動させる。顔面蒼白なカガリとは違い、口許に笑みを浮かべるウナトがそこにはいた。

 

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